恥ずかしがる姿、可愛いね。もっといじめたくなっちゃう。
国民的イケメン俳優とお見合いxxxすることになりました!?
著者:ちろりん
イラスト:里雪
発売日:4月24日
定価:630円+税
男女の未婚率が著しく増加した現代。
以前の恋の経験から次の恋愛に踏み切れず、自分の殻を破ることができないでいた瑚花は、友人に勧められて『Love from the body』という身体からのお付き合いを前提としたお見合いサービスに足を運ぶことになる。
そこで出会ったのは、モデルから転身し、現在、国民的人気俳優として活躍している睦城周だった。
「身体が繋がったら、次は心を繋げたいと思っている。そのために次も瑚花に会いたい」<br>身も心も優しく解きほぐしてくれる彼に惹かれる瑚花。
自らが抱えている秘密を打ち明ける決心が出来ない瑚花に、彼は『自分も秘密を持っている』と打ち明けてきて――!?
【人物紹介】
御縁 瑚花(みえにし こはな)
過去の恋での失敗をきっかけに、恋愛に踏み出せなくなっている女性。
周の姿に背中を押され、自分の殻を破るために『Love from the body』に登録する決心をする。
実は抱えている悩みがあるのだが、誰にも打ち明けられずにいる。
睦城 周(むつき あまね)
『抱かれたい男ランキング』では必ずランクインするほどの人気を誇る元モデル。
現在は俳優業を中心に活躍している。
突然のモデル引退と俳優への転身を発表した際には、色んな憶測が飛び交った。
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【試し読み】
「大丈夫?」
彼の気遣いに、今度は迷いなく頷いた。そして、形のいい耳に口を近づけて告げる。
「……あ、周くんの好きにしても……いいから。でも、久しぶりなの……ゆっくりしてほしい」
先ほど保留にしてしまったお詫びではないが、彼の欲望を受け止める心づもりはできていると告げた。自分がどこまで彼を感じさせられるかは分からないけれど、それでもできることはしてあげたい。
「分かった。最初はじっくり優しくするね。……でも、俺、結構激しいのが好きだから、途中で止まれなくなっちゃうかも」
「いいよ。それでもいい」
「ありがとう。嫌になったり怖くなったら迷わずにセーフティーワード言って。約束」
チュッと口づけられそのまま押し倒されると、周は唯一残っていた下着に手を伸ばして取り払う。何一つ身にまとわない裸になってしまった瑚花は、覆いかぶさってくる周の視線を避けて、どうにかその恥ずかしさを押し隠した。
脚を広げられ、秘所を露わにされる。
「素直だね、瑚花の身体は。俺が触るだけでこんなに濡れてるし、それに……見てても、奥から愛液が溢れてくる。意識してる? ……視線だけで感じてる?」
割れ目を指の腹で撫でて、愛液をすくったそれをぺろりと舐めた。その姿がやけに煽情的で、瑚花の欲をさらに煽ってこようとするのだ。
「……触ってほしい?」
もう彼の中ではスイッチが入ってしまっているらしい。ドSモードの周は、何でも口ではっきりと言わせたがる。
けれども、瑚花は頷いて答えた。
「じゃあ、ちゃんと口で言って。どこを触ってほしいか」
周に命令されたいのだと、自分の心に従ったのだ。
「……あそこ」
「あそこ、じゃ分からないよ。言って」
「……恥ずかしい」
「今からもっと恥ずかしいことするのにね」
追い詰められる。ゾクゾクする。周がこうやって攻めれば攻めてくるほどに、それに比例するように瑚花も興奮しているのだ。
ダメだダメだと頭では分かっているのに止まらない。どうしても抑えきれない欲望が溢れてくる。
――――支配されたい、この人に。
醜態を晒したくないと思うのに、周の言葉に従って彼を喜ばせたいという願望が瑚花の中でせめぎ合う。
だが、少し上回ってしまった欲望を刺激するように、周が命令してくるのだ。
「じゃあ、自分で触ってほしいところを俺に見せて。ここだって……よく見えるようにだよ? ちゃんと、どこまで触ればいいか、分かるように」
言えないなら行動で示せ、と。
ドキドキしながら下肢に手を伸ばした。
指先が震えて息が浅くなり、自分が自分でなくなるような感覚がする。何かに操られているような、どこか夢うつつのような。
自分でそこに触れたとき、とても熱くて濡れていて驚いた。だが、その熱に促されるがままに淫らな唇を指で割り開き、奥まで見えるようにする。
恥ずかしくて死んでしまいそうだった。周の視線がそこに注がれていると思うだけで、悲鳴を上げて逃げ出したくなる。何てはしたないことをしてしまっているのだろうと。
「そっか、そこを触ってほしいんだ。ちゃんとできて偉いね、瑚花。ご褒美にいっぱい可愛がってあげるね」
でも、周が喜ぶから。素直に彼の言葉に応じると、褒めてくれるから。まるで媚薬のように瑚花の身体と心を高揚させていくのだ。
「……ひぁっ! ……あぁ……ふぁ……ンんっ……ひぃ……ぁっ……あぁっ!」
その言葉通り、周はたくさんソコを可愛がった。
最初は指でくすぐるように開かれた媚肉の淵を撫で、次に陰核の包皮をむいたと思ったらそこに顔を埋めた。
舌先で陰核を細やかな動きで舐めながら、秘所に指を二本差し入れてくる。
突如として一気にやってきた快楽に指が震えて、陰唇から指が離れそうになったところを周がすかさず叱咤してくる。
「ちゃんと開いてくれなきゃ、可愛がってあげられないよ」
そう言われて、どうにか指が離れるのを耐えて懸命に開いた。
次から次へと溢れてくる愛液を舐め取り、それをさらに出せと言わんばかりに指が膣壁を擦り上げる。じゅるじゅるといやらしい音を立ててすすられていると、まるで自分の身体が周によってとことんまで味わい尽くされているような気分になってきた。
「舐めても舐めても出てくる」
「……だって……周くんが気持ちよくするから……」
だから、こんなにも身体が素直に反応してしまうのだと、熱に浮かされたような声を上げる。もう、自分ではこの昂りをコントロールできないのだと。
「気持ちいいのはいいことだよ。もっともっと、気持ちよくなって」
「……ひぁっンっ!」
指がもう一本追加されて、奥深くまで差し込まれた。彼の長い指が瑚花の隘路を穿ち、胎の奥を暴く。
いつも自分でしているときには届かない場所を指で撫でられて、瑚花はついつい指を離して身体を捩らせた。
指を激しく出し入れされて、電流が流れたように腰がビクビクとはねる。激しい攻めから逃げるようにそのまま腰を捻らせると、周が太腿を掴んで動けないようにしてきた。
「逃げちゃダーメ」
「……あぁっ……あまねく……はげし……はげしいよぉ……あぁっ!」
「離しちゃダメだって言ったのに離しちゃったしね。これはもう……お仕置きかな?」
爽やかな顔で放たれる不穏な言葉に、瑚花は『ひえっ』と心の中で悲鳴を上げながらこれ以上逃げないように努めた。
けれども、勝手に身体はビクビクと痙攣してしまうし、周の指が瑚花のいいところを執拗に責めてくるので、もう脳が快楽物質に浸されてまともに考えられない。喘ぐ声の合間に出す言葉も、自分で何を言っているか分からないくらいになっているのに、さらに周が瑚花に追い打ちをかける。
言葉の通り、お仕置きをしてきたのだ。
「……あっ……あっ……ンぁ……ひぃっ……んン……あぁ……あぁ……!」
秘所の中でも特に感じる箇所、いわゆるGスポットに指の腹を添えて細かく動かし始めた。先ほどのように抜き差しするような動きではなく、指を押し付けて指を震わせるような動きで攻めてくるのだ。
それは大きく動かされるよりも重点的な愛撫で、狂おしいほどに感じてしまう。
「そんなに締め付けたら指が動かせないよ」
指をきゅうきゅうと締め上げて貪欲に銜えこむ秘所を、恍惚とした顔で見ている周はさらに指の動きを強くした。
目の前が明滅して子宮が切なくなる。
「あぁ……いいね。かなり中がヒクついてきた」
「……あぁ……イっちゃう……あまねくん……わたし、このままじゃ……イっちゃうっ」
「いいよ。思いっきりイきなよ。見ててあげる」
「見てるって……あっひ……っ……そんなぁ……あぁっ!」
恥ずかしい。見られている。あの綺麗な瞳に、つぶさに余すことなくこの痴態を。
その視線を意識してしまい、ますます瑚花の身体は熱くなっていく。もうイきたい、この胎の中に溜まりに溜まった快楽の塊をどうにかしてほしいと子宮が啼くのだ。
絶頂はもう目前だった。
「――――イって、瑚花」
「……あぁ……あっ……あぁ――――!」
悲鳴のような声を上げて、瑚花はとうとう絶頂を迎えた。今まで焦らしに焦らされた分深いもので、頭の中が真っ白になってしまうほどの悦楽。
「……あ……あぁ……」
腰がガクガクと震えて止まらず、絶頂の余韻はどこまでも瑚花を苛み続けた。壊れたおもちゃのようにか細く喘ぐ声が止まらず、肌がビリビリとして辛い。周がそんな瑚花を労わるように太腿を撫でたが、それすらも敏感過ぎる肌には強い刺激だった。
「凄く可愛い」
「……ンぁ」
内腿にちゅう……とキスをされて、小さく喘ぐ。
「今ならどこを触ってもイっちゃいそうだね」
もしかすると、太腿を弄られても達してしまうかもしれない。そう自分でも思うほどに、今の瑚花は全身が性感帯になってしまったかのように敏感になっていた。
けれども、そんな瑚花の身体から手を離し、ベッドの上を移動する。何かを取った後に戻ってきた彼の手には、避妊具があった。
「俺ももう、気持ちよくなりたい」
「……ま、まって……私……今イったばかりで……」
そう言っている間に、避妊具の袋は破かれて、彼の屹立に被せられていく。それがくるくると根元まで装着されていく様子から目を離せずにいると、着け終えた周が腰を掴んで押し当ててきた。
「大丈夫だよ、瑚花。これから何度でもイかせてあげるから。一緒に気持ちよくなろ?」
「……あまねくん……まって、まってまって……あっ! あぁっ!」
瑚花の制止も聞かずに周の穂先は秘所に潜り込み、愛液の滑りをかりて入ってきた。身体の中に物凄い質量のものが侵入し、奥へ奥へと突き進んでいく。
絶頂を味わったばかりの膣壁は、その擦られる刺激を敏感に受け取り蠢いては周の屹立を締め付けた。瑚花自身も、彼の形が分かるほどに自分のそこが狭くなっているのが分かる。
「あぁ……もしかして瑚花、挿入れられただけでイっちゃった? 凄いよ……きつくて食いちぎられそう」
「……あ……あ……ぁ……っ……まってって……ひっ……ぃ……言ったのにぃ」
「うん。ごめんね。でも、俺も……もう限界」
「ひぁんっ!」
腰を一度軽く引かれたかと思ったら、一気に根元まで打ち付けてきた。奥まで犯されて、瑚花はまた軽く絶頂を迎える。ビクビクと身体を震わせて、その衝撃に空気を求めて喘いだ。
お腹を突き破られるかと思うくらいに奥を抉られ、もうこれ以上は呑み込めないと思うほどの質量の熱杭を打ち込まれて、瑚花は乱れに乱れる。
最初はゆっくりだった律動が徐々に速さを増してきた。久方ぶりに開かれた瑚花の隘路を容赦なく擦り、周の形に変えられていく。
向かい合って挿入れられていた体勢も、いつの間にか横から攻められるものに変わり、抉ってくる角度もそのたびに違っていた。片足を肩に担がれ、屹立を打ち込まれるとさらに深いところまで穿ってくる。そしてその体勢でぐりぐりと腰を動かされると、またイってしまって、目にじんわりと涙が浮かんできた。
もう何度イったのだろう。自分がこんなに感じやすい身体だったなんて知らなかった。まさか挿入れられただけでイってしまうだなんて、初めてのことだ。
周が腰を打ち込むたびに、彼に支配されていっているような気がする。快楽で思考を奪われ、その覚束ない頭に叩き込まれるのだ。
目の前の男に溺れろと。
心も身体も。そのすべてを持って、周に差し出せと言われているみたいだ。他のことは考えられないほどに、ただ周だけを見て夢中になって。
瑚花をずっと捕らえ続けている過去など、掻き消してしまうほどに激しく愛される。
「あっあっ……はぁ……ン……ぁ……」
「気持ちいい?」
「……ひぁっ……あぁ……きもち、いいよ……ふぅ……ンぁ……あまね、くんは?」
「よかった。俺も凄く気持ちいいよ、瑚花の中。俺のを懸命に銜えて、きつくしてさ。奥突かれて何度もイって……こんなにいやらしい顔して……本当に可愛いなぁ」
周の艶のある声が聞こえてくる。息を弾ませて、欲に濡れていて。
でも、今彼はどんな顔をしているのだろう。こんなよがる瑚花を見て、幻滅したりはしていないのだろうかと不安になった。その顔の奥に、侮蔑が含まれていたら? とゾクリとする。
薄目を開けて、瑚花は彼の顔を見やった。
けれどもそこにいたのは、性の衝動に突き動かされた獣だった。目が合った瑚花を熱く見つめて、ニヤリと笑う。腰をいやらしく動かして、手を伸ばして胸を鷲掴みまた激しく攻め込んでくる。
ただ、瑚花を食らい尽くしてしまうことしか考えていない。こちらの痴態すらも美味しいとばかりにうっとりとした目で見つめ、頬を上気させて汗を滴らせる。
「ひぁっ……あぁっ! あっあぁ……はげし……」
肩に担いでいた足を下ろしてまた正常位に戻った周は、今度は瑚花の腰をしっかりと抱え込んで、上から腰を打ち込んできた。パンっパンっ……と肉体同士がぶつかる音が部屋の中に響く。
ゾワゾワとしたものが背中を駆け上がり、また絶頂が近くなる。
「瑚花……」
熱い吐息と共に名前を呼んできた周は、だらしなく開いた瑚花の口を塞ぐ。
それは、彼の身体の中で荒れ狂うほどに滾った熱をぶつけられるようなキスで、互いの吐息も唾液もすべてが混ざり合う。
二人のすべてが繋がる。
――――あぁ、このまま心も繋がってしまえれば、幸せなのに。
「あぅ……は……っぁ……あ……あっ…………あぁっ!」
そう思った瞬間に、ブワっと熱いものが胸の奥から溢れてきて、身体中がさらに敏感になっていった。気持ちよさが止まらない。もうこれ以上のものはないと思っていたのに、さらに深い絶頂がやってくる予感がした。
「……あまね……くん……わたし……イっちゃ……う……っ」
「……俺もイきそう……イって、瑚花……そのまま一緒に気持ちよくなろ?」
一緒に……そうだ、セックスって一緒に気持ちよくなるものなんだ。
周にそう言われて、泣きじゃくりそうになった。
「……ぁ……あっ…イくっ……あぁ……あぁー!」
「…………はぁっ……あっ……イ……くっ……」
身体の底から震えるような絶頂だった。一瞬で頭の中が真っ白になって、快楽が瑚花のすべてを満たす。それは長く長く余韻を残した。
周も絶頂を迎えて、眉根をきつく寄せて射精の解放感に浸っていた。びゅくびゅくと吐精されるたびに腰が小刻みに動いて、瑚花の中をまた刺激する。
避妊具越しでも、彼の屹立がビクビクと震えているのが分かった。何度も何度も精が吐き出されて、彼の口からも喘ぐ声が聞こえてきて。
気持ちよくなってくれたんだと、嬉しくなった。
瑚花もまた、こんなに感じたセックスは初めてかもしれないと、彼の背中に手を回しながら感じ入った。この全身で感じる周の肌のぬくもりや感触、身体の重みすらも心地いい。
切ない顔をした周が顔を寄せ、キスをしてくる。唇を重ね、舌を絡ませて。互いの中にある熱の余韻を分け合うように。
心の中が幸せで満たされる。
――――よかった……ちゃんとセックスできた……。
心の片隅にあった不安が薄らいでいく。
「凄くよかったよ……瑚花。ありがとう」
瑚花の前髪を撫でつけて、額にキスを落としてくる。そんな周の顔は甘く優しい。
「ごめん、途中から滅茶苦茶興奮して酷くしちゃったかも。痛くなかった?」
「全然。……むしろ気持ちよかった……よ?」
顔が自然と赤くなって、手で隠しながら首を横に振った。
酷くされても、周は優しかった。言葉で攻めてもその声は甘い。心も身体も傷つけるものは何ひとつなくて、二人の興奮を高めるスパイスになってくれていたのだ。
事後もこんなに気遣ってくれる。
身体を拭いてくれたし、あちこちに散らばってしまっていた服も拾って渡してくれた。
そんな些細なことに感動してしまうほどに、周の優しさは瑚花の中に深く染み入ってきたのだ。
「それで、どうだった?」
「え?」
着替え終えて、ブースにあったペットボトルの水を飲み終えた後に周が聞いてくる。
セックスをしたという余韻ばかりに浸っていて、よくよくその後のことについて頭が回っていなかったが、これだけで終わりではなかったのだ。
「俺は、これ一回で瑚花とお別れしたくないって思ってる。できれば連絡先を交換してほしいな。瑚花はどう?」
目線を落として考える。正直、何と言っていいか分からなかった。
周から今後も付き合いを続けたいと言われたことは、本当に嬉しい。ないと思っていたからこそ、戸惑いも歓喜もひとしおだ。こんな自分でもいいんだと飛び上がるほどに嬉しくなる。
セックスもできたし、気持ちよくもなれた。周はとことん甘くて優しくて、臆病な瑚花を導いてくれている。
でも、やはりどうしても怯えてしまうのだ。
彼が今後、本当の瑚花を知ったらどう思うだろうと。
怖気づいて見せきれなかった部分が引っかかる。アレを見せていたら、今の彼のように優しくなどなかったかもしれない。
――――『いいじゃん、お前変態なんだからこういうのも気持ちよくなっちゃうんだろ?』
蔑み馬鹿にするような声が甦る。その瞬間、心が恐怖に縛られた。
あんな思いは二度とごめんだと泣いたあの日。嗚咽を漏らし、自分がそこまで言われるほどの存在なのだと絶望して、殻に閉じ篭った。
そんな過去に囚われる自分が嫌でお見合いに参加したけれど、結局あのとき『保留』にしてしまったことがすべてのような気がした。
自分は変われない。周のようには、変われないのだと思い知ったような気がする。
「……ごめん、周くん。私、あのね、私……」
上手く言葉が出てこない。
周が悪いわけではない。彼はその言葉の通りに、瑚花を過去から解き放とうとしてくれたし、幸せな気分にもさせてくれた。
それなのに、馬鹿みたいにこだわりを持ち続けて、怯えている自分が全面的に悪いのに、今から周を拒絶するような言葉を言わなければならない。
傷つけたくない、こんな優しい人を。
けれども勇気が出てこないのだ。
「俺は元カレとの思い出を越えられなかった?」
寂しそうに言われて、とっさに首を思い切り横に振った。
「違うの。周くんは、本当に優しくしてくれたし、元カレのことを忘れさせてくれたし、幸せになった。周くんとのこの時間が一生の宝物になるくらいに。でも、どこか踏み切れない自分がいて、結局本当の自分の姿を見せてしまったら周くんも私を……私を……」
目の前が涙で揺らぐ。ただ自分が情けなくて仕方がなかった。
「あの『保留』かな。瑚花の引っかかってることは」
「……うん」
「そっか。やっぱりそっか」
『保留』にした理由を曖昧にしたときから、周も引っかかっていたのだろう。理由も言えないのであれば訝しんで当然だ。
「俺を見て、瑚花」
彼が涙を指で拭い、瑚花の顔を両手で包み込んで自分の方へと向ける。
かち合ったのは、周の優しく慈しむような瞳。怒っているわけでもなく、がっかりしているわけでもなく、微笑む彼がいた。
「本当の自分を見せるのは、本当に勇気がいると思う。俺もそうだよ。瑚花に見せていない部分がある。それってさ、信頼関係がないと無理な話だよね? 俺は身体が繋がったら、次は心を繋げたいと思っている。そのために次も瑚花に会いたい。会ってもっと瑚花を知りたいし、瑚花に俺を知ってほしいんだ」
チュッと頬に優しいキスを落とされる。
「本当に少しの時間だけど、自分を変えたいって勇気を振り絞る瑚花がとても可愛いと思ったし、恥ずかしがりながら俺に応えようとしている姿も好きだなって思った。瑚花になら……瑚花になら、俺も本当の自分を見せられるかなって思ったよ」
そう言って、ベッドから離れていく周は、ブースの上に置いてあったメモ帳に何かを書き記して、瑚花に渡してくる。
「これ、俺のプライベートの電話番号。もう一度俺に会う気になったら電話して」
「……で、でも」
電話をかける勇気など出ないかもしれない。手の中に無理矢理置かれたメモ帳に戸惑いながら返そうとすると、周は瑚花の手を取ってギュッと握り締めてきた。
「俺にもう一回チャンスをちょうだい。次、会ったときに俺も本当の自分を見せる。用意しておくから。――――だから、電話、待ってる」