一番愛おしい人をこの手で守るよ
甘とろ擬人化した愛用の吸引×××が溺愛してきます
著者:緋戸津ナギ
イラスト:花綵いおり
発売日:2020年2月28日
定価:580円+税
アラサーOL・美咲のストレス解消方法は、愛用の吸引バイブで欲を満たすことだった。
いつものように一人で慰め終わると、突然、目の前に眉目秀麗な男・蒼真が現れる。
「もっと気持ちよくしてあげるから、いっぱい感じて」
吸引バイブが擬人化した姿だと言う彼に驚きながらも、その誠実さに惹かれていく美咲。
甘くとろけるような暮らしの中で、徐々に見えてくる彼の正体とは――!?
恋愛にご無沙汰なアラサー女子とちょっと変わった年下イケメンの純愛ラブストーリー!
【人物紹介】
藍葉美咲(あいばみさき)
仕事熱心なアラサーOL。
日々のストレス解消である一人エッチの際に使用する吸引×××が、
人間になってしまったことで潤いのある生活が始まることに!?
一ノ宮蒼真(いちのみやそうま)
美咲が愛用しているラブグッズが人間になった姿。
彼女を溺愛するあまり人になってしまったが、
蒼真には誰も知らない過去があって……!?
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【試し読み】
生きていれば誰だってストレスを抱える。溜め込みすぎるといつか人はパンクしてしまい、活力を失ってしまうだろう。
だからこそ、日々のストレス解消はとても大事なことだ。スポーツで汗を流すこと、好きな映画に没頭すること、旅行を楽しむこと。人によって様々である。
藍葉美咲の場合は、決して人に言えるものではなかった。
都内の大手スーパーチェーン店『フレッシュ・ヴィレ』のマネージャーとして働く彼女は、中間管理職ゆえ、本社と現場の板挟みに遭い、疲弊する毎日を送っていた。仕事の状況にもよるけれど、場合によっては休みなく何日も連続勤務することがある。朝早くから家を出て、夜遅くに帰って来ることもしばしばで、とにかく大変な毎日だった。
(でも、楽しいからいいんだけど)
体力的にも精神的にも辛いことはあるが、やりがいも見出していた。自分が提案した陳列で店舗の売上が上がれば嬉しいし、新しいキャンペーン企画を立ち上げて会社を動かすことにも喜びを感じている。
とはいえ、やめたいとも転職したいとも思わないが、やはり日々のストレスは溜まるもので……。美咲にとって、食事や入浴を済ませたあと、缶ビールを一本飲むことが至福のひとときだった。
そして、ビールを片手にスマホを手に取るとどこかへ電話をかける。
「や、おばあちゃん元気? うん、私のほうはいつも通り」
こうして、週に一度くらいの頻度で実家に電話するのも習慣だ。特に祖母は心配性で、一人だけの孫娘である美咲のことをいつも気にかけている。
「えっ、新しい彼氏? そんなの全然よ。今は仕事が楽しいもん、やりがいがあるし。……なに、占ってあげようかって? やめてよ、おばあちゃんの占いって結構当たるから悪い結果が出ると嫌だし」
少し話すと祖母から母へと受話器が渡され、しばらく他愛ない会話を続けてから電話を切った。
徐々に酔いが回り、体が熱くなってきたところで、寝る準備をする。
良い睡眠を取るためのルーティンが美咲にはあった。
それは、就寝前に行う――一人エッチ。美咲のストレス解消方法とは、自慰行為だった。
枕の下からお気に入りの『あいつ』を取り出すと、彼女の体は反射的に疼きを覚え始める。
「ソーマ、今日もよろしくね」
愛用のラブグッズである『SOphilia(Magenta-color)』。文字をとって『SO―Ma』と美咲は呼んでいる。ちょっと痛い気もするが、今年で三十三歳になり、結婚の芽どころか、もう何年も恋人すらいない美咲からすれば、気にすることではない。愛称をつけることで愛着が湧き、気持ちよさが増すのであればニックネームくらいつける。
何年間も毎日のように一人エッチを続けていれば罪悪感や恥じらいみたいなものはなくなり、むしろ効率的だと思うようになった。
若い頃は人肌や愛が恋しかったこともあるが、そのために面倒な駆け引きや気遣いをすることに疲れてしまったのだ。
出会い系アプリで一夜の相手を見つけるという方法にもそそられない美咲は、夜な夜な自分を慰める行為で欲求を満たしていた。
大好きなTL小説をスマホで読みながら、胸やお腹を触り気持ちを盛り上げていく。
「ん……」
エッチシーンをひと通り読み、頭の中に妄想を残したら、ソーマの登場だ。
ソーマは、吸引バイブだった。陰核にシリコンの吸引部を当て、吸われるような刺激を与えてくれるおもちゃ。ローターや電マ、ディルドなどひと通りのラブグッズは試してきたが、一番しっくり来たのが吸引バイブだった。
ソーマとの出会いは半年前。まさに運命的なもの。
愛用の吸引バイブは、現在購入することは不可能になっている。正確に言うならば流通すらしたことがない。たまたまSNSで『SOphilia』のモニターを募集していて、酔った勢いで応募してしまったのだ。
すると見事に当選し、数日後に商品が届いた。素面の時だったので戸惑いはしたが、レビューを戻さないといけない手前、適当に流すわけにもいかず……。吸引バイブの噂は聞いていたので興味があった美咲は使用してみることにした。
結果は、ものの一分で絶頂。陰核全体が優しく包まれ、小刻みな振動に花粒を刺激される。あまりの快感に恐怖すら感じたが、当てたソーマを離すことはできす、美咲は脚をピンと伸ばして果ててしまった。
それからというもの、すっかり吸引バイブにハマったのだ。
レビューをメールで送信し、やることをやり終えた彼女は吸引バイブの愛撫に毎日酔いしれるようになった。
(もう手に入らないんだけどね……)
故障した時用にストックを探そうと思い、検索をかけたところ、販売元は行方不明。商品名でリサーチしても、全く引っかかることはなかった。おそらく販売会社が倒産でもしたのだろう。
これが最後の一個かと思うと尚更愛着が湧いてしまい、名前までつけて一人エッチを楽しんでいる。
(そろそろ……)
ショーツを脱いで、脚をM字に開く。TL小説を読んで溢れてしまった愛液を絡ませてから、敏感な突起に吸引バイブを当てた。スイッチを入れると小刻みな振動と共に、陰核に吸い付いてくる。
「あっ……ン……あっ、あっ……!」
ビクビクと腰が震え、だんだんと快感の渦に呑まれていくのに合わせて、足先に力が入ってしまう。
名前の通り、陰核を吸引されているような激しい刺激に、美咲の性感はどんどん高まる。
「ううっ、ひゃっ……! あ……ん……!」
次第に強くなってくる快感につま先を丸めながら、上半身をのけぞらせた。
「はぁ……んっ、あっ、イ……、イ、ク……ぅ……ッ! …………………………くぅッ!」
迫りくる快楽の波を素直に受け取り、美咲は尻を高く浮かせながら絶頂した。
達した余韻を感じつつ、呼吸を整える。昔は一人エッチに時間をかけていた時もあったが、最近ではその時間すらも惜しいと思うようになり、短時間での絶頂を楽しんでいる。
(これで一番弱いんだから、すごい……)
弱・中・強と三段階に強さを調整できるのだが、弱であっという間に飛んでしまうくらいには十分な快楽だった。中や強の強さも興味はあるが、どうなってしまうか怖いため、まだ試したことはない。
「はぁ……はぁ……やっぱソーマ、最高ぉ……」
明日は休日だ。片付けなどは起きた時にやればいいか、と美咲はそのまま眠りに落ちていった。
§
一度イってから眠ると、深く眠ることができる。
日々の疲れもあり普段は深夜に起きることのない美咲であるが、今日は偶然、うっすらと意識が覚醒したのだった。
(あ……)
夢の中にいるのか現実の世界なのか、どちらかわからないまどろみの中で彼女は、チュッ、チュッ、という水音を耳にした。
(これ、夢じゃない……?)
より意識がはっきりしてくると、下半身に違和感を覚える。何か温かいものが股の間にあり、敏感な部分に触れているのだ。まるで吸引バイブに吸われているみたいだなと慣れ親しんだ感覚に心地よさすら芽生えた瞬間、美咲はハッとして勢いよく体を起こした。
「……………………誰?」
美咲の目の前には男性がいた。明かりをつけっぱなしで寝てしまったため、その容姿ははっきりと視認することができる。
艶やかな黒髪は綺麗に整えられ、涼しげな目元はじっと美咲を見つめていた。妖艶に歪められた口元からは色気を滲ませ、鼻は高く通っている。かがんでいるためよくはわからないが身長も高そうで、黒いシャツをまとった体躯は細身ながらがっちりと引き締まっていた。
(うわぁ、めっちゃイケメン……!)
アイドルかと見間違うくらい眉目秀麗な男が、何も身につけていない下半身の近くに屈んでいる。綺麗な顔立ちにしばらく見惚れていたが、我に返った美咲の口から、
「きゃーー!!」
と思わず悲鳴が漏れ、そのまま飛び退くように逃げ出そうとした。
「美咲さん、待ってくれ!」
男は起き上がると、美咲の口を塞ぐように手を当てた。そのまま、ぐっと近づいてくる。
(こ、殺される……!)
相手は変質者だ。戸締まりはきちんとしたはずなのに、どうやって家の中に入り込んだのだろう。だが、今はそれどころじゃない。とにかく命の危険が迫っている。
筋肉質な腕で身動きを封じられてしまい、美咲はどうすることもできない。ああ、もうダメだ、と思っていると男ははっきりと言い放った。
「俺だよ。ソーマだ」
(誰……?)
そーま、という男友達は美咲にはいない。やはり変質者じゃないかと目元に涙を浮かべていると、彼はそのまま話しかけてくる。
「美咲さんが使ってる吸引バイブだよ。『ソーマ』って呼んでるだろ?」
「な、なんでそんなこと知ってるのよっ!?」
ラブグッズのことは友人にすら話したことはない。まして、『ソーマ』と呼んでいることは誰にも知られていないはずだ。
(もしかして、盗撮とか、盗聴とか……?)
それならば知っている理由に納得がいく。もし自分のプライベートが誰かに見られていたと思うと、それだけでゾッとした。
(と、とにかく警察……!)
必死で男の手を振りほどき、枕元にあったスマホを手に取って一一◯番をしようとする。
「だから待って! 美咲さん!」
再び手首を押さえられ、スマホを取り上げられてしまう。万事休すと思いながらも、押さえられている手首には乱暴に力が込められているわけではなく、不思議に感じた。
(襲うんだったら、もうやってるよね? 懐柔してからするつもりとか……?)
考えることが多すぎて、わけがわからなくなる。
ただ、男の眼差しは確かに優しげなものだった。少なくとも、欲望に身を任せて女性の尊厳を踏みにじろうとする暴漢には見えない。
「美咲さん、何度でも言うよ。俺は、あなたが使っている吸引バイブの『ソーマ』だ」
「……いや、意味がわからない。なんで吸引バイブが人にっ!?」
よく読んでいるTL小説ですら見たことない展開に、美咲は納得することができない。
「俺が人になった理由? それは、美咲さんのことを――愛しているからだよ。この想いはずっと胸の内に秘めていたんだ。こうして人間になって、言葉で伝えられてすごく嬉しい」
突然の告白に、美咲の頭はパニックになる。
仮にこの男が自分に好意のあるストーカーだとして、目的は何なのだろうか。単純に体が目的なのであれば今すぐ襲えばいいし、恋愛目的なら正々堂々と来ればいい。これだけイケメンなら、正攻法の方が確率は高いだろう。
こんなに回りくどいのは、彼が言ったことが本当のこと――吸引バイブが人になったからなのではないか。
(そんなバカなこと……)
ありえるはずがない。一瞬でも彼の主張を受け入れてしまいそうになり、美咲はかぶりを振る。
「信じてくれないなら、体に直接訴え掛けるしかないな」
「――――ッ!?」
やっぱりだ。やっぱり体が目的だった。
彼の本性を掴んだと思った美咲は必死の抵抗をする。先ほど一度振りほどかれたからか今度は油断していないようだ。腕が震えるほど力を入れてもびくともしない。
美咲の膝を強引にこじ開け、彼は茂みに隠された蜜壺に顔を近づける。そして、唇を尖らせ、秘芯に吸い付いた。
「んぅっ!」
陰核を唇で挟まれ、小刻みに吸引していく。ジュッ、ジュッ、ジュッ、というリズムは、どこか覚えのあるものだった。
(こ、これぇ……!)
機械とは違い温かさがあるが、確かに吸引バイブ『ソーマ』の動きだ。毎日のように使っているため、その動きは誰よりも理解している。
「やぁ……ダメ、あんっ……やめ……」
「俺を感じてくれ。わかってほしいんだ」
彼の言葉は真剣味を帯びていた。さらに、腰に手を回してより密着してくる。
陰核全体を包まれてテンポよく吸われ続けると、ビクビクと体が震えてきてしまった。
完全に毎晩自分が一人エッチしている時と同じ動きだ。
何より、包み込む強さや動きが愛用している『ソーマ』とそっくりなのだ。
惚れ込んだ振動と寸分の違いがないような彼の口淫は、まさに『ソーマ』だった。
(あ、ダメ……ッ! 私……イっちゃ……!?)
体が覚え込んでいる快感はいとも簡単に自分を追い詰めてきて、男の頭を押さえながら、美咲は絶頂した。大きく体をうねらせながら、甘い息を吐く。額には薄らと汗をかき、愛液が溢れ出した。
「美咲さんのイキ方、やっぱり可愛いな」
蜜で濡れた口元ににやりと笑みを浮かべながら、ソーマと名乗る男が体を起こした。