
コワモテ騎士伯爵様の熱烈求愛は重すぎる ~没落令嬢なのに執着されて困ります!~
著者:悠月彩香
イラスト:天路ゆうつづ
発売日:2024年 5月24日
定価:630円+税
ティエラはフェザーズ男爵のひとり娘で伯爵家の子息アズールの婚約者であった。
結婚式を挙げる直前、父が商船と共に海に沈んだことでフェザーズ男爵家は没落し、ティエラは天涯孤独となった。
そんな折、アズールから連絡があり再会するも、そこにはなぜかロゼッタ子爵令嬢もいて――?
伯爵家の侍女になれと言われ、困惑しているティエラの前に乱入してきたのは一人の騎士だった!?
彼はおもむろにティエラの身体を担ぎ上げ連れ去ってしまう――!
邸宅に連れてこられたティエラは彼がヘヴリー伯爵家のイーアスで、『メイローズの若き英雄』と呼ばれるほど有名な人だと知る。
どうやらイーアスはアズールに恨みがあるらしく――?
アズールから受けた仕打ちを思い出し泣いているティエラをイーアスが抱き寄せる。
熱い口づけを与えられたティエラは、その激情に流されてしまいたいと思い身を任せるのだが……。
「あの野郎から、あんたを奪ってやると決めていた――心ごと」
そう言った彼の手つきは、まるで愛しいものに触れるみたいで――!?
【人物紹介】
ティエラ・フェザーズ
没落したフェザーズ男爵家のひとり娘。
素直で人懐っこく、明るく前向きな性格をしている。
元婚約者に蔑ろにされていたところ、イーアスが現れて……?
イーアス・ヘヴリー
ヘヴリー伯爵、メイローズ王国第三騎士団団長。
口数少ないぶっきらぼうな性格をしている。
怖そうな見た目に反して、行動は優しい。
ティエラと過去に会ったことがあるようだが――?
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【試し読み】
商船の事故を受けて、両親も家もなくし、うやむやのうちに結婚も流れた。
失意のどん底にいたティエラに、一度なくなったはずの機会がふたたび巡ってきたと思ったのに。どれほど、この王都行きを楽しみにしてきたことだろう。
それなのに――。
涙を拭ってもきりがないので、落涙するがままずっと肩を震わせていたら、ふいに頭を抱き寄せられた。
イーアスのガウンが、あふれた涙で濡れる。
すっかり彼の存在を忘れていたから、突然のことで驚いた。でも、これだけ弱りきっているときに抱きしめられたら、縋りつきたくなってしまう。
(慰めてくれてる……のかな……)
それでもなんとか自制心が働いて、手は自分の膝の上で握りしめたまま咽び泣いていた。
「――悲しいのか、それとも悔しいのか」
ティエラの嗚咽だけに満たされていた部屋に、彼の低い声が割り込む。
しゃくりあげる彼女に、その問いに答えるのは難しい。なにしろ、まったく言葉にならないのだから。
すると、涙で歪んだ視界に、イーアスの大きな手が飛び込んでくる。
最初は頬の涙を拭おうとしてくれているのかと思ったが、彼はその手をティエラの頬に当てると、ぐいと上を向かせた。
こんな泣き濡れたみっともない顔、見られたくなんてなかったのに。
彼の怒ったような顔が、涙越しに滲んで見える。
そのぼやけたイーアスは、よく響くはっきりした声で言った。
「くだらない」
きっぱり断言され、睫毛に涙の雫を載せたまま、ティエラは赤くなった目を丸くした。
はじめは、いきなり泣き出したことを詰られているのだと思った。でもイーアスは強い目でティエラを真っ向から見据え、もう一度同じ言葉を口にする。
「あんな男のことで泣くなど、くだらない。それなら俺に奪われて怒れ。俺を恨んで、自分をこんな目に遭わせる原因になったホーフェンも恨め」
言われた意味を理解しようと、深く息を吸い込んだ瞬間、唇に熱いものが押し当てられた。
何が起きているのかわからず、濡れた睫毛をもっと上げたら、視界をふさぐほどにイーアスの顔が接近していて……。
ティエラの涙で濡れた唇を塞ぎ、舌でその雫を舐め取っているのだ。
「――――」
頭の後ろを大きな手で支えられ、もう一方の力強い手で背中を抱かれる。そして彼は何度も何度も唇をついばみ、くちづけ直し、ティエラの息を上がらせた。
アズールとだって、手を握る以上のことはしたことがないのに――。
ティエラをここへさらっていた男の正体はわかっても、ヘヴリー伯爵自身のことは何も知らない。こんなこと、断固として拒否すべきだろう。
でも、不思議と拒絶感はなかった。荒々しいが、その唇はひどく雄弁で、まるで彼の心の中の熱を、口移しに教えられている気になる。
「ん……」
キスをされている意味を、そしてそれを受け入れている意味を自分の中で探しているうちに、無意識にイーアスのガウンを握りしめ、目を閉じていた。
失恋したあとの傷心につけこまれているのだろうか。
そして自分も、その心の傷を塞ぎたいばかりに、新たに現れた男性に流されているのだろうか。
でも、アズールの仕打ちで泣いていたことはとっくに記憶の彼方に押し流され、意識と心のすべてがイーアスに向く。
荒っぽくて激しくて、でも情感のこもったキスで、彼の熱量が増すにつれて互いの息が上がる。
そんなキスの合間にも、イーアスは「くだらない男のことで泣くな」「泣くな、怒れ」と、何度もティエラの耳元でけしかけるのだ。
怒りを扇動する言葉の端々に、彼の苛烈さを垣間見た気がする。
でも、どれだけ怒るよう焚きつけられても、覆いかぶさるキスに全部押し流されてしまう。
それどころか、彼が「怒れ」と言うたびに、その言葉の裏に別の意味が隠されている気がして……。
自分に覚えがなくても、やはりイーアスはティエラのことを知っているのだ。のみならず、アズールと自分の関係、そしてあの邸でどんなやりとりがあったのかも、この男は全部知っている。
だからこそ、ホーフェン邸に乗り込んできた瞬間に、迷いもなくティエラを連れ去ったのだ。
確信したときには、とっくに彼の激情に呑み込まれていて、ティエラの腰はがくがくして半分抜けかけていた。この感覚には、どんな名称がつくのだろう。
そのうち、唇だけではなく頬の涙も舐めて拭い、顎や首筋にもくちづけられる。
「は、ぁ……っ」
イーアスの唇が肌の上を滑っていくたびに心地よくて、嗚咽ではなくため息を漏らしていた。
そして、己を貪り食らう獣に押し倒され、喉へ食らいつかれた瞬間、身体の芯が震えた。内側で何かがあふれてきて、脚の間にじわりと熱が広がる。
これが正しいことだなんて思わないけれど、たとえ傷心のせいだったとしても、流されるまま身を委ねてしまいたかった。
もう自分には、守るものなど何もないのだし――。
そんな心の隙間を嗅ぎ取られたのか、イーアスの手がティエラの首筋をなぞり、胸元にそれを這わせはじめた。
男性に胸をさわられたのは初めてだ。驚きはしたが、大きな手で包み込むように撫でられたら、もっと身体から力が抜けていく。
「ん、ぅ……っ」
どのくらいの時間そうしていたのか、上から覆いかぶさられながら一心不乱にイーアスのキスを受け止めていたら、ふと彼の熱が遠ざかった。
身体を起こし、ベッドに腰かけた姿勢でティエラを見下ろすイーアスは、細く長い息を吐くと、ガウンを脱いで床の上に放り投げた。
ガウンの下は部屋着なので裸身をさらしたわけではないが、その仕草はいやに煽情的だ。
そんなイーアスは、なぜか不機嫌そうに言う。
「もっと怒れ。自分が何をされてるのか、わかってるのか? 怒って俺を詰れ」
そう言われれば言われるほど、ティエラはポカンとイーアスの顔をみつめるばかりだった。
確かに、よく知らない――しかも誘拐犯と思われる――男性に、いきなりキスされたり身体に触れられたりしたら、怒るのが当然なのかもしれない。
でも、彼のぶっきらぼうな顔を見ていたら、怒りが湧くどころか、さっきまで乱れていた気持ちが宥められ、いつの間にか嗚咽も収まっていた。
「私、怒るのが苦手で……」
「怒るべきことに怒らないのは、怠慢だ」
断定的な口調に面食らうも、怒りが湧かないのでどうしようもない。
「それよりも、イーアスさまが私をここに連れてきた理由をちゃんと教えてください。アズールさまの元から連れ去れば、それで目的は果たされたことになるんですか?」
挑発しているつもりではなく、彼の真意を知りたいと思ったのだ。濡れた頬を拭いつつ、まっすぐ彼をみつめる。
だが、イーアスの表情はさらに憮然となり、濃褐色の瞳が昏い色に揺らめいた。
「俺はまだ、奴から何も奪えていない」
静かな低い声が、ティエラの心の底に響く。
上衣を脱ぎ捨て、見事な騎士の肉体をさらしたイーアスは、横倒しにされたままのティエラに跨って肩を押さえつけ、にらみつけるように彼女の空色の瞳を覗き込んできた。
「奴の名前なんて呼ぶな、あんなクソ野郎」
「さ、さすがにそんな呼び方はできな――」
よほどアズールに恨みがあるらしい。困惑して返したら、途中でまた口を塞がれ、彼の手に胸元を開かれていった。
心臓がうるさいくらいに鼓動を速めているが、あたたかな手が肌に触れる感覚が気持ちいい。
思わず目を閉じたら、彼が重ねた唇の間から舌を挿し入れ、ティエラの舌に絡めてきた。口の中をぬるぬると熱を持った肉が這い回り、吸い上げる。
「んっ……」
この世界にこんなキスが存在することを知らなかったから、ティエラは羞恥にいっそう目をきつく閉じたのだが、強張りを解くような手つきで額に触れられていた。
肩から寝衣をはだけられ、華奢な下着をずり下ろされたら、白い柔肌が露わになる。
イーアスはずっと目を閉じてティエラの唇を貪っていたが、両手で彼女の首筋から胸にかけてなぞると、うっすらと目を開けた。
「は――」
短く嘆息する低音が、ティエラの耳の傍で鳴る。
その音につられて目を上げると、彼女の裸の胸を見ているイーアスの目が、あやしく揺らめいて見えた。
目が合うと、彼はますます不機嫌そうな顔で吐き捨てる。
「なぜ怒らない? 殴り飛ばしてもいい」
「……無茶言わないでください」
ふんわりしたふくらみに手を伸ばされ、大きな手の中に収められる。口ぶりは乱暴なのに、ティエラに触れる手はどこまでもやさしかった。
(結婚していたら、とっくにアズールさまとこういうことをしていたはず……)
でも、二十歳になってもティエラは清らかなままだ。
今のところ、アズールに対して怒りという感情は湧いてこなかったが、彼を憎んでいると思しきイーアスに純潔を奪わせるのは――。
(当てつけ、なのかな……)
そうだとしても、もう大事に守り通すものは何もない。
残念ながら、当てつけのつもりでイーアスに抱かれても、アズールは何とも思わないだろうけれど。
あとあと冷静さを取り戻したら、このときの短慮を後悔するかもしれないが、ここでひとりきりにされたら、また涙がぶり返しそうで怖かった。
今は何も考えたくない。目の前の人の激情に流されてしまいたい。
だから、喉を食まれて乳房を揉まれ、淡い色をした先端を指で摘ままれてこねられても、ティエラは拒絶も抵抗もしなかった。
それどころか、途端におかしな気分になり、ぎこちなく身をよじっていた。
「は――あぁ……っ」
お腹の奥の方がうずうずするから、どうにかこのもどかしさを解放してほしくてたまらなくて――。
無意識に伸ばした手で、イーアスの背中に触れていた。
異性の身体に直接さわるのは、これが初めてだ。平らだと思っていた背中はごつごつと筋肉が隆起していて、驚くほどに大きく広い。
これが『メイローズの若き英雄』の身体だ。
だが、ティエラの手が背中をまさぐった瞬間、イーアスの身体が硬直した。
「あんたは……」
すこし身体を離し、激情を秘めた目でティエラをみつめると、思い余ったように彼女の服を全部剥ぎ取ってしまった。
下着ももどかしく外してすべてを床に投げ捨てると、全裸にされて目を白黒させるティエラを抱き上げ、ベッドの真ん中へと運ぶ。
「イーアスさま……あぁっ」
ティエラの両脚をつかんで開くと、その間に身体を割り込ませたイーアスは、淡い繁みの下に隠れていた秘裂に指を這わせ、ゆっくりと重たくそこを擦りはじめた。
「ん、ぁっ、ああぁん――!」
途端に全身に衝撃が走って、ティエラは悲鳴をあげる。
肌に触れられたってこんな強烈な感覚はないのに、秘めやかな場所はそっと刺激されただけで、目を開けていられないほどの強い感覚を全身にもたらした。
男の人らしい無骨な指が、媚肉を押し潰しつつ揺さぶりをかけてくると、ティエラの唇からほとばしる悲鳴に混じって、ぬちぬちと粘質な水音が立ちはじめた。
「や、ぁ、あ……! だめ、そんな――!」
気持ちいいとか恥ずかしいとか、いろんな感覚と感情がごっちゃになって泣きそうだ。頭の中が混乱し、自分の状況が理解できない。
こうなってもいいと思ったはずだったのに、男性と身体を重ねた経験がない。何が起きていて、自分が何を感じるのかという想像には限界があって……。
無意識のうちに膝を閉じようとしていたが、彼の力強い手に押さえつけられてビクともしなかった。
「あぁっ、や……っ」
「あの野郎に、ここを触らせたのか?」
涙目で力強く首を横に振ると、イーアスは仏頂面の極みになり、這わせていた指を二本に増やした。
たちまち、秘珠を圧迫する熱が重たくなり、瞼の裏がちかちかしはじめる。
あられもなく開かされた割れ目を指で乱されていくうちに、濡れた音はどんどん大きくなった。
「は、あっ……待って、ん――ッ」
硬くすぼまってきた蕾を押し回されたら、経験したことのない快感が稲妻のように瞬時に身体を駆け巡る。
それと同時に、彼がもう一方の手で揺れる乳房を捉え、敏感になった先端をこねてくる。ありとあらゆる部分を強く責めたてられて、自分が自分でなくなってしまいそうだった。
いや、もうそうなっているのかもしれない……。
たくましい筋肉によろわれた身体にしがみついたら、噛みつくような深い接吻に呑み込まれ、舌を根こそぎ吸われてしまいそうになった。
その間も休むことなく秘裂を甘く嬲られて、疼く腰がひとりでに揺れていた。
(気持ち、いい……)
イーアスの指が動くたびに、ぐちぐちと濡れた音が鳴り響く。
言葉にせずとも、その音を聞けばティエラが気持ちよくなっていることを彼は知るだろう。
「んん――っ、ん、ぅ」
口を塞がれてしまっているので、喉の奥でくぐもった声をあげるので精いっぱいだが、頭の芯をとろかしてしまいそうな甘い感覚に、呻く声がどんどん喘ぎ声へと変化していく。
やがて、感覚に変化が訪れた。
彼の指はずっと割れ目の表層を撫で擦っていたが、すぼまった蜜孔を指先で探ると、身体の内側に指を侵入させたのだ。
狭い中を押し広げるようにぐりぐりと内壁を擦られて、ティエラが身をよじると、ゆっくり指を抜き挿ししはじめる。
歯がぶつかりそうなほど激しく口を吸われ、指を突き立てられ、混乱してイーアスの背中にいっそうしがみついた。
もうとっくに頭の中はぼんやりしていて、(気持ちいい……)と、そればかりを繰り返していた。
こんなこと、実際に起きたら怖くて身体がすくむと思っていた。
幼い頃から心を傾けていたアズールであっても、身体を見せたり、あられもない様子を見られたりすることに耐えられないかもしれないと、不安に思っていたのだ。
イーアスのことは何も知らないから、余計なことを考えずに身を委ねてしまえるのだろうか。
(ううん、知らない人にこんなことされて気持ちよく感じてるなんて――私、ほんとはすごくいやらしい女なのかも……)
でも粘膜を弄られていると、これまでの懊悩が消え去るほどに快感だったし、イーアスの手つきがティエラを壊れ物みたいに扱ってくれるのがわかるから、無意識に甘えてしまったのかもしれない。
「はっ……はぁっ……、はぁっ」
キスが離れ、それまで押し込められていた甘い吐息があふれ出した。
イーアスは濃褐色の瞳を細め、今度はぷっくりと勃ちあがってきたティエラの胸の先端を咥えて、舌先で包んだり弾いたりと刺激を与えはじめる。下腹部への愛撫は続行したまま。
二本の指は濡れそぼった膣壁を撫で、ぐちゅぐちゅと淫らな音を鳴らし続ける。
「ああ……」
男の熱い背中に手を這わせて、強すぎる快感から逃れようとするが、その肌の感覚を指先に感じるたび、お腹の奥からとろりと熱い蜜が流れ落ちていった。