冷徹エリート同僚は偽装恋人への淫らな激愛を隠しきれない ~水曜日の彼氏交換~
著者:高羽柚衣
イラスト:八美☆わん
発売日:2024年 6月28日
定価:630円+税
水曜日――それは芦田紗綾がエリート同僚の柏原智己と、偽りの恋人同士になる日。
この関係が始まったきっかけは、紗綾が訳あって恋人役を演じている中島と、柏原の恋人である真凜が提案したドラマのマネごとだった。
『許されているのは手をつなぐことまでで、午前零時に恋人になり、翌日の零時になった瞬間他人に戻る』
最初は提案を拒否しようとした紗綾だったが、なぜか柏原が乗ったことで、毎週水曜日は彼とデートすることになってしまい――?
しぶしぶ始まった恋人交換だが、柏原とのデートを重ねていく内に、どんどん彼に惹かれていく紗綾。
しかしある日、中島から柏原の弱みになるような写真を撮ることをお願いされてしまう。
とある事情により中島の頼みを断れない紗綾は……。
そんな中迎えた水曜日、柏原とのデートではなく中島から押し付けられた接待飲みに参加した紗綾の前に柏原が現れて……!?
「そんなに中島さんが好き?」
いつもと違う雰囲気の柏原に手を引かれて連れて行かれたのは彼の住むマンションで――……。
【人物紹介】
芦田紗綾(あしだ さや)
門菱商事丸の内支社の営業アシスタント。
高校までは薬の副作用でふくよかだったため、影で「ヒラメ」と呼ばれていた。
過去の姿を知る中島に脅され、渋々偽装彼女をしていたのだが……。
柏原智己(かしわばら ともき)
門菱商事丸の本社から丸の内へと赴任してきた眉目秀麗な営業マン。
初恋の相手に似ていると紗綾は思っている。
彼女(?)である真凜から提案された「恋人交換」に乗り、水曜日だけ紗綾の恋人になることに――?
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【試し読み】
「じゃあ、私はこれで失礼します」
ようやく苦痛だった接待飲みから解放された紗綾は、二次会への執拗な誘いを断って人の輪を抜けた。苦手な日本酒を飲まされたせいか、足が少しふらふらする。
大通りに向けて歩きながら、バッグからスマホを取り出してみる。
予想に反して――いや、予想通り、柏原からの返信はなかった。
〈ごめんなさい。今夜は別の用事ができたのでキャンセルします〉
定時直後、そんな他人行儀なメッセージを柏原に送ったのは紗綾だった。
柏原が婚約していたこと。中島と交わした会話を聞かれたかもしれないこと――色んなことで頭がいっぱいになって、彼と何を話していいか分からなかったからだ。
屋上で別れて以来、柏原とは会っていない。S社の接待に出ることにしたのは、一人で水曜の夜を過ごしたくなかったためだ。
ぽつんと額に雨が落ち、つられて空を見上げた時、不意に目元が潤んできた。
――私……柏原のことが好きなんだ。
真凜との婚約を聞いた時にはっきりと自覚した。
もう自分を誤魔化せない。これ以上彼と一緒にいたら、取り返しがつかないほど好きになってしまう。――
「紗綾ちゃん、そんなとこにいたんだ!」
突然背後から大声がした。振り返ると、S社の営業部長が、明らかに酔っ払った顔をにたにたさせて近づいてくる。
五十代後半。飲みの席でのボディタッチがひどく、前回の飲みでは、帰りのタクシーに強引に乗り込んでこようとした。
それが問題になって、門菱では完全NG扱いされている男である。
「まさかもう帰るとか言わないよね。行こう行こう、もう一軒行こう」
「え、いえいえ、ちょっと待ってくださいよ」
さすがに取引先の部長に強くは出られない。
そんな紗綾の腕を引っ張り、男は強引に裏通りに向かおうとする。
「ちょっと――」
「そんなお高く止まるなよ。門菱のアシスタントは接待要員。色仕掛けが仕事だろ?」
思わず足が止まっていた。それを完全に否定できないことは紗綾がよく知っている。
「今夜はいなかったけど、おたくの中島君からも、朝まで付き合わせますってお墨付きをもらってるんだ。彼、紗綾ちゃんの彼氏だよね」
勝ち誇った男の声に、紗綾は愕然として目を見張った。――その時だった。
「違いますよ」
手首を掴んでいたなまぬるい温度が消えて、不意に身体が自由になった。反射的に後ずさると、目の前に背の高い男の背中が割り込んでくる。
信じられなかった。昼間別れてからずっと頭から離れなかった、柏原の背中だ。
「うちのアシスタントは、そんな目的のために雇用されているわけじゃない。もしそうなら、門菱のコンプライアンス法第七十八条に明確に違反しています」
「なっ、なな、なんだね君は」
「門菱商事丸の内支社の柏原です。あなたの言動は、弊社のビジネスパートナー規約第四十条の対象として問題にすべき事案になる。このことで何か弁明がありますか」
「――なんだ。えらそうに何かと思えば、お前も島流しの一員か」
それまで泡を食っていたS社の部長が、突然馬鹿にするような目になった。
島流し――それは、丸の内支社に入っている食品部を指す蔑称である。
「若造がいきがりやがって。柏原か、お前の名前はよく覚えておくからな!」
顔をますます赤くして柏原を指さすと、男は大股で歩み去って行った。
「――行こう」
それまで怖い目で男を睨んでいた柏原が、紗綾の腕を取って歩こうとする。まだ状況が理解できない紗綾が立ちすくんでいると、
「そんなに中島さんが好き?」
抑えた怒りを滲ませた声に、紗綾は睫を震わせて彼を見上げた。
「あいつの頼みなら、禁止されてる接待飲みにも出るし、苦手な俺と仲いいふりもできるんだ。しかも、真凜の頼みで、俺との浮気写真を撮るんだって?」
「っ、それは……」
「言っとくけど、その中島さんは、真凜ととっくに一線を越えてるよ。そんなことも知らずに、いつまで中島さんの言いなりになってんだよ」
さすがに、衝撃で言葉をのんだ。
いや、当然、予想すべき事態だった。中島の魂胆なら、最初のダブルデートの時には分かっていたし、真凜が簡単になびいてしまうような気もしていた。
なのに、柏原との時間があまりに楽しくて、二人の存在が頭から消えていた。
そんなつもりじゃなかったは通らない。結果的に、自分は中島の片棒を担いでしまったのだ。……
ぽつぽつと降っていた雨が、次第に勢いを増してくる。
「――……ご、ごめんなさい」
「謝るんだ、そこで」
かすかな笑いを帯びた声は、明らかに傷つき、同時に怒りで震えていた。
「いいよ、もう。でもされたことはやり返させてもらう。欲しいんだろ、証拠写真。そんなものいくらでも撮らせてやるよ」
柏原のマンションは、そこからタクシーで十五分足らずの場所にあった。
タクシーに乗っている間、柏原は一言も口を利かなかったし、紗綾を見もしなかった。
玄関の扉が閉まると、扉と柏原の間に閉じ込められて、すぐに唇が重ねられた。
「……っ」
一瞬、怖さで身がすくんだが、噛みつくように荒々しかったのは最初だけで、キスは次第に優しくなっていった。
腰をそっと抱かれ、柔らかく唇をついばまれる。二層の花弁を愛おしむように甘く舐められて、唇全体で包み込むようにして吸われる。
彼はそこで唇を離すと、眉根を寄せて面を伏せた。
「ごめん……」
苦しげな声に、紗綾は胸がいっぱいになった。
ここで謝るのは私なのに、どうしてこの人が謝るんだろう。外見はこんなに冷たそうなのに、どこまでいっても悪人になりきれない人なのだ。
紗綾は急いで首を横に振り、彼の引き締まった腰に両手を回した。それは同意を与えたも同然の行為で、むしろ自分からその続きを求めたようなものだった。
少しためらうような間があって、もう一度、そっと唇が重ねられた。舌が滑り込んできて、唇の内側をなぞるように舐められる。
「ぁ……」
濡れた肉感的な舌の感触に、胸の奥深いところがぞくりとした。
互いの舌先が触れて、ヌルヌルと絡み合う。頭の芯が痺れ、さざ波のような気持ちよさが少しずつ全身に広がっていく。
「は……ぁ……」
気づけば紗綾は両腕を彼の首に回し、唾液を交換するような情熱的なキスに夢中になって応えていた。
互いの舌を口中でひらめかせ、敏感な粘膜をいやらしく擦り合わせる。胸が疼いて腰骨が甘くとろけていく。久しぶりに感じる快感が身体も心も溶かしていくようだ。
自分だけでなく、彼の呼気からもアルコールの匂いがした。彼が飲酒した理由を想像しただけで、切なさと苦しさで胸が締めつけられる。いつも二人で過ごした水曜日の夜。この人はどこで、どんな気持ちで私を待っていてくれたのだろうか。
二人は一言も言葉を交わさないまま、互いの腰を抱き合うようにして室内に上がった。
暗くて間取りが分からないが、広いリビングを通り抜け、薄く扉の開いた部屋に入る。そこは寝室のようで、カーテンの隙間から対面のビルの照明がかすかに差し込んでいる。
抱き合ったままベッドに横たわると、シーツから彼の匂いが仄かに立ち上った。薄闇の中、壁にかけられたスーツやシャツが薄らと浮き上がって見える。ここが好きな人の部屋なのだという実感が込み上げてきて、胸が不思議に熱くなる。
柏原は、紗綾の首の後ろに片腕を回して寄り添うと、屈み込むようにして柔らかく口づけた。片方の手でサマーニットに包まれた胸の丸みを優しく押し揉み、徐々に動きを大胆にしていく。気づけば薄いニットは彼の手で押し上げられて、滑らかな肌を温かな指が辿っていた。彼は愛おしむように紗綾の腰や腹を撫で、ブラカップの下に手を滑り込ませてくる。
「っ……」
柔らかな胸のたわみを、彼の無骨な指がそっと撫で上げ、ブラが上側に除けられた。
ぷるんと零れた胸を大きな手で包まれ、紗綾は思わず睫を震わせる。
「ぁ……」
小さく零れた声はキスで奪われ、絡め取られた舌があめ玉のように舐めしゃぶられた。潔癖に見えた彼の、執拗で淫らなキスに、紗綾は息もつけない心持ちになる。
そうしながら、彼はまろやかな胸の丸みを手で思うさまに押し揉んで、頂にある薄桃色の乳首を、すりすりと指腹で擦り、転がしたり弾いたりする。首から回された反対の手は、もう片方の乳首を優しく擦り立てている。
「ぁ……っ、ン、ぁ……ぁ」
次第に腰の辺りに甘ったるい熱が立ち込めてきて、紗綾は小鼻に力を入れて、あえかな声を上げた。
そんな紗綾の耳を甘噛みしながら、彼は硬く勃ち上がった乳首を意地悪く弄び続けている。弾いたり、つまんだり、クリクリと捻ったり、次第に色づく桜色の蕾を優しく虐めている。
否応なしに高まる官能に、紗綾は眉を悩ましく寄せて身悶えた。双方の乳首から、糸のような快感の疼きがチリチリと広がって、もどかしくてたまらない。いつしか真っ白な肌はしっとりと汗ばんで、ベッドに甘い匂いを立ち上らせている。
「や……だ、そこばっかり」
「だって、紗綾が気持ちよさそうだから」
彼の吐く息は熱く、声には抑えた興奮が滲んでいた。それだけでぞくりと背筋が甘く震え、ますます胸の疼きが高まってくる。
「肌がすごく熱くなってる……。教えてよ、どうされるのが一番好き?」
「し、知らない」
耳を熱くして首を横に振ると、顎に手が添えられて、唇が甘く重なった。もうキスに慣れた舌がヌル、ヌル、と心地よいリズムで絡み合う。
汗ばんだ内腿の間は、もう生ぬるい潤いで満ちていた。半ば虚ろになりながらも、紗綾はまだ柏原とこうなっていることが信じられないでいた。
彼の匂い――髪の硬さ――シャツの上から感じる筋肉の隆起。その全部に包まれた身体が悦びにざわめいている。
セックスを知らないわけではない。それでも、こんなに深く酔いしれるような感覚になったのは初めてだ。アルコールのせいかもしれないが、もっと彼のことが欲しくなる……。
その気持ちを察したように、ようやく彼の手が胸から離れ、腹部を辿って下腹部にたどり着く。その手は紗綾の腰や腿を優しく撫で上げ、スカートとストッキングを丁寧に脱がせてくれた。
剥き出しになったシルクのショーツは恥ずかしいほど湿っていた。内腿を辿っていた彼の指が、いじらしく震える恥肉の盛り上がりをそっと撫で上げる。
「ぁっ……」
「……紗綾、可愛い」
掠れた声で囁いた彼が、溜まりかねたようにクロッチを押しのけ、指を差し入れてきた。
ぬるりと肉ひだを撫でる硬い指の感触に、紗綾は睫を震わせる。肉の合わせ目が優しく押し広げられて、ひだの間をクチュリ、クチュリと指でかき混ぜられる。
「ぁ……は」
あまりの気持ちよさに、足の指にきゅっと力がこもった。
柔らかなひだの重なり合いをヌルリヌルリと行き来する指の温かさ。押し揉むようにクニクニと捏ねられる度に、腰がはしたなく浮いてしまう。
「んっ……ふ」
額の生え際に汗が薄く浮き始め、自然に唇が開いていった。快感の萌芽がじわじわと熱を帯び、身体の内側で膨れ上がっていく。
屈み込んだ柏原が、乳房の丸みに唇を押し当て、真っ白な肌を舌で辿った。その濡れた生々しい感触に、あ、と口が開いている。
舌は淫らな生き物のように蠢いて、乳房の裾野を丁寧に舐め上げると、焦らすように乳首の周辺を舐め回す。紗綾は拳を唇に当て、必死に声を堪えるが、腰が知らずひくついているのは抑えられない。やがて物欲しげに震える乳首に、ようやく舌先が当てられる。
「くぅ……っ、ン」
舌先でチロチロと舐められただけで、紗綾は歯を食いしばり、腰を軽く浮かせていた。
――あ……、気持ちいい……。
そんな紗綾の反応を楽しむように、彼は舌腹を使って丹念に乳首を押しつぶし、口中に含んで舐め転がす。もちろんその間も、花筒を愛撫する指は休まない。指の感触が分からないほどに愛の蜜が花びらを濡らし、甘ったるい音を立て続けている。
もう声を抑えられない。気持ちよくてたまらない。
「ぁ……っ、ゃっ、あん、……やぁ」
「紗綾、どんどん内から溢れてくるよ」
「ン……っ、そんな……こと、ない」
手の甲で口を押さえ、紗綾は全身を薄赤く染めた。
胸と秘所から聞こえる卑猥な水音がますます大きく耳に響く。彼の太くて長い指が、もう第二関節の辺りまで花心に沈み込んでいる。その指は少しずつ奥を穿ち、ゆっくりと抽送の間隔を早めていく。
「ぁっ……っ、は」
きゅうっと子宮の辺りが疼き、甘い浮遊感が彼の指の動きに合わせて広がった。舌で舐め転がされている乳首からも、淡い何かが込み上げてくる。
「すごく、気持ちいいよ」
胸から顔を上げた柏原が、掠れた声で囁いた。
「紗綾の中、熱くてヌルヌルして、エロい。俺の指に可愛く絡みついてくる」
「ゃ……やだ……」
言葉で煽られ、高まった浮遊感で腰が浮く。紗綾はしどけなく首を左右に振った。
彼の指が二本に増やされ、より深い場所をヌチヌチと穿たれる。そうしながら親指で敏感な芽をクリクリと転がされ、頭を焼くような強い快感に、もう何も考えられなくなった。
「あんっ、やっ、やっ……ぁ」
ずっと忘れていた感覚が、めくるめくように身体の中を駆け巡り、髪の生え際や指先にまで気持ちよさが満ちてくる。
「あっ、だめ、……ン、やっ、ぁ……いく、いっちゃう……んぅっ、いっちゃう」
ひくんっひくんっと腰が跳ね、紗綾は束の間燃え上がった焔に唇を震わせた。脳髄を焼くような快感が全身をわななかせ、頭の中は真っ白だった。数秒浮遊した身体が、その高みから落ちていくように重たくなる。
――あ……。
これほど強いエクスタシーは初めてで、紗綾は濡れた双眸をぼんやりと瞬かせた。頭がぼうっとして、まだ何も考えられない。
紗綾の中から指を抜いた柏原は、紗綾の額やこめかみに口づけながら半身を起こした。ネクタイをもどかしげに引き抜き、手早くシャツを脱ぐと、どこか緊張した目で、弛緩したままの紗綾を見下す。
「……いい?」
睫を伏せた紗綾は、頬を薄く染めて頷いた。
ようやく安堵したように微笑んだ柏原は、紗綾をそっと抱き起こし、優しい手つきで残りの衣服を脱がせてくれた。
お互い素肌になって抱き合うと、その暖かさと心地よさに、緊張がみるみる解けていく。
彼の肌は滑らかに引き締まり、甘くて優しい匂いがした。どこか懐かしいその匂いに満たされながら、ふと紗綾は泣きたくなった。
引き返すなら今しかない。でも、もう元の二人には戻れない――彼女がいる人とこんな関係になってしまって、これからどうすればいいんだろう。
柏原を見上げると、紗綾の双眸が濡れているのに気づいたのか、彼の微笑みがわずかに陰った。
「どうしたの?」
殆ど反射的に、紗綾は首を横に振った。それが自分の答えだとその時に分かった。
今、現実を突きつけて彼の気持ちを冷ましたくない。たとえ嘘でもかりそめでも、この人とひとつになりたい。
抱き締め合ってもう一度キスをした。彼が二度と不安に思わないように、紗綾は自分から舌を出し、彼の口の中に差し入れた。一瞬戸惑いを見せた彼は、けれどもっと激しいキスでそれに応えてくれた。
やがて目に欲情を宿した柏原は、紗綾に背を向けて避妊具をつけた。部屋に避妊具があるという当たり前のことに、紗綾は静かに傷ついていた。
「……大丈夫?」
労わるような声に少しだけ笑んで頷くと、柏原はゆっくりとその時の体勢になった。
膝をついて前屈みになり、紗綾の反応を窺いつつ、そっと陰茎の先をひだの間に擦り付ける。
ずっと目をつむっていた紗綾は、身体でそれを感じていた。指でほぐされた入り口を、つるりとした亀頭がヌルヌルと行き来する。それがようやく収まり先を見つけ、ぐっと力が込められる。
「ぁ……」
何年も閉じていた場所が、優しくはあっても圧倒的な質量のあるものでゆっくりと押し開かれていく。鈍い痛みに紗綾はかすかなうめき声をあげたが、それよりも柏原とひとつになれた嬉しさの方が勝っていた。
彼で埋め尽くされた膣肉は、やがて女の悦びを思い出したかのように心地よくざわめき始める。みちみちとした心地よい圧迫感に、さざ波のような優しい快感が込み上げてきて、紗綾は甘くて深い吐息を漏らした。
「あ……は」
柏原は何も言わず、どこか苦しげな息を吐き、ゆっくりと腰を動かし始める。
絡んだ膣肉を引っ張りながら抜けていく雄茎が、再びゆるゆると奥に沈む。単調に、ゆったりと、焦らすように優しく、それが何度も繰り返される。
紗綾は目をつむり、彼の肩と腕にしがみついて、ただ揺さぶられるままになっていた。
少しずつ抽送が深くなり、早くなるにつれ、快感もより甘美なものになっていく。
「っぁ、……ぁ、ぃ……」
丁寧にじわじわと高められ、官能の火で炙られた身体が、艶かしく波打った。
その刹那、彼を包む肉がきゅうっと収縮し、ひくひくと腰が痙攣する。
「っ……」
かすかにうめいた彼の髪と吐息が額を掠め、紗綾は虚ろに薄目を開けた。
目の前に初めて見るような柏原の顔がある。悩ましげに寄せられた眉、欲情に濡れた暗い双眸、髪が揺れ、男らしい喉を汗が伝っている。
こんなにも懸命に自分に向かってくる男に、溜まらない愛おしさが込み上げた。
「……、好き」
紗綾は思わず呟いていた。そう言った途端、意識せずに涙が溢れた。
「好き……、智己……好き」
一瞬驚いたように動きを止めた柏原は、すぐに紗綾の唇を飢えたようについばむと、我を忘れたように荒々しく腰を打ちつけてきた。
ガツガツと突き上げられ、視界が揺れ、身体全部が壊れそうに揺すり立てられる。
「俺も好き、……好きだよ、紗綾」
「ンっ、ん……、智己……あっ、あはぁ」
何も考えられないほど、激しく身体が揺さぶられる。次第に呼吸のリズムが合わさってきて、つながった場所に生じた強い快感の波がみるみる全身に広がっていく。
「ンぅ……っ、や……、ああっ」
「紗綾……、紗綾」
「ン、だめ……っ、ん、あんっ、やっ、いっちゃう……」
紗綾は甘い声を上げ、総身を満たす官能の中で身悶えた。
弓なりになった身体の奥で、柏原のものがドクンと脈打ち、火のように熱くなる。
先ほどとは比べものにならないほど深い快感に、もう声も出なかった。とろけ落ちた身体に灼熱の火の粉が降り注ぐ。肉体の最奥で、その余韻はいつまでも続いている。
「っ……、く」
うめいた彼が、紗綾の中に身体を埋めたまま、筋肉を痙攣させて最後の長い息を吐く。
紗綾は汗ばんだ彼の背中にしがみつき、好きな人とひとつになる悦びに溺れていった。