肉食御曹司の淫らな独占愛 〜動き出した初恋に甘く溺れて〜

書籍情報

肉食御曹司の淫らな独占愛 〜動き出した初恋に甘く溺れて〜

著者:ぐるもり
イラスト:小島きいち
発売日:11月27日
定価:630円+税

とある事情から将来の夢だった陸上を諦めたOLの泉は、スポーツ用品メーカーの商品開発部で働いていた。
そんなある日、泉の職場に初恋の相手である美晴が新たな上司としてやってくる。
彼には彼女や婚約者がいるという噂があるけれど、ずっと想い続けていた相手に情熱的に迫られた泉は、一夜限りの恋でもいいと美晴との関係に溺れてしまう。
「俺の気持ちをよく分かっていないようだから、しっかり教えないと」
けれど、二人の関係を割り切ろうとする泉に、彼は思いもよらぬ独占愛を見せてきて……!?

【人物紹介】

木村泉(きむらいずみ)
高校時代は陸上部所属。東京から地元の高校に転校してきた美晴に淡い初恋を抱いていた。
現在は陸上の夢を諦め、スポーツ用品メーカー『YONEZUKAスポーツ』で働いている。

与根塚美晴(よねづかよしはる)
『YONEZUKAスポーツ』の商品開発部に課長としてやってきた、泉の高校時代の同級生。
陸上部の泉が走る姿に心を打たれ、実家を継ぐために東京に戻った。

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*取り扱いサイトは、各書店に掲載され次第、更新されます。

【試し読み】

「……よし、はる」

 肌が隙間なくぴったりと合わさり、互いの熱を分け合う。呼吸で胸郭が上下するたびに、乳首が擦れる。

「っ、あ」

 先ほどのような柔い刺激ではない。体をめぐる快楽に、泉はもう身を任せ始めていた。

「ここ?」

 熱が離れ、寂しさを感じたのは一瞬だった。先ほどまで泉の耳元で何度もささやいていた声が胸元で聞こえる。視線を下にやると、肉厚な舌が乳房の先端をからめとっている瞬間に出くわした。

「あっ!」

 じゅる、と唾液を絡めた音が響く。刺激は遅れてやってくるのだと初めて知った。水音を響かせるように、舌が乳首をしごく。時につぶされ、時にあまがみされ、泉は刺激に合わせて声を漏らした。それだけではなく、反対の乳房も大きな手に包まれていた。指の間からはみ出る肉に、快楽が余計に増長された。

「ん、あぁっ」

 時には声を殺し、快楽に耐える。どうやら自分は、先端をいじられるのが弱いようだ。泉がそう気づいた時には、とっくに美晴に見抜かれていた。執拗に先端をいじめ抜かれる。

「あ、だ、めぇ……」

 否定の声は受け入れてもらえない。口だけの拒否だとばれてしまっているのだろう。絶妙な力加減で先端を押しつぶされると、刺激が胸から喉にせりあがり、声となる。

「きも、ち……いい」

 快楽が言葉となり、漏れ出る。口の端から銀糸を垂らし、何度も口にした。すると、美晴の愛撫が止む。なぜ、と視線を彼のほうに向ける。すると、ひどく満足そうに笑みを浮かべる美晴と視線がかち合った。

「泉」

 濡れた乳首に息を吹きかけるように名を呼ばれる。いじめられていた先端が一瞬にして冷えていく。ぶるりと体を震わせていると、大きな手が形を覚えるように腹、太もも、尻を撫でていく。どんな些細な刺激でも、泉にとっては抗えない快楽となっている。止められない喘ぎの合間に、キスで声を奪われる。肉厚な舌が口内を舐り、呼吸を奪った。苦しい、と胸を叩くと唇は離れる。しかし、今度は体中を舐められる。
 漏れる声は言葉をなしていない。荒い息遣いと、泉の高い声だけが部屋に響いた。

(すごく、手慣れている)

 そんな事実を全身で感じていた。自分が淡い初恋に恋い焦がれていたうちに、美晴は一人の男性になってしまった。その事実が泉をひどく不安定にさせた。

「何を考えているの?」

 きり、と乳首をひねられた。

「あぁっ!」

 びりびりしびれるような快楽が体を駆けめぐる。溢れ出た声はより一層大きなものだった。

「俺に集中して」
「っ、してる、してるからあ!」

 くりくりと乳首を何度もしごかれ、声も大きくなる。乱れた呼吸ではろくな反論もできず、されるがままだ。

「俺は、泉でこんなになっているのに」

 手を取られ、どこかに誘導される。手のひら全体に感じたものは、硬い何かだ。数度擦るように動かされ、手が形を記憶していく。長く、硬い。そして、じんわりと伝わる熱。泉の手が動くたびに、頭上で荒い息が漏れる。歯を食いしばり、何かに耐えている顔。泉はそんな時でも美しい美晴の反応を楽しむようにゆっくりと手を動かす。

「……何を触っているか分かる?」

 与えられた快楽のせいで思考が定まらない。ただ、見たことのない顔をもっと見ていたい。泉の手の動きは、そんなささやかな願いからくるものだった。

「キツイな」

 つかまれていた手が離された。手のひらで感じていた熱が遠くなり、美晴の体も遠のく。ぼんやりとその動作を見つめていると、金属の擦れる音が聞こえてきた。忙しない音が止まった時、やっと思考がクリアになってくる。そして目に飛び込んできたのは、大きくそそり立つ見たことのないものだった。赤黒く、先端が怪しく光るそれは。

「っ!」

 目が覚めるような衝撃だった。視線が奪われ、自分が触っていたものの正体を知ってしまった。言葉を失った泉の理性が完全に戻るよりも先に、美晴が唇を重ねてきた。

「っ、ふぅ」

 口内をまさぐられ、体への愛撫が再開される。そして、今までは撫でるにとどまっていた太ももの内側にスカートをめくって彼の指が侵入してきた。びくりと体が震え、唇の合間からくぐもった声が漏れ出た。キスと体への愛撫に翻弄されていると、大きな手が、隠された内側を撫で上げた。

「っ、あ!」

 ショーツ越しの愛撫だったが、遠慮のない手は、クロッチ部分からゆっくりと入り込んでくる。そして、数度、合わさった肉を撫で上げた後、もったいぶるように引き抜かれた。

「ひゃ……」

 指の去る感覚に、また声が漏れ出る。美晴から与えられる刺激は、あっという間に全身を駆けめぐっていく。そうして消えない快楽の余韻を味わっているうちに、スカートとショーツが脱がされていく。体を隠すものは、もう何もなかった。

「ん、う」

 下半身に走る冷たさに、一瞬思考が冷静になる。しかし、それを許さないとばかりに、キスが降ってくる。
 迫る唇から逃れるように大きな声が漏れた。唾液が絡まる音とは別の、小さな水音が下から聞こえてくる。

「すごく、濡れている」
「ぬ、濡れ……?」
「そう。泉が気持ちいいっていう証拠」

 ほら、と美晴が指を目の前に突き出してくる。長い指の先端は泉から見ても分かるほどに妖しく光り輝いていた。

「泉の味だ」
「っ、な、なめた」

 泉の視線を奪った光る指を、厚い舌が舐る。美味だと言わんばかりにうっとりとした表情は、またもや泉が見たことのないものだった。一連の動作に視線を奪われているうちに、足を大きく広げられた。抵抗をする暇もなく、水源を求めて指が侵入してきた。

「んっ、ぁあ!」

 びりびりと体中を快楽が駆けめぐる。何が起こったのか分からない。けれども、どこかに触れた瞬間、知らない感覚が全身を襲った。短く呼吸していると、またどこかを擦られる。そのたびに泉は背中を逸らし、甘い声を漏らした。

「見つけた」

 楽しそうな声が頭上から聞こえる。反論する力はない。だらりと足を投げ出し、何度も何度も指の腹で何かをしごかれる。

「ここが泉の気持ちいいところだよ。クリトリス」
「く、り」

 そうだよ。と優しい声とキスが降ってくる。快楽の正体を理解したところで、愛撫が再開した。言葉とキスとは違い、その愛撫は容赦なく泉を責め立てた。体中の感覚が集まったような刺激に、蜜が流れ、落ちる。それは時に美晴の指に絡みつくのか、小さな水音を奏でる。

「アッあぁ……だ、めっ! やだ、ダメ、ダメ」
「大丈夫。そのまま」

 額、瞼、頬にキスが落ちてくる。しかし、全身を駆けめぐる快楽は泉を虐めぬく。未知の感覚に恐怖が先行する。誰か助けて、と腕を伸ばすと、広い背中にたどり着いた。力加減などできず、泉は縋るように思い切り爪を立てた。

「あぁっ!」

 柔い皮膚に爪がめり込む感覚を指先に感じた。その瞬間、頭が弾けたように真っ白になる。

「っ、あぁぁあっ!」

 叫び声に近い声が溢れ、同時に全身の力が抜けた。

「っはっ、はあ……」
「上手にイケたね」

 優しく頭を撫でられる。美晴の声と、穏やかな手つきに、真っ白な世界から現実に戻る。

「いけ、た?」
「そう。泉が気持ちよかったってことだよ」

 荒い息を整える暇もなく、また唇が重なる。何度もキスをしていたせいか、唇が少しだけひりついた。全身が敏感になり、痛みすら快楽に変わってしまっているようだった。少しの刺激で体がひくつき、内側から溢れる蜜が止まらなかった。

「泉」

 変わらず熱情を孕んだ瞳に囚われた。そして、泉を冷静にしてしまった塊が溢れ出る水源に擦り付けられた。

「泉の中に、入りたい」
「っ、」

 手が記憶した雄の大きさが頭の中で蘇る。緊張でまた体がこわばってしまいそうだったが、美晴の吐息が肌の上をすべるうちに、理性は消え去った。しかし、泉は自分が大切なことを伝えていないことを思い出す。

「……わたし、はじめてなの」

 両手で顔を覆い、告白する。口に出すのは勇気がいった。さんざん乱れておいて今更かと思われるかもしれない。けれども、黙っているわけにもいかなかった。指の隙間から美晴の顔をのぞき見る。すると、大きな目を真ん丸にし、驚きを表情で表していた。しかし、その目はすぐに細められ、至極嬉しそうに唇が弧を描いた。指の隙間から目が合う。手をゆっくりとどかされた。

「そうか、そうか……はじ、めて」

 噛みしめるように美晴が何度も繰り返す。

「はじめては、美晴が、いい……なって、ずっと……そう、思って……」

 美晴との淡い思い出を大切に生きていたら、いつの間には処女歴=年齢になってしまった。出会いがないわけではない。数度お付き合いを申し込まれたこともあったが、踏み切れなかった。その原因である男が今、目の前にいる。羞恥と、恐怖と、喜びが入り混じった感情に泉はもう破裂寸前だった。

「……、めんどくさい?」

 自嘲を含んだ声は震えていた。しかし、美晴は喜ぶような表情を隠そうとしなかった。

「……まさか」

 額にかかった髪を撫でられる。そのまま、額に唇が落とされる。優しいキスに、泉は胸を高鳴らせる。

「こんな光栄なことはない」

 声にも喜びを乗せた美晴が、足を持ち上げた。そして、内ももを濡らす蜜を舐め取られる。何をするのだと思い手を伸ばすが届かず、蜜肉をかき分けるように舌が侵入してくる。誰も知らない場所に舌が添えられた。

「俺のモノが入るように……慣らしていこうな」

 吐息が隠された場所を刺激する。先ほど散々弄られ敏感になっていたため、それだけで泉は体を震わせた。そんな泉をかまうことなく秘肉をかき分けるように舌で撫でられる。先ほどの指とはまた違う感覚に、泉は言葉を失い子犬のようにか細い声で鳴くしかない。溢れ出る蜜も一緒に舐め取っているのか、じゅ、じゅと卑猥な水音が部屋に広がった。

「っ、やだ! 恥ずかしい」
「うん、でも、どうしても泉を味わいたい」

 股の間から、縋るような視線を送られる。そんな目で見られては、断ることもできない。

「で、でも……」
「泉の、全てを知りたいから」

 力強い言葉だった。情熱が迸る視線からは逃れられない。小さく頷くと、優しい笑みを見せてくれた。淡い初恋と重なる笑みは、泉の胸をさらに高鳴らせた。
(わたし、やっぱりこの人が好きなんだ)
 改めて思い知らされた自身の恋心に、喜びのかけらもなかった。これが恋人同士の逢瀬ならどれほどよかっただろうか。

(でも、はじめてはやっぱり美晴が良い)
「……私も、美晴に、知ってほしい……な」
「っ、いずみ」

 もう一度、頷く。すると、美晴がゆっくりと体を起こして、顔を近づけてきた。性急な行為の中で、こんなに長く視線を絡めたことはあっただろうかとふと思う。あったかもしれないが、泉には余裕がなく、気づかなかっただけかもしれない。それほど長くじっと見つめられる。

「俺も、知りたいよ。泉のこと」
「……よし、はる」
「どんな些細なことでもいい。知りたい。全部、俺が知らないことが無いくらいに」
「ふふ……なに、それ」
「笑えばいい。本気だからな」

 ちゅ、と小さな音を残して唇が触れる。夕暮れの教室でしたささやかな触れ合いのようなキスだった。それを合図に、美晴が離れていく。全てを知ってほしいと決意したからか、恥ずかしさはない。ゆっくりと足を開くと、美晴が顔を埋めた。舌先が触れた瞬間、びくりと体が震える。それを合図に、蜜を舐め取るように舌を這わされる。

「ん、ぁっ!」
「クリトリスがすごく腫れてる。すげえ美味そう」

 下腹部の奥がうずくような刺激だった。先ほど教わったばかりの赤く腫れた陰芽も一緒にをいじられ、快楽で足が揺れる。二か所を責められるたびに、頭の中が何度も真っ白になった。

「イク感覚をすっかり覚えたようだな」
「そう、なの?」
「さっきも言ったけれど、気持ちいいことだよ。大丈夫。身を委ねていればもっと気持ちいいよ」

 蜜を味わうように、舌なめずりをしている。オレンジの間接照明に照らされたその姿は、いやらしさと精悍さを兼ね備えていた。優雅な美しさに、視線が何度も奪われる。

「次はもう少し、奥」

 長い指が一本、目の前に差し出される。な、め、て。と、唇が動く。はっきりと聞こえなかったが、そう言われたような気がした。誘われるように長い指に舌を這わす。関節、指紋や皺すらも感じ取るようにゆっくりと舐める。じっとりと自分を見つめる凶暴な瞳と視線を絡ませていると、美しい顔が、泉の愛撫で少しずつ歪んでいく。その過程にほの暗い喜びを感じていると、ゆっくりと指が引き抜かれた。

「上手。今日はいいけど、次は俺のも舐めてね」

 いいこ、と頭を撫でられる。

「上手にできたご褒美」

 泉の蜜を纏うように、秘部を撫でられる。くすぐったさの勝る快楽に身をよじらせていると、軽い圧迫感が下腹部に走る。泉が愛撫していた指が肉をかき分け入り込んできた。決意がここでも生きていたせいか、恐怖はない。快楽におぼれた泉は、期待のせいか腹の奥がずきずきとうずいた。

「っ、あ! っ、い」

 鈍い痛みに思わず声が出る。すると、また額に唇が落とされる。その優しさを享受していると、ナカをほぐすように指が動く。すると、違和感の向こう側にある小さな快楽を泉が拾う。それは甘い声となって口から漏れ出る。

「ああっ……はぁ……」

 指が一本増えたときには、高い声が部屋に響いた。

「見つけた」

 痛みの向こう側の快楽に、蕩け切った体は正直だった。ナカの良い場所を、美晴は徹底的に虐めぬいた。どうにもできない感覚を逃そうとシーツをぎゅっとつかむ。我慢しようと思っても、声が漏れ出る。

「シーツじゃなくて俺をつかんで」

 甘く優しい声でささやかれてしまえば、抵抗する術はない。先ほどと同じように背中に手を回す。指がナカでうごめくと、声を出すだけでは我慢できない快楽が襲ってくる。またもや爪が皮膚に食い込むほど強く抱きしめてしまう。

「あ……つ、め……っ、ごめ……」
「だいじょうぶ。俺に任せて」

 その言葉通り、痛みを紛らわすようにキスが落ちてくる。美晴の態度に甘えて、また背中に縋りついた。キスの合間に、しっかり立ち上がり主張した乳首を軽くこすられる。痛みを忘れ、快楽に流されていると、イクきっかけを教えてくれた陰核もいじられる。

「ん、あぁっ! ダメっ、いっちゃ……!」

 数度、軽く絶頂を迎える。そのたびに、指が奥を刺激する。痛みが紛れ、奥底にある快楽のかけらを、美晴は見逃さなかった。乳首や陰芽への刺激が減り、ナカへの愛撫が増える。だらりと流れ出た蜜を潤滑油に、動きが激しさを増す。ぴちゃぴちゃと卑猥な水音が響き、合わせるように泉も喘ぐ。堪えきれない快楽をいなすように、ぎゅうっと体を密着させる。

「いずみ」

 耳元で名を呼ばれる。その瞬間、今日一番の絶頂が泉を襲った。

「っ、ああぁっ!」

 眼前にちかちかと光が飛び交い、だらしなく口を開く。唾液を処理することもできず、口の端を流れていく。

「っ、は、は」

 声も出ない。だらしなくベッドに体を投げ出すしかできなかった。先ほどまで美晴の背中にしがみついていた腕も、縫い付けられたようにベッドに沈んでいた。

「うん、頑張ったね」

 ねぎらうかのように、顔中にキスが落とされる。心地よさにうっとりと目を細めていると、最後に荒い息を呑みこまれた。

「もう大丈夫だね」
(だいじょうぶ?) 

 何が、と問うた声はかすれていた。その疑問に答えは返ってこず、美晴が口角をゆるりと上げた。体が離れ、ベッドが軋む。そして、膝立ちをした美晴が見せつけるように腰を突き出してきた。見せつけられた陰茎は、先ほどよりも大きさが増しているようにも思えた。しかし、恐怖はもうない。何をするのかも、理解していた。するすると避妊具をかぶせる姿すら美しく、見惚れてしまう。

「俺も、もう限界」

 凶暴なほどにそそり立った陰茎が、濡れそぼった秘部にあてがわれる。腫れた突起を擦り、泉はまた与えられる快感へのドアをくぐる。
 腰をしっかりつかまれ、引き寄せられた。痛みの向こうの快楽を知った体は、次の刺激を待ち望んでいた。

「泉、ずっとこの時を待っていた」

 濡れそぼった入り口は、すぐに美晴の侵入を許した。ゆっくりと入り口を広げられ、ずっしりと存在感のある質量を感じた。

「ゆっくり、挿れるよ」

 指とは比べ物にならない質量に、泉は唇を噛む。

「傷がつく。俺の指を噛んでて」
「っ、あ、だめ……また、」

 傷つけちゃう。とかすれた声が漏れる。その言葉を遮るように、太い指が押しこまれた。噛んではいけないと思えば思うほど、歯を立ててしまう。しかし、じっと見つめられる瞳に、痛みは浮かんでいない。ひどく満足そうに口元を歪め、泉だけを見ていた。

「……っ、」

 下腹部に感じる重たさと痛みが、その表情を見るだけで吹き飛んでしまう。今彼は自分だけを見つめている。それだけで心がひどく満たされた。

「よし、はる」

 名を呼び、差し込まれた指に舌を這わす。泉も美晴だけを見つめていた。愛しさを込めて美晴の指を愛撫する。自分がしてもらったことを返すように。

「……っ、奥まで、入れる」

 口から指が引き抜かれる。名残惜しそうに、ちゅぽ、と唾液の絡まる音が響いた。その勢いで美晴に縋っていた手がだらりと垂れ、シーツの上に落ちる。そして、名前を耳元でささやかれる。甘い声は、媚薬のように泉の体を熱くさせた。
 その瞬間、腹の奥底に感じたことのない重みを感じる。痛みは一瞬だった。質量の大きさに呼吸を奪われる。

「入った……泉……」
「っは、よしは……るぅ……」

 頭を撫でられ、深呼吸するように言われる。言われた通りゆっくり息を吸い、吐く。キスが雨のように降ってきて、合間に「大丈夫か?」とささやかれる。美晴の息も荒く、必死に何かに耐えているようにも思えた。

「だいじょう、ぶ」

 何度も何度もそう返す。そのたびに、キスが落とされ、胸の奥がキュンとうずいた。我慢しないでほしいと視線で訴えると、美晴が目を細めた。

「いいのか?」
「っ、うん、だい、じょうぶ」

 夢だと思っていた淡い初恋の続き。美晴を想えば痛みがいくらかマシになる。
 泉が了承すると同時に、美晴が軽くナカをゆする。すると、先ほど覚えたばかりの良い場所に何度も陰茎が当たる。

「あ、あ、んぅ……ああ、」
「そう。上手。気持ちいいことだけ感じて」

 呼吸とともに漏れ出る声。痛みだけではない、甘さを含んだ声を美晴は受け取ったようだ。

「少し動くよ」
「あ、待って、だ、め」

 泉の静止を振り払うように腰の動きが加わる。段々と激しさを増し、肉のぶつかり合う音が響く。ゆっくりと、しかし確実に泉の中に美晴が刻み付けられる。早急でない動きの中に泉への気遣いを感じる。ひきつるような痛みは、動きに合わせてなりを潜める。

「痛くないか?」

 その問いに泉は頷く。髪が乱れ、顔にかかる。すると、それを優しい手が整えてくれる。再会したときは他人のように振舞われたが、今は誰よりも側にいる。今なら少しわがままを言っても許されるのではないか。先ほど散々背中を傷つけて、今更かもしれないが、泉は手をまっすぐに伸ばした。

「ぎゅってして」

 子供がだっこをねだるようなポーズになってしまったが、彼は正しく受け入れてくれた。胸部がぴったりを合わさる。互いの汗で湿った肌は隙間なく空間を埋める。触れていない部分などないくらい抱きしめあうと、自然と唇が重なる。エレベーターの中でしたような凶暴なキスではなく、互いの隙間を、寂しさを埋めるようなキス。愛されていると勘違いしてしまいそうだった。
 それでもいい。今日はこの一夜限りの恋に酔うと決めているのだ。そして、その相手が初恋の……ずっと想い続けていた人であれば冷静になることなど無理だった。そこまで頭に浮かび、泉は考えることを放棄した。

「は、すげえ。締め付けられる」
「っ、あっ、やだ、だめぇ!」

 指とは全く違う刺激は、泉から思考を奪う。とにかく味わったことのない快感に翻弄され、流されていた。理性を捨てた泉は高く鳴いた。

「あっ、あぁっ」
「泉、呼んで、俺を頼って」
「ん、ああ……よし、はるぅ」

 さらに強く抱きしめると、中心部を突く雄芯が硬度を増して、泉のナカを広げた。今度は痛みもない。

「っ、く……」

 余裕のなさそうな表情だったが、泉を見つめる瞳だけはまっすぐで決して逸らされることはない。その瞳に吸い込まれるように唇を寄せると、望んだとおり厚い唇でふさがれた。
 今日だけの関係だとしても、泉はこれ以上ない幸せに包まれていた。絶対に離さない、そんな気持ちで美晴にしがみつく。

「泉、イケる?」

 その問いに、何度も頷く。肉のぶつかる音、良いところへの刺激、蜜の絡む音、そして初恋の男性。心も体も満たされ、泉の絶頂はもう間近だった。

「あっ! あぁあーーっ!」

 奥を押しつぶされ、泉は快楽に抗うことなく達する。ナカがぎゅう、っと締まったのが自分でも理解できた。

「っ、俺も、」

 頭が真っ白になる前に、食いしばるような声が聞こえた。わずかに残った意識をフル稼働し、泉は美晴の耳元でささやく。

「ずっと、会いたかった……」

 その言葉を合図に、鋭い熱を感じた。薄い隔たり越しに注がれる熱に、泉は腹の奥底がうずく。薄い隔たりがあることに寂しさを感じてしまうほどの熱だった。

「……俺も、ずっと会いたかった」

 互いに荒い息を隠そうとせず、美晴がそう言葉にする。泉は何度も頷き、背中をぎゅっと抱きしめた。そのまま、緊張の糸が切れたように意識が遠のいていく。美晴の焦ったような声が聞こえたが、泉は返事ができないでいた。ただこのままでは心配をかけてしまう。そう思った泉は、最後の力を振り絞って口を開いた。

「よし、はる。まだ側にいてね」

 

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