年上御曹司と懐妊契約婚からはじめる溺愛夫婦生活

書籍情報

年上御曹司と懐妊契約婚からはじめる溺愛夫婦生活


著者:椋本梨戸
イラスト:つきのおまめ
発売日:2022年 12月30日
定価:630円+税

大名華族の流れを汲む名家である藤原家の長女である結月。
しかし、結月の務める藤原商事は資金繰りがうまくいっていなかった。
資金援助のために、財産をもつ人とお見合いして結婚を考えていた結月だが、
飲み友達である鷹斗に反対されていた。
相談していく内に、財力と実力をもつエリートである鷹斗から代替案を提示される。
「俺と結婚すればいい」
本気さを感じ、結月は思わずうなずくが関係性冷え切っている自分の両親を思い出し、
結婚に対する不安は拭えずにいたのだった――。

【人物紹介】

遠坂結月(とおさか ゆづき)
会社員の事務として働く25歳。
名家出身なので、清楚なお嬢様という雰囲気。
世間知らずで明るい性格をしているが、自己犠牲の精神が強いところも。

遠坂鷹斗(とおさか たかと)
大手企業グループの会社員で29歳。
エリートで堂々とした雰囲気があり、現社長の長男でもある。
気の強い自信家であり、俺様気質なところも。

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【試し読み】

 背後でなにかを下ろす音が聞こえて、わたしは肩をびくつかせた。
 振り返ると、リビングのソファに鷹斗さんが荷物を置いている。
 会場のスタッフさんからいただいた花束と、ウエルカムボードやウエディングベアなどが入った大きな紙袋だ。
「荷物ありがとう」
「ああ。それにしても、なかなかいい式だったな」
 鷹斗さんはタキシードの上着を脱いで、ソファの背もたれにかける。タイもほどいてリラックスモードだ。
 わたしはうなずいた。
「うん、緊張したけれどね」
「おまえは人まえに出るのが苦手だもんな」
「逆に鷹斗さんは堂々としていたよね。タキシード姿もかっこよかったし」
「結月も可愛かったよ」
 鷹斗さんは甘い笑みを浮かべる。
「ウエディングドレスもカクテルドレスも、とても似合っていた。綺麗だったよ」
 ストレートに褒められて頬が火照った。どう返していいのかわからなくなり、わたしは冗談めかして言う。
「なら、この部屋でもずっとドレスを着ていればよかったかな」
「それもいいな。でもそのルームウェアも充分可愛いよ」
 またしても褒められて、今度は言葉が出てこない。わたしはますます熱くなる頬をもて余した。
 いまのルームウェアは、胸下切り替えのふんわりしたロングワンピースだ。ちなみにホテルから借り受けたものである。
「風呂、先に入っていいぞ」
 鷹斗さんはソファに腰を下ろした。荷物を整理しはじめる。
「あ、わたしがやるよ」
「いいからゆっくりしてこい」
 わたしは渋々うなずいた。クローゼットからバスタオルとガウンを取り、洗面所に足を運ぶ。
 洗面所とバスルームを区切るのはフレームレスのガラスだ。ブラウンを基調としたカラーリングで、浴槽は円形のジェットバスである。
 体と髪を洗って、湯気のたつ浴槽に身を沈める。熱い湯に包まれると、結婚式の緊張がゆるゆるとほどけた。
 リラックスしたところで、今夜ベッドルームで起こることを想像してみる。しかしなかなかイメージが湧かない。
 具体的に想像できないほうが、逆にいいかもしれない。ヘタに緊張してしまうのを防げるからだ。
 しばらくののち、風呂から出て厚手のガウンを羽織った。髪を軽く乾かしてからリビングに戻る。
 鷹斗さんはノートパソコンをソファに置き、キーボードを忙しなく叩いていた。集中しているらしく、わたしが出てきたことに気づかない。
 仕事をしているのだろうか。わたしは遠慮がちに声をかけた。
「鷹斗さん、お風呂上がったよ」
「ああ、早かったな」
 鷹斗さんは顔を上げた。目が合って、彼の動きがとまる。そのまま無言で見つめられたので、わたしは戸惑った。
「鷹斗さん?」
「――いや、ごめん」
 彼は目をそらしてノートパソコンを閉じた。テーブルに置いて立ち上がる。
「風呂に行ってくる。結月は適当にくつろいでいてくれ。先に寝ていてもいいぞ」
「はい」
 うなずくも、鷹斗さんの言葉に引っかかった。
(先に寝たらダメだよね?)
 訝しく思いながら、わたしは鷹斗さんの広い背中を見送った。
 その後ソファで彼を待ったが、なかなか出てこない。手持ち無沙汰になったわたしは、ドキドキしながらも先に布団に入ることにした。
(電気は消しておいたほうがいいのかな)
 要領がわからない。考えた末、枕もとのリモコンで電気を消した。フロアランプがあたりをほのかに照らしだす。
(なんだか雰囲気が増したような。あ、カーテン開けっぱなし……)
 高層階の大きな窓からは夜景が一望できる。ベッドに寝転がりながら、わたしはなんとなくその景色を眺めていた。
 カーテンを引かなくちゃと思うけれど、体が動かない。
(疲れが溜まっているのだわ)
 まぶたが徐々に重くなってくる。
(寝てはだめ、なのに……)
 ――それからどのくらい経っただろう。
 目が覚めたとき、まず目に入ったのは閉められたカーテンだった。
「あれ……?」
 閉めた覚えはないのに。
 ランプが灯るなか、わたしはぼうっとした頭で上体を起こした。
 鷹斗さんはもうお風呂から出たのだろうか。なにげなく横を見て、わたしは仰天した。
「鷹斗さん!?」
 隣に寝転がり寝息を立てているのは、まぎれもなく鷹斗さんだ。ガウン姿で胸のあたりまで布団をかぶっている。
 わたしの声で目が覚めたのか、鷹斗さんはまぶたを震わせた。ゆっくり開いて、こちらを見上げる。
 その気だるげな表情に、どうしてかどきりとした。
「どうした、結月」
 眠たそうな声だ。
「起きたのか? いま何時だ?」
「ご、ごめんなさい、わたし――」
 慌ててサイドテーブルのデジタル時計を見た。夜中の二時だ。
「寝てしまってごめんなさい。気づいたらこんな時間になっていて」
 ふと鷹斗さんはほほ笑んだ。優しい笑みだ。
「明日……といっても、もう今日か。今日のチェックアウトは夕方の四時に遅らせてもらってる。だから気にせず、好きなだけ寝ていい」
「そ、そうじゃなくて」
 わたしはシーツにぺたんこ座りになり、自分のガウンの裾を握り込んだ。
「そうじゃなくて、その……。今日は鷹斗さんとはじめてすごす夜だから。だからちゃんとしようと思っていたの。でも寝てしまって」
「……。夜は寝るものだよ」
 鷹斗さんは寝返りを打った。わたしに背中を向ける格好だ。
「俺も眠い。もう寝よう」
 わたしは言葉を詰まらせた。やがてじわじわと罪悪感が湧いてくる。
(鷹斗さんは気遣ってくれているのだわ)
 けれどわたしには務めがある。彼の妻としての役目が。
 わたしは意を決した。
 鷹斗さんと共有の布団に肩まで入り、勇気を出して彼の背中に寄り添う。緊張しながら呼びかけた。
「……鷹斗さん」
 返る声はない。寝てしまったのだろうか。わたしはさらにくっついた。
「鷹斗さん、起きて」
 彼のガウンを握って軽く引っ張ると、鷹斗さんがピクリと反応を示した。
 わたしは手を伸ばして、たくましい体を抱き締める。
「ねえ鷹斗さん、お願い。こっちを向いて」
 怖気づいてかすれそうになる声に、がんばって力を込める。
「わたしたち今日夫婦になったのよね。だから夫婦が夜にすることを、一緒にしよう?」
 そのときふいに、彼の体に回していた手をつかまれた。
 息を飲むあいだに、気づいたらわたしはベッドに仰向けにされていた。両手首をシーツに縫いとめられ、鷹斗さんが上から覆いかぶさってくる。
 フロアランプの光を受けて、彼の双眸が揺らいだ。
 たくましい体の重みに、わたしが感じたのは怯えと――胸の高鳴りだ。
「キスさえ一度しかしていないのに」
 低い声で鷹斗さんは言う。
 冷静でいて、奥底に熱情が感じられる声音だった。
「抱けると思うか?」
「それは」
 わたしは動揺した。
 鷹斗さんの言うとおり、わたしたちは地下駐車場での口づけ以来なにもしていない。
 チャペルでのキスは、鷹斗さんの唇が頬にふれただけで終わった。それは事前に鷹斗さんの提案で決まっていたことだから、わたしは素直に受け入れた。
 言葉に詰まっていると、鷹斗さんはやがてため息をつく。
「急ぐ必要はないよ」
 手首の拘束が解かれた。彼が上体を起こしたので、重みがなくなる。
 わたしも慌てて身を起こした。鷹斗さんはこちらを見ないまま、短く言う。
「ソファで寝てくる」
「え?」
 わたしは目を見開いた。
 鷹斗さんがベッドから降りようとするのを見て、心臓が嫌な音を立てる。
(だめ、このままじゃ――)
 わたしはとっさに手を伸ばした。両膝立ちになり、鷹斗さんを背中から抱きとめる。
 彼の身がびくりと強張った。
「っ、結月」
「ごめんなさい、鷹斗さん」
 わたしは必死に言う。
「わたしはキスすらまともにできなくて、だから鷹斗さんがそういうことをしにくいって、わかっているの。女性として未熟だって。でも」
「そういうことじゃない」
 鷹斗さんは慌てたように振り向いた。
「女性として未熟だなんて、そんなこと思ってないよ」
「経験がなくて、知識だって足りないかもしれない。だから教えてほしいの」
 緊張で声がかすれた。
「未熟でごめんなさい。でも、抱いてください」
 鷹斗さんの表情が苦しげに歪んだ。
 彼から返事はなく、わたしは断られたのだと思って落胆した。
(わたしではやっぱりダメなのだわ)
 気持ちがどんどん落ちていく。と、鷹斗さんが言葉なく動いた。
 両肩をつかんでいた手がすべり降りて、わたしの腰に回る。そのまま強く抱き寄せられた。
「鷹斗さ――」
 驚いて開きかけた唇に、彼のそれが押し当てられた。
 深く密着した熱い弾力に、息がとまる。キスされていると自覚した直後、熱く濡れたものが口中にねじ込まれてきた。
「……ッん」
 鷹斗さんの舌だと遅れて認識し、体が強張る。生き物のように蠢くそれに自分の舌を擦り立てられたとき、さらに大きく体が反応した。
 ぞくりとした感覚が、体内に甘い痺れを生じさせる。
 鷹斗さんの舌が、わたしのそれを絡め取った。ぬるぬるとこすり合わされ、かすかな水音が立つ。
(これ、キスなの――?)
 地下駐車場のときとまったく違った。
 鷹斗さんの唇と舌に翻弄され、わたしは彼のガウンを必死につかむ。そうしていないと崩れ落ちてしまいそうだったからだ。実際は鷹斗さんに抱きすくめられていたから、大丈夫だったのだけど。
 口づけながら、鷹斗さんの手が動きはじめた。腰のサイドで縛っていたガウンの紐がほどかれていく。
 わたしは動揺した。
 ガウンのまえ合わせがゆるみ、そこから鷹斗さんの大きな手が侵入してくる。寝るときの習慣で、ブラはつけていなかった。
「ぅ、ん……」
 胸のふくらみをゆっくりと押し包まれて、その感触に肌が震える。男性からこんなふうにふれられたのははじめてだ。
 鷹斗さんがそっとキスをほどいた。
「俺の手、冷たくないか?」
 片方の胸をじっくり揉み立てながら、鷹斗さんが聞いた。彼の声はひどくかすれている。
 わたしは首を振った。むしろ、熱く感じるくらいだ。
「大丈、夫……、ん」
 優しく揉まれるところから、甘い気持ちよさが広がっていく。
 鷹斗さんはこのまま抱いてくれるつもりかもしれない。安堵と緊張が同時に湧き起こる。
「……っ」
 硬い指の腹が、ふいに胸の先端をなぞり上げた。
 小さな電流が体内を走り、快感に体が震える。輪郭を丸くなぞるようにされたのち、やわらかく押しつぶされた。
 その快感に、息が上がった。声にならない声がもれでてしまいそうで、歯を噛み締める。
 それでも先端を指のあいだに挟まれて、くにくにと弄られたら、我慢していた声が出てしまった。
「あ……っん」
 弄られるたびに、肌がざわめいて快感が生じる。無意識に腰が動いてしまう。
「鷹斗、さん」
 たまらず、彼のガウンをつかむ手に力がこもる。
 彼は胸を弄る手はそのままに、もう片方の手を動かした。わたしの肩からガウンを落としたのだ。
 わたしは息を飲んだ。ランプの灯りに、ショーツのみを身につけた体が露わになる。
 恥ずかしさに頬が染まった。
 とっさに引こうとした体を、逆に抱き寄せられる。そのまま視界が回り、シーツの上に押し倒された。
 後頭部が枕に埋まる。のしかかる体のたくましさと、見下ろしてくる端整な面差しに、鼓動が速まった。
 鷹斗さんは男の人なのだ。
 いまさらながら――本当にいまさらなのだが、そう思い知った。
「……綺麗だ」
 わたしの体を見下ろしながら、鷹斗さんがひとり言をこぼすように言う。わたしはどきりとした。
 大きな手が腰を撫で上げ、先ほどふれていた片胸を再度包み込む。
 ゴツゴツした指のあいだから、胸の柔肉が盛り上がっている。そのいやらしさに、わたしは少なからず衝撃を受けた。思わず震える声が出る。
「き、綺麗なんかじゃないわ」
「どうして?」
 鷹斗さんは、陶然とした熱いまなざしで告げた。
「綺麗だよ、とても」
 鼓動が高鳴る。鷹斗さんの端整な面差しが近づき、のしかかる重みが増して、それから唇を重ね合わされた。
 味わうようにじっくりと、濃密なキスを与えられる。同時に胸を揉まれ、先端を刺激されて、わたしはたまらない快感に襲われた。
「ぅん、ん……っ」
「は……」
 絡めた舌をゆっくりほどき、鷹斗さんは唇を離した。
 彼の指が、わたしの乳首をつまんでくりくりと揉み立てる。
「ッあ――」
「痛くないか?」
「痛く、な……、ん、ぁ……っ」
 やむことなく送り込まれる快感に、わたしは小さく喘いだ。
 痛いよりも、むしろ。
「気持ち、いい……」
 無意識に素直な気持ちがこぼれ落ちた。言ってしまったあと、恥ずかしさが込み上げてきて瞳が潤んでしまう。
 言い訳するように、乱れた息の下でささやいた。
「ごめんなさい。こんな感覚、はじめてで……」
「……。くそ」
 なぜか鷹斗さんは小さくうめいた。
「鷹斗さん……?」
「こんなの反則だろ」
 絞りだすように言われて、わたしは戸惑う。
「反則って――」
「お見合いさせなくてよかった」
 鷹斗さんの指がわたしの唇をなぞる。
「こんなに可愛いなんて。だれに見せるのも嫌だ」
 熱情を帯びたささやきに、鼓動が跳ねた。
 彼の手のひらが片胸を下からもち上げる。こんもりと盛り上がったふくらみの先端に、端整な顔を伏せた。
 熱く濡れた舌に、そこを覆われる。そのままぬるぬると舐められて、わたしは息を飲んだ。
「ッ、あ――」
 びくりと腰が震えた。
 じっくりと押しつぶすように、乳首の上を舌が動いていく。気持ちよさにわたしは喘いだ。
「た、かとさん……っ」
 鷹斗さんはもう片方の手で腰を撫でてくる。そのまま下ろしていって、ショーツに手をかけた。
 一枚だけ、この体に残された下着だ。
 わたしは体を小さく震わせる。わずかに走った怯えを、鷹斗さんは見逃さなかったようだ。

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