過保護な上司が苦手だったのに、一夜の深愛の末お付き合いすることになりました。

書籍情報

過保護な上司が苦手だったのに、一夜の深愛の末お付き合いすることになりました。


著者:柴田花蓮
イラスト:カトーナオ
発売日:2022年 12月30日
定価:620円+税

同僚の修一と結婚間近だったはず美月。
しかし、後輩OL・清水と修一の浮気が発覚し破局してしまった。
修一とは就職後すぐから付き合い初めて3年、結婚も考えていただけにダメージも多く落ち込んでいた。
そんなある日、営業成績もよく若くして部長、
将来は取締役も約束されているヤリ手の悠馬と一緒に出張することに――。
どこか冷たい雰囲気のある悠馬のことが少し苦手だったが、意外にも悠馬は優しく美月の話を聞いてくれていた。
「……だったら、俺の部屋に来い」
そんな彼に心を許してしまった美月は……!?

【人物紹介】

北乃美月(きたの みづき)
27歳営業アシスタントのOL。
綺麗系の大人っぽい美人。身だしなみや化粧などに気を使っている。
明るく穏やかな性格であり、相手のことを考えて行動するタイプ。
時折、相手のことを考えすぎて自分の我儘は飲み込んでしまうことも。

沢田悠馬(さわだ ゆうま)
29歳営業部総括部長。次年度は取締役就任も内定と噂されている。
切れ長の目に甘いマスク。ハイブランドのスーツを着こなしている。
派手な外見とは逆で、恋愛相手の選び方はとても慎重なところも。

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【試し読み】

 美月たちも最初はそういう間柄だったはずだ。でもいつからか、美月がどこかで、いつも修一に合わせるようになってしまっていたような気がしていた。
 休日の予定を決めるのも、部屋で食事を作る時も、何もかも。それがいつしか二人の間では「当り前」になってしまっていた。
 二人で部屋で一緒に観る映画の内容までも、いつも修一に合わせていた美月。そんな美月に対し、いつしか修一もそれが「当たり前」だと思うようになって、その上で、それだと何だかもの足りなくなっていたのかもしれない、と美月は思う。
『正直、三年付き合っていたら、美月に女性としての魅力を感じなくなってしまったんだ……きっとこれからもそれは変わらないと思う。だから、美月とは結婚できないし、もう終わりにしたい』
 別れ際の、修一に言われたあの言葉が、ふっと頭の中に蘇る。
 ああ、あれはこういうことだったのかな――美月は今になって、その言葉の意味をようやく理解できたような気がした。
 ちゃんと自分の気持ちを伝えることは、我儘とイコールではない。同じように、言いたいことを我慢して相手に合わせることだけが、相手を想っての行動というわけではなかったはずだ。それをいつしかおざなりにしてしまったことが、今回の修一との関係が終了した要因の一つだったのだろう。美月は少しだけ、混乱して淀んでいた頭の中が整理されたような気がした。
「……まあ、そういうわけだから、付き合う相手とは対等になんでも話す。相手にも話すようにもしてもらっている。ダメなものはダメ、嫌なものは嫌。でも甘えたい時は……満足するまで求め合う。付き合っている間もそうやって自分が自分でいられたから、たとえ関係が解消されたとしても、あまり自分自身の生活は変わらない」
 そんな美月に対し、悠馬はさらにそう口にする。
「何だか少し、そういう関係って羨ましいです」
「そうか? 全て、過去のことだが」
「……でも部長。部長がそういうスタイルで誰かと付き合っていたというのは理解できたんですけど、部長って、今までで誰かを、溺れるくらい愛したことってあるんですか? 部長のそういうスタンスが崩されてしまうくらい。気になります」
「んー? ……そりゃ、あるよ。ただ、自分をセーブすることはできるから、きっと相手にはそれは伝わっていないだろうけど。それに、溺れるかどうかはわからないけど、付き合っている間は、俺なりに真剣に相手と向き合っているつもりだ」
「そうですか……。過去のこと、うん、そうですよね。私も、今回のことをいつか、そんな風に言える日が来るんでしょうか」
「北乃次第だな。北乃のこれまでの気持ちが一途であればあるほど、そういう日はきっとくるよ。まあ、長く付き合った婚約間近な彼女を裏切って別の女に靡くような男に執着するよりも、そんな男はこっちから切り捨ててやったくらいの気持ちで早めに前を向いた方が、俺は楽しいと思うけど」
 悠馬がきっぱりとそう言い切ったところで、先ほどオーダーした料理が次々と運ばれてきた。
 子羊のグリルに、スモークサーモンとアボカドのサラダ。トマトとモッツァレラチーズの大皿パスタが、空腹を増長させる香ばしくて芳醇な匂いを立てながら、テーブルに次々と並べられていく。
「……さ、料理が冷める前に食べようか。食は全ての基本だぞ」
 悠馬は料理を適当に取り皿に取り、表情を蔭らせたままの美月の前に置く。本来は部下である美月が取り分けなどをするのが望ましいのかもしれないけど、それをさせないで自ら動く悠馬の、そういう部分がきっと仕事にも影響しているのだろう。美月はあらためてそれを実感させられる。
「ありがとうございます、部長。私、食べます」
「ああ、それがいい。それに俺は、笑っている北乃の顔は好きだ」
「えっ……!?」
「笑顔の話だ。さ、食べるぞ。ああ、もうグラスも空だな……次はどれにしようか」
 悠馬の言葉に一瞬ドキッとさせられた美月だったが、確かに目の前で暗い顔で食事されているより、笑顔で食事をしているほうがいいだろう。
「……」
 ――なんだ。冷たい人かと思っていたけれど、ちゃんと話してみたら、何だか優しい人。
 冷たそうに見えた瞳も、気付けばまったく気にならなくなっていた。
 ここに来る前までは緊張していたけれど、今日、ゆっくりと話せてよかった。
 それに、まさかこんなに恋愛についてアドバイスをもけることになるとは思わなかった――これまで苦手だった悠馬の意外な一面も知ることができて、美月の中で何かが変わったような気がした。

「あの、私、このスパークリングワインを飲んでみたいです」
「ああ、じゃあ俺も。結構辛口なんだけど、口当たりはいいんだよ。大丈夫か?」
「平気です!」
 美月は気持ち新たに、運ばれてきたグラスワインを飲み干す。
 思えば、修一と別れて以来、食事もおざなりになっていた。しっかりと三食食事をとったのは、今日が久しぶりかもしれない。
 もともと、標準よりも部分的に女性が強調されたようなグラマラスな体型の美月だったが、ここ最近で体重も三キロほど落ちていたせいで、肌艶はもちろん、胸周りやウエスト周りが少しだけ縮んだような気がしていた。
 悠馬が言う通り、長く付き合った婚約間近な彼女を捨てて、若い女と浮気するような男など――すぐには無理かもしれないが忘れるようにして、気持ちを前に持って行った方が心身共にいいかもしれない。
 美月は久しぶりの食事を堪能し、その間だけは修一のことは忘れるようにしたのだった。
 しかし、楽しい食事の時間が済んだ後――

「北乃、お前本当に大丈夫か?」
「……大丈夫です。部屋に行けば寝るだけですから」
「全然大丈夫じゃないな」
「ちょっと足元がふわふわしているだけです……」
「重症だな」

 ゆっくりと食事をした後、そろそろ新幹線の時間だと店を出た二人だったが、酒を飲み過ぎた美月の足元がおぼつかず、休みながら道を歩き駅へとついた二人だったが、なんと新幹線の最終がちょうど出てしまった後。もちろん普通電車はとっくに運行が終わっているため、もう今夜は家には帰れない。
 仕方がないので駅近くのビジネスホテルで部屋を取ることにしたのだが、口当たりのいいワインを飲み過ぎた美月は、ロビーから宿泊用の部屋に行くのも一苦労だった。
 そんな美月を、悠馬は支えながら歩いている。とはいっても、美月が自分の腕にしがみつくようにしているので、それを抱える様に肩を抱いているだけなのだが。
「ほら、北乃。ここがお前の部屋だぞ」
「部長のお部屋は?」
「隣だ。さ、鍵を……」
 美月と同じ、いやその倍は飲んでいたはずなのに、酒に強い悠馬はまったく酔った様子がない。
 これも営業活動の賜物なのだろうか。美月を介抱するのも慣れている。
「……」
 酔った美月をとにかく部屋で休ませようと、鍵を開けて美月を部屋の中に運ぶ悠馬。その悠馬の姿を見つめながら、美月は何だか奇妙な気持ちになる。
「北乃、とりあえずベッドに横に……って、お前、何だその顔。どうしたんだ」
 なぜか口を尖らせている美月に気付いた悠馬は、美月にそう尋ねる。
「別に……もうちょっと飲みたかったなって思っただけです」
「もう今日はやめとけ。足、フラフラだろ? 明日、二日酔いできつくなるだけだぞ」
「……水でもなんでもいいんです。もうちょっと、もうちょっとだけ、その」
 部長と一緒にいるのが楽しいなって思っただけです。美月は口を尖らせたままそう口にする。
 悠馬はそれに対し、何の反応もしない。それを見て、美月は自分が大胆なことを言ってしまったと後から気付き、頬を染める。
 今夜一緒に過ごした時間が久しぶりに楽しくて、普段では自分から言わないようなことを口走ってしまった。それに、美月自身が一番驚いていた。おかげで美月の酔いも一気に醒めたようで、
「……すみません、変こと言って。酔い、醒めました」
 美月はバスルームに駆け込んで、コップに水を注いで一気にそれを飲み干す。
 悠馬はそんな美月を、何も言わずじっと見つめているようだった。
 ――ああ、きっと呆れているんだろうな。恥ずかしいところ、見せちゃたな。
 失恋話を知られた上に、悪酔いして部屋まで連れてきてもらって。きっと、手のかかる部下だと幻滅されただろうな、せっかく心が打ちとけるような感じで話すことができて、少し距離が縮まったと思ったんだけどな、と、美月は落ち込む。
「私のせいで、終電乗り過ごしてしまってすみません。ホテル代も、明日帰るための新幹線チケットも、私、出しますから」
 美月はあらためて悠馬に頭を下げると「さっきのことは忘れてください。もう寝ます」と口にする。すると悠馬は、
「……俺は別に構わないけど」
「え?」
「酔い、もう本当に醒めたか?」
 表情を崩さないまま、美月にそう尋ねた。美月は小さく頷く。すると――
「……だったら、俺の部屋に来い」
「え……」
「どうする?」
 長身を少し屈めるようにして、悠馬はそう、美月の耳元で囁いた。
 思ってもいない言葉。それだけでも身体が震えてしまうのに、囁かれたその声がとても甘く、刺激を伴う媚薬のように、一瞬で美月の身体を支配する。
 俺の部屋に来い。それがどういうことを意味するのか、わからないほど美月も恋愛の経験がないわけではない。
 ただ、当然迷う。迷うも――いまだ身体の中に残る酒の力と、寂しさを紛らわせたい気持ち、そして、先ほど本当に感じていた「まだ一緒にいたい」という気持ちと。複雑に絡まりあうそれらの気持ちが、いつもよりも美月を大胆に動かそうとしている。
 美月は黙って頷くと、悠馬の腕にそっと触れる。悠馬はそんな美月の額に一度だけ軽くキスをすると、美月の手を引き、隣の自分の部屋へと移動した。そして――部屋に入りドアに鍵をかけるなり、無防備だった唇は悠馬によって強引に塞がれてしまう。
「は……はあ……っ……」
 唇の間から割り入れられた舌が、執拗に絡み合って吸い付いている。ただでさえその行為で頭がぼんやりとするのに、先ほどまで飲んでいた甘いワインの香りも伝わってくるような気がして、頭の中が真っ白になり、美月の足はがくがくと震えていた。
 そんな美月の身体を、悠馬は軽々と抱き上げる。そしてベッドに下ろすと、美月を組み敷くように、悠馬は上にポジションを取る。
「っ……」
 いつも見慣れていたはずの、悠馬の整った顔。冷たいような印象があって苦手だった瞳。その全てに今、自分は見つめられている――そう思ったら、美月は急に恥ずかしくなり顔を背けてしまう。が、悠馬はそんな美月の頬にそっと手を当てて自分を見るようにさせると、
「……北乃」
 一度だけ、美月の名を口にする。
 まるで、媚薬の様に身体の奥深くまで届く、甘い声。美月の身体がビクンと震える。
 きっと、今ここで「嫌だ」といえば、悠馬は離れてくれるだろう。でも、媚薬に侵された美月にはもうそれができなかった。何より、「まだ一緒にいたい」と先ほどまで願っていたのは美月自身。それに、美月はもう修一のものではないし、悠馬とここで身体を重ねたとしても、誰に何を咎められることもない。そう、別に修一の様に、美月と付き合っているうちに他の女性とそうなったわけではないのだから。
「……」
 さまざまな思いが、美月の頭を過る。美月は一度小さくなずくと、そっと目を閉じた。そんな美月に、悠馬はそっと口づけをする。その後、美月の来ていたブラウスのボタンへと手をかけ、その下から現れた白くて柔らかな肌に唇を這わせるのだった。
(二)
「ねえ、美月。美月ってば」
「……あ、えっと、ごめん……何の話していたっけ……」
「大丈夫? ここ数日、ずっとそんな感じじゃない? 森田ショックがまだ抜けないなのね」
「そ、そういうわけじゃないんだけど……」
「いいって、無理しないの。こりゃあ、うちの彼氏の友達との飲み会、早めに設定しないと」
 あの出張から、一週間。あの日のことが忘れられない美月は何をしていても考えごとをして気もそぞろの状態で、こうして昼休みに香菜とランチをしていても、気付けばボーっとしてしまっている。
「うちの彼の友達、美月の写真みて可愛いって言っていたらしいよ。新しい縁が生まれるチャンスだわ」
 香菜はそう言いながら、お弁当箱に詰められた卵焼きを口の中へ放り込む。
 美月は「実物を見てもそう言ってくれるといいけれど」と苦笑いしつつ、サンドイッチを口に含みながら、香菜にばれないように小さなため息をつく。

「やあっ……あっ……はあっ……」
 ベッドが軋む音と、動きに合わせて肌がぶつかり合う乾いた音。そして、美月の口から洩れる甘く切ない吐息交じりの声が、薄暗い部屋の中には響いていた。
 四つん這いの状態で、何度も奥を突き上げられる美月。尻肉が歪むほど強く押し付けられた状態で、自らその動きに合わせ腰を振るような行為は、今まで経験がなかった。それなのに、自らそうしてしまうのは、本能なのだろうか。
 修一との営みは、今思えば淡白な方だったのだと思う。最後にしたのは別れる前の二か月前だったけれど、その時は「俺疲れているから、上に乗って」と言われ、美月が跨がるような形でした上に、短時間で終了した。
 それが、今夜は時間の感覚がまったくない。もう、どれくらいの間こうして突き上げられているかわからない状態で、夢中に行為に没頭している。
「すごいな、北乃……奥がどんどん熱くなって、締め付けが強くなる」
「や……言わないでえっ……」
「それに、ここを一緒に弄られるのが好きなんだな……」
 そんな美月を翻弄する動きは止めないまま、乱れた呼吸交じりの声で、悠馬が囁く。片方で美月の腰を掴みつつ、もう片方の手は、二人の繋がっている部分を伝い奥から溢れだしている蜜にじっとりと濡れた肉芽に触れる。少しだけ膨れて蜜まみれになっている肉芽は、悠馬に触れられただけで、甘い刺激を美月の全身に伝えていく。
「あんっ……」
 ビクビクッと身体を強く震わせ、美月の身体が力を失う。
「どうした? ここがそんなに気持ちいいのか」
「や、だめえっ……あ、それだめえっ……」
「だめ? じゃあ触れるのをやめるか?」
「や、そんなこと言わないでください……お願い……」
 心と裏腹な言葉。それを素直に認めた瞬間、悠馬の指先はその動きを強くする。

 悠馬が指先を動かすたびに、グチュグチュと卑猥な音がしていた。美月は必死にそれに抗おうとするも、気持ちと反して身体は反応してしまう。悠馬はそんな美月の身体を素早く仰向けにベッドへと寝かせると、指でその部分を刺激したまま、再び激しく奥を突き上げ始めた。
「あんっ……あっああっ……や、あんっ……」
 突き上げるたびに、悠馬の張り切った欲望は大きく、そしてその硬度を増しているような気がした。美月はそんな悠馬を、無意識のうちに強く、包み込んでいた。
「くっ……すごいな。ああ、このままじゃ俺がもたないよ、北乃」
「わ、私っ……」
「……」
 悠馬は、頬も肌も仄かなピンク色に染め上げて恍惚な表情をしている美月に優しく口づけをする。そして、太腿の両側を固定して、わざと自分の体重をかけるようにしながら、さらに美月の奥へと欲望をねじ込んできた。そして、先ほどよりも強く、深く美月に欲望を打ち付けていく。
 肌を打ち付け合う音が、薄暗い部屋の中に響き渡った。
「やっ…だめえっ……あんっ……ああっ!」
 悠馬の激しい動きに合わせて、美月の声も大きくなる。気づけば、悠馬の腰に自ら手を回し、自分へ強く押さえつけていた。それはまるで「離れないで」とでも言わんかのようで、その行為がさらに悠馬を刺激し、そして動きを激しくさせる。
 二人はそのまま、その行為に没頭していた。しかしほどなくして、美月は大きく身を震わせながら、悠馬を抑えていた手を離した。どうやら、果ててしまったらしい。
「……」
 美月が果てる直前、悠馬の欲望は美月に今までよりも熱く、そして強く包み込まれた。そのせいもあり、美月が果ててほどなくして、悠馬もその欲望の全てを吐き出した。
「……」
 肩で息をしながら、悠馬は学生時代にずっと続けていた、水泳で鍛え上げられた逞しい肉体に伝う汗を拭う。そして、既に意識を手放して深い眠りについてしまった美月の額にキスをし、少しの間、まるで愛しむかのように美月の頬や、髪や、唇を指で撫でるのだった。

 たとえ酒が入っていたとはいえ、「あの」悠馬と関係を持ってしまったことは、さすがに親友の香菜にも言うことはできなかった。あの夜のことは、今考えても美月自身も驚いている。
 あんな風に夢中で悠馬と身体を重ねたこと。修一とだってなかった。むしろ修一は夜の営みについては淡白で、自分本位な部分もあった。
 違う、本当は違うんです。

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