死に損ね令嬢と人嫌い伯爵 ~揺るぎない運命愛からは決して逃れられない~

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死に損ね令嬢と人嫌い伯爵 ~揺るぎない運命愛からは決して逃れられない~


著者:鞠坂小鞠
イラスト:石田惠美
発売日:2024年 4月19日
定価:630円+税

婚約者に浮気され、両親にも家のために利用されたイゾルデは、自らの生涯を終えようと自死の名所を訪れていた。
そこで出会ったのは、人嫌いで有名なオルデンベルク伯・アルフォンス。
追ってきた護衛に向かい、アルフォンスは突然、イゾルデとは許されない恋に落ちた恋人同士だと宣言するのだった。
遺書を残してきた手前、家に帰ることができないイゾルデは、しばらくアルフォンスの屋敷で過ごすことに。
なんと彼は、祖先が受けた呪いを受け継いでしまい、嘘をついた人間の顔を認識できない。
だが、イゾルデの顔ははっきりと認識できる――という。
「僕から離れないで、絶対に」
イゾルデに固執するアルフォンスは、日に日に蕩かすように彼女に触れ始める。
優しい言葉や仕種、触れ方を通じ、イゾルデはアルフォンスに惹かれていくが、その反面で彼に捨てられたくないという切ない気持ちを募らせていき……。

【人物紹介】

イゾルデ・フォルスト
かつては教会に仕える聖騎士の家として名を馳せた、フォルスト家の令嬢。
婚約者が浮気していて、それを両親に話すもまともに取り合ってもらえず、絶望していた。
自死の名所を訪れたことで、イゾルデの運命が動き出し……?

アルフォンス・オルデンベルク
人嫌いで有名な伯爵。
桁外れに整った美貌の持ち主。
祖先から続く呪いで、嘘をついた人間の顔が黒く歪んで見える。

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*取り扱いサイトは、各書店に掲載され次第、更新されます。

【試し読み】

「まだあの男が好きなの?」
「っ、違……」
「嘘をつくな」
 今度こそ否定しなければと張り上げた声は、刺すような彼の声に遮られる。怒鳴られているわけではないのに、有無を言わさぬ圧を感じ、イゾルデはこくりと喉を鳴らす。
「ッ、あ……」
 嘘などついていないと否定したいのに、それ以上声が出せない。
 無言のアルフォンスに抱き上げられ、イゾルデは強引にベッドに横たえられてしまった。彼の所作は少し乱暴で、背筋がぎくりと強張る。
「ま、待ってくださいアルフォンス様、私は……」
「もう黙って」
 なにを告げることも許さず、アルフォンスはイゾルデの服の紐に指をかけた。
 単純な作りのワンピースドレスはあっさりと緩められ、パニエを穿いていない裾もまた簡単にたくし上げられてしまう。
 過去にないほど強引だ。脚を大きく広げられ、イゾルデの息が上擦る。
 そのまま下着の紐に指をかけられる。震える脚にはアルフォンスの手が這ったきりだ。隠すこともままならず、イゾルデの秘所はすぐ空気に晒されてしまう。
 あ、と弱々しい声が零れたとともに、アルフォンスの指がそこを這った。
「別になにも知らないわけじゃないよ。実物を見たことがないだけで」
「……あ……」
「僕だって貴族の家の人間だ。どうすれば子供ができるかとか、女をどう扱えばいいのかとか、幼いうちから学んでる……あなたをそういう手段で縛りつけることも、本当は最初からできたんだ」
 指を上下に振れさせながら、アルフォンスは淡々と続ける。
 秘裂をなぞられ、イゾルデは堪らず身をよじった。無理やりの行為だというのに、そこからはささやかな水音が聞こえてくる。長い指が往復するたび、彼女の秘所はくちくちと淫らな音を立てている。
 羞恥に震えたイゾルデの首に、アルフォンスの唇が寄せられる。次の瞬間にはぴりりとした痛みが走り、噛まれたのだと察したイゾルデは、ひ、と震える声を落とした。
『嘘をつくな』
 痛みが走った首筋よりも、嘘を疑われた心のほうがずっと痛い。
 イゾルデの目尻に薄く涙の膜が張る。窓から差し込んでくる月明かりの下、その雫が見えたのか、アルフォンスは彼女の目尻に指を這わせた。
 微かな衣擦れの音が聞こえた後、イゾルデの耳に熱い吐息がかかる。
「見て、イゾルデ」
「っ、あ……」
「これを使って、今からあなたを犯す」
 ――これでもう、あなたは完全に僕のものになってしまうね。
 寛げられたトラウザーズから覗く、硬くそそり勃ったそれに、イゾルデの目は釘づけになる。
 何度か大腿を掠めたことはあったが、こうして直に見るのは初めてだ。
 濡れた秘裂をそれの先端でなぞられ、は、と掠れた吐息がイゾルデの喉を滑り落ちていく。ふたりの陰部を暗い目で見つめていたアルフォンスは、次の瞬間、滾った屹立を彼女の中へ強引に挿し込んだ。
「ひ、……ぅ……ッ」
 愛撫を受けていない秘所は、過ぎた質量に貫かれてぴりりと裂けてしまう。強烈な痛みがそこを伝い、イゾルデは強い眩暈を覚える。
 それでも拒絶はしたくなかった。
 痛いと訴えれば、きっと彼はためらう。あるいは傷つく。そう理解していたからだ。
『今からあなたを犯す』
 そう言いながら、アルフォンスは傷ついたような目をしていた。もう二度とあんな顔をしてほしくない――イゾルデがきつく唇を引き結んだ、そのときだった。
 薄い月明かりの下、うっすらと頬を高潮させたアルフォンスの眉が不意に寄る。繋がり合う場所を見つめるその目が一瞬見開かれ、間を置かず、挿し込まれたばかりのそれが引き抜かれた。
 圧迫感こそなくなったものの、裂かれた痛みはすぐには引かない。苦痛に耐えながらも、イゾルデはおそるおそるアルフォンスの顔へ焦点を合わせる。
 彼の顔はすっかり青褪めている。その原因はすぐに判明した。
 イゾルデの大腿になにかが付着している。暗がりだから黒ずんで見えるが、それは血だった。たった今、彼女の純潔が奪われた証。
 ホテルに戻ってからの強引な言動の理由について、ようやく想像が巡る。彼は、ヨルンによってイゾルデの純潔がすでに散らされていると考えたのかもしれない。
 こんな暴挙に出てしまうしかないほど、アルフォンスはヨルンに強く嫉妬したのだ。
 思えばこの部屋に戻って以降、ごく近くからイゾルデを射抜いてくる彼の視線には、常にほの暗い嫉妬が滲んでいた気もする。
「嘘じゃ、ないです……」
 青褪めたアルフォンスの顔に焦点を定め、イゾルデはそっと告げる。
「あの人は親同士が決めた婚約者でした。でも、私があの人に大切にされたことはありません。ただの一度だって」
「……イゾルデ」
「本当です。アルフォンス様には嘘をつかないって、私、約束したでしょう?」
 諭すような声で伝えているうち、イゾルデを苛んでいた強烈な痛みは少しずつ落ち着いてくる。
 起き上がり、彼女はアルフォンスの背にゆっくりと腕を回す。途端に彼は小さく呻き、両手で顔を覆ってしまった。
 今の彼を追い詰めているのは、イゾルデに血を流させたことはもちろん、なによりもイゾルデが嘘をついたと疑ってかかってしまったことなのかもしれない。イゾルデの胸にちくりと痛みが走る。
「どうかしていた。すまない……あなたの形を、無理やり、こんなふうに壊して……」
 ひどく弱々しい彼の声が、イゾルデの耳に深く残る。
 言葉の選び方が、いかにも人間の輪郭をよく知らないアルフォンスらしい。だからこそ余計に、イゾルデの胸はきつく締めつけられてしまう。
「いいんです。私、嬉しい」
「……え?」
「私のためにあんなふうに怒ってくれる人、今まで誰もいませんでした」
 言葉の通りだ。ヨルンの不貞を知った日も、両親さえ、イゾルデのために声を荒らげてはくれなかった。
 一度本音が溢れ始めたイゾルデの口は、もう彼女の意思だけでは止められない。
「今日だって、私、もしカサンドラ様のお姿がちゃんと見えるようになったら、アルフォンス様がカサンドラ様を選んでも全然おかしくないって、そんなことばかり考えて……なのに」
「っ、僕にはあなたしかいないと何度も言ってるだろう、どうして……っ」
 イゾルデの言葉を遮ったアルフォンスの声はとにかく苦々しい。どうして信じてくれないのかと、彼女を責める調子も孕んでいる。
 初めて彼に触れられた日から、ずっと胸の奥に閉じ込めてきたイゾルデの不安が、とうとう言葉になって口から溢れ出す。
「いいえ。だって、もしいつか呪いが解けたら、そのときアルフォンス様はどうなさるんですか?」
「どうもしない、僕にはあなたしかいないと言っている!」
「では逆に、私の顔が見えなくなってしまったらどうですか?」
 最後に問いかけた声は、自分で思うよりも遥かに低く、イゾルデは顔を歪めた。分かりやすく頬を引きつらせたアルフォンスをそれ以上見ていられず、彼女は深く項垂れる。
「私、あなたには一度も嘘をついていません。でも他の人にはついてきました。いろいろな人に、いろいろな嘘を」
 先刻、街路で偶然ヨルンに出会わなければあのときに伝えていただろう告白が、今頃になって彼女の口から零れる。
 両手で顔を覆ったイゾルデの目元から、ぼた、と大粒の涙が落ちた。
「どうして私の顔だけあなたに見えるのか、なにをきっかけに見えなくなってしまうのか、分からないんです。だから私、怖くて……それでも」
 怖い。それは紛れもなく本音だったが、彼女をこの上なく惨めにする言葉でもあった。
 この人に切り捨てられたら、もうどうやって生きていけばいいのか分からないと――あんなにも恐れたエルプセ岬の鮫の前へ、今度こそ自ら身を投げ出しても構わないと思えてしまうほどに、いつの間にかイゾルデは心から彼を慕ってしまっていた。
「……それでも、私、あなたの傍にいたいです……」
 一番の本音が、震える喉を滑り落ちていく。
 涙よりも歪んだ顔を見られたくない。その一心で、両手で顔を覆ったきり、イゾルデはぼろぼろと本心を零し続ける。
「もし私の顔が見えなくなったら、アルフォンス様は私のこと、きっと要らなくなってしまうでしょうから……」
「っ、違う!!」
 肩を掴まれ、反射的にイゾルデは顔を上向けてしまう。その先で、過去に見たことがないほど真剣な表情でイゾルデを見つめる彼と目が合った。
 相手の顔が見えるということは、相手に自分の顔が見えているということでもある。本音に溺れて醜く歪んだ今の顔だけは見られなくなかった、とイゾルデがますます顔をしかめると、その目尻を指が這った。
 何度もイゾルデの輪郭を辿ってきた長い指が、彼女の涙をそっと拭い取る。
「知らなかった。あなたがそんなふうに悩んでいたなんて」
「……うう……」
「ごめんね。僕はいつも気づいてあげられない」
 謝らないでほしいと伝えようにも、イゾルデの震える唇はまともな言葉を発せない。
 そんな彼女の背をゆっくりと擦りながら、アルフォンスはたどたどしくもはっきりと続ける。
「僕がまっすぐ向き合いたいと本気で思った人は、あなたが初めてだ。だから本当に分からないことだらけで……けど僕は、あなたにそうやってひとりで悩んでほしくない」
 両肩に添えられた彼の手は熱い。
 このぬくもりを、なりふり構わず信じてしまいたくなる。イゾルデの目尻を新しい涙が伝い落ちていく。
「あなたの顔が見えなくなっても、もう僕はあなたを放せない。イゾルデ」
「……あ」
「愛してるんだ、……愛してる……」
 唇を長い指になぞられ、イゾルデは思わずその指を掴んだ。
 イゾルデの形を辿るために指を使う――とかく彼女の輪郭を知りたがるアルフォンスは、それ以外の手段を取らない。
 でも、指で触れられるだけでは、もう自分が耐えられない。
 唇に触れていた指を握り締め、イゾルデは自らアルフォンスへ顔を近づけていく。そしてそのまま、彼の唇に自分のそれを重ねた。
 初めての口づけだった。イゾルデからしかけたそれに、アルフォンスは一瞬石のごとく固まり、それから頬を真っ赤に染めてたじろぎ始める。
 もっと淫らなことをした後だというのに、妙に初心な反応だ。
「……お嫌でしたか?」
「っ、ち、違う。そうじゃなくて……これは、書物でしか、見たことがなくて、」
 弁解する彼の口ぶりはとにかくたどたどしい。
 書物でキスの描写を見た、という意味だろうか。
「あなたのことは、僕が一方的に縛りつけてるだけで、……こ、こんなことをしたら嫌がるかと……」
「あ……だから今までしてくれなかったんですか?」
「それは僕には許されてないと思ってたんだ。なのに」
 あなたからしてくれるなんて、と呟いた彼の声は分かりやすく震えていて、イゾルデにまで震えが伝染ってしまいそうになる。
 間を置かず、今度はアルフォンスから唇を重ねてきた。
 いつか見たという書物を、あるいはたった今イゾルデからしかけた不慣れなそれを、必死に思い出しながら真似ているような口づけだ。それでも、イゾルデの心は隅々まで満たされていく。
 うっとりと目を閉じた彼女の頬を両手で包み込んだアルフォンスは、唇を開いてイゾルデの口内を目指す。
 触れるだけだった口づけは次第に深くなっていく。要領を掴んだのか、彼の舌先はイゾルデのそれとねっとり絡み合い、イゾルデは浮かされたように薄く目を開いた。
 キスの最後、収まりきれなかった唾液が、彼女の口端からとろりと零れ落ちる。それを指で拭い、アルフォンスは目を細めて彼女へ問いかけた。
「あの男ともしたの? こういうキス」
「い、いいえ。してません、本当です、でも向こうが酔ってるときに無理やり押し倒されたことは……」
 尋ね方が不機嫌そうだったから、嘘をつくわけにはいかないという思いに、いつも以上に拍車がかかった。
 気持ちが先走って余計なことまで伝えてしまった、とイゾルデが慌てて口を噤んだときには、アルフォンスはすでに血走った目を彼女に向けた後だ。
「……なんだって?」
「あっ、いいえ違うんです、そのときは、ゆ、指を、けど私、怖いし痛いしで悲鳴をあげてしまって、向こうはそれで興醒めだったらしくて……っ」
「……指……?」
 なにを口走っているのか、自分でももうよく分からない。ただ、喋れば喋るほど失言を繰り返す羽目になっていることだけは理解できた。
 真っ赤な顔で弁解するイゾルデを恨めしそうに見つめながら、アルフォンスは自分の親指の爪をガリ、と噛む。
「やっぱりさっき殺しておけば良かったな……」
「だっ、駄目です! アルフォンス様が手を汚されるのは、よ、良くないと思います!」
「……そうかな」
「そうです。それに……彼はもうすぐ父親になる人ですし」
 父親、という言葉に、アルフォンスの表情がひと息に凍りついた。暗く告げても仕方ないと笑って伝えたはずが、イゾルデの唇はにわかに震え出してしまう。
 ひどい扱いを受け、自ら死を選びたくなるほど傷ついていたのは事実だ。それなのに、今はなにも感じない。
 不思議だ。ヨルンに対する不審感や嫌悪のすべてが昇華されてしまったかのように、心の底から、あの男のことがどうでも良くなっている。
 だが、アルフォンスは違ったらしい。
「やっと分かった。あの日、あなたがエルプセ岬に行った理由が」
 伸びてきた腕にきつく抱き締められ、イゾルデは目を細める。そして広い背に手を添えて抱擁に応え、震える彼の耳にそっと囁いた。
「大丈夫です。あのとき死ななくて良かったって、私、今はちゃんと思えてますから」
 告げ終えるや否や、彼女の唇はアルフォンスの熱いそれに塞がれる。
 角度を変え、ふたりの唇は幾度も重なり合う。離れてもすぐにまた触れ合うせいで、イゾルデの呼吸が少しずつ浅くなっていく中、不意にアルフォンスの唇が彼女の耳へ向かった。同時に、上半身はほとんど乱れていなかったイゾルデの衣服に彼の指がかかる。
「イゾルデ、……ここにもキスしたい……」
 胸に触れながら浮かされたような声で囁くアルフォンスと目が合い、イゾルデの腰がぞくりと震えた。
 服を脱がされ、ビスチェの紐も解かれる。顕わになった膨らみに吸いつかれ、イゾルデは堪らず甘い声をあげた。指とはまた感触が違う。いつもは指先で輪郭を辿ってばかりの彼が、今日は唇を使って同じことをしている。
「……ん、ふぅ……っ」
 舐められ、吸われ、咥えられる。声を抑えきれなくなる。
 隣の部屋には他の客が泊まっているかもしれない、艶めかしい声をあげてしまいたくない――その一心で必死に喘ぎを堪えていたイゾルデだったが、抵抗も虚しく、アルフォンスの唇は次第に下へ下へと下りていく。
 鳩尾、脇腹、臍……順に舐められ、彼の唇がどこを目指しているのか、イゾルデは悟らざるを得なくなる。
「さっきは痛かったでしょう。ごめんね」
「ぁ、い、いけません……っ」
 舌先は、暴かれたばかりのイゾルデの秘密を一度避け、大腿へ動いた。
 血が零れた痕を舐められていると気づき、イゾルデは悲鳴じみた声を落とす。だが彼女の制止は届かない。綺麗に血痕を舐め取ったアルフォンスの唇は、今度こそ秘所へ迫っていき、とうとう震える秘裂に辿り着く。
「っ、だめ、そんなところ、ああッ!」
「あの男に指を入れられたんでしょう? どこ? ここ?」
 入り口を優しく舐めた後、彼は舌の先端を内側へ押し込んだ。
 アルフォンスが喋るたびに温かな吐息が秘所を掠め、それだけでも意識が飛びそうなほどの羞恥に襲われてしまう。だというのに、疼きの止まらない秘密の内側にまで舌を入れられ、イゾルデはがくがくと腰を震わせる。
「あっ、そ、そんなの、ずっと、前のことなのに……っ」
「駄目だ。僕がその話を聞いたのは今だ、どうしても許せない」
「っ、ごめんなさ……」
「どうしてあなたが謝るの? 僕が許せないのはあの男だ」
 言いながら、アルフォンスはなおも輪郭を知りたがるような仕種でイゾルデの内側に舌を這わせる。
 裂けた場所がまだ痛むはずなのに、それ以上のなにかが押し寄せてくる。
 いつか強引に指を突き入れてきたヨルンの行為は、ただの暴力でしかなかった。だが今のこの行為は違う。敏感な媚肉を這う舌先が、イゾルデの快楽を引き出そうと彼女を甘く誘っている。
 腰の震えが止まらなくなる。
 ぼたりとひと粒、イゾルデの目尻を涙が流れ落ちていく。
「ここは? ここも触られた?」
「ひ……ッ!?」
 ちゅ、と肉芽を吸われ、イゾルデは思わず身をよじった。アルフォンスの吐息が肌を掠めるたびに腰が震え、腹の奥がきゅうと締まる。
 ヨルンにどこに触れられたかなんて覚えていない。あの日の記憶に残っているのは、無理やり押さえつけられて乱暴に扱われる恐怖だけだ。けれど、それを訴えたところでアルフォンスは聞き入れないだろう。
 彼の嫉妬はきっと、自分の手で陥落するイゾルデを目にすることでしか慰められない。
「イゾルデ、……今すぐあなたの中に入りたい、でも」
 浮かされたようなアルフォンスの声を聞きながら、ふと、イゾルデは下肢に硬い感触を覚えた。
 それが、一度は力を失ったはずの彼の屹立だと気づいたときには、すでに大腿にそれを挟み込まれた後。熱い吐息を落としてゆっくりと腰を揺らし、アルフォンスは、イゾルデの入り口ごと掠めるようにして大腿に屹立を擦りつける。
「い、挿れないんですか……?」
「挿れない。もう傷つけたくない」
 おそるおそる問いかけたイゾルデにはっきりと答え、彼は浅く呼吸を繰り返す。
 入り口を往復していたそれは、やがて彼女のぷっくりと膨らんだ肉芽も掠め始める。硬い欲望に、秘裂も肉芽もまとめてぐりぐりと刺激され、イゾルデは悲鳴をあげて腰を浮かせてしまう。
「ぁ、あ……っ」
「痛い?」
 返事もできず、ただ必死に首を横に振り、イゾルデは唇を噛み締める。
 快楽が、裂かれた痛みをあっさり上回っていく。他の人々も宿泊している場所で、揃ってこんな行為に溺れているなんて……いけないことをしているという背徳感も手伝い、彼女の視界にはすぐさま快楽の火花が散り始める。
 手の甲を噛んで声を堪えていたイゾルデだったが、不意にその手を取られた。きつく瞑っていた目を開くと、噛んでいた場所を舐めるアルフォンスと目が合った。
 たしなめるような所作だ。声を抑える手段を失ったイゾルデが、堪らず切なく喘ぐ。
「はぁ、……ぁ、あッ」
「イゾルデ、……イゾルデ、」
 何度もイゾルデを呼ぶアルフォンスの声は、耳の奥を直に犯してくるようで、彼女を一層震わせる。
 擦られるたび、秘所から淫らな水音が聞こえてくる。滴る愛液を絡めて強く欲を押しつけられ、強引に腰を振られたイゾルデの視界に、ひときわ大きな火花が爆ぜた。
「……ふ……っ」
「ひ、ああ……ッ!!」
 背を反らせて絶頂を迎えたと同時、イゾルデの大腿に温かななにかが降りかかる。
 思わず、彼女はとろりとしたそれに指を伸ばした。荒い呼吸を繰り返しながら、大腿を濡らす白く濁った液体の正体に思い至り、イゾルデはただでさえ熱に滾った頬をさらに赤らめる。
 その手を躊躇なく握り締め、アルフォンスはまたイゾルデの唇にキスを落とした。
 息もつけないほどだった快楽の波が引き始める中、彼女はうっとりと目を細めて口づけを受け入れる。
「あなたはキスが好きなの?」
「……今まで、してもらえませんでしたから」
 唇と唇の隙間から、イゾルデは図らずも恨みがましい声を零してしまう。そんな彼女の耳元で、アルフォンスは許しを乞うように囁いた。
「これからは、あなたが望むなら何度でもする。だから僕から離れないで、イゾルデ」

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