
新たな恋は米国系CEOと熱情ワンナイトから!? ~恋を知った獣は狂おしく最奥を求める~
著者:桔梗楓
イラスト:小島きいち
発売日:2022年 4月29日
定価:620円+税
電子部品の製造会社で秘書として働く結衣は、平穏な人生を望んでいるのに男運が最悪だった。
幾度目の修羅場を経て、その悪運を断つべく傷心旅行として縁切り神社に参拝する。
そこでエイリークという男性を助けたことをきっかけに、二人は一夜の恋に落ちたのだった。
日常に戻ったものの、彼を忘れらない結衣。そんな彼女の元に取引先の社長として現れたのは、なんとエイリークで……!?
「結衣はもう、俺のものだ。俺がそう決めたからな」
あの夜、囁かれた言葉は情事の戯れだと思っていたけど、結衣は既に彼の逃れられない甘い執着に囚われていたようで――。
【人物紹介】
矢渡結衣(やわた ゆい)
電子部品製造会社の秘書。
男運が悪く、これまで付き合った男性は全員浮気していた。
惚れっぽい一面がある。
エイリーク=シノノメ
結衣の縁切り旅行先で出会った男性。
アメリカ育ちの日系三世。
結衣の取引先の社長で、彼女を気に入っている。
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*取り扱いサイトは、各書店に掲載され次第、更新されます。
【試し読み】
「結衣。辛い恋を忘れるには、新しい恋をするのが一番だと思わないか?」
そっと頬に触れてくる。私は、その手を払うことができなかった。
酔っているから? ううん、意識ははっきりしている。多少身体が重く感じるけど、動かせないほど泥酔してるわけじゃない。
「例えば君の目の前にいる――俺が相手ではどうだろう」
そっと唇に暖かいものが触れた。それがキスだと気づくのに、まばたき一回分の時間がかかった。
「ふいうちは、ズルいです」
私はエイリークを睨み、非難する。しかし彼は余裕めいた笑顔で、私の顎を人差し指でくいと持ち上げた。
「これくらいは挨拶みたいなものだろう?」
「日本では、挨拶じゃないんです!」
拳を握って力説するも、私の手は優しく彼に掴まれた。
「じゃあ真面目に口説こう。結衣、俺の恋人になってくれ」
私の手を握ったまま、エイリークはやけに真剣な顔をして囁く。そしてその顔が近づいてきた。
キスされる。避けなきゃ。
そう思ったのに、私の身体は石になったみたいに動かなかった。まるでエイリークの碧い瞳に魅入られたみたいに。
そして私とエイリークの唇がそっと重なる。
「ん……」
彼の唇は、今までに経験したどんなキスよりも甘く、優しかった。まるで鳥のように何度も私の唇をついばんで、くすぐるように触れてくる。
「は、あ」
自然と熱い息が零れた。エイリークは、そんな私の吐息を食べるみたいに大きく口を開ける。そして、噛みつくような口づけをされた。
「んっ、あ」
甘やかなリップ音。キスしかしていないのに、まるで性感帯を弄られているみたいに気持ちがいい。
こんなふうに感じる自分が淫らに思えて、私はさっと顔をそらした。するとエイリークは私の両腕を掴んで、耳の裏に唇を寄せる。
「っ、ん、だめ……っ」
こんなふうに流されてはだめだ。いつもそうやって失敗してきたじゃないか。しかも相手は外国人で、しかも観光客なんだ。そんな人と触れあうなんて間違っている――。
「結衣」
私の耳元で、ぞくりと震えるほどに低く、そして甘い声で囁かれる。
「俺に恋をして。そうすれば君は、失恋の悲しみを越えて次のステップに進める」
「次の……ステップ?」
「新しい出会いは気持ちの刷新に繋がる。君だって、いつまでも過去のことに拘り、足踏みしていたくないだろう?」
「それは」
私が目を伏せると、エイリークは私の耳朶にキスをした。びくりと身体が反応する。
「さあ俺に恋をして。俺は今夜、恋人として君に触れよう」
耳朶を食み、リップ音を鳴らせる。腕を掴んでいた両手はするすると下に降りて、私の腰に腕を回した。
エイリークの腕の中、上からキスが降りてくる。
「ん……あ」
ちゅ、ちゅ、と何度も軽く唇を重ねて、鼻の頭や頬、瞼にもキスを落とす。
こんなキスは初めてだった。
エイリークの、いたわりの気持ちが伝わってくるような優しいキス。
心がほわんと温かくなる。ぬるま湯に浸かっているような心地よさを感じる。
「結衣、舌を入れるよ」
口元で囁かれて、私はこくんと頷いた。すると彼の大きな口が私の唇を塞いでしまう。
「んっ」
身じろぎをする。私を抱きしめる力が強くなる。
ちろりとエイリークの舌が私の唇に触れた。まるで性感帯に触れたみたいに、身体がぴりぴりと痺れる。
温かみのあるエイリークの舌先が私の唇を辿って、するりと口腔に侵入した。
厚みのある舌が、ねっとりと歯列を舐める。舌の裏を探って、私の身体が緊張で硬くなる。
「……っ」
彼の舌が、奥に縮こまっていた私の舌を探り出し、ぬとりと絡め取った。
舌の表面を、彼の舌先がツツと辿る。くすぐるように舌先同士を舐め合ったあと、彼は私の舌を吸い取った。
「はっ、んっ」
じゅるると吸われて身体がぷるぷると震えた。彼の口腔で、私の舌が甘くいやらしくいたぶられる。
「はっ、は……あ……」
息が上がる。顔は火照って、いつの間にか身体は汗ばんでいる。
未だかつて体験したことのない濃厚な舌の絡み合いは惜しむように終わって、エイリークはゆっくりと身体を離した。でも、本当は離れがたいとお互いが思っているみたいに、舌と舌に唾液の線が繋がって、ぷつんと切れる。
「――まるで、先ほどのワインを味わっているような顔をするんだな」
そっと顎を摘まんで、エイリークが碧い瞳を細める。
「え……」
「結衣の可愛い瞳が潤んで、うっとりと頬が赤らんでいる。俺の舌を味わった気分はどうだ?」
耳元で囁く。お腹の奥がジンと痺れるような低音に、ぷるっと身体が震えた。
「気分は、良かった……です」
恥ずかしさを覚えながらも、素直に答えた。エイリークが嬉しそうな顔をする。
「よかった。もっと触れてもいいかな?」
それは、キス以上のことをするということ。
本当にエイリークは紳士だった。彼が私をホテルに誘った時、無理矢理はしないと口にしていたけれど、本当だった。
ちょっと強引だけど、彼はずっと、逃げ道を用意してくれている。
私が一言嫌だと拒絶したら引いてくれる心の余裕を持っている。
本当は、いけないとことだ。こんなの、行きずりのナンパ男と関係を持つのと何ら変わらない。遊んでいるとなじられても、何も言い返せない。
でも――。
「いいですよ」
まるで蚊の鳴く声のように小さい声。でも私は頷いていた。これ以上に踏み入る許可を出してしまった。
緊張でばくばくと心臓が鳴り響いている。こんなふうに、名前しか知らないような男性に身体を許すのはもちろん初めてだ。まるで悪いことをしているような気分になる。
でも、その『悪いこと』はどうしてか、不思議な魅力に溢れていて。
いけないことなのに、一度くらいなら体験してみたいと――好奇心のような気持ちが湧き上がっている。
だって、こんなにも素敵な人なのだ。
見蕩れるほどに相貌が整っていて、夢のようなセレブリティな部屋で、まるでお姫様のように扱ってもらって――。
ここまでのレベルを望んでいたわけじゃない。私はもっとささやかな幸せを願っていた。
エイリークも、本気で私を恋人にしたいと思っているわけじゃないはず。
これは一夜限りの恋。夢のような時間だから、朝になったらすべてが終わる。
彼は自分の国に帰るし、私は東京での日常に戻る。
だから、今だけは夢を見てみたい。彼が言ったように、悲しい恋を乗り越えて新しい気持ちに刷新するために。
「……忘れさせてくれますか?」
静かに訊ねると、エイリークはにやりと笑った。それは初めて見る――まるで悪人のような顔。でも、ドキリと胸が高鳴るほど艶めいていた。
「君が望まずとも、すべて忘れさせてあげるつもりだったよ」
そう言って、彼は親指で私の唇を拭った。
「俺が、君の過去を上書きしてやる」
エイリークの指がするりと私の首筋を通り、私の服に触れた。
「ここで? それともベッドに行く?」
「ベッドで……」
ソファも充分座り心地がいいけれど、大柄なエイリークには窮屈だと思った。彼は「了解」と短く返事して、私の身体を抱き上げる。
「わっ!」
あまりに軽々と抱き上げてしまうので、びっくりしてしまった。思わずエイリークの首に抱きついてしまう。
「ははっ、男に抱き上げられるのは初めてか?」
「初めてですよ。普通は抱き上げないです。お、重くないですか?」
「全然。むしろ軽すぎて心配になるくらいだ。もっと食べたほうがいいんじゃないか?」
「それは……ちょっと遠慮したいです」
体重はいろいろセンシティブな話題なのである。エイリークはああ言ってくれているけど、私は個人的に、もう少し体重を絞りたいなあと思っているのだから。
エイリークは私を抱き上げたまますたすたとリビングルームを横切って、ベッドルームに入る。
そこはキングサイズのベッドが鎮座していて、温かみのある電球色のダウンライトが仄かにベッドを照らしていた。
まるで宝物のように、私をそっとベッドに寝かせてくれた。
「エイリークって、モテるんでしょうね」
手慣れているとまでは思っていないけど、何となく、女性には困っていない感じがした。終始行動がスマートだし、余裕めいたものを感じる。
エイリークはベッドのふちに座って、ジャケットを脱いだ。
「結衣もモテるんだろう。服は、自分で脱ぐ? それとも俺に脱がされたい?」
「じ、自分で脱ぎますっ! ……私はモテてるわけじゃないです。ただ、ちょろいので、お手軽に声をかけられてるだけですよ」
可愛いねと軽く褒めただけで本気に取って、すぐに愛想を振る私。人懐こい犬と変わらない。
今までの元彼は浮気ばかりして酷い人だと思っていたけれど、きっと私がちょろいから、浮気くらい構わないだろうと軽く見られてしまったのだ。
もっと警戒心のあるしっかりした女性が相手だったなら、彼らは浮気なんてしないで、もっと慎重に行動したのかもしれない。
私が……悪いんだ。きっと。
「俺も、モテてるわけじゃないよ。声はよくかけられるけどね。結衣と同じだ」
「……嘘。エイリークに向けられる好意は、きっと全部本物ですよ」
「そうだったらいいんだが、あいにく俺は利用されるばかりでね。実はわりと弄ばれてばかりの憐れな男なんだ」
シャツを脱いで上半身裸になったエイリークは、こちらに顔を向けてウィンクをした。
「ところで、脱がないのかい?」
「あっ……ま、待って」
私は慌てて服を脱いだ。下着はどうしようかなと考えたけれど、ここまで来てそこだけ脱がないのも情けない。私は意を決してブラジャーだけ外す。
「脱いだけど……。さっきの話、冗談でしょう? エイリークほど素敵な男性が、利用されたり弄ばれるなんて、想像がつかないです」
「世の中には酷い女性もいるんだよなあ。だから俺には、君が天使に見えるよ」
エイリークはベッドに座ると、裸になった私の肩に触れる。そしてゆっくりとベッドに押し倒した。
とさりと、私の背中がベッドシーツに触れる。
「それは私が……簡単に、身体を許した、から?」
「何を言っている。俺はそんなこと一ミリも思っていない。拒絶されたら、何とか口八丁手八丁で口説き落とすつもりだったしね。単に結衣が、常に人を思いやれる優しい人だからだよ」
肌の質感を確かめるみたいに、彼の硬い手が私の腕を滑る。覆い被さるエイリークの胸板は厚くて硬く、そして暖かかった。
「運命なんて信じていなかったが、今なら信じられそうだ。運命の出会いとは、こんなにも俺を昂ぶらせて心をはしゃがせるものだったのだな」
エイリークは私の手を取ると、自分の胸に当てた。
手の平に、彼の心臓の鼓動が伝わってくる。とくとくと早い心音は、確かに彼が興奮していることを物語っていた。
かあっと顔が熱くなる。
まるで両思いになった恋人同士のようだと思ってしまった。
「結衣。俺は君に恋しているよ」
「今日、初めて会ったのに?」
「思慕に時間は関係ない。俺は君に出会って、初めてその事実を知ったんだ」
首筋に唇を落とす。その唇は肌の上を辿って、彼は私の匂いを吸い込むように胸元で深呼吸をした。
「甘く、柔い香りだな。……自分でも驚くほど、気持ちが興奮する」
私の太ももに硬いものが当たった。
「…………っ」
みるみると顔が熱くなる。ズボン越しに、彼のものはすっかり硬くなっていたのだ。
エイリークの熱い両手が、私の肌の上を滑る。
大切な骨董品を扱うみたいに優しく、質感を確かめるように柔らかく。
肩から手首、身体の曲線に沿って首から腰。
……そういえば、こんなふうにじっくりと触れられるのは初めてだ。今まで経験したセックスはどれもガツガツしていたから、何だか不思議に感じる。
裸で触れあっているのに、心は穏やか。ドキドキしているのに、落ち着いている。
その落ち着きは『冷めている』とはまた違っていた。自分はいつの間にか、心からエイリークを求め、受け入れているんだなと自覚する。
すす、とエイリークの手が動いた。両手で私の乳房をふかりと掴む。
「んっ」
ぴくんと反応する。エイリークの碧い瞳が優しく細まる。
ボリュームのある乳房をやわやわと揉みしだき、唇にキスをしてくれる。
ああ、なんだろう、この気持ち。
理由もなく涙が出そうになった。
優しく扱われているのが嬉しい。丁寧に抱かれていることに幸せを感じる。
私にとってセックスは、楽しいものでも辛いものでもなかった。それなりに気持ちがいい時もあるけれど、時間の大半は退屈で、時に痛みを帯びるものだった。
気持ちがいいフリをして、アダルト動画で見かけたような甘い喘ぎ声を出しておけば相手は満足する。そんな演技をしながら心のどこかで『早く終わって欲しい』と考えていた。
セックスは別段したいものではなく、ただ、恋人同士であれば受け入れなければならないことのひとつに過ぎなかった。
でも――今は、違う。
相手は恋人でもないのに、一夜だけの間柄なのに。
どうしてこんなにも、私に微笑みかけてくれるの?
エイリークはたっぷりと私の乳房の柔らかさを楽しんだあと、きゅっと乳首を摘まんだ。
「は、あっ」
自然と声が出る。演技でも何でもなく、単純に気持ちがよかった。
爪で皮膚を抓り上げるような痛みはない。その力加減は絶妙で、彼は巧みに私の性感帯を刺激する。
エイリークは私の指を交差して握りしめた。彼の手は熱く、力強い。私とは違う、男らしい手。
ドキドキする。そういえば、セックスで手を繋いだのも、初めてだ。
「結衣、今の君の顔はとても可愛らしい。閉じ込めて独占したいくらいだ」
「やっ、そんなことない。きっと変な顔、してる。だって……っ」
はっはっ、と息が上がっていく。乳首を摘まむ指の力が少しずつ強くなって、それに比例して快感も増していく。
「すごく気持ちいい、もの。絶対変な顔、してるっ」
「ああ、君は素直に快感を覚えて、実に悦い顔をしている。それが可愛いんだよ」
首元にキスをして、つつ、と舌でデコルテをなぞる。
「決して、他の男には見せないでくれ」
「……っ、は、あっ!」
いたずらに肌に口づけていたエイリークの唇が、乳首に触れた。私の身体がピンと弓なりにしなる。
ちゅ、ちゅ、と何度も鳴るみだらなリップ音。その度に甘やかな快感が刺激され、びくびくと反応する。
てろりと赤い舌が伸びて、舌先で乳首を突いた。
「あっ、ん!」
くっと顎が上がって目を強く瞑る。
唾液で濡らした舌先は留まることを知らず、ちろちろと乳首を舐め回した。そして口に含んでじゅくっと吸われて、私はあられもない声を上げる。
「あああ……っ!」
いやだ、気持ちいい。どうしよう、本当に感じている。
エイリークの愛撫には痛みが一切ない。ただただ気持ちが良くて、それだけに頭がどうにかなってしまいそう。
口腔で、乳首がねっとりと舌で転がされる。
身体中が敏感になって、握り合った彼の手すら快感を覚える。
いつの間にかもじもじと太ももを擦り併せていた。彼が私の乳房を愛撫するたび、私の秘所がきゅんと切なくなるのだ。
「は、あ……エイリーク……」
回らない舌で彼の名を呼ぶと、ちゅっと一際大きな音を立てて、彼は乳首を吸った。
びくん、と肩が震える。
「君の反応は淑やかでいいね。喘ぎ声も控えめで、一生懸命我慢しているのがわかるよ」
「ううっ」
「もっと――もっと、いじめたくなるな。こんな気持ちを覚えたのは初めてだ」
ダウンライトに反射して、エイリークの碧い瞳が仄暗く光る。
どきりと胸の鼓動が高鳴った。秘所がじわりと潤むのがわかる。
どうして。私はそんな性癖はないはずなのに。
エイリークにはいじめられたいと思ってしまった。この人の愛撫に堕ちてみたい。この感覚は何だろう。わからないけど、もしかしたらこの気持ちが。
――恋、というものなのだろうか?
「結衣はどうかな。今の気分は?」
唾液で濡れた乳首を弄りながら、もう片方の手が私の肌の上を踊って、下に降りていく。
私はドキドキしすぎて、口から心臓でも飛び出しそう。
興奮で息が上がる。はっはっ、と犬みたいにはしたなく呼吸を繰り返して、エイリークに訴えた。
「もっと、いじめて……エイリーク」
これが一夜限りの恋でもいい。人生でたった一度でも構わない。
私は初めてセックスが気持ちいいと思っているのだ。だからこのまま夢を見ていたい。
今夜、だけで充分だから。辛い過去を乗り越えて前に進むために、快感を刻んで欲しい。
「これまでの嫌なこと、ぜんぶ忘れさせて」
「ああ。いい子だね、結衣」