溺れるほど甘い指先 〜仕事終わりは再会した彼と淫らで極上な夜を〜

書籍情報

溺れるほど甘い指先 〜仕事終わりは再会した彼と淫らで極上な夜を〜


著者:久遠縄斗
イラスト:羽柴みず
発売日:2022年 1月28日
定価:630円+税

営業課で働く瑤子は、営業で酷使した身体にご褒美として月末にマッサージを受けることを月課にしている。
お気に入りのマッサージ店に勤める悠斗は、一年前に偶然再開した高校の同級生であり、瑤子が好意を寄せる男性だ。
施術後に二人で飲みに行く時間が、瑤子の楽しみの一つだった。
そんなある時、瑤子は話の流れで過去のトラウマから恋愛に恐怖心を持っていること、そしてずっと抱えてきた悩み――不感症だということを悠斗に打ち明ける。
「じゃあ、俺で試してみる?」
突飛な提案に驚く瑤子だったが、彼を想う気持ちと、自分を変えるまたとないチャンスに、揺らぐ心を抑えることはできなくて――!?

【人物紹介】

端木瑤子(はしき ようこ)
大手ビール会社の営業に勤める27歳。
月末に悠斗のマッサージを受けることが日々の楽しみ。
不感症であることを悩んでいる。

本郷悠斗(ほんごう ゆうと)
人気マッサージ店のマッサージ師。
瑤子とは高校の同級生で偶然(?)再開した。
明るくハキハキした好青年。

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【試し読み】

「おいで」
 立ったままでいたらそう声をかけられた。その声にドキリとする。聞きなれた低い声。けれどどこかいつもと違う。機嫌の良さが現れているような耳に心地よく、甘く響く声。
 迷っていると腕を取られた。そのまま引っ張られて悠斗の膝の上へ座り込んでしまう。
「ちょ、本郷君」
「俺たちは恋人だ」
「え⁉」
 唐突な言葉に瑤子はうろたえた。急にそんなことに言われても、すぐには頷けない。
「女性は体だけじゃなくて、心でも感じるんだ。雰囲気とか相手とか、快感を得るためにもそういったことが必要になってくる。だから俺のことは彼氏だと思い込んで」
「思い込む……」
「そう。今だけ、この部屋の中でだけは、俺たちは恋人同士だ。いいね?」
 正直に嬉しい。けれどそれを表に出さないように誤魔化そうとすると、ぎくしゃくした動きになってしまった。機械仕掛けのように瑤子はぎこちなく頷く。
 その頬に悠斗がキスをした。驚いて悠斗を見れば、真剣な茶色い瞳が瑤子を見つめている。いつもより細められ、色香を漂わせている潤んだ瞳。瑤子の心臓がドキリと跳ねる。
 悠斗が再び頬にキスをし、そのままベッドに押し倒された。
 下から見上げる悠斗は、照明のせいで表情は良く見えない。けれどその茶色の瞳だけがやけに鮮明に瑤子の目に映った。
 悠斗の顔が近づいて思わず目を瞑ると、額に温かな唇が触れた。それはすぐに離れていき、瑤子は目を開けて悠斗を見上げた。
「残念そうな顔してる」
「べ、別にそんな風には思ってない」
 恥ずかしさを隠すために顔を背ければ、すべてわかっているのかクスクスと笑われた。
「端木は表情に出やすいんだ」
「嘘。私ポーカーフェイスは得意よ」
 曲がりなりにも営業だ。どんな苦境でも心の内を読ませるような事はしないように心がけている。大事な商談の時は特にそうだ。だから今もポーカーフェイスを貫いているはずだった。
「それって、俺の前では気を抜いてるから表情が出やすいって思っていいのかな?」
「そんなことはない……と思う」
 同級生だから。気の置けない友人だから。気持ちが傾いているから。言い訳はいっぱいあったが、どれも口をついて出てこない。
「俺はその方が嬉しんだけど」
 悠斗は苦笑しながらまた瑤子の頬に口づけた。
「唇に、キスしていい?」
 問われて瑤子は思わず悠斗から視線を外した。
 恋人だと思い込めと言われて頷きはしたが、まだ気持ちがついてこない。瑤子が気持ちよくなるためのリハビリだ。そんな演技までしてくれると思っていなかった。体を繋ぐだけで、唇を合わせるなどとは思いもしなかった。
 キスの一つくらいどうということはない。そう思うのに、相手が悠斗だと思うととてつもなく恥ずかしい。
「……端木」
 名を呼ばれて視線を戻せば、悠斗の瞳と合う。二人の距離はわずかしか開いていない。悠斗の唇はすぐ上にあって、ほんのわずかに動かしただけでも触れそうだ。悠斗の息遣いが肌をくすぐり、瑤子はゆっくりと目を閉じた。
 柔らかな唇が唇に触れる。瑤子の肩が小さく跳ねた。
 触れた唇はすぐに離れた。そうしてまた触れる。丁寧な、壊れ物を扱うかのように柔しく触れては離れてを繰り返す。
 けれど、何も感じない。温かく柔らかい。ただそれだけだ。気持ちの良さやそれ以上の感情は生れてこない。目を開けると悠斗が優しく微笑む。
「端木、好きだよ」
 言われた瞬間真っ赤になった。心臓が早鐘を打つ。これは演技なのだと言い聞かせても無駄で、顔が熱くなるのを止められない。
「思った通り、反応が凄く可愛いね」
「可愛くなんて……っ!」
 反論の言葉は唇でふさがれた。荒いように見えて、優しく丁寧に触れてくる。瑤子の唇を食んで味わうように舌で舐めとる。唇を割って入り込んだ舌が歯列を撫でた。その舌に促されて隙間を与えれば、滑り込むように侵入してくる。ねっとりと、時間をかけてゆっくりと解きほぐされる。上あごを舌で撫でられてぞくりと体が震えた。覚えのない感覚に怖くなって悠斗のシャツを掴む。
 悠斗はそれを感じ取って唇を離した。薄っすらと目を開ければ、茶色の瞳が楽しそうに細められている。顔は笑っているのに強い光を宿す瞳に笑みはなく、射すくめられたように体が動かない。
「大丈夫。怖いことはしない。ただ、俺の指と舌と心を受け取ってくれればいい」
 頬を指が撫でる。ただそれだけのことに背筋が震えた。悠斗が怖いというわけではない。ただ言い知れぬ感覚が背中を這い上ってきたのだ。
「そのまま、俺に身をゆだねて」
 耳に囁かれた。熱い息がかかってこそばゆい。肩をすくめると、悠斗からくすりと笑いが漏れる。
「本当に可愛い」
 声と共に耳たぶに唇が触れる。そのまま食まれてくすぐったさにピクリと体が跳ねる。耳たぶを食まれて、背筋に先ほどと同じぞくりとした感覚が這い上ってくる。熱い息がかかってまた体が震えた。
 頬に手が添えられまた口づけられた。啄むようにリップ音をさせる、軽く触れるだけのキス。物足りなくなって唇を開けば、すぐに舌が入り込んでくる。
「ん……ふっ」
 舌で丹念に探られて、唇の端から吐息が漏れる。
 頬に添えられていた手のひらが、顎を伝って首筋へと降りた。そのまま鎖骨を辿り肩を通って二の腕を擦られる。いつものマッサージとはまるで違う、肌の上を指先だけが掠めていく。触れているのか触れていないのかわからないほど軽いタッチ。それがくすぐったい。そしてもどかしかった。
 悠斗の手がゆっくりと胸に移動する。シャツ越しに膨らみの縁を指が辿って鎖骨を撫で、肩を通って手首へと至る。胸の膨らみを避ける指が、時折いたずらするように頂点を掠めていく。
 ゆっくりと丁寧に、まるで絡まった毛糸をほどいていくように、少しずつ少しずつ解していく。小さな結び目をほどくように、指が敏感な場所に触れる。布一枚を隔てているのに、その動きの繊細さを感じ取って、ピクリと瑤子の体が小さく震えた。
「気持ちいい?」
「よく、わからない。くすぐったいだけのような気もするし」
「くすぐったいと感じるのはいいんだ。そういうのはほんの少し触り方を変えれば、快感になる」
 こんな風に、と悠斗の手が脇腹を撫でる。くすぐったさの中にぞくりとするような何かが存在している。それが快感なのかはまだよくわからない。それでも悠斗の手が与えるのは温かさと安心で、気持ちの悪さや嫌悪はどこにもない。
 ゆったりとした気持ちで全身から力を抜く。それを感じて悠斗の手がさらに大胆に動き出した。
 脇腹を撫でていた手が、柔らかな双丘をゆっくりと揉みしだく。逞しい体格とは裏腹に、その手つきはどこまでも丁寧で優しい。宣言通り痛くはない。痛くはないが、妙な感じだった。体の奥がうずうずしている。呼吸が苦しくなって、お腹のあたりが熱くなる。けれど嫌な感じではない。もっと触っていて欲しい気持ちが湧きだしてくる。
 小さく息を吐くと、それを感じ取った悠斗が小さく笑った。見上げれば、いつもの優しい笑みの中にどこか野性的な攻撃性を秘めた表情をしている。
 悠斗の人差し指が胸の頂を撫でる。指がシャツをかすかに押し上げる突起を引っかくように通り過ぎる。突起の感触を楽しむように、何度も何度も指が突起を引っかく。
 お腹の奥の方がむず痒い。悠斗の指が子宮を直接引っかいているような気がするほどむずむずして、瑤子は太ももを擦り合わせた。
 そうしている内に、悠斗が両手を使って両方の突起を引っかきだした。むずむず感がさらに増す。腹の奥だけでなく、全身をむずむずした感覚が走る。我慢するように拳を唇に当てた。吐く息は熱く、呼吸が速い。
「ん……」
 吐息に小さな声が混じる。瑤子は恥ずかしさに唇を閉じた。次の瞬間、唐突に悠斗が突起を食んだ。布を通してでもわかるその熱い口内。
「あっ!」
 熱さと驚きでびくりと全身が跳ね、閉じていた唇から声が漏れた。恥ずかしさに口を再度閉じればまた突起を食まれる。悠斗の唇の感触に体が勝手に震える。愛撫に反応する自分の身体に瑤子は戸惑った。
「気持ちいい?」
「……わかん、ない」
 再度聞かれて、瑤子は首を振った。その間もシャツごと突起を吸い上げられる。どうにもならない全身を駆け巡るむずむずとした感覚。もじもじしていると悠斗がふっと笑った。
「そうやって恥ずかしがってる端木が可愛い。でも、素直に感じてくれたら、もっと嬉しいんだけど?」
「か、感じてるのかな? これが快感なの?」
 快感というには少し物足りないうずうずとした感覚。わからずに聞いてみれば、悠斗はくすりと笑った。
「たぶん、感じてると思うよ」
 悠斗は右手を瑤子のわき腹から太ももへと移動させた。その指がショーツの上から秘所に触れる。しっとりと濡れている布の感触。クロッチをずらして直接秘所に触れられる。秘所を指が辿るぬるりとした感触は、触られた瑤子にもわかった。濡れているのだとわかって瑤子は顔を赤くする。
「濡れてるの、わかる?」
 言葉にされるとさらに恥ずかしい。意識としてあまり感じていなくても、体は確実に悠斗からの愛撫を受け取っている。
 悠斗は濡れた指先を見せつけるように瑤子の目の前へ翳して見せた。照明を照り返す濡れた指先。指を擦り合わせて離せば、透明な橋が指の間にかかる。
「ちゃんと感じてる。端木は不感症なんかじゃない」
「……うん」
 感じているのだと見せつけられて、瑤子は応えながらその光景から顔を逸らした。
「ありがとう。不感症じゃないってわかっただけで十分……」
「十分じゃない」
 逃げ口上を持ち出した瑤子の言葉にかぶせるように、悠斗がそう言った。
「まだ駄目。体が感じてるだけで、端木自身は気持ちいいと思ってないだろ? 端木が心も体も感じて、初めてリハビリが完了したって言えるんだ。だから、まだ駄目」
 決して強い口調ではないのに、悠斗の言葉に逆らう気持ちが沸いてこない。瑤子は小さく頷くと全身の力を抜いた。それを見て取って悠斗が笑みを浮かべた。

 張りのある胸。艶のある和毛。そのどれもを覆い隠そうとして、瑤子はベッドに座った状態で右手で胸を、左手で秘所を覆う。
 リハビリを続けると言った悠斗は、瑤子に対して脱ぐことを要請した。体に触れるのだから裸になるのは当然だと思う。マッサージの時には紙のブラジャーとショーツ姿だし、悠斗にはほとんど見られている。しかし見られたことのない部分を晒すのはやはり抵抗があった。
 無理強いしないと言った言葉通り、悠斗は瑤子が自分から脱ぐのを待っていた。リハビリにつき合わせているのに待たせるのも申し訳なく、かといって勢い良く脱ぐ勇気はない。
 悠斗に後ろを向いてもらってからシャツとショーツを脱ぎ、丁寧に畳んで体を手で覆い隠してから声をかけた。
 悠斗は扉のそばに立ち、瑤子のその姿をじっと見ている。もうすでに五分以上になるというのに、悠斗はその場から瑤子を見ているだけだ。羞恥心がだんだんと増してきて、瑤子の肌を赤く染めていく。
 今まで付き合ってきた男性は、脱いだ途端に覆いかぶさってきた。前戯もそこそこに入れてきて、痛みと不快感に耐えていた。
 なのに悠斗は見ているだけだ。けれどその視線が肌を撫でるのを感じる。悠斗の視線が移動するたびに肌が熱くなる。まるで見えない手で触れられているように、肌がぞわぞわとする。嫌な感じではない。その証拠に、瑤子が触れている秘所はしっとりとした湿り気があった。見られているだけなのに、体が悠斗を感じている。
「あ、あまり、見ないで」
「それは無理かな。端木は綺麗だから、一日中見ていても飽きないよ」
 にこりと笑って、悠斗がゆっくりとベッドへと歩み寄る。
「もっと、見せて」
 悠斗は胸を隠している瑤子の右手首を握る。そこに強引さはない。軽い力を加えてくるだけだ。それに逆らうことをせず、瑤子はなすがままに右手を下げた。
 胸元が露になる。初めて見せる場所だ。だからこそ恥ずかしい。悠斗の顔がまともに見られなくて、瑤子は顔をそむけた。顔を逸らしても目を瞑っても、悠斗の視線を感じる。思わず熱い吐息が出た。
 逸らしていた頬に手を添えられて上向かされた。
 悠斗は瑤子と同じようにすでに下着だけを履いた姿だった。今更ながらにその男性的な肉体美に目が行く。
 マッサージ師は体力勝負というだけあって、筋肉がしっかりと付いている。特に肩から二の腕にかけての筋肉は優美とさえいえるほど美しいものだった。広い肩、厚い胸板、割れた腹筋。視線を上げたそこにあるのは悠斗の茶色の瞳。常の冷静な光の中に、色欲が混ざって見える。ごくりとつばを飲み込めば、同じように生唾を飲んだのか悠斗の喉仏が上下に動いた。女の自分とはまるで違う体なのだと、今更ながらに思う。
 異性だとわかっていたのに、目の前にするとその匂い立つほどの男性的な色気にあてられて頭がくらくらしてくる。しかもその首の上にあるのは甘いマスクで、見惚れるなというほうが無理なくらいだった。
「さっきまでは反応を見るためのテストだったけど、ここからは……本気で攻めるから」
 言葉と同時に悠斗が瑤子の肩を押す。ふらついた上半身がベッドに埋まり、その上から悠斗が覆いかぶさってくる。
 もう一度初めからやり直すように、優しく口づけられた。目を閉じれば悠斗の柔らかな唇の感触と息遣いが感じられる。わずかに目を開ければ茶色い瞳が優しげに細められ、瑤子をじっと見ていた。
 気恥ずかしくなって再度目を閉じると、唇の間から舌が入り込んでくる。先ほどと同じように優しく、けれど執拗に口内を嘗め回す。
「ん、ふぅ……っ」
 唇を合わせることに夢中で、呼吸がしずらくなってくる。顔をわずかに背けると、悠斗が追ってきてまた唇をふさがれた。呼吸が乱れ始めると、悠斗は唇を離して顔中にキスの雨を降らせた。息が整うとまた唇をふさがれて執拗に舐めて吸われる。
 口づけだけをずっと繰り返している。けれど嫌ではなく、心地いい。瑤子の唇がぽってりと色づき、頭がぼうっとなるころに、ようやく悠斗は唇を離した。
 ぼんやりとする視界に底光りする茶色の瞳があり、背筋が言い知れぬ感情で震える。
 きっと、これから瑤子の知らない世界を知ることになる。快感の果てにあるという絶頂。今だ到達できていないその世界に、憧れと同時に不安もある。そしてほんの少しだけ恐怖もあった。
 高校の同級生。ノリのいい男子で、ほんの少しの憧れもあった。大人の男性になった悠斗と再会したが、高校の時と変わらず優しく接してくれた。けれど、今目の前にあるのは雄の顔をした悠斗だ。
「大丈夫。怖いことはしない」
 先ほどと同じ言葉を悠斗が口にした。
「端木はただ、素直に心のままに感じてくれればいい」
 ふわりと頬を右の手のひらで包まれる。男性らしい筋張った手のひら。自分とは異なる手のひらの感触に、詰めていた息を吐き出した。
 強い光を宿した瞳が細まる。
 頬に唇が触れて、瑤子はまた目を瞑った。それを了承の意ととったのか、悠斗は唇を顎から喉元へと滑らせていく。温かく柔らかな感触が肌の上を辿る。時々軽く甘噛み、吸い付く。そのたびに瑤子の口からため息が漏れた。
 首筋を舌が舐め上げる。ねっとりとした感触。鎖骨から胸元へと滑った唇が小さくすぼめられる。ちりっとしたごく小さな痛み。目を開ければこちらを見上げている悠斗と目が合った。
「キスマーク、つけちゃった」
 いたずらをした子供のように悠斗が笑う。その唇の下に一部分だけ赤くなった自分の肌があった。吸い付いかれてうっ血した肌。白い肌に赤い点が浮かび、まるで小さな花弁がそこにあるようだった。
 瑤子の見ている前で、悠斗は肌にキスマークを付けていく。
「君は……俺のものだ」
 うっとりと囁くように告げられた言葉に、子宮がきゅんとするように動いた気がした。手首から二の腕へと上がってきた悠斗の左手が、肩を通って胸の膨らみに触れる。先ほどまでの布越しではなく、直接肌に触れている手のひら。辿る指の一本一本の動きまでが伝わってくる。繊細な、それでいてどこか性的な動き。
 丸みの麓を辿るように、周りを撫でていく。羽のように軽く、けれど触れていることがわかるくらいの軽いタッチ。その手のひらが胸の先端に触れて、体が勝手にびくりと跳ねる。
 触れられて初めて気付いた。そこが固くなっていることに。生理的な肌の反応だ。いまだに触れられているという感触だけで、このむずむずが快感なのかどうかはわからない。けれどそれを快感だと瑤子は思いたかった。悠斗に触れられたから、感じて硬くなったのだと。相手が悠斗だからこんな風に体が反応しているのだと思いたかった。
 胸に添えられていた手のひらが、頂点を集中的に弄り出す。指で捏ね、摘まんで、引っ張る。小さな疼きに身をよじれば、心得たとばかりにさらに攻められる。
「あっ!」
 唐突に先端が食まれた。先ほどのシャツ越しのものなど比べ物にならないほどの熱量に包まれる。熱くねっとりと絡み付く舌。直接的な刺激は、むずむずなどというものでは表現できないほどの衝撃を瑤子に与えた。
 胸の先端を弄られている。なのにむず痒さが全身に広がっている。特にお腹のあたり。ちょうどへその下あたりがチクチクとするような、痛みとも痒みとも違う感覚がある。それは今までに感じたことのないものだった。言葉にすることのできない感触。どこかもどかしく、じれったく、そしてむず痒い。
「感じてる?」
 瑤子の挙動を見て取って、悠斗が囁くように聞いてくる。小さな声なのに、脳に刻み付けられるような低く甘い声。耳と脳までがむず痒い。
「わ……かんない。でも……おかしいの。自分の……体じゃ、ないみたい」
 先端を甘噛みされて、電流のような衝撃が背筋を駆け上がる。背を弓なりに反らしてそれをやり過ごす。開いた唇から熱く甘い吐息が漏れた。
「うん、それが快感。そのまま、感じ続けて」
 体を支配するこの感覚が『快感』なのだと、瑤子は初めてそのむずむずを意識した。そうするとどんどんむず痒さが増していく。触れられている胸だけでなく、全身がうずうずしてくる。下腹の奥が熱くなり、もっと触って欲しいと望んでしまう。堪えるように太ももを擦り合わせると、悠斗がクスクスと笑う。
「胸だけじゃ、満足できなくなったんじゃない?」
 行動から読み解いたのか見透かされているのかわからないが、悠斗にはすべてバレているらしい。
「そんなこと……んあっ!」
 否定の言葉を言う前に胸の先端をきつく吸われた。小さな痛みが背筋を走り抜け、それが快感として脳に刻まれる。一度そうと知ってしまえば、全身を苛む疼きはすべて快感に変った。
「……ぅん、ふぁっ」
 甘い声が唇から自然と漏れる。鼻にかかる甘い声に、瑤子自身が驚いた。演技でしていたのとはまったく違う、熱のこもった吐息。その声が自分の耳に届くと、恥ずかしさと共に快感がより一層増した気がする。
 恥ずかしさに口を押えれば、悠斗がやんわりとその手を外した。
「声、我慢しないで。聞かせて」

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