策士な敏腕社長は幼なじみの専属秘書を溺愛して離さない
著者:熊野まゆ
イラスト:岡舘いまり
発売日:2024年 7月26日
定価:630円+税
熊野テクノロジーの社長秘書である風原詩音は、他の社員には絶対秘密にしたい事がある。
それは、社長である初海航哉とはお隣さんで、兄妹のように育った幼馴染だということ!
変な憶測を呼びたくない詩音は職場ではそっけなく接しているのにも関わらず、妹のような彼女が心配なのか、航哉はよく話しかけてくるのだが……。
そんなある日、姉に押し付けられた雑誌をうっかりしまい忘れ、航哉に見られてしまった詩音。
その内容は『ソフトSMに初挑戦しちゃおう』という特集で……!?
こういうのに興味があるのかと航哉に問われた詩音は、嘘がつけず肯定してしまい――。
「……俺と、してみる?」
思わぬきっかけで幼馴染の関係から一線を超えてしまった2人だったが、意識してしまう詩音と違い、航哉はいつもと変わらない。
モヤモヤする詩音の耳に、航哉が引っ越してしまうという話が飛び込んできて――……!
【人物紹介】
風原詩音(かぜはら しおん)
25歳。熊野テクノロジーの秘書課に勤めており、社長秘書。
純粋な性格で家族思い。日曜日の朝食は詩音が担当している。
航哉のことは兄のように思っているが……?
初海航哉(はつうみ こうや)
30歳。詩音の幼馴染で、スタイル抜群の美青年。
熊野テクノロジーの技術開発部に勤めていたが、半年前に社長に大抜擢された。
詩音に対してはとても過保護。
●電子書籍 購入サイト
*取り扱いサイトは、各書店に掲載され次第、更新されます。
【試し読み】
「航哉くんの部屋にくるの、久しぶり」
「……ああ」
雑多なものがなく、きちんと整頓された部屋だ。机やイスといった家具はすべてが黒か白で統一されている。
真っ白なシーツが敷かれたベッドの端に腰かけて、航哉くんはその隣をポン、ポンと叩いた。
「ここ、座って」
言われるまま彼の隣に座ると、航哉くんはベッドに手をついて顔を覗き込んできた。
「見るつもりはなかったんだが……詩音の部屋にあった、あの雑誌」
ドクンッと胸が跳ね上がったのは、彼に顔を近づけられたからか、あるいは雑誌のことを話題にされたからか。きっと両方だ。
「ああいうのに、興味あるのか」
わたしはぱくぱくと口を動かす。
……やっぱり、航哉くんの家にきてよかった。
家族がいる自宅の台所では、話せる内容ではない。いや、航哉くんにだって話すのはためらわれる。
わたしがそんなことを考えているあいだも航哉くんは真剣な顔つきで詰め寄ってくる。
「どうなんだ」
「えっ!? あっ、あれは、そのっ……」
「詩音の私物を勝手に見たのは悪いと思ってる、ごめん」
「私物!? ちっ、違う、あれはお姉ちゃんがくれたもので――」
「でも、じっくり読んでたんだろ」
……どうしてわかるの?
もとより嘘がつけない性分のわたしだから、いよいよなにも言えなくなる。
「……俺と、してみる?」
航哉くんが、なにを「してみる」と言っているのか、すぐにわかる。
とたんに頬が熱くなった。きっと真っ赤になっている。顔を隠すために思いきり下を向く。
「また、からかって……」
「からかってない。真面目に言ってる」
その声音はたしかに、真剣そのものだった。
「詩音」
いつになく低く、少し掠れた声で呼びかけられた。わたしはためらいながらも顔を上げる。
まっすぐに見つめられれば、ドキドキと高鳴っていた心臓がよけいに強く鼓動する。
いままでにない雰囲気が漂っている気がして、いたたまれなくなる。
「興味、あるんだろ。ソフトSMのページに折り目がついてた」
「うっ――」
詳しく読んでたの、バレバレだ。
「あるかないかの二択ならどっちだ。三秒以内に、正直に答えること」
彼が短く息を吸う。
「三、二、一――」
「あ、ある……っ、う!」
わたしは両手で自分の口を塞ぐ。
しかしいまさら口を押さえたところで、正直に答えてしまったあとでは遅い。
「詩音は嘘がつけないな」
勝ち誇ったような顔をして、航哉くんはわたしの左手を掴む。
手を引かれてこの部屋にきたのはついさっきのことだ。これまでだって、手を繋ぐことはあった。
それなのにいま、どうしてこんなにも彼の手の大きさを意識してしまうのだろう。
左手に指を絡められ、軽く引っ張られたり押されたりする。
なにか、たとえようのない焦燥感が湧いてきた。
「ほ、ほんとに……するの?」
「何事も実践、だ」
彼の口癖は聞き慣れていると思っていたけれど、違った。
まるで初めて聞く言葉のようだった。
航哉くんは、わたしの左手に指を絡ませたままぎゅっと引き寄せる。
「優しく、意地悪するから」
「それって……どういうこと?」
『優しい』と『意地悪』って、真逆の言葉だよね?
わたしが大真面目に尋ね返したからか、航哉くんはおかしそうに笑った。
額と額がこつんとぶつかる。一瞬、キスされるのかと思ってしまった。
「大丈夫――怖くない。ただ、詩音を気持ちよくしたいだけ」
彼の左手が、ブラウスの脇を撫で上げていく。
大きな手のひらが胸を掴む前に、わたしはさっと身を引いた。
「待って……! わたし、その……は、恥ずかしい」
「そうだな……恥ずかしい」
航哉くんはどこか恍惚とした表情でわたしの言葉を繰り返し、手を掴むのをやめた。代わりにわたしの腰を抱く。
それほど強い力で腰を掴まれたわけではないのに、彼が真剣な顔つきをしているからか、逃げられない。
いつもより彼との距離が近いせいか、やけにドキドキしてしまう。
「もっと恥ずかしがってくれてかまわない」
乞うような口ぶりだった。わたしはとっさに、ぶんぶんと首を振る。
「……そうか。じゃあ目隠しするか」
「なんでそうなるの!?」
「視界を塞いでしまうほうが、恥ずかしくない」
自信たっぷりに彼が言うものだから、妙に説得力がある。
「それにソフトSMといえば、まず目隠しだろ。さあ、実践」
航哉くんがにこっと笑う。完璧な笑顔に気圧されて、つい頷いてしまった。
とたんに笑みを深め、航哉くんはベッドから立ちクローゼットへ行く。それから薄手のハンカチを持って戻ってきた。
彼は手早くハンカチを広げ、目を覆える程度の幅に畳みなおしてわたしの目元に巻きつけていく。
「痛くない?」
「う、うん……」
視界を奪われるとそれだけで感覚が一変する。
ベッドに腰かけているはずなのに、ふわふわと浮いている気がしてくる。
航哉くんはわたしの頬を両手で挟み、むにむにと揺さぶる。
いつもされていることだ。ほっとしてしまうのはなぜだろう。
「詩音……」
思いのほかすぐそばで彼の声が響いた。
落ち着いていた心臓はすぐにまたドクンッと跳ね上がり、そのまま高鳴る。
あれほどじっくり雑誌を読んだのに、具体的にどんなことをするものなのか――困ったことに、まったく思いだせない。
「航哉くんっ……あの、なにを……するの?」
「……なに、しようか」
どこか苦しげな――なにかを必死に抑え込んでいるような――くぐもった声だった。
「なにか……我慢、してる?」
尋ねれば、航哉くんは「そうだな」と相槌を打った。
「してるよ。いますぐ全部見たいのを、我慢してる」
航哉くんは白いブラウスのボタンをひとつひとつ丁寧に外していく。
「全部、って」
「詩音の、全部」
その言葉と同時に胸元が心許なくなった。ブラウスの前を左右に開かれたらしかった。
わたし、どんな下着だったっけ!?
たしか今日は、白いブラジャーとショーツだった。飾り気のないシンプルなものだ。
「下着……っ、見ないで」
「なんで?」
「だって、その……かわいく、ない……から」
「詩音が身につけてるものは全部かわいいから大丈夫」
「そっ――う、うぅ……」
航哉くんは、いまどこを見ているのだろう。
顔なのか、あるいは下着なのか。目隠しのせいでわからないから、そわそわする。
「というか――かわいいって、思われたいんだ?」
航哉くんがくすっと笑うのがわかった。
「それは……その……本能的に?」
自分でもよくわからなかったのでそう言うと、よしよしと頭を撫でられた。
ブラウスの内側に手を入れられる。ブラジャーのホックが外されるまでは一瞬だった。
「あっ」
「ん? 詩音的にはこの下着は『かわいくない』んだろ。だったらすぐ脱げばいい」
「それは……あの、でも」
……わたし、さっきから言いわけばっかりだ。
それもこれも、急にこんなことになって混乱しているせい。
戸惑ってはいるものの、嫌だとか逃げだしたいだとかいう感情は湧いてこない。
それどころか、期待してしまっている。航哉くんに触れられたら気持ちがよいのではないか、と。
けど、やっぱり恥ずかしいよ……!
下着を見られるのも、素肌を晒すのだって、どうしても恥ずかしい。そのせいなのか体が熱くなってきた。
ホックが外れて緩んでいるであろうブラジャーの端を、ぐいっと捲り上げられる。
「ひゃ、うっ」
窓からは朝陽が射していて、室内は明るかったはずだ。
それなのに、わたし――胸を、曝けだしてる。
航哉くんの視線がどこに向いているのか、わからない。だからこそなのか、凄まじいまでの羞恥心が襲ってくる。
「……きれいなピンク」
その呟き声で、彼がどこを見ているのか思い知る。唇のことを言われているのではない。
乳首を、見られてる――。
足の付け根がおかしな反応をした。その部分がヒクヒクと震えだす。
「や、やぁっ……」
胸を隠そうとしたものの、両手を掴まれ、ベッドに押し倒された。
視界を塞がれ、胸を晒したまま、ばんざいをするように両手は頭の上だ。
だめ、これ――すごく恥ずかしい!
わたしは羞恥心をやり過ごそうと肩を揺らす。乳房が揺れるのがわかったけれど、じっとなんてしていられない。
航哉くんはなにも喋らない。
彼がいまなにを見て、考えて、どうするつもりなのか――さっぱりわからない。
「航哉くん……?」
呼びかけると、胸元に柔らかなものが当たった。
彼の髪の毛だと気がついた次の瞬間には、乳首の際を指で擦り立てられて身悶えする。
「あっ、ぁ……!」
「詩音はここもかわいかったのか。知らなかった」
航哉くんの指はぐるぐると、乳輪を模るように周回する。
そうして薄桃色の部分を擦られると、足の付け根がどんどん熱を持っていく。
ひとりでに腰が揺れて、ますますじっとはしていられなくなる。
「んん、ぅ……っ」
彼の指はうまく頂を避けて、恐ろしく的確に乳輪だけを擦っている。
呼吸が荒くなってきて、足の付け根だけでなく手足の先も熱くなってきた。
たまらなくなり、大きく息を吸う。そして吐きだすのと同時に、胸の尖りを押された。
「ひあぁっ!」
航哉くんの指先が乳首をぎゅっ、ぎゅっとリズミカルに押し込めてくる。
「ふっ、ぁ……あ、ぁっ」
「……気持ちいい?」
「ん、う……んんっ……!」
わたしが頷けば、航哉くんは指の数を増やして胸の尖りをつまみ上げた。
乳首の根元を左右に揺さぶられると、羞恥と快感が激しく膨れ上がる。
「触ってないほうも、膨らんで……張りつめてる」
もう片方の尖りも指でつままれ、丹念に捏ねまわされる。
航哉くんにつままれているふたつの乳首がどうなっているのか、彼の言葉でもってたやすく想像できてしまう。
「やぁっ、そんな――言わない、で」
「けど、詩音は目隠しされててなにも見えないから、状況を伝えるには俺が口に出すしかない」
「つ、伝えなくても……なんにも喋らなくても、いいから」
「いいのか。じゃあ口は閉じておく」
身につけていた七分丈のボトムスを突然、引き下げられた。
「あっ……!」
ボトムスが足先から完全に抜けてしまうのを防ぐべく膝を曲げる。
いや、無駄な抵抗だ。ブラジャーと揃いのシンプルなショーツは、もう彼に見られてしまっている。
それでもわたしはじたばたと足掻いていた。
航哉くんはかまわず恥丘を撫でさすってくる。薄いショーツを、すりすりと摩られる。
「んぅ、うっ……」
彼は沈黙を貫いている。
喋らなくていい、って……言っちゃったけど。
航哉くんの表情や考えがわからないことが、これほど辛いのだとは思ってみなかった。どうにもいたたまれない。
「……っ、ごめんなさい。航哉くんが無言なの……やっぱり、だめ。お願い、だから……なにか、言って?」
ハンカチ越しに、瞼になにかを押しつけられた。
目に、キス――された?
慈しまれている気がして、胸を締めつけられる。この感情は、なんだろう。
「あー、ほんと……なんなんだ、このかわいい生き物は」
彼が大きく息をつくのがわかった。首のあたりに吐息がかかる。
「全部、弄りまわしたくなる」
首筋を吸われた。水っぽい音が響く。
「んっ……! くすぐったい……航哉くん」
「……うん」
それでも航哉くんはわたしの肌から唇を退けずにちゅうちゅうと吸い立てる。
わたし――変。
彼の唇が触れている箇所が、とてつもなく熱い。
人の唇というのは、こんなに熱を持つはずがない。
それなのに、肌が溶けてしまうのではないかと思うほどの灼熱を感じる。
首筋を吸われ、胸の尖りを指で押し嬲られる。じりじりとした熱がわたしを苛む。
航哉くんはわたしの両手を押さえるのをやめて、乳首を弄りまわしはじめた。
「はぁ、あっ……んん……っ」
胸の頂をふたつとも熱心に弄られて息を弾ませていると、足の付け根をやんわりと押された。
「ひ、ぁっ!?」
彼の両手は乳首にあてがわれているから、下半身を押してきたのは航哉くんの膝だ。
膝でぐりぐりと押された箇所を、強烈に意識させられる。
びくんっと両脚が跳ねる。お腹のあたりを手で撫でたどられた。大きな手のひらが、足の付け根へ近づいていく。
「ここ――触られるのは、平気?」
「ふっ……!」
ショーツのクロッチをすりすりと探られた。
「直接、だと……怖い、かも……」
「わかった。じゃあ今日は触らない。……直には」
語尾を強調して、航哉くんはなおもショーツのクロッチを撫でさする。
薄いショーツ越しにでも、そうして擦り立てられると気持ちがよい。
いつのまにか羞恥心が消え失せていた。
快楽のほうが何倍も大きくなっている。
「う、ぅ……」
このままではみっともない大声を出してしまいそうなので、必死に我慢する。
「……湿って、透けてきた」
「え――……」
自分では目にすることのできない、秘めやかな箇所の状況を伝えられて、消えたはずの羞恥心が戻ってくる。
「濡れてるな?」
どこか嬉しそうな呟き声に、全身をくすぐられる。ぞくぞくとした戦慄きが体じゅうを駆け巡る。
「や、あぅ……っ、ふっ……ぅ」
気持ちがよくてたまらない。
自分でも信じられないほど単純に、めくるめく快楽を受け入れている。
航哉くんはいまどんな顔してるの?
急に気になった。目隠しのハンカチを取ってしまいたくなる。
目元のハンカチに手をかけると、その甲に生温かななにかが当たった。
手の甲を、生温かなそれでツツツ――と、なぞられる。
「あ、ぁっ……? 航哉くん、わたしの手……舐めて、る?」
わたしの問いに、航哉くんは答えてくれない。
「勝手にハンカチを取ろうとしただろ。だーめ。目隠しはしたまま、だ」
お仕置きのつもりなのか、ショーツのクロッチを擦る指の速度が上がる。
乳首をぎゅっと捻りまわされ、下半身の小さな粒を指先で激しく擽られる。
目隠しを取ってはいけないと言われて不満があるはずなのに、彼を責める気にはならなかった。
それどころか、それまでよりももっと快感に拍車がかかる。
だめだと言われて、悦んでいる。腰が揺れてしまい、止まっていることができない。
「あ、あぁっ……んっ、うぅう……!」
高く大きな声を上げて、わたしは顎を反らせた。そうしていなければ、膨れ上がった快感に耐えられなかった。
一瞬、息が止まる。
頬も、吐きだす息も、すべてが熱い。
「ふ、あぁ……う」
「そんなふうになってる詩音も、かわいいな」
ぽつりとした呟き声を耳にしたものの、頭の中まで熱に浮かされているのか、なにも考えられない。
はっきりしているのは快楽だけだ。
わたし――イッちゃったんだ。
絶頂に達してもなお快楽は尾を引いて、わたしの心と体を甘く痺れさせる。
はあはあと、呼吸はいっこうに整わない。
すぐそばに吐息を感じた。
「……キスしていい?」
「な……なん、で?」
「好きだから」
キスをするのが『好き』なのか、それともわたしのことが『好き』なのか。
「詩音」
ハンカチを外され、やっと前が見えるようになったと思ったのに、また視界が真っ暗になる。航哉くんの顔が目の前にあるせいだ。
「ん……っ!」
航哉くんの唇――柔らかい。
唇が、しっとりと吸いついてくる。ごく自然にぴたりと重なって、少しもずれない。
その心地よさに溺れてしまい、わたしは目を開けることができなかった。