好きって言うまでイかせてやらない 〜負けず嫌いの恋人を蕩けさせる甘やかな勝負〜

書籍情報

好きって言うまでイかせてやらない 〜負けず嫌いの恋人を蕩けさせる甘やかな勝負〜


著者:皆原彼方
イラスト:えまる・じょん
発売日:2021年 1月29日
定価:620円+税

『どちらが先に好きと言うか』という勝負を経て、晴れて営業部のエースで同僚の仁と恋人同士になった未希。耽溺しそうなほど甘やかされる日々を続ける中、未希は彼の社内での態度に違和感を抱いていた。そこで、未希は露骨に甘い仁を二人の関係が会社にバレないようにと注意したことをきっかけに、また新たな勝負が勃発してしまい……!?「『大好きなのに意地張ってごめんなさい』って言うまで、許してやらない」。負けず嫌いOLと彼女を甘やかしたいライバル同期との新たな恋愛攻防戦が始まる――!?

【人物紹介】

春瀬未希(はるせ みき)
製薬会社の営業部で働くOL。負けず嫌いな性格で、同僚で恋人の仁と営業成績を競っている。
新人の社員への面倒見がよく、実は後輩からのウケがいい。

尾崎仁(おざき じん)
未希と恋人同士の営業部のエース。プライベートでは片付けが下手という弱点がある。
社内では『スーパーエース』や『王子様』などと呼ばれ、女性社員に人気がある。

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*取り扱いサイトは、各書店に掲載され次第、更新されます。

【試し読み】

「ねえ仁君、ちょっと」

「なあ、それ面白いのか」

「いやあんまり……じゃなくて、何で寄り掛かってくるの! 重い!」

「わざとだよ。……なあ、こっち向いてくんないの」

 喉奥で笑うような、微かな愉悦を含んだ声音が私の耳朶を温める。平素より熱っぽい囁きは、もう何度も聞かされてきたから分かる、――――キスの予兆だ。
 キスの前のこうした余白は、いつだって落ち着かない。このまま彼のほうを向いてしまえば、逃がしてもらえないままたっぷりとキスされて、ベッドに連れ込まれてしまうのだろう。それが事前に分かるというのも考え物で、私は自分の心臓が疼くように熱を孕み、鼓動を速めていくのを感じた。顔が、熱い。それが羞恥なのか、期待なのかは、自分でもよく分からなくて。

「未希、」

「あ……」

 私がまごついている間に、焦れたらしい仁君の手が優しく後頭部を捉える。緩く傾けられた鼻筋が、すり、と私の鼻先に擦りつけられて、あえかな吐息が歯列を割った。

 ――――本当は、昼間に梨花ちゃんが言ってたことを聞こうと思ってたのに。

 そんな後悔にも似た感情が浮かぶと同時、さらに近付いてきた仁君の唇が、私のそれに重ねられた。まるで、見せつけるかのようにゆっくりと。

「ん……ぅ」

「……ッ、ふ」

 決して激しくない、唇の表面同士を触れ合わせるような幼気なキス。それが徐々に甘やかに濃密さを増していって、濡れた舌が隙間から忍び込んでくる。平行して、じゅう、うう……っと下唇を吸われるのが堪らなくて、浅ましい身体の奥が早速疼きを溜め込んだ。
 仁君のキスは巧みで、私の脳みそをふやかす方法をよくよく知っている。咥内を丁寧に掻き混ぜて、上顎の好いところを強張らせた舌先でくすぐるように舐めて。たまに私の舌に絡みついて、弄ぶように擦ってみせるのだ。その間も、彼の指先が耳穴に潜っては抜けてを繰り返すから、二人分の唾液が絡み合う音が反響して聞こえて、――――本当に、脳みそがふやかされていくような気がしてしまう。

「……好き」

「っ……あ」

 キスとキスの合間。一瞬の息継ぎのタイミングで、彼の唇から音が零れ落ちた。
 本当に心の底から音が溢れてきたような呟きに、私の呼吸がはっきりと止まる。息継ぎを忘れた私に仁君が気付いてくれて、促すように柔く唇を舌で撫でてくれた。
 彼の『好き』は、きっと魔法の言葉なのだと思う。そうでなければ、こんなにも私の心臓を締め付けて、ざわめかせて、溶かすことができるはずもない。何度言われても、何度捧げられても慣れない、嬉しい魔法の言葉。『好き』という言葉を言わないようにと戒めていたせいか、二人にとってこの二音は特別で、――――それを惜しげもなく与えてくれる仁君は、私のことを本当に大切に想ってくれているのだと思う。
 だって、そうじゃなければ、この二音にこんなにも愛しさを詰め込めるはずがないから。

「ッん……好き、だ……すげえ好き」

「っふ、ぁ、仁く……」

「未希は?」

「……っ、すき」

 未だに恋人らしい触れ合いや、恋人らしく振る舞うこと自体に照れが残っている私に対し、仁君の愛情表現はひどくストレートだ。ぐずぐずに煮蕩けた甘やかな声音が、誤魔化しようがないほどに鼓膜を震わせる。

「キスのたびに思うんだよ。……お前のこと好きだって」

 好きって言葉とキスが、もう紐づいてんだろうな。
 くつくつと笑った仁君が、なにがしかの含みを持たせた手つきで私の下唇を撫でる。二人分の熱が溶けた皮膚は、硬い指に押されてふにゃりと形を変えて。

「な……もう一回、駄目か」

「だめ……」

「だめ?」

「……じゃ、ない……」

「ん、さんきゅ」

 指が最後に掠めていった場所を、再び大きな唇が訪う。角度を変えられるたびに鼻先が触れ合うのが、愛情を示し合っているかのようだと思った。

「っは、ちゅ、……未希、もっと口開けてくれ」

「もっと、って……ぁ、んんっ」

「お前の口、小さいからすぐいっぱいになるんだって、っ、はぁ、言った、だろ……」

 私を唆す彼の声がキスの合間に漏れて、深い襟ぐりの中まで、とろりと肌を伝い落ちていく、錯覚。ぞくりと肌が粟立って腰が引けると、すかさず伸びてきた仁君の手が私の腰を引き寄せ直した。大きい、男の人の手のひら。逃げたお仕置きだとでも言うように、ちゅ、ちゅ、と唇の端をついばまれて、甘ったるい刺激に胸の奥がむず痒さを覚える。

「ふっ、ぁ、じ、んく、」

「ん……そうだ、じょうず、」

 いっとう甘い、私を駄目にする声に誘われ、うっすらと目を開く。
 視界に映り込む仁君の顔は、私が愛おしくて堪らないというような表情を形作っていた。
 胸やけしてしまいそうなほどの砂糖を溶かした瞳に、嬉しさよりも先に羞恥が来て、思わず目を閉じる。からかうようなくつくつという笑い声が、耳を打った。

「なに、恥ずかしいのか?」

「っや、ちが……ばか、」

 違う。仁君がそんなに、溶けちゃいそうな目で私を見るから。
 そんな反論もさせてもらえないまま再び咥内をぐるりと撫でられ、身体がまた少し火照るような感覚。ほぼ一週間ぶりの快楽は、あっという間に私の芯まで染み込んできて。

「ン、……でももうお前、キスだけで顔がとろっとろになってる」

 ――――気持ちよかったか?

 ぞくんと背骨を震わす低音に、きゅう、と喉が締まった。彼の問いへの答えは、その反応が全てだ。
 吸い付きながらキスをほどいた仁君がにやりと笑って、今度はこめかみに唇を押し当てる。手のひらが腰から太腿を辿り、膝裏に潜り込むのが分かって、これから何をされるのかが手に取るように想像できた。

「……もうベッド行くか?」

「う……」

「ん?」

 ベッドに行くか、という問いに頷くという行為は、抱かれるのを選ぶことと同義だ。自他共に認める『負けず嫌い』であるところの私が、それに素直に頷くのがどれほど恥ずかしいか、仁君も知っているはずなのに。
 でも、ここで頷かなければ連れていってもらえない。私はそのことを、この三ヶ月で嫌というほど思い知っていた。もうイくまで焦らされるとか、懇願するまでその場で立ったまま責められるとか、そういう類の『いじわる』はごめんだ。仁君は確かに私に甘くはなったものの、いじめっこ気質なところはさっぱり変わっていないので。
 私は吸われ過ぎてじくじくと熱を持つ唇に触れながら、そっと、小さく首肯した。

「じゃあ掴まってろよ」

 膝裏に回った腕が、勢いよく私を持ち上げる。私は慌てて目の前の首筋に縋り付き、いちいちこうされるのも恥ずかしいなと思いながら遠くを眺めた。まるで子猫扱いされているような気分だ。
 彼の家は私が借りているマンションより、ほんの少しグレードが上で、部屋がリビングの他に二つある。そのうちの片方、私が先ほど服を取るのに入った寝室へと、彼は悠々と向かっていく。私を抱え上げているとは思えない、危なげない足取りだった。リビングと同じく、どことなく上品な青系統で纏められた寝室。その中央に置かれたダブルサイズのベッドの上に、私はひどく優しく下ろされ、――――同時に、彼の大きな身体に組み敷かれてしまう。

「これ、脱がすからな」

「あっ、ちょ……!」

 オーバーサイズで緩いTシャツの裾を、仁君の手が容赦なく捲り上げる。そのまま脱がされて、ブラジャーも付けていない素肌が露わになった。まろい膨らみが弾みで揺れて、彼の視線が突き刺さる感覚。

「っ、ん……」

「……下着、付けなかったのか。待ちきれなかった?」

「そ、んなわけないでしょ……」

 ただ、どうせ外すなら付けないほうがいいかなって思っただけ。
 欲望の滲んだ視線は、ただ触れるだけで私の身体を快感で炙る。厭らしく唇を舐めた彼に、指先だけで膨らみの輪郭を念入りになぞられて、爪先がシーツの海でもがいた。あぶくのような嬌声が寝室の空気中を立ち上っていく。
 彼の指先は、いつだって熱い。触れられた場所の肌が溶けるかのように錯覚してしまうぐらいに。硬く骨ばっているそれが沈むたび、まろみはふしだらな形へと歪んで、視覚からもひどく私を煽ってみせる。優しいのに力強い手つきで芯が揉み込まれて、その先端がふっくりと育っていって。

「ぁ、んん、っ……や」

「や、じゃないだろ。まだキスしかしてないのに、こんなに勃たせて……」

 膨らみの根本から搾り上げるように彼の手が動いて、二つの蕾が硬い指の腹にじっくりと摘ままれる。くりくりと捏ねるように揉んで、天辺を爪の先でかりかりと掻きむしって。念入りな愛撫が、私の眼前で惜しげもなく披露されていく。しまいには、きゅう、と甘く引っ張られて、軽く腰が浮いた。お腹の奥がじゅわりと蕩ける感覚にむずかるように身を捩れば、こちらを見据える仁君の瞳にはっきりとした劣情が滲む。そして、その唇が緩慢に開いて、――――

「は、ァ……うまそ、」

「ッあ、だめ、待っ……ひ、ぅんん!」

 張り詰めた赤い蕾が、温かく、たっぷりと潤んだ咥内に招かれた。柔い乳輪ごと、ちゅ、うう、と甘噛みしながら吸われるのが身悶えするほどに気持ちよくて、背筋がきつくしなってしまう。飲み込み切れないほどの快楽に、私の手が仁君の頭を押し遣ろうとすれば、伏せられていたその瞳が、獣欲と共にこちらを射抜いていった。

「ッちゅ、は……すっげえ、あま……」

 あけすけで、淫靡な溜息だった。
 そのあんまりな言い草に、疼いた下腹部がひくんと震える。厭らしく眇められた目に見つめられる倒錯感と、濡れて震える蕾の側面を舐め上げられる快楽に押し流され、私の他愛もない抵抗はあえなく失敗に終わった。
 仁君と付き合い始めた頃の私は、胸や乳首でそんなに感じられる性質ではなかったはずだ。それが三ヶ月躾けられてしまったせいで、少し触れられるだけで端からぐずぐずと蕩けていくような、はしたない身体になってしまったらしい。
 そして当然、そこまで私の性感を育ててみせた仁君が、私の反応を見逃してくれるはずもなくて。

「未希のここ、すっかり弱くなっただろ。一回り大きくなった気もするし」

「ちが、っん!」

「前は、もうちょっと慎ましかったと思うんだけど」

「っそれは、仁君が触るから……!」

 自分の淫猥さをなじられて、かっと頬が熱くなる。快感でぼやけていた頭が一瞬醒めて、咄嗟に言い訳じみた反論が飛び出してしまう。しかし仁君は、私の可愛くない反抗に眉一つひそめず、宥めるような、あやすような笑みでかんばせを彩ってみせた。

「ん……そうだな。俺が悪い」

「え、」

「俺が、未希を……こんなにえっちにしたんだよな……?」

 どろりと甘い、私を駄目にする声音。
 雄を感じるほどに低く熱っぽいのに、語尾にハートマークが浮かんでいるようにすら思える声だ。それを、耳朶を食みながら脳みそへと直接注ぎ込まれてしまえば、もうひとたまりもなかった。腰が重く、重くなっていき、膝が自然と擦り合わされる。零れる呼気も一層淫らな色を帯びて、寝室の雰囲気を瞬きの間に塗り替えた。

「じん、く、……え、っちって」

「ん、えっちでかわいいよ」

 否定してほしかったはずの呟きを優しく肯定され、いいことなのだと教え込むように褒めそやされる。汗で張り付き始めた髪ごと掻き混ぜるように撫でられると、本当にそれがいいことのように思えてきてしまうのだ、――――頭の中に残る微かな理性は『この男の言うことを真に受けるな』と警告しているにも拘らず。
 あ、あ、と喘ぎを漏らす唇が、丁寧に舐められる。駄目押しのようなその愛撫に、びくびくと背筋が跳ね上がって、彼の瞳が三日月型に歪んだ。

「っは、なあ……全部俺のせいだから、お前は何にも考えずに気持ちよくなって」

 な、と念押しした仁君は、そのままひそやかに私の下腹部へと手を伸ばしてきた。まだ辛うじて纏っていた下着はとっくのとうにぐしゃぐしゃで、重たい蜜を吸いきれずにシーツや私の太腿を汚している。「気持ちよくなれて、えらいな」
という仁君の甘やかしに、またどぷりと熱の塊が溢れて浅瀬に溜まった。

「ね、それやめて……」

「それって?」

「その、褒めるやつ……っあ!」

「だめ。俺がお前のこと可愛がりたいんだよ」

「ぅ、んん……っ」

 ――――いじわる、いじわる。

 頑是ない子供のような駄々が、胸の内で広がっていく。それでも飼い慣らされた身体と心は、それすらも柔い快感として拾ってしまうから、始末が悪い。
 仁君は私の下着を取り払うと、ベッドの端へと放り投げる。じっとりと湿った秘所に外気が触れる感覚に、爪先がくっと丸まった。こうして自分の何もかもを曝け出す瞬間は、今でもどうにも慣れないままだ。
 羞恥八割、期待二割という感情を持て余した私の膝を、仁君の熱く乾いた手のひらが掴む。ぐっと左右に割り開かれて、一緒に開いた花唇が、ちゅくりと粘性の水音を立てた。

「お前の好きなところ舐めながら……中も、広げてやるから。このままいい子にしてろよ」

「は……、ね、それ絶対だめになるやつだから……!」

「だから、だめにしたいんだって……ほら、開くぞ」

「っ……ぁ、あ、あっ、うそ、」

 仁君の親指が濡れそぼった花弁を掻き分け、くぱりと優しく開いた。広がった蜜口からは、浅瀬に溜まっていた白っぽいとろみが溢れ出て会陰を伝う。後穴まで垂れ落ちたそれを、――――宛がわれた熱い舌が舐め取ってみせた。

「ッ、~~~っ!」

「はは、熱いな……ッ、は、ン」

 舌が秘裂を這い上がり、やがて剥き出しにされていた淫芽へと到達する。仁君の言った、『私の好きなところ』。キスと胸元への刺激ですっかり重く実っていたその小さな芽は、しなやかでざらついた舌の来訪を喜び、じん、じん、と疼き切った身体を痙攣させた。御し切れない性感に私の足が暴れたけれど、仁君によって難なく押さえ込まれ、そのまま蕾のときと同じように咥えられてしまう。ぬるついた粘膜に、身体中でいっとう敏感な器官が包み込まれる快感は、想像を絶するほどのものだった。

「ッあ、ァ、っや、ン……!」

「ふ、っ……はァ、やっぱ、ここ舐められるの好きだよな……」

 すぼめた唇で断続的に吸い上げられ、包皮が自然に剥けていく。ここがこんなにも従順に姿を現すようになったのも、仁君の開発の結果だった。ざらついた部分や硬く尖らせた先端で、秘豆の天辺や側面、そして一番弱い裏筋を擦られると止め処なく愛液が分泌される。
 彼の舌の動きは、キスのときと同じように巧みだった。すっかりばれてしまっている、裏筋の少し奥のほうの弱点をじっくり、じっくりとなぶられる。ああ、これは駄目だ。ただでさえキスと胸への愛撫で、私の身体は火照り切っているのに、こんなに優しく舐めしゃぶられたら、――――

「ふぁ、……っや、クリ、溶けちゃ、」

「いいよ。溶けろって……」

 は、と吐き捨てるように囁いた仁君が、再び花唇の奥へ顔を埋めた。
 いじめられて膨れた花芽を、舌でくるんで扱かれると、生まれた快感がお腹の深部に全部飲み込まれていく。頭の中でぱちぱちと電気が走る音。抗えない絶頂感がすぐそこまで来ているのが分かって、私は必死に彼の頭を引き剥がそうとする。柔い太腿が、彼の顔の側面や髪を撫でつけるように動いた。
 その幼気な抵抗で、仁君も私の限界を悟ったのだろう。恥丘と下生え越しにこちらを見つめる瞳に愉悦がけぶり、舌が芽の裏側に潜り込んで、捧げるように持ち上げてみせた。たっぷりと塗りつけられた唾液と溢れた淫液、そして淫芽そのものも纏めて勢いよく吸い上げられると、――――ひときわ大きな火花が目の前で散って、腰から下がきつく強張って。

「じん、く……っほんと、溶けちゃ、ぁ~~~……っ!」

 張り詰め過ぎた糸が切れると同時に、がくんと、激しく全身が跳ねた。

「は、ぁ、……ああっ」

 じゅわ、じゅわ。奥から蜜が染み出して、やがて彼を受け入れる隘路を潤ませていく。
 意識が一瞬遠くへと飛ばされたせいか、果てへ上り詰めたのだと理解するまで数秒を要した。腰から下は強張りが解けた反動で、溶けたアイスクリームのようにどろどろで、指の一本すらも動かせない。全力疾走をした後のような、不規則で荒い呼吸音がいやに耳についた。噴き出した汗で、太腿にかかっている仁君の手が滑るのを知覚する。
 絶頂を迎えたばかりの突起はひどく敏感で、まだじくじくと熱く痺れていた。それを甘い余韻に浸らせるように、ぐっ、ぐ、と舌先で何度もプレスされると、絶頂感が長引いてなかなか果てから下りてこられなくなる。

「へ、ぁ……っあ、は、ぅ、仁く……っ」

「はー……っ、ふ、もうイッてる……分かるか? クリじんじんしてるの……」

「言わないでってば、ぁ……!」

 淫猥な反応を揶揄するように、仁君が苛烈に目を眇めた。言っていることが何も間違っていないのが、最悪だった。まだ刺激がほしい、気持ちよくしてほしいと我が儘に訴える淫芽を、彼の舌があやしてくれているのは事実なのだ。
 私の泣き言に、仁君の口の端が吊り上がる。ほんの少し身体を浮かせた彼は、開き切って閉じられなくなった脚の間に、ゆっくりと手を差し入れてみせた。中指が会陰から蜜口の始点までを引っ掻くように撫で上げ、指にとろみを纏わせてから、それを私の内側へと沈めていく。

「ッ……は、相変わらず狭いのに、熱くて溶けてる……」

「あ……っは、入って……」

「これなら、最初から二本入るよな……?」

「っそれ、ぅ、くぅ、ン……」

 まだ果てから下り切れていない隘路が、逞しく骨ばった二本の指に擦り上げられて狼狽える。下腹部全体が心臓になったかのように、生々しく脈動しているのが分かった。
 二本の指は奥まで入ることなく、そのまま浅瀬に留まった。ちょうど第二関節の硬い部分が蜜口を押し広げている感覚に、思わずシーツに後頭部を擦りつけてしまう。
 すると揃えられた二つの指の腹が、ぐっとお腹側を軽く押した。

「な、ここ……分かるか?」

「え……、あっ」

 彼が何を言いたいのかは、すぐに分かった、――――だって『ここ』も、彼に散々気持ちよさを教え込まれた場所だから。
 指先が微かに沈んでいる、柔い媚肉。度重なる快感の奔流に触発され、感覚が鋭敏になったその場所は、内壁にある女の子の泣き所だった。前は鈍くしか感じなかったこの場所も、仁君の手によってすっかり立派な性感帯に仕立て上げられてしまっている。
 その場所に、彼の指がしっかりと宛がわれる。反対側の手がベッドサイドに置かれていたバスタオルを丸め、私の腰の下に敷いた。同時に、先ほど同様に舌が緩慢に淫芯へと下りていくのを見て、何をされるか理解した身体が不安と期待で戦慄く。

「じ、仁君、あの、」

「言っただろ。お前の好きなところ舐めながら、中も広げてやるって」

「ぁ、や、ゃだ、それむりっ……」

「大丈夫だって。怖くない……気持ちいいだけだ。な?」

 唇にはにんまりと嗜虐的な笑みが浮かんでいるのに、私を見つめる瞳は蜂蜜を蕩かしたように甘い。丸め込むかのように、とんとんと泣き所をタップされると、もうそれ以上の抵抗は意味をなさなかった。震える私を置いて、仁君の口と指による甘くて苛烈な猛攻が始まってしまう。
 剥き出しの突起を、ちゅ、ちゅう、と甘やかすように吸われながら、指先に泣き所を何度も何度も押し上げられ、緩くかりかりと掻きむしられる。いつもの下拵えをするような動きとは違う、私を昇らせ頂きへと押し上げようとする手つき。無意識に指を食い締めてしまう淫筒に煽られたのか、彼の吐息に粗雑さが混じった。

「ッふ、ァ……ちゅ、は、はは、掻き回すたびにすげえ音する……」

「ぁ、あっ、や、……あ、ぁんっ」

「たくさん濡らせて偉いよ。ほら、気持ちよくなっていいから……もっと、力抜いてみろ」

「っ……じん、く、」

「ん、そうだ……足も開いて。全部俺に委ねてくれ」

 また、褒められた。『濡らせて偉い』というあんまりな台詞に、それでも私の身体はどろっと融解してしまう。零れた熱の塊が彼の指に触れて、ざらついた箇所に擦り付けられると、ぬるつく襞にもどかしさが増して腰がかくかくと不随意に揺れた。この浅ましい動きをやめたいのに、彼に促された通りに力を抜ききってしまったせいか、下半身の一切が自分の意志で動かせなくて、――――余計なところまで開いてしまいそうになる。

「ッ……は、ぁ、あ、だめ、だめ……っ!」

 火傷してしまいそうなほどに熱い舌が、花芽の下で緩く開いている小さな口をほじるように舐めた。はく、と空気を吸い込もうと開閉したそこに、彼の唾液が流れ込む。ぐっ、ぐ、と襞を押し込む指も激しく蠢き、浅瀬の水気が明らかに増した。押されるたびに媚肉から愛液が染み出して、溢れる。一緒に何かが出てしまう。身体中を駆け巡る快感と怖気に、何かに縋り付きたくて堪らなくなった。思わず仁君のほうへと手を伸ばせば、彼の伏せられていた瞳が、私を射抜いて、――――

「あ、……っぁ、ひッ、ん、ぅう~~~……っ!」

 熱にけぶる、獰猛な瞳に晒された瞬間。甘やかされ続けた秘芯と浅瀬に溜まった快感が、一息に弾けた。壮絶なまでの解放感だった。
 ばちんと脳内で音が響き、目の前に星が散る。気持ちよさがぎゅうう、と内側に引き込まれ、噴出する。色んな反応が一気に巻き起こる中、堪え切れなくなった淫水が溢れ出し、足や腰の下のバスタオルを濡らしていく感覚に背骨が震えた。出し切れとばかりに指がまた内壁を押し、残っていた水分が断続的に噴き出されて。

「上手に出せたな。……前は上手く噴けなくて、もどかしくて泣いてたのに」

 口回りを汚した液を粗野に舐め取りながら、空いた手で私の内腿を撫でる仁君。反対の手は相変わらずゆるゆると襞を擦っていて、私の身体はいつまで経っても熱が引かない。

「……っ、ふ、ぁ、」

「もう疲れた? ……もうちょっと、イけるよな?」

「え? あ、ぁ……ッ!」

 うそ、という悲鳴は声に成らず、甲高い嬌声に呑み込まれた。ぴんと勃ち上がった秘芯の根本を唇に食まれ、きゅんきゅんと疼く先端部分を舌に愛撫される。指も緩やかな掘削の動作から、再び私に快楽を与えるための動きへと戻ってしまった。

「これ以上は、ほんとに……っな、くなっちゃ、なくなっちゃうから、ぁ……!」

 問題は、内側よりも散々舐めしゃぶられた幼気な芽のほうだった。既に二度も果ててしまっているそれは、丸々と肥えてぷっくりとしている。このまま舐められ続けていたら溶けてなくなってしまうのではないか、――――なんて、馬鹿げた考えが頭から離れなくて、私はぐずぐずと鼻を啜りながら仁君に懇願する。
 もっと前は、こうやって抱き合っている最中にも、もう少しだけ矜持が保てていたような気がするのだが、今や見る影もない。ひとたびシーツに沈んでしまえば、私は彼に翻弄されて、貪りつくされる運命にあった。
 仁君はふっと目元だけで笑んでみせると、私の懇願を無視してさらに口淫と指戯をひどくする。下腹部全体がきゅんきゅんと甘くひくつき、私はまたすぐに果てへと追いやられてしまった。
 堪らなく強烈なのに、どこまでも私に寄り添った重く優しい絶頂。それが立て続けに襲ってきて、果てに延々と縫い留められる。甘美で濃厚な快楽は私の奥を開き、子宮をふやかしていく。発情していない箇所がないほどに昂らされた身体が、全てを仁君に委ねたのが分かった。
 飴玉でも味わうかのように、ずっと、ずっと優しく、ゆるゆると可愛がられ続ける艶やかな真珠。ぐりぐりと柔く潰され、引っ掻かれる粘膜、――――仁君はそこからたっぷり数十分ほどかけて、『私』という自我までを蕩かした。

「ッ、はぁ……っあ、んん~~~……っ」

 その永遠とも思える時間の間で、一体何度イッただろう。もうずっと気持ちがいいままで、蜜穴はきゅうぅ……っと彼の指に縋り付いている。もっと質量のある、確かなものが欲しいと咽び泣いているかのようだった。

「ふ、……ほんっと、かわい、」

 じゅる、と露骨な音を立てて蜜を啜った仁君が、舌と指を引っ込めて、ようやく自分の部屋着を脱ぎ捨てる。ダークグレーの下着がじんわりと湿っているのが微かに見えて、脳みそまで沸騰してしまいそうだと思った。ちらりとこちらに視線を投げた仁君が甘く微笑み、既に重たく頭をもたげている屹立を支えた。

「お前の中に入りたくて、こんなになってんの。……な?」

「あ……」

 雄くさく眉をひそめた仁君は、その昂りに手早く膜を纏わせると、再び私の元へと戻ってきた。未だくったりと弛緩している足を大開きにして、秘所の上に猛々しい熱杭をかぶせるようにする。完全に触れ合っているわけではないのに、その温度がぽっかりと口を開けた粘膜にまで伝わってくるかのようで、――――どきどき、した。

「っあ、じん、く……入っちゃ……」

「ああ。入るぞ……ッく、……!」

 仁君がほぐれた口に切っ先を食ませて、そのまま斜め上から腰を落としてくる。しかしそれは最奥まで沈むことなく、張り出した笠の部分で蜜口の淵を引っ掻くように弄んだ。くぽ、と鈍い水音が立つたびに、柔い心地よさがお腹の奥まで走るものの、それは今まで与えられた暴悦に比べれば戯れのような性感だった。淫路は先ほどまでの度重なる絶頂で、すっかりとろとろに蕩け切っているのに、なんで、――――私は焦れったさにうずつく心臓の辺りを押さえながら、仁君の首筋を脛の辺りで擦り上げた。
 もどかしくて泣いてしまいそうな私に対して、仁君はまだまだ余裕そうだった。怒張はもうこれ以上ないぐらいに肥え、どくどくと脈打つ音まで聞こえてきそうなのに、彼の顔はあくまで涼しげだ。付き合いたて、いや付き合う前にした行為のときよりも、よっぽど余裕そうに見える。
 私ばかりが相手に、快感に、弱くなっているのではないか、――――そんな思いが、茹った頭の端を掠めていく。

「ッは……もっと奥、突いてほしいって顔してる」

「う……だって、」

「この、浅いとこ……っ、ハ、こうやって引っ掻くだけでも、気持ちいいだろ……?」

 足りないの、と顎の裏をくすぐられ、ぞくぞくっと背筋が甘く痺れる。入口に屹立を咥え込ませたまま、愛玩するように撫でられるというシチュエーションは、被虐的な快楽を私の心臓に植え付けた。
 意地悪されるのが気持ちいい。甘やかされるのが気持ちいい。『春瀬未希』らしい何かを融解させてしまうような、破滅的な考えが身体中を満たしていって、――――

「足りな、……っあ、足りない、奥まで、欲し……っ」

「……分かった」

 ぞろりと、仁君が唇を歪ませる。それが合図だった。

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