偽りの婚約者から身ごもり極甘夫婦に至るまで~強面課長の秘密契約から始まる愛の取引~

書籍情報

偽りの婚約者から身ごもり極甘夫婦に至るまで~強面課長の秘密契約から始まる愛の取引~


著者:山野辺りり
イラスト:小島きいち
発売日:2022年 11月25日
定価:630円+税

叔母の会社で家事代行サービスを提供する穂乃果。
ある日、想定よりも早く帰宅した依頼主の優司と鉢合わせてしまう。
なにやら酩酊している様子の優司を介抱していると、彼から嗚咽が聞こえてきた。
苦しいときに孤独でいることの辛さを知っている穂乃果は、そっと彼の傍に寄り添うことに――。
一週間後、再会した穂乃果に優司は、あるお願いをする。
「どうか……俺の偽物の婚約者になってくださいませんか」
詳しく事情を聞いた穂乃果は、優司の婚約者を演じることにしたのだが……!?

【人物紹介】

坂本穂乃果(さかもと ほのか)
家事代行サービスの従業員。
一年前までは企業の事務職として働いていた。
面倒見がよく、とても心優しい性格をしている。

城嶋優司(きしま ゆうじ)
大手企業課長の29歳。
家族である祖母を大切に思っている。
あることがきっかけで、穂乃果に偽装婚約者になって欲しいとお願いするのだが……?

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【試し読み】

「お礼なんていりません。私が……そうしたいんです。貴方と……一緒にいさせてください」
 しっかりと彼の顔を見つめて言葉にすれば、優司が気圧されたように瞳を瞬いた。
 室内を照らす光が陰ってゆく。夕暮れは瞬く間に過ぎ、夜の気配が忍び寄ろうとしていた。
 薄暗さが穂乃果の背中を押してくれる。そうでなければ、真っ赤に染まった顔を見られたくなくて、躊躇ったかもしれない。
 迷いつつ彼に向けて伸ばした手は、空中でそっと握られた。
「……俺の勘違いだったら、振り解いてほしい」
 少しだけ汗ばんだ男の掌は、とても熱かった。その熱が穂乃果にも伝染する。
 ゾクッと愉悦が走ったのは、指同士を絡めるように深く手を繋がれたからだった。
 ただ手を握るのとはわけが違う。もっと淫靡で特別なもの。指の股を擦られて、掻痒感と喜悦が掻き立てられた。
「……っ」
 濡れた吐息が漏れたのを合図として、穂乃果は優司に抱きしめられていた。
 ピッタリと密着した身体が焦げ付きそう。熱くてどうしようもないのに、離れたくない気持ちの方が勝っていた。
 彼の手が穂乃果の背をゆっくり辿る。摩っているだけとは言えない淫猥な仕草が、全身を敏感にしていった。
「あ……」
「嫌だったら、言ってくれ。今ならまだ間に合う……」
 そうこぼしながらも、優司の声は滾っていた。瞳は潤み、渇望を露にしている。
 隠しきれない男の欲は怖いのに、求められていると思えば歓喜もあった。
「……いや、じゃ……ないです……」
 互いに一番肝心な言葉を避けていたのは否めない。
 本当の気持ちを口にしてしまうと、何かが壊れるのを不安に思っていたためだろう。
 好きだとか愛しているだとか、今言ってしまえば陳腐になる。祖母への思いを挟んでいるから、どこまでが本心なのかも曖昧だった。
 人の気持ちは複雑で、純度百パーセントになることなどあり得ない。
 恋慕や同情、打算も混在して分かち難くなっている。だから、自分自身の感情は勿論、相手の思いはもっと見えなかった。
 ――優司さんは、おばあ様のために私と今以上親密になろうとしているのかもしれない……そうすれば、おばあ様が一時的でも元気になってくれるから――
 けれどそれでもいいと穂乃果は思った。
 恋愛経験が乏しいから、己の気持ちだってぐちゃぐちゃに混乱している。だが、彼の役に立ちたい、傍にいたいという願望に偽りはなかった。
 ――偽物だらけの私たちの間で、数少ない本物……
 それがおそらく、穂乃果の優司への恋情だ。
 粉々になっていた自尊心を取り戻させてくれた人。ぶっきらぼうに見えて家族を大事にし、誠実で可愛いところもある男性。
 真摯な言葉で穂乃果を慰め、痛みに共感してくれた唯一の人。
 そんな人に惹かれるなと言う方が無理に決まっている。
 これが契約の一環だとしても、もう手遅れなくらい好きになってしまった。
「……穂乃果」
 初めて、呼び捨てで名前を呼ばれた。それが擽ったくて、震えるほど嬉しい。
 その喜びを伝えたくて、穂乃果も彼をじっと見つめた。
「優司、さん……」
 自分からはまだ敬称を取る勇気はない。けれどこれまでとは明らかにトーンが違うことは、しっかり通じたらしい。
 穂乃果の背中に添えられていた手に、力が籠る。ぐっと抱き寄せられ背筋がしなった。
「……ん……っ」
 生まれて初めてのキスは、話に聞く甘さや酸っぱさはなかった。ただひたすらに触れた唇が蕩けそうになる。
 度数の高い酒を呷った直後のように、一気に体温が上昇した。
 指先どころか頭の先まで痺れが巡る。鼓動と共に疼きが全身を駆けていった。
「は……ん……ぅ」
 薄く開いた歯の狭間から、優司の舌が滑り込んでくる。当然、他者の舌に口内を舐められるなんて、穂乃果には初体験だった。
 肉厚の器官がぬるぬると口の中を我が物顔で犯してゆく。自分のものではない唾液が交じり合って、見知らぬ悦楽が引きずり出された。
 これまでなら、憧れはあっても実際他人と口づけするのは抵抗があったと思う。
 人の唾液を味わうなんて、想像すると尻込みしてしまうから。
 しかし今はちっとも嫌ではなかった。むしろもっとと貪欲な穂乃果が顔を覗かせ、自らも拙く舌を蠢かせる。
 誘い出された粘膜を擦り合わせ、熱烈に絡ませた。
「……ふぅ……ぁ、ん……ッ」
 淫靡な水音が鼓膜を揺らし、余計に興奮が高まる。必死に息を吸い、薄目を開ければ、彼が穂乃果の耳殻を弄ってきた。
「ん……っ」
 それだけでなく、顎から首筋もなぞられ、脇腹を通過した手は腰を回って際どい位置に到達した。
 あと少し下にズレれば、スカートに包まれた尻に触れられてしまう。
 そこは、抱擁やキスとは桁違いの、淫らな意味を孕む場所。
 普通の友人や雇用関係では、決して触られることなどない。『特別』な相手にだけ許された行為だった。
 逡巡は、一瞬。
 もし穂乃果が少しでも身じろぎすれば、優司は黙って手を放してくれたに違いない。それを分かっているからこそ、穂乃果は俯いたまま動かなかった。
 静止していた彼の手が、再び下降を始める。
 ゆっくり、けれど確実に。
 肉の丸みと弾力を味わい、彼の指先が穂乃果の脚の付け根へ潜り込んだ。
「……っ」
 スカートがたくし上げられる。ヒヤリとした空気の流れを太腿に感じ、逆に身体が火照るのが不思議だった。
 下着越しに柔肉を揉まれ、僅か布一枚の差でも、触れられた掌の感触が生々しくなる。
 優司の熱い吐息が穂乃果のうなじを撫で、ヒリつく愉悦に惑わされた。
「……ぁ、……ふ、ぅっ――」
 ドッドッと心音が荒ぶっている。爆発してしまうのではないか不安になるくらい、加速した鼓動が穂乃果の体内で暴れていた。
 日が落ちて、室内は墨色に染まり、次第に視界が不明瞭になってゆく。視覚が役に立たなければ、その分別の感覚が鋭敏になった。
 耳は彼の掠れた吐息を拾い、鼻は優司の香りを吸い込んだ。触覚は研ぎ澄まされて、彼の全てを感じ取ろうとしている。
 何より口づける度に堪能する優司の味が、媚薬も同然だった。
「……ぁ……ッ」
「――脱がせてもいい?」
 随分久し振りに彼の声を聞いた気がする。その余裕をなくした声音に穂乃果の下腹部がより疼く。
 夢中で頷けば、半ば抱えられて穂乃果はベッドの上に仰向けで寝かされた。
 見上げた先に、自分を跨いで膝立ちになる優司がいる。
 赤らんだ頬とややギラついた瞳が、この上なく官能的だった。彼が雑に服を脱ぎ捨てていく様から目が離せない。
 これまでずっと理性的だった優司の印象とはまるで別物。だがそんな粗雑さすら愛おしく感じてしまうのだから、もう自分に引き返す気はないのだとはっきり分かった。
 引き締まった上半身を惜しげもなく晒した彼が、手の甲で穂乃果の頬を撫でてくる。
 視線は一瞬も逸らされず、火傷しかねないほど熱かった。
 絡み合う眼差しに引き寄せられ唇を合わせている間に、穂乃果のシャツのボタンは優司に外されてゆく。
 下着は上にずらされて、豊かな膨らみがフルリと揺れた。
「……色が白くて、とても綺麗な肌だ」
「あ、あんまり見ないでください……っ」
「それは無理だよ」
 苦笑した彼の手が穂乃果の右の乳房を覆い、武骨な指が円やかな肉に沈んだ。頂を掠められ、掻痒感に爪先が丸まる。
 自分で触れても擽ったいだけの部分が、ひどく過敏になっている気がした。
 ゾワゾワとして、じっとしていられない。息が上がり、淫らな声が交じってしまう。
 穂乃果が打ち震え身悶えていると、優司の膝がこちらの太腿を割り開いた。
「あ……っ」
 スカートがずり上がり、下着がほとんど丸見えになっていた。慌てて脚を閉じようとしたが、間に彼がいるため叶わない。
 それどころか膝頭で鼠径部を押され、腹の底に力が入った。
「や……、そんな」
「そのまま、脚を開いていて」
 直接耳に口づけられて下された命令は、淫蕩に過ぎる。
 いやらしい指令に、穂乃果は思わず動きを止めた。それは素直に従ったつもりはなくても、結果的に優司の言う通りにしたことになる。
 さながら期待して待っているように、じっと彼の動きを見守ってしまった。
「――優しくする」
「ん……っ」
 ショーツ越しに秘裂をなぞられ、そこが湿り気を帯びているのを自覚させられた。
 花弁の形をつぶさに辿られ、恥ずかしくて堪らない。今すぐにでも両脚を揃えてしまいたいのに、優司の指先が動く度、穂乃果の腰がヒクヒクと戦慄いた。
 太腿は弛緩して、思う通りに動いてくれない。それでいて爪先には力が籠り、シーツに皺を刻んでいるのがおかしい。
 自分の肉体であるはずが何もかも思い通りにならない中、穂乃果は自らの口を手で塞いで、漏れそうになる卑猥な声を呑み込んだ。
「んん……っ」
 じりじりと愉悦の焔が大きくなる。
 弄られている下肢だけでなく、瞬く間に全身へ火種が広がってしまう。今や、肌が布に擦れる感触すら、淡い愛撫も同じだった。
「は……っ」
「穂乃果の声、聞かせて」
 やんわりと彼に手首を取られ、顔から引き剥がされた。
 隠せない表情をじっくりと見られ、ただでさえ上気していた頬に更なる血が上る。発火しそうなほど体温は急上昇し、穂乃果は慌てて頭を背けた。
「駄目……っ」
「どうして? 聞きたい。でないと本当は嫌がっているか喜んでいるか、判断できない」
「は、恥ずかしいことを言わないでください……っ」
「恥ずかしくない。大事なことだろ」
 流されたとも言える状況下で、優司は穂乃果に配慮し、こちらの快楽を優先しようとしてくれているのか。
 身勝手に扱われても文句を言う気がなかった穂乃果は、大事にされる喜びに浸った。
 蔑ろにされ、踏みつけられた経験が、いつしか自分自身でも穂乃果を軽んじさせていたのかもしれない。
 けれど彼はきちんと穂乃果の意見を聞いてくれる。
 意思を確かめ、一人の人間として尊重してくれた。その事実が、とても嬉しい。
「全部、見たい」
 滾る呼吸と共に吐き出された懇願に、眩暈がした。
 ショーツに手をかけられ、殊更ゆっくりおろされる間、心臓はもはや穂乃果の口から飛び出しそうになっている。
 今優司がどこを見ているのかが確認しなくても伝わってきて、じんわりと汗が滲んだ。
 本来であれば秘めるべき場所。
 そこに注がれる眼差しが真剣過ぎる。
 触られたわけでもないのに潤みが増し、穂乃果は凝った息を吐き出した。
「……見ないでって言ったのに……っ」
「うん。君が本当に嫌なら、すぐやめるよ」
 まるで本心では嫌がっていないことをお見通しみたいだ。だがあながち不正解とは言えない。
 口ではいくら制止を訴えても、期待がそれを上回っている。羞恥さえ糧にして、興奮は際限なく高まっていった。
「可愛い」
「ひゃ……っ」
 陰唇を彼の指先に突かれて、ビクッと背筋が弓なりになった。
 そこは綻び始めているのか、少し触れられただけでも驚くほどの快感を産む。同時に淫らな滴を滴らせた。
「慎ましくて、綺麗だな」
「か、感想はいりませんから……っ」
 実況中継なんてされては、悶えるほど恥ずかしかった。それでも自分の身体を初めて他者に晒し、おかしなところがなかったことに安堵する。
 もし人と違っていたらどうしようかと、内心怯えていたためだ。
「こんなに魅力的な人を前にして、感嘆を漏らすのは仕方ない」
 手放しの称賛は擽ったかった。これが優司からではなく別の他人からなら、素直に聞けなかったかもしれない。どうせお世辞か裏の意図があるのだろうと。
 だがこれまで何度も穂乃果の自己肯定感を支えてくれた彼が言うなら、全て信じられる。
 この人の言葉に自分を傷つける目的はないのだと、無条件に受け入れられた。
「ゆ、優司さんの方が素敵です……でも私ばっかり余裕がなくて……っ」
 無駄な肉のない彼の腹は、割れている。腕についた筋肉も大仰ではなく、しなやかな獣を思わせた。
 どこを取ってもモデルのように整っており、つい穂乃果が見惚れていると、彼は意地悪く瞳を眇めた。
「……だったら、穂乃果もよく見て」
「え……っ」
 ベルトを外す優司の手つきは、明らかに見せつけるものだった。わざとゆっくり時間をかけ、穂乃果の視線を釘付けにしている。
 仰向けの身体に跨られた状態で下を脱がれれば、当然目の前には男性の象徴が晒された。
「きゃ……っ」
 慌てて目を閉じたが、もう遅い。穂乃果の網膜には雄々しく勃ちあがった楔が刻まれていた。
 何もかもが綺麗な優司からは考えられない、凶悪な一部。知識としては知っていても、この目で目撃したのは当然初めてだった。
 驚きは大きい。動揺もしている。あんな大きなものを受け入れるのは不可能ではないか怯む気持ちもあった。
 だが、醜悪とも言える肉槍が彼のものだと思うと、途端に恐怖の対象だけではなくなるのだから、恋心は不思議だとしか言えない。
「怖がらせた? だったら、ごめん。でも知ってほしかったんだ。俺がどれだけ穂乃果がほしくて、魅了されているか……余裕なんて全然ないよ」
 情欲の滴る声音で告げられ、のぼせそうになった。
 羞恥も理性も飛んでしまう。
 狂おしく欲される充足感に、穂乃果の胸はいっぱいになった。
 ――私を抱きたいと思ったから、反応してくれたの……?
 単純に肉欲だけでないことは、優司がとても気遣ってくれていることで明らかだった。おそらく、穂乃果に経験がないことなど彼にはお見通しだろう。
 だからかつての嫌な思い出の中にいる男たちとはまるで違う。
 あの人たちは穂乃果を都合のいい妄想の中に閉じ込め、思う通りに扱おうとしただけだ。好意を抱いてくれていたのだとしても、その比重は自己愛の方が大きかった。それ故に、非常識なこともできたのだと思う。
 ――優司さんは、彼らとは何もかも違う。
「ふ、ぁ……」
 無垢な媚肉を摩られると、ゾワゾワと官能が高まった。
 上下に擦られているだけでも、体内には快楽が折り重なってゆく。新たな愛蜜が滲み出る感覚に、穂乃果は息を詰まらせた。
「あ……ッ」
 何物も受け入れたことがない隘路に、彼の指先が入ってきた。ほんの第一関節分。それでも異物感が凄まじい。
 穂乃果がぎゅっと両目を閉じると、優司が瞼に口づけてくれた。
「大丈夫。ゆっくり呼吸して」
 言われるがまま息を吐けば、内壁を優しく摩られた。ごく浅い部分を往復する指先は、穂乃果の恐怖もゆっくり解してくれる。
 更に上部にある花芯を転がされ、喜悦が増幅した。
「はぁ……ッ」
「やっぱりこっちの方が気持ちよくなれる? だったら沢山可愛がってあげる」
「あ……、だ、駄目……っ、ひゃぅっ」
 言うなり二本の指で肉芽を摘まれ、擦り合わされた。小さいながら健気に膨れたそこは、貪欲に快楽を享受する。
 すぐに淫らな声が堪えられなくなった穂乃果は、髪を振り乱して身を捩った。
「んぁ、や、ぁッ、ぁあんッ」
 表面を摩られても、左右に弾かれても、根元から扱かれても気持ちがいい。汗が吹き出し、腰が浮き上がって、爪先までビクビクと痙攣した。
「ぁあ……っ、優司さ……ァッ」
「うん、すごく可愛い」
「んぁあ……っ」
 生温い滴が太腿を伝い落ち、とめどなく肌を濡らした。ろくに女友達も迎えたことがない自分の部屋で、こんな行為に耽っていることが信じられない。
 狭いベッドの上で身をくねらせ、穂乃果の快感が飽和した。
「あ……ぁああ……ッ」
 チカチカと光が明滅する。一気に弾けた悦楽が四肢を重怠くシーツに張り付ける。乱れた呼吸は、激しく胸を上下させた。
「……ぁ、あ……」
 気持ちがいい。こんな快楽は知らない。禁断の果実めいた味が思考を鈍らせる。それでいて感覚はますます研ぎ澄まされていった。
「上手にイケたね、穂乃果」

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