過保護な極上社長は甘く淫らな求愛を抑えない

書籍情報

過保護な極上社長は甘く淫らな求愛を抑えない


著者:沙布らぶ
イラスト:カトーナオ
発売日:2021年 2月26日
定価:630円+税

アパレルブランド『Mitte』の広報課で働く千香は、恋人から突然「女としての魅力皆無な処女」と言われ捨てられてしまう。
行きつけのバーでやけ酒を飲んでいると、一人の男性に声をかけられる。その人はなんと『Mitte』の社長の暁俊だった!
酔いにまかせて今までの話をしているうちに、千香はヒートアップしていき、「処女とか捨てたら自信がつくんですか」と口走ってしまう。
その言葉を聞いた暁俊は自分で捨ててみないかと提案してきて……。
「キス以上のことも――君に教えてあげたい。こうして触れあって、千香を気持ちよくしてあげたいんだ」
最悪の日、最悪の気分で泣く千香に優しく差し伸べてくれる暁俊の手を、千香は自然ととって――。

【人物紹介】

新城千香(しんじょうちか)
アパレルブランドの広報課に務めており、ある理由から仕事で上手くいかない日が続いている。
自信がなく、自分を追い詰めすぎるところがある。暁俊と出会い、自分を変えたいと思うようになる。

野瀬暁俊(のせあきとし)
千香の働くアパレルブランドの社長であり、デザイナー。
穏やかで優しく、紳士的な男性。千香に自信を持ってもらうため、千香の魅力を磨く手助けをする。


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【試し読み】

「清水は帰ったから、今日は俺が送る。家はどっち?」
「いえっ、大丈夫です。今日は本当に――ここまでしていただいたのに、これ以上ご迷惑はかけられません、駅からすぐなので、夜風にあたって帰ろうかと」
「そう? じゃあ、駅まで送る。日が落ちてるから、なにかあってもいけないし」
 ――それくらいだったら、甘えてもいいだろうか。
 少しだけ迷った千香だったが、やがてこくりと頷くと改めて頭を下げた。
「じゃあ、駅までお願いします」
 店から駅までは、徒歩で十分ほどだ。
 先ほどと同じようにとりとめのない話をしながら歩いているとすぐに到着してしまうような距離。
 だが、そのほんの少しの時間でも彼と会話できるのが嬉しい。
(なんだろう――こんなに楽しい気分になったのって、久しぶりかも)
 仕事以外の場所で、異性とちゃんと会話が成立しているというのが千香にとっては新鮮だった。
 むしろ順也と付き合ってからは、生返事であしらわれるのに慣れすぎていたのかもしれない。
「じゃあ、ロンドンにいらっしゃった頃はまだ大学生だったんですか……?」
「あぁ。向こうの大学を卒業して、二年くらいはあっちにいたかな」
 他愛のない話をして、夜の街を歩く。
 鼻先をかすめていく冷たい風を感じながら、千香は自然と笑みを浮かべていた。
(本当に、こんなの久しぶりだな)
 誰かと一緒にいてこんなにも自然と笑うことができるのなんて久しぶりだ。それがほんの短い時間だとしても、暁俊と一緒にいると心が軽やかになる。
「あれ、千香?」
 けれど、そんな千香を呼び止める声があった。
 よく聞きなれたその声に足を止めた彼女は、目を丸く見開いて背後を振り返る。
「おー、やっぱり千香じゃん」
「……順也」
 明るい茶色に髪の毛を染めた順也が、ひらひらと手を振っていた。
 一瞬息をのんだ千香だったが、その足はなぜかふらふらと彼の方に向かってしまう。
 その傍らにいるのは若い女性だ。大学生ほどだろうか、金曜日に彼の側にいた女性とはまた違う人物の肩を抱いて、順也はこちらにニヤニヤ笑いを向けてきた。
「ねぇジュンくん。この人知り合い?」
「んー? あぁ、元カノだよ」
 軽い調子で順也がそう言っても、横の女性はこてんと首をかしげて千香のことを見つめるだけだった。
 近くに立つだけでも順也から漂ってくるお酒の匂いが強く、彼がひどく酔っぱらっているのがわかる。
 順也はもともとアルコールが入っていると気が大きくなりがちなのだが、おそらく今もひどく酔っぱらっているのだろう。
「芋臭いヴァージンでさ。べたべた鬱陶しいからこっちから振ってやったんだ」
「へぇ……可哀想」
 心底哀れむような声が、千香の鼓膜に絡む。
 周囲の音が一気に遠ざかって、足元がふらついた。
(可哀想、って――誰が? わたしが?)
 なぜ自分が哀れまれねばならないのか。
 意識の輪郭がぶれたまま、千香はなにかを言おうと口を開いた――。
「千香」
「あ、暁俊さん……」
 だが、すんでのところでそれを止めたのは暁俊だった。
 ぐっと千香の腕を引き、まっすぐ順也の方を見据えた暁俊が軽く息を吐く。
「彼は?」
「ぁ――え、っと」
 とっさに言葉が出てこない千香の肩を抱いて、暁俊が柔らかい笑みを浮かべる。彼が買ってくれたワンピースの裾が風に揺らめいているのを視界の端に捉えて、ようやく息をすることができた。
「もしかして……彼が、この前の夜に言っていた元カレさん、かな」
 しっかりと肩を抱いたまま、彼が柔らかい声音で訪ねてくる。
 こくりと頷いた千香に、暁俊は「なるほど」と彼女に聞こえるだけの声音で呟いた。
「……あ? なんだアンタ、急に――」
「いや、俺の恋人がふらふらと歩いて行ってしまったから、古い友人でもいたのかと思ってね」
「恋人ォ?」
 暁俊の言葉に、順也が目を剥いた。
 スーツ姿とは言え、美容師である順也ならば彼が着ているものの上質さも見て取ることができただろう。
 端正な顔立ちは薄く微笑んではいるが、どこか冷たいまなざしを彼に向けている。
(えっ、社長今なんて……?)
 だが、暁俊の言葉に驚いたのは順也だけではない。
 彼の言葉を間近で聞いていた千香もまた、驚きのあまり言葉をなくしてしまった。
「あぁ、厳密には今の恋人だ。長い間彼女にアプローチし続けていたんだけど、彼氏がいるからとかわされ続けてね。やっと念願が叶ったところだ」
 まるでペースを変えることなく、暁俊はつらつらとそんなことを言う。
 だが、それが千香を守ろうとして言ってくれていることだとわかっているから、あえて訂正はしなかった。最初は驚いたが、肩を抱く腕はとても頼もしい。
「今も彼女を家に送り届ける途中でね。積もる話もあるだろうが、彼女と過ごすこの時間は俺のものなんだ」
 柔らかく千香の髪を梳いた暁俊が、その頬にちゅっと唇を落とす――びくっと肩をはねさせた千香と上機嫌な暁俊を交互に見比べながら、順也はぱくぱくと口を開閉させた。
「だから、悪いけれどこれで失礼させてもらう。さぁ千香、行こうか」
 驚きのあまり絶句する順也を横目に、暁俊は千香の肩を抱いたままその場を後にする。
 その場から離れてしばらく歩くと、彼はふうっと息を吐いてそっと肩から手を離した。
「強引なことをしてすまない。千香がふらふらと歩いて行ってしまうから、驚いたんだけど……」
「いえ――ありがとうございます。わたしも、なんで順也のところに向かったのかがよくわからなくて」
 名前を呼ばれて、まるで誘われるようにふらふらと歩いて行ってしまった。
 順也を目の前にした時に覚えた感情はこれまでのものとはまるで違っていたし、心の中は驚くほど冷え切っていたのに、順也と彼の隣にいた女性の言葉を聞いた瞬間に頭の中が真っ白になってしまった。
「……社長が、声をかけてくれなかったら――わたし、なにしてたんだろうって。今……すごく怖くなって」
 自分の口元に手を当てながら、千香はふるふると小刻みに震えた。
 次の瞬間に自分がなにをしていたのかという想像もつかない。ただ、なにかひどいことを口走ろうとしていたような気がする。
「千香」
「もう、順也のことは大丈夫だって思ってたんです。でも……本人を目の前にしたら、よくわからなくなって」
 声を震わせて顔を真っ青にした千香の体を、暁俊はそっと抱きしめてくれた。
 体に伝わる彼の鼓動が、ぐちゃぐちゃになった頭の中を落ち着かせてくれる。
「大丈夫だ。落ち着くまで俺がついているし、もう彼が君に声をかけることもないだろう」
 とんとん、と千香を落ち着かせるように背中を叩いてくれる暁俊に、千香は小さく頷いた。
(今優しくされたら、泣いちゃいそう……)
 こみあげてくるものをぐっと押さえつけながら、千香はゆっくりと呼吸を正す。
 そしてようやく身動きが取れるようになると、彼女は暁俊の体から離れて頭を下げた。
「落ち着いた? なにか飲み物は?」
「いえ、大丈夫です」
 そう告げると、薄く笑みを浮かべて千香の手を握った。
「家まで送るよ。今の君を一人で家に帰すのは少し危険だ」
「……はい。ありがとうございます」
 暁俊の気遣いに申し訳ないとも思ったが、ここは素直に彼に甘えておくことにする。
 先週とは違い素面ではあったが、今日は違う意味で足元がふらついている。それに、繋いだ手の温かさが心地よくて指先をほどくことができなかった。
「すみません……今日もまた迷惑をかけてしまって」
「君の元恋人のことなら、イレギュラーだったんだから仕方がない。それに、俺としては迷惑でもなんでもなかったけどね」
 駅の構内で電車を待ちながら、千香は小さな声で謝罪を口にした。
「でも、社長にあんな――嘘をつかせてしまって」
「俺は、嘘じゃなくなればいいって思ってるんだけど」
「……え?」
 きょとんとした表情を浮かべた千香は、順也と相対した時の彼の言葉を反芻した。
「冗談を言うのは、やめてください」
「千香には俺の言葉が、冗談に聞こえた?」
 静かに尋ねてくる暁俊に、千香はふっと目を伏せた。
 暁俊があの場で「自分が千香の恋人だ」と言ったのは、あくまで順也への牽制だろう。ただの上司と部下で、こうしてプライベートで会うのだって二回目だ。
 それなのに、あの言葉が本気だとは思えなかった。
「でも――」
 なんとか言葉を口に出そうとした時、タイミング悪く電車が駅に入ってきてしまう。
 時間帯的にも電車の中は人がまばらで、なんとなく話を切り出しづらくなる。千香はきゅっと唇を引き結んでほぅ、と息を吐いた。
(社長の考えてることが、よくわからない)
 先ほどの言葉が冗談じゃないということは、つまり彼が千香の恋人になりたいと思っているということだろうか。
(いや、さすがにそれはわたしに都合がよすぎる……)
 頭の端に思い浮かんだ考えを打ち消して、電車の隣の席に座る暁俊をちらりと見た。
 絵画のように美しい横顔を遠くから眺めているだけだったらまだよかっただろう。けれど、こんなにも近くで彼を見つめていると、逆になにかがおかしいのではないかと思えてきてしまう。
(本当は、好きになっちゃいけない人なのに――)
 想いを自覚すれば、余計にそう思えるようになった。
 これから、少しでも自分を変えていきたいという気持ちはある。
 けれど自分がどれだけ努力をしても、ある程度埋められないものというのは存在するのではないか。
「ねぇ、千香」
「はい……」
 もやもやと色々なことを考えていると、不意に暁俊が小さく名前を呼んだ。
 その声につられて顔を上げると、彼がそっと指先を千香のそれに絡めてくる。
「今日はちゃんと君を家まで送るけど――俺に、下心があるって言ったらどうする?」
 普段優しい表情を浮かべているその視線が、ちらりと千香の方を見る。
 その瞳の中に宿っている光が、ほんの少し獰猛な色を見せているのに気付いてしまう――指先と頬がじりじりと熱くなる感覚を覚えながら、彼の手を振りほどくことはできなかった。
 返事の代わりに、自分から彼の手を握る。
 その途端、張り詰めていた彼の表情が和らぐのがわかった。
「ここでそれを聞くのは、ずるいです」
「あぁ、そうだな。悪かった……でも、なにも言わずにいるのも悪くて」
 電車が最寄りの駅で止まると、千香は暁俊を自宅まで案内した。
 住んでいるのはなんの変哲もない五階建てのマンションだ。家の中には順也の私物はすべてゴミに出してしまったので、なんだか少しだけ物寂しい。
「こ、こっちです。散らかってますが……」
 部屋に入って廊下をまっすぐ行くとリビングに出る。まずはそこに暁俊を招こうと、千香は電気をつけて彼を案内した。
「お邪魔します――いや、俺の部屋よりよっぽど綺麗だよ。一人暮らしだとどうしてもね、手が届くところにものを置いておきたくて」
 頭を下げて部屋の中に入ってきた暁俊は、革靴を脱いで揃えるとそんなことを言った。
「お掃除、苦手なんですか?」
「忙しいのを言い訳にしてるけど、あんまり得意じゃないな。特にデスク周りは悲惨だ。もしよかったら、今度見てみるか? それまでにはドン引きされないくらいには綺麗にしておくから」
 意外な彼の言葉に、千香は小さく笑みをこぼした。
 几帳面に部屋を片付けていそうなのに、人は見かけによらないものらしい。
「やっと笑った。電車の中でも切羽詰まった顔をしてたから安心したよ」
「あ……見て、らしたんですか」
「ずっとね。千香のことは、ずっと見てた――」
 ふいに、その声がほんの近い場所から聞こえてきた。
 あっと思った時には体は強く抱き寄せられ、唇には柔らかいものが押し当てられる。
「っ、んん……」
 ちゅぅっ……と軽く唇を吸われただけで、千香の体が軽く震えた。
 濡れた舌で少し唇を舐められただけで、お腹の辺りがジンと熱くなるのがわかる。
「ん、ぅっ……ッふ、ぁ――」
 さほど広くない廊下でのくちづけは、濡れた音を静かな空間に響かせる。 
 暁俊は両手で千香の顔を押さえ、触れるだけのそれから徐々にキスを深く甘く変えていった。
「ぁむぅ……ン、んふ、ぅ……」
 熱い舌で咥内をまさぐられ、その動きに翻弄される。
 まるで戯れるよう舌を絡めて唾液をかき混ぜる動きに、千香も次第に溺れていった。すがるように彼の腕にしがみついて、混ざり合った二人の唾液をすする。
「ん、ぁ――は、っ……しゃちょ……こ、ここ、玄関で」
「我慢ができなくなったんだ。あんなに辛そうな千香の顔を――見たくなかった。俺が、君を笑顔にしてやれるって思っていたのに」
 狂おしく抱きしめられ、暁俊の香りが鼻先をくすぐる。
 せっかくのワンピースがくしゃくしゃになるのも構わずに、千香も彼の体に腕を回した。暁俊の熱が、鼓動が、彼女の心に安らぎをくれる。
「思い上がっていたと、痛感させられた。千香はもう彼のことなんて忘れていたと」
「違います――順也のことは……だって、社長に触れられたらこんなに……」
「ここまで来たんだから、もう名前で呼んでくれてもいいだろう?」
「は、はい……暁俊、さん」
 耳元で笑う声に、耳朶が火照って熱くなる。
 順也には触れられただけで嫌悪感すら抱いていたというのに、相手が暁俊だとそれを覚えることはまったくなくなっていた。
 むしろ、暁俊の大きな手で撫でられたり、触れられたりすると心地よさすら覚える。
「あの、わたし……うれしいんです。暁俊さんに触られると、すごく嬉しくなる――こんな風に思ったこと、今まで一度もなくて……」
 順也にも覚えたことのない感情を、暁俊に対して抱いている。
 恋愛ごとに疎い千香でもそれはわかったし、彼に惹かれているという自覚もあった。
「あなたじゃないと、こんな風に思えなかったって――ン、んっ!」
 なんとか、必死に胸の裡を伝えたくて、千香はたどたどしい言葉を紡ごうとする。
 だが、それは荒々しいくちづけに塞がれ、再び咥内を暁俊が満たしていく。
「ッあ、んっ……ふ、ちゅっ……む、ぅう……」
 唾液同士が絡む音が、ぐちゅぐちゅと頭の中で反響する。
 軽く前歯で舌先を絡めると、体から力が抜けてしまいそうになった。
「ぁ……」
 崩れ落ちる寸前の体を、暁俊が抱き留める。
 目元を朱色に染めた彼は、濡れた吐息を彼女の耳朶に吹き付けた。
「ン……暁俊さん……」
「――ベッドルームは? こっち?」
 腰の抜けた体を軽々と抱き上げた彼は、手短にそう尋ねてくる。横抱きに千香のことを抱え上げられるのだから、見た目に反して案外暁俊は力持ちらしい。
「は、はい……」
 小さくうなずくと、暁俊はそのままドアを開けた。
 ベッドルームといっても、本棚と小さなテーブル、クローゼットとベッドが置いてある部屋だ。シングルベッドは、二人で横たわるには少し狭い。
 けれど彼はそれを気にした様子もなく、千香の体をベッドの上に横たえた。
「あんまり可愛いことを言われると、我慢がきかなくなりそうだ」
 煩わしげにネクタイと上着を脱ぎ捨てて、暁俊が低い声でそう言った。
 その声だけで、肌がピリピリと痺れるような気がする。
「ッ、ふ――ぁ、暁俊さん……?」
 問いかけに答えはなかった。
 その代わり、首筋に唇が押し当てられる。さらに体を転がされた千香は、暁俊に背を向ける形でベッドの上に横たわることになった。
「ぇあっ……こ、このままするんですか?」
「怖い? それとも苦しい?」
「少し怖いです……暁俊さんの、顔が見えないので」
 その言葉に、頭上でふっと笑う気配がある。 
 苦しさは感じないが、自分がなにをされるのかがよくわからないという怖さはあった。
「もう痛くないと思うし、苦しいこともしないから……」
 彼の声が聞こえると同時に、着ていたカーディガンがゆっくりと脱がされる。そして、すぐに背中のジッパーが音を立てておろされた。

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