秘密の夫婦、はじめました 〜ライバル企業の御曹司と令嬢が恋に落ちたら〜

書籍情報

秘密の夫婦、はじめました 〜ライバル企業の御曹司と令嬢が恋に落ちたら〜

著者:黒羽緋翠
イラスト:森原八鹿
発売日:12月25日
定価:630円+税

令嬢であることを隠してライバル企業で働いている美織は、同じ課に勤める課長の郁人に想いを寄せていた。
そんなある日、突然食事に誘われた美織は、彼から衝撃の告白をされることになる。
なんと彼はこの会社の御曹司で、それどころか美織に結婚してほしいと迫ってきて……!?
「ずっと可愛がってやるから、俺の最愛の嫁になってくれ」
状況を掴めないままにあれよという間に始まった秘密の新婚生活は、溺れるくらいに甘美で――!?

【人物紹介】

志藤 美織(しどう みおり)
志藤商事の令嬢。祖父の薦めでライバル会社である野々原商事で素性を隠して働いている。
祖父母の影響か、庶民的な感覚の持ち主。ひとり暮らしを始めてからというもの、料理を勉強中。

野々原 郁人(ののはら いくと)
野々原商事の御曹司で、総務課の課長。美織と同じく身を隠しながら勤務している。
会社では誰に対しても分け隔てなく優しく、親しみのある上司だが、美織とふたりきりだと、少しいじわる。

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【試し読み】

「そんなところにいないでこっちに来いよ」
「あっ……はい」
「それとも俺が迎えに行くのを待っているのか? 俺のかわいい奥様」
「いっ、行きますっ」
 心臓がいまにも爆発しそうになりながらも、美織は意を決して郁人に近づく。が、そこで腕を取られて抱きしめられた。
「あの……、私、ちゃんと行きますから」
「俺が美織を抱きしめたくなった。夫婦になるまでは抑えてたしな」
「えっ?」
「結婚だけは強引になってしまったけれど、こういうことは美織の気持ちと向き合って進んでいきたいんだ」
(こういうことって、夫婦の営みってこと?)
 不安になりながらも同意を得ようとしてくれているとわかり、美織は身体を震わせながら小さく頷く。この先のことはわからないとしても、強引だけど優しい一面に胸がきゅんと高鳴りながら、この人が好きだから結ばれたいと思う。
 そんな決心を見抜くかのように、美織の唇に柔らかいなにかが触れてくる。
(私、課長にキスをされたの……?)
 キスをされたことがうれしいのに、とても恥ずかしい。けれど、本当に好きな人と結婚をしたんだと実感して感極まる。
 本当は美織だって両親が決めた相手ではなく、大好きな人のお嫁さんになることを心の底では夢見ていた。だからこそ胸に秘めていた願いが叶えられ、心が震えていた。
「本当におまえは……。そんなところがかわいくてたまらないよ」
「……課長の奧さんになりたいから」
 その一言にため息をついた郁人を目の当たりにし、美織はいまの反応が間違っていたのかと不安になる。けれど次の瞬間荒々しく唇を重ねられ、わずかな隙間から舌先を差し込まれていた。
 息を奪うかのように口腔内を蹂躙され、なにが起きているのかさえもわからない。舌が反射的に奥へと逃げるが、郁人の肉厚な舌が搦めとるように追いかけてくる。
 まるで美織の逃げ道を塞ぐかのようなくちづけに怯み、美織は脚を戦かせた。
 なにが起きているのかわからないし、怖くてたまらない。なのに舌を絡ませあうだけで強く想われていると感じる。
「あっ……ふぁ……」
 紡いだ言葉すら自分の声だとは思えないほど甘美でいやらしい。
「無垢なお姫様がこれほどやっかいなものだと思わなかったぞ」
「す、すみません!! その、こういうのは、初めてだから」
「おまえのじいさんだけは味方につけておいてよかったって話だ」
「えっ!?」
 その言葉を理解できないまま、横抱きにされて困惑が隠せなくなる。
「きゃっ!」
「嫌か?」
「お姫様抱っこなんてされたことないから、はっ、恥ずかしくて」
「美織は俺のかわいい嫁だろう。だからそんなに恥ずかしがるな」
「でも……」
(嫌がるような声を出しちゃったけど、いい気持ちしないよね……)
 会社でも祖父たちの前でも聞いたことのない色気を含んだ甘い声音に痺れ、恐る恐る顔を上げる。
(怒ってないの……かな?)
 郁人の表情を見ると怒っているようには思えない。それどころかとても機嫌がいいように感じられた。
 会社に入社する前は男性と触れ合う経験も少なく、会社に入社してからも課長である郁人とぐらいしかあまり接したことがない。だからこそ恋人の距離感というものがわからず、とまどうしかない。
 そんなことを考えていると寝室に到着し、美織は慌てふためく。
「課長! ここって」
「いまから美織を抱く……。セックスをするって言ってるんだ」
「なっ!?」
 夫婦になれば夜の営みがあることは知っている。けれど初めてのくちづけについていくのもやっとな美織には、あまりにも早すぎる展開だ。
 寝室へと連れて行かれ、ベッドに寝かせられているこの状況に身体が震えてしまう。目の前にいるのは世界中の誰よりもそばにいたい人なのに、あまりにも急に夫婦となってしまったのだ。
(本当にこれでよかったのかな?)
 しかもそれは会長と祖父が言い出したことで、お互いの両親は知らない。
 悶々と考えを巡らせていると、郁人が美織を組み敷き、ちゅっと軽いキスを落とす。
 まるで美織を安心させるかのように優しく微笑む郁人に、鼓動がドキリと跳ねる。
「美織は俺の嫁になったんだろう? そんなに怖がるな」
「そっ、そうは言いましても……」
「それとも、俺がおまえの夫になるのは、ふさわしくないからか?」
「絶対に違います! むしろ私の方が課長にふさわしくないです」
 美織はぶるぶると首を横に振って郁人の言葉を否定する。その反対はあっても絶対にそれだけはないし、彼以外のほかの誰かとの結婚もいまになっては考えられない。
 たとえ父が決めた相手でも、きっとその相手を受け入れられないだろう。
 そんな美織の気持ちに気づいてくれたのか、郁人は優しい笑みをかべてもう一度額にキスをした。
「だったら、なにも考えずに俺の嫁になればいい」
「……課長」
「だけど当面の間は、ふたりだけの秘密だ」
 いままでもお互いに秘密があった。けれど、いまは秘密を共有する間柄にして夫婦だ。
 部署にいる同僚たちは美織が志藤グループの令嬢であることも知らないのに、野々原の御曹司の妻になったと知ったらどうなるのか。考えただけでも怖い。
 そう思った瞬間、郁人が自分の手を強く握りしめていることに気づく。
「もう、おまえはひとりで抱え込むことはない――」
「え?」
「いままではひとりで抱えてきたことも、俺がすべてを受け止めてやるから」
 その言葉に驚いて顔を上げると、優しく微笑む郁人がいる。この瞬間ですら、自分を組み敷いている男性が郁人であることに安堵してしまう。
 ――もしもなにもかもが夢で、本当は彼以外と初夜を迎えることが現実ならばあまりにも悲しい。
 そう思っただけでいまにも涙がこぼれ落ちそうなぐらい、課長が好きでたまらない。
「なにも考えずに俺だけのものになれ」
「課長……」
「美織は俺のただひとりの嫁なんだ。だから名前で呼んで欲しい」
「郁人……さん」
 夫の名前を初めて呼んだせいか、頬が熱くてたまらない。不安もまだあるがこの人を信じたいという思いが強くなっていく。
 初めて抱かれるなら郁人がいい。ずっと胸に秘めていた思いが叶うのだから、いまは素直に身を委ねようと心に決める。
 抱きしめられて耳朶を舐めしゃぶられながら、長い指先で首筋をなぞる郁人の指がひどく淫靡に思えた。
「俺に愛される決心ができたのか?」
 からかうような表情で質問をしてくる郁人の問いに、答えられずに首を横に振る。いくら決心ができたとしても、このまま流されるのはやっぱり悔しい。
「本当にだめなら、これ以上のことはしない」
 こんな時は素直に認めた方がいいのだろうかと、答えないことで郁人の機嫌を損ねてしまったのかと不安になる。
「美織は本当にかわいくてたまらないな。そんなに不安そうな顔をして」
「……怒ってないんですか?」
「こんな初々しい反応をされたらたまらないよ」
 笑いながらそんなことを言われて、やっとからかわれていたことに気づく。そこで軽くキスをされ、抱きしめられる。
 郁人の体温に包まれると、心音が聞こえてくる。それだけで心臓が壊れそうなほどドキドキした。
「触ってもいいか?」
「えっ!?」
 どこを触ってもいいかと聞かれたのかわからず首を傾げると、郁人の手が美織の胸に触れる。服の上からとはいえ異性に胸を触られた経験がない美織は驚くしかない。
 ちゅっちゅっと音を立てて耳朶をしゃぶられ、長い指が愛おしそうに頬を撫でる。
「抱いてもいいか? 美織」
 美織の意思を確かめるかのように真剣な表情をして聞いてくる郁人に、美織は羞恥心を堪えながらも小さく頷く。いまはこれが精一杯だし、なにもかもが初めてだ。
 そんな美織の行動を確かめるように、長い指先で首筋をなぞる郁人の指がひどく淫靡に思えた。
「だめっ……んっ……」
「徹底的に愛してやりたい、ただひとりの俺の嫁だ」
「えっ……?」
「おまえを妻という器に閉じ込めるつもりなんてない。その意味がわかるか?」
 郁人の問いかけに答える余裕がない美織は、返事もできずに身体に触れる指の感触に支配されていく。優しくなぞられただけで身体がビクンと跳ね、甘い愉悦に襲われる。
 ゆっくりとブラウスのボタンを外されて、ブラに包まれた下着が露わになる。そんな自分の姿に打ち震え、美織は必死で身体を隠そうとした。
 だが、身体をくねらせたせいで背中のホックがあっけなく外され、羞恥に戦慄くしかできない。  
「本当に綺麗な身体だな。美織」
「恥ずかしいっ……」
「こんな可憐な桜の蕾があるうえに、美しいなんて凶器だよな」
「きっ、凶器って……」
「男を誘惑してやまない凶器そのものだろう。ただし、美織は俺だけを誘惑すればいい」
 耳元で甘くささやいてくる声こそがいまの美織には凶器でしかないのに、裸の上半身を舐るように見つめられる。郁人の獰猛なまなざしが怖くて隠そうとするが、腕を取られてしまう。
 美織の慌てた行動に郁人がからかうような笑みを浮かべ、羞恥心でいっぱいになる。
「おまえは自分の旦那に、胸も見せられない悪い妻なんだな」
「ちがっ……。かっ、課長があまりにも違う人みたいで」
「美織だから欲望が抑えきれないんだろう。だから、おまえを嫁にしたんだ」
 胸を鷲づかみにしながらも自分だから嫁にしたと言い放たれて息を呑む。これほど強く求められているのだと実感し、無意識に身体がピクリと跳ねた。
 そんな自分が恥ずかしくて泣きそうになってしまう。が、そこで自分をまっすぐに見ている郁人に気づく。
「俺は妻となる女は飾りとしてしか見られないと思っていたんだ」
「えっ?」
「だけどおまえだけは俺の欲望のままに抱きたい。女としての悦びを与えてやりたい」
 それは野々原の御曹司としての言葉なのかもしれない。そう思うのは、美織だって父が決めた相手だったらお飾りの妻になっていたと想像できたからだ。
 普通の恋人同士ならあたりまえのように愛し合えるかもしれない。けれど……。
「美織、俺だけのかわいくて淫らな嫁になってくれないか?」
「私……っ、ふぁっ」
 郁人の手が徐々に乱暴に胸を揉みしだき、美織の身体に甘い愉悦を与えてくる。その心地よさからはしたない声が漏れ、羞恥で心を掻き乱された。
「おっぱいを触られただけでそんなに気持ちいいのか」
「ちがっ……」
「じゃあ、もっと触り心地を確かめないといけないな」
「ふぁ……」
 淫らな手つきで乳房をゆっくりとこね回され、美織を煽り立てるようにいやらしい言葉を口にする。郁人が見せるいろんな表情に翻弄されている。けれど、どの表情とも違う、課長でもなく野々原の御曹司でもなく、野々原郁人としての粗野で色気のある男の顔に女心が疼く。
 鎖骨を辿っていた舌先がなだらかな丘を駆け上がり、頂きにちゅっとくちづけた。そのまま乳首を咥えられて愛撫をされる。
「あっ!」
 煽情的で形のよい唇が自分の乳頭を舐め転がしている。その事実が信じられないまま、美織の身体が素直に蕩けはじめていく。
 なのに与えられる快楽に抗えず、身体が震えていた。
「身体も素直に蕩けはじめてきたな。いい子だ、美織」
「恥ずかし……い」
「これだけで恥ずかしがるなよ。もっと恥ずかしいことを教えてやる」
「だめっ……」
 舌先で乳首をなぞられただけで脊髄が痺れ、無意識にこれ以上の快楽を与えられることが怖くなる。そんな予感に包まれた瞬間、郁人の腕が腰を抱きしめた。
「淫らな美織は俺だけが知っている。それならいいだろう」
「課長……」
「誰にも美織を渡すつもりも、手放すつもりもないから安心して俺に溺れろ」
 その言葉に安心した美織は身体の力を抜いて片腕を弛緩させる。
 胸の愛撫だけでも震えるほど気持ちいいのに、未知の快楽が怖い。抱きしめられながら耳元で甘くささやかれただけで、蕩けてしまいそうになる。乳首をきゅっとひねられ、ひときわ甘い愉悦を与えられる。
「ふぁ……んっ……」
「いい子だ、美織。おまえは本当に素直だな」
「ひゃっ……」
 指の腹でそっと果実のような尖端をなぞられただけでも甘美な刺激に変わり、美織は背中をのけぞらせる。背中とシーツの間にできた隙間から郁人の手が忍び込み、美織の素肌をなぞりながらショーツに手をかけて脱がしていく。
 なにも隠すものがない裸身を卑猥なまなざしで嬲られ、無垢な美織の官能を煽る。
 憧れの男性に自分の身体を見られているだけで恥ずかしい。そのはずなのに身体が甘く蕩けてしまう自分を恥じる。
「恥ずかしがらずに俺に身を委ねろ。極上の快楽をくれてやるから」
(課長となら大丈夫だから、いまは身を委ねよう)
 耳元で甘くささやかれた言葉が美織を刺激し、身を委ねる覚悟をする。極上の快楽がどんなものなのかが知りたくて、身体が疼いていた。
「やぁ……っ」
「俺が全部教えてやるから怖がらなくていい」
 淫らな舌と手が美織の素肌を辿り、赤い舌で乳頭を転がされる。やがて下腹部に辿り着いた郁人の指が秘部をゆっくりとなぞり、さらに美織の羞恥が煽られていく。
 くちゅりという水音が耳に響くたび、肢体が蕩けるような熱に支配されていた。
「はぁ……んっ……」
「ここに触れてると気持ちいいって知ってたか?」
「知らな……っ」
「知らないなら、俺の指をちゃんと覚えないといけないな」
 郁人の指が秘粒を的確に捉えた瞬間、郁人の顔がゆっくりと花芯に近づく。蜜襞にそって動く舌先に翻弄され、背中をのけぞらせた。
「ひゃっ……」
「たっぷり濡らして気持ちよくならないとな」
「いじわるしないでっ……」
「かわいい嫁にいじわるなんてするわけがないだろう」
 いつもとは違う色気を纏った声で甘く責められる。そこで断続的に続いていた愛撫が収まり、シャツを脱ぎ捨てる音が聞こえる。薄目の向こうで目をそらしていたが、視界の向こうにしなやかに引き締まった筋肉質な郁人の身体がうっすらと見えていた。
 確認する勇気はないが太ももに固いもの押しつけられ、彼もすべてを脱ぎ捨てたのだとわかる。とても熱い感触にぞくりと震え、肢体を戦慄かせた。
「丁寧にほぐすから心配するな」
 下腹部に滑り込んだ郁人の指が小さな突起を捉え、円を描くようになぞられる。自分でもあまり触れたことのない部分を触られ、甘く蕩かされていく。
「ふぁ……」
「ココを触られて、そんなに気持ちいいのか」
 ちょっといじわるな問いかけに首を横に振って否定する。が、じわじわと押し寄せる快楽に抗えず、ぎゅっとシーツを握りしめた。
 それでも郁人が花芽をこすり続けているせいで喘ぎの声が止められず、美織は身悶えることしかできない。
 やがて目の前が真っ白になり、せり上がってくる快感に身体が弛緩する。まるでどこかに飛んで行きそうな感覚に美織は無意識にシーツを掴んだ。
「イッたんだな。美織」
「ふぇ?」
 生まれて初めての経験にただ驚く。甘く蕩かされた身体が疼くように熱く、自分のものではないようにすら感じていた。
「怖いことはしないと約束するから、もっと美織を気持ちよくしていいか?」
 優しい声が耳元に響いて顔を上げた。そこで愛おしそうに自分を見ている郁人に気づく。その表情に安心し、郁人の問いかけに答えるように頷くと、頬にちゅっとくちづけられていた。

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