今夜、夫婦の契りを交わします。~淫らな愛撫で満たされて~

書籍情報

今夜、夫婦の契りを交わします。~淫らな愛撫で満たされて~


著者:小日向江麻
イラスト:カトーナオ
発売日:2022年 6月24日
定価:630円+税

藍莉の職場であり両親が経営する会社、汐見建設は経営不調に陥っている。
ある日大手ゼネコン・小早川コーポレーションの社長息子で、昔から想いを寄せる幼なじみの誠ちゃん――誠治に食事に誘われ、そこで小早川コーポレーションが汐見建設と資本提携することを教えられる。
しかしそれは、藍莉が誠治と結婚することが条件だった!
思わぬ形で想い人と結ばれた藍莉だったが、誠治がこの結婚をどう思っているのかわらず不安に思っていたが、彼は「これからは夫婦らしい付き合い方に変えていこう」と言い出して……。
「――難しく考えなくていい。ただ俺に委ねてくれていればいいよ。藍莉、もっと君を知りたい」
ずっと誠治だけを見続けてきた藍莉は異性と触れ合うのも初めて。しかし彼の優しく甘い愛撫に次第に蕩かされていって――。

【人物紹介】

小早川藍莉(こばやかわ あいり)
旧姓は汐見で、汐見建設の一人娘。
誠治のことを誠ちゃんと呼んでおり、幼い頃から想いを寄せている。

小早川誠治(こばやかわ せいじ)
大手ゼネコン・小早川コーポレーションの神奈川支社の社長であり、社長令息。
懇意にしている汐見建設を救うためという体で、藍莉に結婚を申し入れたと彼女は想っているが……?

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【試し読み】

 予想よりもずっと早く、本当の意味での『彼の妻』になろうとしている。
 シャワーを浴び、パジャマに着替えて寝室の扉を潜る。ふたつ並んだシングルベッドの片側には、私よりも先にシャワーを済ませ、私と揃いのパジャマを身に付けた誠ちゃんが座っていた。
「おいで」
 手招かれるままに彼のそばまで歩み寄ると、彼は私のパジャマの袖を軽く引っ張った。
「こういうの、照れるよな」
「うん……そうだね」
 はにかんで答える。ペアのものを身に付けていると、いかにも夫婦になったという感じがしてくるのが不思議だ。
 淡いブルーの襟付きパジャマは、新居の家具を選びに行ったときに、小早川のおばさま――誠ちゃんのお母さんがプレゼントしてくれたものだ。ガーゼを三重に重ねているとかで、暖かいのに通気性がよく、着心地は抜群。ゆえに普通のパジャマよりも断然値が張るものだったので最初は遠慮したのだけど、「いちばんゆったりできる時間にこそ、こういういいものを着ていたほうがいいのよ」と押し切られ、結局頂いてしまった。
「――でも、おばさまも言っていたように、ふわふわして気持ちいいよ。ずっと着ていたい感じ」
「これから脱ぐのに?」
「っ……」
 呑気にパジャマの感想を口にする私に、誠ちゃんが意地悪く囁いた。それから、私の腕を軽く引いてベッドに誘い込むと、あっと言う間に組み敷いてしまう。
 真上から私を覗き込む彼が片手で眼鏡を外し、ベッドフレームにそれを置いた。眼鏡を取った彼の顔をこんな至近距離で眺めるのは初めてで、また胸が早鐘を打つ。
「藍莉」
 彼が私の名前を呼ぶのなんて聞き慣れているはずなのに、私たちの間にそれまでとは違う空気が流れ始めてから、どことなく甘い響きを伴って感じる。
「っ……」
 彼の唇と私のそれがまた重なった。舌先で下唇をなぞられたあと、ちゅっと音を立てて離れる。と同時に、パジャマ越しの胸元に、彼の指先が降りてくる。
「誠ちゃん、で、電気っ……」
 このまま彼に抱かれる。私のすべてが彼の視界に曝け出される。そう思ったらとてつもない羞恥が襲ってきて、縋るかのように口にする。
「わかってる。焦らないで、ちゃんと消すよ」
 その姿があまりに必死でおかしかったのか、誠ちゃんが喉奥でくっと笑った。そして、ベッドフレームに手を伸ばすと、照明のリモコンらしきものを手に取り、操作する。
「これでいい? 真っ暗で、何も見えないよ」
 リモコンが再びベッドフレームに戻る気配がしたころには、室内は彼の言う通り何も見えないほど暗くなった。
「う、うん……ありがとう」
 そのときを迎えた緊張と羞恥でどうにかなってしまいそうだったから、心細いくらいの暗闇にむしろ安心する。 
「約束するよ。藍莉がいやがることはしない。だから肩の力を抜いて」
 私の髪を優しく撫で、耳にかけながら誠ちゃんが言う。
「わ、わかったっ……」 
 頷きを返すと、唇に再び柔らかなものが触れた。彼には見えていないと知りつつ、今度はきちんと目を瞑ってそれを受け入れる。
 口腔内に入り込んだ舌が、味わうように私の舌を吸い、ときに遊ぶように先端同士を擦り付ける動きをする。されるがままになりながら、胸のドキドキはさらに高まっていった。
 頭の内側からじっくりと犯される感覚を味わっていると、胸元のボタンが上から順に外れていく。ひとつ、ふたつ、三つ。緊張のあまり、無意識にカウントダウンしてしまう。
 四つめが外されると、彼の温かい手が上着をゆっくりと左右に開いた。
 ――恥ずかしい……!
 普段、私には寝る前にブラを着けて寝る習慣がない。だから今、暗闇であるとはいえ、無防備な上半身を誠ちゃんに晒していることになる。彼のほうもきっと、上着をはだけさせた時点でそれに気が付いているはずだ。肌同士が直接触れ合っているのだから。
 私はごくりと唾を飲んだ。きっとこのあと、彼の手は私の胸元に触れるに違いない。
 許されるなら今すぐにでもこの場から逃げ出したい。
 もちろん、決して誠ちゃんに触れられるのがいやなわけではない。ただただ未知の行為に躊躇しているだけ。
 ――まだ、彼に身体を捧げる覚悟を決め切れていないのだ。結婚を決断したときのそれとはまた違う種類の覚悟。愛し合っての結婚ではなかったから、彼に求められる覚悟を固めないままに一緒に住み始めてしまった。
 かりそめと言えども夫婦なら、セックスが介在してもおかしくないのに。都合のいいときだけ兄に甘える妹の気分のままでいた私は、そのことを深く考えないようにしていたのかもしれない。
「あっ……」
 だから、脇腹から胸の膨らみに向かってゆっくりと撫で上げてくる手のひらを、咄嗟に掴んでしまった。
「ご……ごめんっ……やっぱり、緊張しちゃうっ……」 
 反射的な行動ではあるけれど、決して彼を拒んでいるわけではない。誤解を与えてはいけないと、私は情けない気持ちで謝った。
「……怖い?」
「少し、だけ」
 ほんの少し戸惑った誠ちゃんの声に、正直に答える。
「――でも誠ちゃんが怖い、とかじゃないの。いい年して恥ずかしいんだけど……男の人と触れ合うことに免疫がなさすぎて」
「うん、わかってるよ」
 大きな手のひらが私の頬をそっと撫でた。優しく包み込む日だまりみたいな声と所作に、緊張の糸が少しだけ緩む。
「怖がらないで。俺のことを信用して。……大丈夫だよ」
 『大丈夫だよ』
 その言葉に、五年前のワンシーンがオーバーラップする。汐見建設が傾き、大好きだったわが家を引き払い、家族同然の彼とも物理的な距離ができてしまったあのとき。
 彼は当時も温かい響きが点るその言葉で、私を安心させてくれた。彼が「大丈夫」と言うのなら、きっと大丈夫。長年培ってきた誠ちゃんとの信頼関係のおかげなのか、そんな風に漠然と信じることができる。
 大丈夫。他の誰でもない、私が想い焦がれる誠ちゃんが相手なのだから、何も不安に思う必要はないんだ――。
「誠ちゃんっ……そうだよね。誠ちゃんが言うなら、大丈夫……」
 私が彼の名前を呼んで頷く。彼は小さく「うん」と言ったあと、額や頬にキスを落としてくれながら、首筋から鎖骨にかけて指先で辿り、ふたつの膨らみを柔く撫でた。
「ぁっ……」
 他人に触れられたことのない場所だったから、つい声がもれてしまう。それを聞きつけた誠ちゃんが、ふっと緩やかな吐息をこぼして笑った。
「可愛いよ、藍莉」
「可愛くない……恥ずかしいよ」
 素直すぎる反応であるのは自覚している。わたしは小さくかぶりを振った。
「藍莉は可愛い。でも恥ずかしいなら、俺の名前を呼んでいて。少しは気が紛れるかもしれない」
 彼はそう言うと、無防備な胸の先にキスしてから、そっとそこに吸い付いた。 
「誠ちゃんっ……ぁ、誠ちゃん――」
 彼の言う通りに名前を呼んでみると、ほんの少しだけ羞恥心が薄れたような気がする。
「ここ……いやな感じ、する?」
「……な、んか……ぞくぞくして、お腹の奥……きゅんってなるっ……」
 唇で先端を挟み、扱いて、時折舌先で突かれる。そのたびに、今まで味わったことのない独特の感覚が蓄積されていくようだった。
 拙い言葉で一生懸命説明を試みる。性行為はおろか、自慰すらまともに経験のない私にとって、いわゆる性感帯にそういう類の刺激が与えられるのは初めてなのだ。
「そう。感じてくれてよかった」
 彼が何気なくこぼした言葉で自覚した。
 ――私、誠ちゃんの愛撫で感じてるんだ。むずむずするような、切ないような、言葉では表現しづらいけれど、身体の芯が熱くなって、浮き上がりそうになるのが心地いい。
「もっと気持ちよくしたい」
「ん、はぁっ……」
 誠ちゃんは片方の胸の先を唇や舌を使って愛撫しながら、もう片方を指先で摘んで転がすように刺激を与えてくる。
 どちらもお腹の奥のほうに繋がる快い刺激であるのは同じだけれど、快感の性質が明らかに違っていた。
「舐めて吸われるのと、摘まれて擦られるの……どっちが好き?」
「っ、え、ど……どっちもっ……」
「どっちも、か。欲張りだね」
 どちらがいいかなんて、急には選べない。そういう意図だったのだけど、誠ちゃんのほうは違う受け取り方をしたらしい。私の答えを聞くなり、おかしそうに笑う。
「――ここは最初はあんまり気持ちよくないことも多いんだけど、藍莉は敏感なのかな。なら、弄っていけばもっと感じるようになるよ。少しずつ慣らしていこうな」
「っ……」
 つまり、私たちのこの行為が今日だけで終わるものではないということを示しているのだろう。
 誠ちゃんに慣らされて、より深い悦びを感じることができるようになる自分を想像するだけで、下半身が淫らな熱でどろりと溶けてしまいそうになる。
「ぁ、んっ……! 強く吸っちゃ……!」
 ふたつの膨らみを、唇で、指先で交互に愛撫したあと、彼はまた片側の胸の先を咥えて、今度は少し強い力で吸い立てる。反対側の手はもう片方の膨らみを捏ねつつ、脇腹をフェザータッチで優しく撫で、少しずつ下の方に降りていく。
「気持ちよくなっちゃうから?」
 ごく自然な流れで腰の下に片手を差し入れ、徐々に私のパジャマのズボンを脱がせていく誠ちゃん。
「そ、そう……大きい声出ちゃうっ……」
「我慢しなくていいよ。藍莉の声、俺しか聞こえてないんだから」
 優しく言ったあと、彼は膝まで下ろしたズボンを片足ずつ抜いて傍らに置き、中途半端にはだけていた上着を脱がせてくれる。
「で……でも」
「俺は藍莉が気持ちよくなってくれるのがうれしいよ。だから、恥ずかしいかもしれないけど……聞かせてほしい」
 初めての愛撫への戸惑いと、自分の反応が正しいものかどうかという不安。そういうものを察してくれている誠ちゃんは、私を穏やかに宥めてくれる。
 確かに、この部屋には私と彼のふたりきりだ。他に誰に聞かれているわけでもない。誠ちゃんが受け入れてくれるというのなら、恥ずかしいけれど我慢しなくてもいいのかもしれない。
「……っ、わ……わかったっ」
「うん。偉いね、藍莉は」
「ふ、ぁっ……」
 気が付けばショーツ一枚になってしまっていた私。腰骨から恥丘、その下の秘裂のラインを下着越しに撫でられて、くすぐったさでぶるりと震える。
 部屋の明かりが消えてから時間が経ったため、ほんの少しだけなら目が利くようになった。私の両脚を軽く開いた誠ちゃんはその間に膝をついている。表情こそ見えないもののの、こちらの様子を窺っているのはわかった。彼のほうもまた、暗闇に慣れたのだろう。
「あっ……それっ……」
「ここ……痛くないように、ちゃんと解すからね」
「ふぅっ……ぁあっ……」
 誠ちゃんの指は、まるで下着の生地の感触を確かめるかのごとく、なだらかな丘を滑り降りてはまた上っていく。
 何度も何度も、時間をかけて同じ動作を繰り返すのは、他人の指が触れる抵抗感を薄めようとしてくれているからなのだろう。
 行為の始まりのとき、「藍莉がいやがることはしない」と約束してくれたのを思い出す。慣れていない私のために気遣ってくれる優しさがうれしい。
「これも取ってしまうよ」
「う、うんっ……」
 これ、と下着に手をかけながら誠ちゃんが言った。頷くと、最後の一枚が取り払われる。生まれたままの姿になった私は、どこかそわそわと落ち着かない心持ちで、無意識に顔を背けるように横を向いた。
 もちろん、自分の身体の細部まで彼の目に触れることはないとわかっている。だとしても、異性の前で裸になっているという事実がすでに恥ずかしいのだ。
「っ……!」
 何の覆いもなくなった秘部に、誠ちゃんの指先がそっと触れた。さっきさんざん下着の上からその指の感触を味わっていたというのに、直に触れられると彼の体温や指先の乾いた感触をより鮮明に感じることができて、また恥ずかしくなる。 
「少し、濡れてるね」
「や……言わないでっ……」
「どうして? 反応してくれてうれしいよ」
 少し愛撫されただけで感じて、恥ずかしい場所を濡らしてしまうなんて、いやらしいと思われているのではないだろうか。だからつい否定の言葉を口にしてしまったけれど、誠ちゃんは言葉通りうれしそうだったから救われた。
「言ったろ。俺は藍莉に気持ちよくなってもらいたいんだ。だから、してほしいことがあったら遠慮しないで言って」
「あっ、あ――」
「気持ちよくなれるように、皮剥こうか」
 秘裂を埋めるように指を這わせた彼は、妖しく囁いたあと、その指先をくちゅくちゅと動かして何かを探していた。
「ぁんっ!」
「ここだね、藍莉がたくさん気持ちよくなれるところ」
 そして、それはすぐに見つかった。秘裂の上のあたりについた突起を、入り口から滲んだ液体をまとわせて、軽くくすぐってみせる。
「あっ、あぁっ!」
「これ、イイの?」
「や、だめぇ――……それ、変にっ……!」
 その突起に触れられるたびに、まるで火花が散るみたいに目の前がチカチカして、それまでよりもずっと強烈な刺激が下肢を支配する。
 ――何これ? こんなすごい感覚、今まで知らなかったっ……!
「これされるのいや? 痛い?」
「っ、あ……」
 いや――ではない。強い刺激ではあるけれど、痛みとして感じているわけでもなかった。
 ただちょっとだけ怖い感じがする。誠ちゃんにここを弄られていると、頭のなかがそのことだけでいっぱいになってしまう気がして。
「いやだったら『やめて』って言って。すぐにやめるから」
「あっ、誠ちゃ――……!」
 即答しなかったからか、誠ちゃんは愛撫を続けることにしたみたいだ。
 身体の奥から溢れてくるとろとろの蜜を突起に塗り込むようにして、二本の指で摘み、優しく扱き始める。
「あっ、あ、ああっ……!」
 お腹の奥の熱が、空気がパンパンに詰まった風船みたいに、急速に膨らんでいくのがわかる。もうこれ以上は無理なのに、快感という名の新しい空気が絶えず送り込まれてきて――そして、あっけなく破裂する。
「んぁあああああっ……!!」
 私ははしたない嬌声を上げながら、その鮮烈な感覚に呑まれてしまった。お腹の奥がじいんと痺れて、甘美な悦びが全身を包み込む。あさましくも腰を浮かせてしまいながらその余韻を貪った。
「……初めてなのにすぐイっちゃったんだ? 藍莉はやっぱり敏感なんだね」
「私……今っ……?」
 誠ちゃんが性的な俗っぽい言葉をさらっと使うことにドキドキしつつ、その内容にも驚きを禁じ得なかった。自らの経験に伴うものではないにせよ、言葉の意味くらいは把握できている。
 ――私、イっちゃったんだ。……これがイくってことなんだ。
「うん。俺の愛撫でイってくれたんだよね。可愛かったよ」
 誠ちゃんの影がゆらりと近づき、額にキスを落としてくれる。
「――藍莉の蕩けた顔、見れないのが残念だけどね」
 彼はいたずらっぽく笑ってから、私の開いた両膝を折った。
「イってくれたおかげでたくさん濡れたね。これなら無理なく解せそうだよ」
「ひ、あ……!」
 誠ちゃんはまだじんじんと麻痺しているかのような秘裂を押し開くと、熱い入り口に自身の指先を呑み込ませる。
「痛い?」
「だ、大丈夫っ……」
 まだほんの少ししか挿入っていないせいか、痛みはなかった。
「ゆっくり挿れていくね。少しずつするから、怖くないよ」
 私を気遣うことを忘れずに、誠ちゃんは片手の親指で絶頂の余韻をまとったままの突起を転がしながら、入り口に埋めた指先を膣内へ押し進めた。
「ん、くっ……!」
 じきに、痛みというほどではないけれど、下腹部に異物感が生じる。的確な手順を踏んだにしても、それまで堅く守っていた外門をこじ開けられ、隘路に押し入ってきているのだから当然だ。
「俺の指、根元まで呑み込んだよ。もう少し頑張って」
 誠ちゃんはそう言いながら、狭い膣内を押し広げるみたいに、埋め込んだ指を前後に動かし始める。彼の長い指は溢れた蜜に塗れていたから、膣内をスムーズに滑っていく。
「藍莉、平気?」  
「うんっ……」
「じゃあ、もう一本増やしてみようか」
 宣言通り、膣内の指が二本に増えた。異物感が増したことで必要以上に身を硬くしてしまう私の手を取って、誠ちゃんが優しく握ってくれる。
 ……温かくて安心する。そういえばずっと昔、両親の帰宅が遅くて寂しがる私の手をこんな風に握って、「もうすぐ帰ってくるよ」と慰めてくれていたっけ。
「思ったよりも抵抗なく挿入ったね」
 濡れた入り口を、二本の指が出たり入ったりしている。自分自身でさえもどうなっているのか確かめたことのない未知の場所を、彼の指先が知っているのは不思議な気分だった。
「あ、の……」
「うん?」
「ごめんね。……私がもっと慣れてたら、誠ちゃんに負担をかけたりしなくてよかったのに……」
 もし私が処女じゃなければ、誠ちゃんにこんな面倒な役目を負わせずに済んだのかもしれない。
 愛し合っているならまだしも、いわば政略結婚の相手に対して、こんなに気を使わなければいけないなんて、彼にとっては負担でしかないだろう。
 すると、くすっと笑い声が聞こえた。
「何を言い出すのかと思ったら。……そんなこと、全然気にしなくていい。負担だなんて少しも思ってないよ」
 どこまでも優しい台詞が返ってきて、左胸が切なく疼いた。
「……ありがとう、誠ちゃん」 
 恋愛経験が豊富な女友達の話では、どんなに優しくて誠実な男性でも、セックスのときには本性が暴かれるのだという。
 だから、彼女たちはベッドをともにしたときに、相手がどういう態度を取ってくるかを鋭く観察しているらしい。いつも紳士なはずの彼氏が、いざそのときになると自分勝手に振る舞ったり、受け入れがたい要求をしてきたら気を付けないと――なんて話を、私は異世界でのできごとのように聞いていた。

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