イケメンTL作家の淫らな指先 ~君の感じ方を教えてくれないか~

書籍情報

君の感じ方を教えてくれないか

イケメンTL作家の淫らな指先
~君の感じ方を教えてくれないか~

著者:桜月海羽
イラスト:ユカ
発売日:2020年2月28日
定価:580円+税

TL小説の編集者である二ノ原麻衣子には、一つの悩みがあった。
担当しているイケメン作家・速水祐介の作品への評価である。
『エッチシーンがイマイチ』というレビューに対し、悩んでいたのは祐介も同じようで、「君の感じ方を教えてくれないか?」と相談されることに。
はじめは動揺する麻衣子であったが、彼の真剣な眼差しに覚悟を決め……!? 
「いやらしくて、可愛くて、本当にたまらないよ。もっと可愛い麻衣子を俺だけに見せて」
熱い欲望は止まることなく、甘く発展していき……。
淫らな指先から、編集者と作家の秘密の恋がスタートする――!

【登場人物紹介】

二ノ原麻衣子(にのはらまいこ)
TL小説の編集者。
自身が抱えている『ユウ』という作家の評判をどうにかしてあげようと模索中。
『ユウ』からの「お願い」のために勇気を出すことに。

速水祐介(はやみゆうすけ)
ひょんなことからTL小説を書くことになった売れっ子ミステリー作家。
ラブシーンの評価が低いことを気にして、
担当編集である麻衣子にあることを頼むのだが……!?

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【試し読み】

「……わかりました」

 深い深呼吸のあとで、麻衣子は祐介を真っ直ぐ見た。
 じっと麻衣子を見つめていた祐介は、その答えに一瞬だけ目を見開いたが、すぐにどこか安堵と喜びが混じったような微笑を漏らした。
 麻衣子の中には、まだ戸惑いがあった。しかし、それ以上に祐介の創作への真剣な想いを取り零してしまいたくなかった。編集者としてはもちろん、ひとりの女性としても。
 祐介ならきっと、女性が心から満たされるような作品を生み出せるはず。なによりも、祐介の役に立ちたい。そんな気持ちが、確かにある。

「ですが、先生が知りたいのは、女性のリアルな感覚なんですよね?」
「ああ」

 頷かれて、言葉を止めた。
 簡単な気持ちで言えるほど、麻衣子に割り切る度量はない。
 作品の中で強引に身体の関係に移るヒーローを見たことは何度もあるが、麻衣子自身は愛のない関係を受け入れたことは一度だってない。
 けれど、中途半端な覚悟では解決に至らないかもしれないし、二作とも自身の力不足で祐介の足を引っ張ってしまった部分はある。
 そうした様々な事情と祐介の役に立ちたいという想いで、半ば強引に意を決した。

「だったら……この際、ちゃんと触ってください」

 しっかりと祐介の瞳を見据えた麻衣子に、彼が目を見張った。
 麻衣子の言う〝ちゃんと〟の意味を、祐介はすぐに察したようだった。

「……本当にいいのか?」
「はい。リアルな感覚を知るというのは、きっと先生にとって大切なことなんですよね。先生がそこまで考えていらっしゃるなら、私は先生のお役に立ちたいんです」

 祐介がミステリー小説を書くために、とことんまで資料を調べて疑問を追及することも、海外まで飛ぶのを厭わないことも、田沢から聞いている。
 TL小説に対しても真摯に向き合う姿を知っているからこそ、協力したいと思えた。
 しばらく沈黙していた祐介は、麻衣子の真剣な気持ちを受け取るように小さく頷いた。

「すまない……」

 申し訳なさと苦しみが混じったような瞳に、微かに笑みを浮かべながら首を横に振る。

「だが、君の決断が安易でないことはわかっているつもりだ」

 すると、祐介は真剣な眼差しになり、麻衣子を真っ直ぐ見つめてきた。

「先生……」
「君の決心が無駄にならないよう、必ずいい作品を書くと約束する」
「はい。先生なら、きっと大丈夫です。私、信じています」
「ありがとう」

 戸惑いや不安はあるけれど、優しい声音でそう零した祐介の瞳を見ていると、不思議と恐怖心はなかった。むしろ、不安さえも小さくなっていくような気がする。

「まずは、服の上から触らせてくれ」

 程なくして、微かな笑みを浮かべた祐介に、麻衣子は心のどこかで安堵していた。
 自分から言い出したものの、内心では覚悟を決め切れていなかったから。
 対面に座っていた祐介が立ち上がり、長い脚で数歩歩いたかと思うと、麻衣子の右隣に腰を下ろした。
 祐介の所作から目を離せなかった麻衣子は、肩が触れるような距離に息を止めてしまいそうなほどの緊張を抱き、平静を装う余裕を失くしかけていた。

「……っ」

 祐介の骨ばった右手が、麻衣子が膝の上で握りしめていた小さな右手の上に伸び、そのままそっと包み込まれた。
 息を呑んで身体を固くした麻衣子を労わるように、祐介の手が麻衣子の指にゆっくりと絡んでいく。長い指が優しく触れ、柔らかい羽根のようにふわりと動いている。
 右側からは視線を感じ、麻衣子は与えられる感覚や瞳から逃げるように俯いていた。
 祐介の手が次第に移動していき、麻衣子の腕辺りで探るような動きを見せ始めた。

「そんなに力を入れないで。君が嫌がることはしないと約束するから」
「先生……」

 おずおずと右側を見れば、祐介が柔らかい笑みを浮かべている。
 祐介の言葉は不思議と信頼でき、麻衣子は息を吐いて力を抜くことを意識した。

「うん、それでいい。ありがとう」

 甘やかな微笑みに、胸がトクンと脈打つ。
 この人にこれから触れられるのだと思うと、苦しいくらいにドキドキして恥ずかしいのに、身体の奥はむず痒いような感覚を覚えた。
 いつの間にか大きな左手まで加わり、それは麻衣子のブラウスの上から背中に触れた。
 指先が背筋を撫で、ぞわりとしたものが身体を走る。くすぐったいような、それだけじゃないような、なんとも言えない感覚が麻衣子に与えられていく。

「どんな感じがする?」

 得体の知れないそれに神経を奪われていた麻衣子は、問いかけにハッとした。

「えっと……なんだかぞわぞわします……」
「ぞわぞわ?」
「くすぐったいというか……」

 麻衣子が慌てて説明を付け足すと、眉を寄せていた端正な顔がわずかに緩んだ。

「んっ……」

 祐介の表情に見入って油断した麻衣子のうなじを、指先がそろりと撫でる。自然と声が漏れ、麻衣子は頬が熱くなったのを感じたが、祐介は真剣な面持ちに戻っていた。
 手の甲から始まった感覚は、腕や背中を経てうなじにも与えられ、首筋を通って鎖骨に下りてきた。ゆっくりとした動きに、少しずつ速度が加わっていく。

「すまない。でも……こんなこと、君にしか頼めない」

 申し訳なさそうな声音に、麻衣子の胸がキュンと高鳴った。
 好きな人から『君にしか頼めない』と言われて、ときめかない方が難しい。
 自分だけという特別感のようなものが麻衣子の心を喜ばせ、身体はますます祐介の手を意識してしまう。
「もう少し触ってもいいか?」
 麻衣子の唇から吐息が漏れ始め、それに気づいた祐介の手の動きが大胆にも麻衣子の腰の辺りを撫でた。
 その感覚に震えそうになりながらも頷いた麻衣子の太ももに向かって、祐介の右手が下りていく。パステルイエローのスカートの上から内ももに触れられた時、麻衣子の柔らかな唇はひと際甘い吐息を零していた。

「この辺りはどんな感じがする?」
「……ん、っ……。なんだか、身体がジンジンして……」

 言葉よりも先に吐息混じりの声が漏れた麻衣子は、表情では恥じらいながらも、身体が熱を帯び始めていることに気づいていた。

「これは?」

 尋ねた祐介の中指の爪が内ももの上でそっと立てられ、「あっ……」と声が漏れ出た。
 身体の中心に熱が集まり、下半身がじんと疼くような感覚が走る。
 服の上から、手や脚を触られているだけ。それなのに、麻衣子の身体は欲情し始めていた。
 元カレとの行為は性急な上に粗雑で、男性からこんな風に優しく触れられた経験はない。労わるように触れてくる祐介の手はこれまでの経験とあまりにも違い、驚きさえあった。
 だからこそ、この先を想像するだけで心も身体も期待に満ちていく。
 不意に、祐介の手が麻衣子の鎖骨付近に触れた。
 軽く視線を落とせば、長い指がブラウスのボタンにかけられている。
 麻衣子は一瞬のためらいのあと、自身を真っ直ぐ見つめている祐介に気づき、彼からそっと視線を外しながら首を縦に振っていた。

「んっ……」

 直後、大きな手が麻衣子の胸の上に置かれた。
 服越しにそっと触れられただけだというのに、小さな唇からは自然と甘い声が零れ、身体の芯がジンジンと熱を持ち始める。
 下着が湿り気を帯びていることに気づいていたけれど、にわかには信じられない。
 だって、感じにくいはずの自分の身体が、直接触れられているわけでもない刺激にこんなにも敏感に反応しているなんて……。
 そんな戸惑いに苛まれていた麻衣子の顎を、おもむろに祐介の手が掬う。真剣なままの双眸に捕らえられたかと思うと、麻衣子の前髪がかかった額に唇が落とされた。

「え……? どうして……?」
「どうしてだろうね」

 予想外の行為に戸惑う麻衣子に、祐介自身もどこか戸惑いのようなものを覗かせている。

「二ノ原さんを見ていると、自然と身体が動いていた」

 指で辿られたところと同じくらいの熱を持った額から、全身に血が駆け巡っていくような気がする。さらには、こめかみや頬にもキスをされ、麻衣子は触れるだけの優しいくちづけに胸の奥を甘く震わせていた。
 喜びに満ちた心につられるように、身体はもっと強い刺激を欲し始める。
 けれど、言葉で伝える勇気はなくて、持て余した熱ごと縋るようにおずおずと手を伸ばし、祐介の胸元をそっと握った。
 それが合図だったかのように、祐介が麻衣子の身体をグッと抱き寄せた。

 いつの間にか、麻衣子はブラウスのボタンをすべて外され、後ろから祐介に抱きしめられるような体勢になっていた。
 背後から骨ばった左手が下着に包まれた乳房を摑み、その形をじっくりと楽しむように揉みしだく。サイドでひとつに纏めていた髪も解かれて、祐介の手の動きに合わせるように茶色の毛先が麻衣子の背中や胸元をくすぐった。
 たまに指先や爪で、硬くなった先端を下着越しに引っかかれ、そのたびに麻衣子は腰を震わせていた。大きな右手は滑らかなストッキングの上を何度も行き来したあと、内ももの辺りでずっと蠢いている。

「指でつままれるのと、爪で引っかかれるのは、どっちがいい?」
「あっ……! 指の方が……」
「じゃあ、こうしてこすられるのはどうだ? 反応はよさそうだけど」

 言葉通りに実践されて、その快感に涙が滲む。
 モノトーンで纏められた書斎に、麻衣子の吐息混じりの声が落ちては消える。
 この状況に戸惑っているはずの麻衣子は、祐介の手を拒めない自分自身に驚いていた。
 むしろ、祐介の手つきが優しいせいなのか、片想いの相手からの行為を喜んでさえいる。
 あくまで〝仕事の一環〟であることは理解しているのに、色々な事情や感情がないまぜになった麻衣子には、もう祐介からの行為を拒むことなんてできなかった。
 内ももで遊んでいたはずの祐介の手がさらに奥へと移動し、柔らかい下腹部をそっと撫でた。くすぐったいけれど甘やかな触れ方に、身体が前のめりになる。
 それを制するように後ろに引かれた身体は、祐介の硬い胸板に寄りかかるようにされてしまい、それだけで拍動が速くなった。
 そのまましばらくは下腹部や脚の付け根を行き来していた祐介の手が、麻衣子の身体を煽っていく。ありえない状況に羞恥は隠せないが、これだけでは物足りない。
 そんな麻衣子の気持ちを見透かすように、不意に祐介の指がストッキングと下着越しに割れ目をこすった。

「あんっ……!」

 ひと際大きな声が響き、祐介の指には湿ったような感触が伝わっただろう。

「これも脱がせていいか?」

 そんなことを訊かないでほしいと思うのに、祐介の言葉でこのあとに与えられる感覚を想像させられてしまい、蜜壺の奥からは蜜が溢れ出す。
 まだ直接触れられてもいない秘所が濡れてしまっていることに、戸惑いを感じずにはいられない。羞恥に塗れる中、はしたないと思われてしまわないだろうか……と考えた思考に邪魔をされ、心が不安で揺らぎそうになった。

「拒絶しないなら、脱がせてしまうよ?」

 耳元で落とされた低い声にキュッとつま先が丸まり、麻衣子は下着がさらに濡れたことを自覚しながらも頷いた。



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