囚われの蜜愛エロス

書籍情報

囚われの蜜愛エロス


著者:泉野ジュール
イラスト:すみ
発売日:2021年 2月26日
定価:630円+税

翻訳士を目指す芹香は、画家である母の個展でジオという男性と出会い、恋に落ちる。
逢瀬を重ね愛を深めていた二人だが、ジオはある日、突然芹香の前から姿を消したのだった。
それから時が経ち、翻訳事務所で働く彼女の元にジオの知り合いだという男性が現れ、芹香はそのまま誘拐されてしまう。
さらわれた先には、かつて芹香と愛を交わしたにもかかわらず何も言わず消え去ったジオがいて、手違いで芹香を連れてきたのだと言う。
「忘れたわけじゃない……。忘れたことなど、一度もなかった……」
けれど芹香との再会は、長いこと眠っていたジオの本能を呼び覚まし……!?
六年の時間を埋めるように芹香を愛すジオの愛撫に、芹香は――。

【人物紹介】

永崎芹香(ながさきせりか)
翻訳士を目指す生粋の日本人。
画家の母の個展で、翻訳の手伝いをシているところにジオが現れ惹かれた。
六年間、ジオを忘れることができずにいる。

ジョバンニ・ヴィゼンティーニ
イタリア系アメリカ人、愛称はジオ。
見る人が息を呑むような美しい容姿をしていて、特に瞳は不思議な色をしている。
六年前、とある事情で芹香の前から姿を消したが、ずっと芹香への愛を募らせていた。

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【試し読み】

 最初の夜にふたりで訪れた、暗闇にライトアップされたサクレクール寺院の美しさを芹香は忘れられない。
 この夜、ジオは本当に一時間ぴったりで芹香をアパルトマンに帰してくれた。
 次の日は、昼間のルーブル美術館に誘われた。
 ふたりは絵画を見て回って、お互いの意見を語り合った。
 ジオの芸術への愛情は本物だったが、同時にひどく現実主義で、皮肉屋なところもあって、夢みがちな芹香とは必ずしも意見が合わなかった。にもかかわらず、ギャラリーを移動するたびに「この部屋でもっとも気に入った作品」を互いに教える遊びをしていると、なぜかピタリと好みが重なった。
 外見だけじゃない……ジオの内面……特にストイックなひととなりと遠回りな優しさ、そして繊細さに惹かれたのは、この日からだった。
 その次の日は、セーヌ川のクルーズ船。
 観光客ばかりで好きじゃない……とジオは言ったが、結局、芹香の希望を叶えてくれた形だった。
 四日目は週末だった。芹香は画廊で母の通訳をするのに忙しく、会えたのは日が暮れてからだった。
 この晩、彼が芹香のために選んだのはオペラ鑑賞だった。
 ガルニエ宮のオペラ座……。豪華絢爛の粋を極めた美しい内装に見惚れる芹香を、ジオはじっと見つめ続けていた。その視線は情熱的で、一瞬たりとも芹香を離れない。
 案内されたのは一等席だった。
「わぁ……素敵……。確か『オペラ座の怪人』はこのガルニエ宮をモデルにしてるんですよね?」
 フカフカの席に恐る恐る腰を下ろしながら、芹香は周囲を見渡した。
「そうだな。孤独な怪人は、ある少女に狂おしいほど惹かれ、常軌をいつしていく……彼女に歌を捧げ……嫉妬に狂い……」
 芹香の隣に座ったジオは、やはり彼女を見つめたままだった。
「確かに、この場所ならありそうな話だ」
 この頃になると、芹香はジオがイタリア系アメリカ人であることを学んでいた。住んでいるのはニューヨーク。
 まだ少年の頃に両親の離縁で別れた母親がフランス人で、彼女の弔報を受け、一時的にパリを訪れている……と。
 羽振りがいいのは、亡くなった母から受け取った遺産のお陰だとも、ジオは説明した。
 ただ、ジオには、にわかに金を手に入れただけの男とは思えない優雅さがあった。立ち居振る舞いも、今まさにオペラ座の一等席に溶け込んでいる姿も、彼がこうした場所に慣れていることを如実に物語っている。
「あ……」
 ジオの手が、スカート越しに芹香の太腿に触れた。
 感じたことのない種類の痺れが走り、お腹の奥がキュッとうずく。
 戸惑いながらジオを見つめると、彼の手はさらに大胆に女性部分に近づいてきた。
「あの……ジオ……。こんな、場所で」
「嫌なら嫌だと言っていいんだよ。俺は無理強いはしない。ただ、君が許してくれるなら、もうこれ以上我慢はできない」
 嫌なはずがない。芹香はすでに体の奥からジオを求めていた。
 ただはじめてのことが重なりすぎて、戸惑ってしまうだけだ。それに周囲にはひとが……。
「あっ」
 ジオは、芹香が肩に掛けていたショールをするりと引っ張った。まるでずっとそうするつもりだったかのような、計算された無駄のない動きだった。
 ショールは広げられ、芹香の下半身を隠すように覆った。
「ジオ……なに、を」
「シッ、周囲に聞こえてしまうよ。もうすぐオペラもはじまる」
 その指摘を合図にしたかのように、観客席の照明がフッと暗くなった。一瞬、視界が暗闇に沈む。
 あせりと緊張にドキドキと胸が高鳴って、呼吸が急いた。
 やっと暗さに目が慣れてきて、ぼんやり周りが見渡せるようになった時、それははじまった。
 オーケストラの演奏……。
 そして、まるで音楽を奏でるような、ジオの指の動きが。
「……ッ!」
 ジオの腕がショールの下に潜り込み、スカートをたくし上げて、芹香のショーツに触れる。彼はまず円を描くように芹香の女の入り口を愛でた。
 じわりと汗がにじむ。
「ジオ……」
 芹香が切ない声を漏らすと、隣の席の白人中年女性がたしなめるように、ちらりと一瞬視線を送ってくる。
「ほら、静かにしないと」
「だったら、や……やめて……」
「ふぅん。本当にやめていいのかな」
 ピンッ、と弾くように花弁の先端に刺激を与えられる。
(……! ふぅ……っ!)
 弦楽器の生演奏が、ドーム状になったオペラ座内部に響き渡る。頭上では色鮮やかなシャガールのステンドグラスがふたりの罪を見下ろしていた。録音された音楽を聞くのとは違う、全身に伝わるような鮮明な旋律。
 ジオの指は曲に合わせ、芹香の性器が楽器であるかのように、巧みに動いた。
「ジオ……ジ、オ……ぁ」
 芹香は処女だった。
 手淫による自慰は、何度かしたことがある。しかし羞恥心が邪魔して、本当に気持ちいいと思えたことはあまりなかった。
「感じていいんだよ。君は素晴らしい。感じていいんだ……感じている君は可愛い」
 抑えたジオの声が耳をくすぐる。
「ただ、声を出さないようにしないと」
「ひぅ……」
「そろそろかな」
「……っ!」
 ジオの愛撫が激しくなる。いままで撫でるような動きだったものが、摘み上げて擦りつけるような容赦のない刺激に変わっていく。
 芹香の体はあられもなくピクピクと震えた。
 迫りくる官能の波が芹香を呑み込もうとする。が、その先になにがあるのか知らない芹香は、怖くてたまらなかった。
 すがるようにジオの腕のシャツを握る。
 すると突然、オーケストラが大音響を鳴らしはじめ、太鼓やシンバルが繰り返された。それに合わせて、ジオは花弁の先端に潜んでいた芹香の真珠を、ぎゅっと残忍に押し潰した。
「あぁ! ひぅぅ……っ!」
 声を我慢することなんてできなかった。
 芹香は鳴き、痙攣しながらはじめての絶頂を迎えてあえいだ。しかし音楽は力強く、観客は圧倒されていて、芹香の嬌声に気づくものはいない。
 ジオはこの瞬間を知っていたのだ。知っていて、芹香が声を上げてもいいように、この瞬間を選んだ。
 生まれてはじめての絶頂……。
 それを、こんな公共の場所で、出会って四日目の外国人の手によって与えられるなんて……。
 快感は背徳感によってさらに高められ、芹香は震えを止められなかった。ジオはそんな芹香を、座席という限られたスペースで可能な限り、優しく抱き寄せた。
「強すぎたかい? まさか……はじめてだったのか?」
 抑えられたささやきだったが、ジオの声には驚きと……喜びのようなものが含まれていた。
「はい……」
「ああ、くそ。セリカ……君は……」
 ジオはゆっくりと芹香の髪を撫でた。肩よりも少し長いくらいの、わずかに茶色く染めたストレートで平凡な髪だ。しかし、ジオは何度も芹香の髪を美しいと褒め称えた。
 肌も。
 瞳も。唇も。声も。すべてを。
「すまなかった。順番が逆になったな」
「順番……?」
「まだキスもしていなかったのに」
 芹香は、え、と声を漏らした。音楽はまだ激しい旋律を奏でていて、多少の会話はかき消されてしまう。
 舞台ではオペラがはじまっていた。近代的にアレンジされたドレスを纏い、芹香の知らない言語でアリアを歌いはじめる歌手に白いスポットライトが当たっている。
「ジオ……」
 ジオの顔が重なるように近づいてくる。
 外国の恋愛映画を見ているみたいだった。ジオはわずかに首を傾げて、形のいい唇を薄く開きながら芹香の唇に触れる。
「ふ……っ」
 さすがにキスははじめてではない。
 でもこのキスは……。
 このキスは、芹香が経験したことのあるどんなキスとも違っていた。ジオの迷いのない自信に満ちた動き。芹香の反応を確認しながら、慎重に、しかし確実に舌で押し入ってくる大胆さ。そして彼から香る男性用コロンと、汗の混じったような魅惑的な香り……。
 すべてがはじめてだった。
 そして、これが最後にならなければいいのにと願ってしまうほどの気持ちよさに、酔いしれていく……。
「今夜、君を抱きたい」
 ジオはささやいた。
 芹香は同意にうなずいた。
「はい。今夜……」
 ふたりの男女がこんなに惹かれ合って、こんなに甘い口づけを交わして、この結論に至らない方がおかしい。
 そう思えるくらい、芹香にとっては自然な答えだった。

 ガルニエ宮のオペラ座を後にしたふたりが向かったのは、ジオの滞在する高級ホテルの一室だった。
 いかにもパリらしい、広くはないが内装に気を遣った豪奢な部屋で、リビングスペースにベッドルームが繋がっていて、猫足つきのバスタブのあるシャワールームもあった。
 部屋の扉を閉めると同時に、ジオは飢えたキスで芹香の唇をふさいだ。
「ジオ……わたし……んっ! あ……!」
 もう声を我慢する必要はない。芹香は感じるままに声を上げた。
 もちろん、たがが外れたのはジオも同じだった。
 まず扉の横の壁に背中を押しつけられ、むさぼるようなキスと共に、体をまさぐられる。
 そして両手で芹香の頰を包むと、呼吸を奪うような激しいキスを繰り返した。唇だけでなく口内のすべてを求められるような、熱烈な接吻だった。
 彼の手は大きくて、まるで芹香の肌に触れるためだけに存在しているかのように、執拗に彼女の体を求め、まさぐった。
 性感帯に触れられる前から、芹香の体はすでに切なく震えはじめている。
 こんな状態で、敏感な場所に刺激を与えられたりしたら……。
「あぁん! だ、だめぇ……っ」
 思わず日本語混じりに声を漏らす。ジオもなにか、英語ではない、フランス語ともイタリア語とも判別のつかない異国風の言葉をささやいた。
 ジオの腕が芹香のワンピースの中に滑り込み、またたくまにブラジャーに到達する。ワイヤー部分を押し上げると、彼はいともたやすく芹香の胸を鷲掴みにした。
「ふ……ぅ……っ」
 揉みしだかれながら、人差し指の先端で乳首を押される。
 普段、芹香の乳首は奥ゆかしげに顔を隠して沈没している。それがジオから受ける刺激に反応して、ぷっくりと膨れはじめた。
 どんどん痺れが増していく。
「なんて可愛いんだ。美しいよ……君の体は、こんなに素直に……俺の欲望に反応する」
 言葉なくフルフルと首を振る芹香に、ジオは「君を見たい」とささやいた。
「見……る……?」
「こうだ」
 芹香の着ていたワンピースはたくし上げられ、するりと頭から脱がせられてしまう。
 すぐに純白のレースの下着が現れる。上下お揃いで、たとえ日本人でなくても、これがいわゆる『勝負下着』なのは一目瞭然だろう。
 案の定、ジオはなんともいえない満足げな微笑を浮かべた。
「俺のために?」
 芹香はうなずいた。
「はじめて……だから。からかわないで……」
「からかってはいないよ。神に感謝しているんだ。この天使を、俺のような汚れた男のところに遣わしてくれたことに」
 汚れた男……?
 意味がわからず、芹香は瞳をまたたく。
 ジオはなにも答えずに、軽々と芹香を横抱きにしてベッドへ向かった。キングサイズのベッドには肌触りのいいシーツとフカフカの枕が贅沢にセッティングされていて、芹香の背中がジオの手によって、その中央にゆったりと沈む。
 下着姿の芹香に覆いかぶさるようにベッドに上がったジオは、彼女の髪を一房、手に取った。
「今夜が、君のはじめてなんだな」
 遠慮のない、あけすけな事実確認だった。嘘を言っても得るものはない。芹香はこくりとうなずいた。
「最初に言っておこう。普段の俺は、優しいばかりの男ではない。特に……ベッドの上では」
 ジオは、人差し指の先をゆっくりと滑らせて、芹香のおへそからツーッと上へ向かった。そのまま一直線に、喉、顎、そして唇を指でなぞられる。
 芹香の背筋はゾクゾクと震えた。
「しかし今夜は……今夜だけは、優しく君を抱こう。君には大切に扱われるだけの価値があるから」
「ジオ……んっ!」
 再び、キスで唇を塞がれる。
 同時に、ジオの両手がブラジャーとショーツを次々に脱がせていった。
 ──自分の初体験はどんなものになるのだろうと、少女のころから何度も想像し、夢見ていた。
 でも、これは……。
 これは、芹香が見たどんな夢とも、どんな空想とも違っていた。こんなに熱く、荒々しく求められるなんて考えてもいなかった。これほど親密な触れ合いになるなんて知らなかった。
 これほど、気持ちいいだなんて……。
「は……っ、ジオ……だ、だめ……明かり……消し、て」
「どうしてだい?」
 ジオは悪魔のように舌舐めずりをした。質問の答えを聞きたいのではなくて、芹香がとまどうのを知っていて、わざとからかっている。
「だって……ぜんぶ、見えちゃう……」
「君に隠さなければならない場所などないよ。すべてが綺麗だ。どこもかしこも可愛い」
「んぁ……っ」
 ジオが大きく口を開いて芹香の乳房のひとつを咥えた。すぐに乳首の先端を舌でいじめられ、芹香はビクビクと揺れる。
 どうしていいのかわからなくて、芹香は必死に刺激を逃がそうと体を固くした。そうしないと気が狂ってしまいそうだった。
「怖がらなくていい……。セリカ、すべて受け入れてしまえ。すべて君のものだ。ほら」
「きゃうっ!」
 ジオはもう片方の乳房を口に含み、吸い上げた。そして、今まで咥えられていた、唾液に濡れて敏感になった乳首の蕾を指でいたぶる。
 芹香は首を反らして鳴いた。
「なんて感じやすい体なんだ」
 耳鳴りがして、ジオの声がかすれて聞こえた。
「男に抱かれるための体だ。俺に、抱かれるための女だ……君は」
 ジオは乳首のひとつを指で摘んでコリコリと転がしながら、別の手を芹香の太腿の間に滑り込ませた。
 ショーツはすでにどこかへ消えてしまっている。
 男らしい大きな手の、節立った長い指が、控えめに茂る芹香の秘密の森へ潜り込む。
 ジオはすでにここの可愛がり方を心得ていた──オペラ座で、彼はもう芹香を二度も絶頂に導いていた。それもクリトリスへの愛撫だけで。
「ん……っ、あ、ぁ、わたし……こ……怖……っ」
 溢れる情念と一緒に、恐怖心が頭をもたげる。
 これがはじめての性体験であること。
 ジオのことをまだ四日しか知らないこと。ここが異国で、芹香は異邦人であるということ。
 恐れる理由はいくつもある。
 でも、すでにトロトロに溶かされているこの体が、これ以上の官能に耐えられるかどうかに怯えていた。そしてなによりも、さらにジオに惹かれることに……。
「怖い?」
「は、はい……」
「やめて欲しいかい?」
「それは……」芹香は焦りに息を呑んだ。「それは、違います……。やめないで。でも、怖くて……」
「もちろん、避妊はきちんとするよ。コンドームは持ってる。ピルは処方してもらっているかい?」
「いいえ……まだ」
 ジオはほんの少し不可解そうに片眉を上げた。多分、ジオの住んでいる国では、禁欲主義者でもないのに、年頃の女性がピルを服用していないのは不思議なのだろう。海外ではむしろ常識だと、英語の勉強を通じて芹香も知っていた。
 しかし彼はうなずいただけで、それ以上踏み込んではこなかった。
「はじめての痛みについては……努力させてもらうとしか言えないが……。君にとっては幸か不幸か……俺のものは、あまり小さいとは言えないから」
 自嘲のような薄い笑みを浮かべ、ジオは腰を動かした。
 ズボンに隠れた下半身の膨らみが芹香の下腹部に押しつけられる。そのあまりの硬さに芹香はゾクッと身震いした。
「なにが怖いのか言ってごらん。解決していこう。ふたりで。ひとつひとつ」
 きっかけは、その言葉だった。
 その優しさだった……。ジオに惹かれていた芹香の想いが、ただののぼせや憧れではなく、恋に変わったのは。
 愛とさえ呼んでいいような、深い気持ちを抱いたのは。
「じゃあ……やっぱり明かり、消してください……」
「わかりましたよ、お姫様。すべて君のご所望の通りに。ただ、ナイトスタンドの明かりだけはつけさせてもらうからな。君のはじめてを奪う瞬間をこの目に焼きつけたい」
「それだけなら、許してあげます」
 芹那は自分がリラックスしていくのを感じて、ふふっと笑った。ジオは約束通り、ベッドから離れるとナイトスタンド以外の照明をすべて消した。
「他に、君の望みは? 君の恐怖を消すために、俺にできることはなんだい?」
 ベッドに戻ってきたジオは、かすれた声で尋ねた。ズボン越しにも、彼のものはさらに力強く勃起しているように見える。それでも彼は、まだ芹香の望みを優先してくれているのだ。
 嬉しかった。
「優しくして……ください。そして……今夜のことを忘れないで」
 芹香の唇からこぼれた言葉を、ジオはじっと聞いていた。
 端正な顔が、一瞬、苦悶するようにゆがめられる。ふたりは見つめ合った。
「忘れないよ」
 ジオは誓った。

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