運命の出会いはどこですか!? ~再会した幼なじみの甘い愛情に包まれて~
著者:櫻井音衣
イラスト:石田惠美
発売日:2022年 12月30日
定価:620円+税
大手菓子メーカーに務めるOLでお人好しである佳苗。
かつて占い師に言われたとある言葉に焦りを感じ、
結婚相手を探しているのだが、いつも男運がなくいい人に巡り会えずにいた。
そんなある日、ひとり寂しく立ち寄った路地裏のおでん屋で出会った男性と
成り行きでホテルに入ることになり……。
「お互いの肌で温め合うってやつ?」
「ホントに温まるのか試してみようか」
初めて会った見ず知らずの男性と一夜のあやまちを犯してしまうのだが――!?
【人物紹介】
松野佳苗(まつの かなえ)
大手菓子メーカー勤務のOL。27歳。
馬鹿がつくほどのお人好しで、素直な分人の意見に流されやすい。
相手に心配をかけないように気を遣いすぎて自分の言いたいことが言えないことも。
深水拓磨(ふかみ たくま)
調理師。27歳。
穏やかで優しい性格をしており、真面目で世話焼きなところも。
完全に酔ってしまうと記憶を一切なくしてしまうことがあり……!?
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*取り扱いサイトは、各書店に掲載され次第、更新されます。
【試し読み】
十二月に入って仕事は年末進行で激務になった。
毎日残業は当たり前で、夜遅くに仕事が終わって自宅に帰ると、コンビニで買ったおにぎりを機械的に胃に詰め込み、うとうとしながら入浴を済ませて、やっとの思いでベッドに倒れ込んで眠る日が続く。
週末になりようやく休めると思ったら貴重な休日まで出勤せざるを得ない日もあり、とてもじゃないが合コンやお見合いパーティーに行く余裕なんてない。
余裕のなさが更に焦りを生み、死に物狂いで仕事を片付けて参加した合コンで知り合った男性と付き合い始めたものの、うまくいかない時は何をやってもうまくいかないものだ。
その人とはトークアプリでメッセージのやり取りを数回しただけで、『君よりもっと僕好みの人と付き合うことになった』という理由で、初めてのデートを待たずしてたったの一週間でふられてしまった。
初デートをするはずだったクリスマスイブは金曜日ということもあり、恋人や家族との約束がある同僚たちは定時で業務を切り上げいそいそと帰っていった。仕事の忙しさは少し落ち着いてきたけれど、なんの予定もない私は課長に頼まれた資料作りを早く終わらせるため残業することにした。
予定では今頃おしゃれなレストランでクリスマスディナーを食べていたはずなのに、などと思いながらキーボードを叩いていると、だんだんお腹が空いてきた。
あと少しで終われそうだし、自分へのご褒美にちょっといいお店で美味しいものでも食べて帰ろう。
仕事を終えて会社を出たのは十九時を少し過ぎた頃だった。
駅が近付くにつれて辺りがにぎやかになっていく。わかってはいたけれど、どこもかしこもカップルだらけだ。
チクショウ、どいつもこいつも幸せそうな顔をしやがって!
ひとりぼっちの寂しさと虚しさはどうすることもできないけれど、せめて美味しいもので空腹だけでも満たそうと思い、こんな日の夜でも一人で食事ができそうな店を探した。だけどちょうどディナータイムなので、今夜は満席や予約がないと入れない店ばかりだった。
そうして歩き回っている間にも更にお腹は空くし、足は疲れてくるし、おまけに厳しい寒さで体の芯まで冷え切って、だんだん泣きたくなってきた。
ああもう、今夜はろくなことがない。しょうがないから美味しいものはあきらめて、コンビニでビールとつまみでも買って帰ろうか。
食事ができそうな店を探してさまよっているうちに、駅から随分離れたところまで来てしまっていたらしい。気が付けば辺りは先ほどより閑散として、どこか昭和の匂いが漂う寂れた路地裏のシャッター街のような通りが続いている。
こんな人気のない場所で襲われでもしたらと思うと身震いがして、一刻も早く駅前に戻ろうと踵を返すと同時に、食欲をそそるいい匂いが冷たい風と共に流れてきて鼻孔をくすぐり、さっきからずっと鳴き続けているお腹の虫を刺激した。
その匂いがどこから来るのかと辺りを見回すと、少し先のガード下で『おでん』の暖簾を掲げ、赤ちょうちんを提げた軽トラが店を広げているのが見えた。
うら若き乙女がこんな路地裏で、しかも軽トラの赤ちょうちんの屋台でおでんなんて……などと尻込みしている余裕は、今の私にはない。とにかく寒い。そしてすこぶるお腹が空いているのだ。
この空腹を満たし冷え切った体を温めてくれるなら、もうなんでもいい。
おでん? 最高じゃないか! 大好物だよ‼
小走りで屋台に駆け寄り勢いよく暖簾をくぐって長椅子に座ると、店主のおじさんは少し驚いた顔をして「いらっしゃい」と言った。
足元に置かれたストーブの熱が冷えきった体を温めてくれることにホッとする。
「おじさん、大根と卵と厚揚げとちくわとこんにゃくと……それから熱燗ちょうだい」
「あいよー。お嬢さん、よっぽどお腹が空いてるんだねぇ」
「そうなの、どこかで晩御飯食べようと思ってたのに、今夜はどのお店もいっぱいでね」
「あぁ……そりゃしょうがねぇよ、今日みたいな日はな」
こんな日にお腹を空かせて一人でおでんの屋台に駆け込む私をかわいそうに思ったのか、おじさんはニコニコ笑いながらはんぺんをおまけしてくれた。
器に山盛りになったおでんは出汁のいい匂いを漂わせ、ホカホカと湯気を上げている。丁寧に割り箸を割って、出汁のよく染みた大根にかぶりついた。
「あっつ‼」
「そりゃそうだろ、慌てずにゆっくり食べな」
おじさんは笑いながらそう言って熱燗を差し出した。それを受け取りゆっくり口に含むと、日本酒の香りが鼻を抜けて米の旨味が口いっぱいに広がる。こんなに美味しい日本酒を飲んだのは初めてじゃないだろうか。
「わぁ……このお酒美味しいね!」
「そうだろ? おっちゃんの故郷の酒なんだよ。米どころだからな、酒もうまい」
「へぇ、いいなぁ」
笑顔が人懐こい優しいおじさんとおしゃべりをしながら美味しいおでんを食べていると、当然お酒も進む。
先ほどまでの絶望にも似た感情はすっかり息をひそめ、とてもいい気分になった私は、ここ最近起こった出来事を笑いながらおじさんに話していた。
カラ元気だと気付いたのか、おじさんは時々うなずいたり相槌を打ったりしながら話を聞いてくれた。
「私は頑張ってるつもりなんだけど……なんでこんなにうまくいかないんだろうね」
「まぁ……そんなのは縁とタイミングだからな。ダメな時は何やってもダメだし、いい時は何もしなくてもうまくいくもんさ」
「そっか……そういうものなんだね……。そのタイミングが私のところにやって来るのはいつなんだろう」
「俺は占い師でもなんでもねぇし、そればっかりはわかんねぇなぁ。十年後かもしれねぇし、もしかしたら今日かもしれねぇ」
いくらなんでも今日ではないと思う。だって今日はあと数時間もすれば終わるし、今目の前にいる男性は、恋愛や結婚の対象のストライクゾーンから遠く離れたこのおじさんだけなんだから。
くよくよしていてもしょうがない。明日からまた運命の人との出会いを求めて頑張るしかないのだ。そのためにも今日は美味しいお酒とおでん、そして優しいおじさんに元気をもらうことにしよう。
すっかり冷めてしまったお酒をグイっと飲み干して、熱燗のおかわりを注文した。これでもう何杯目? 四杯目だっけ?
「そんなに飲んで大丈夫かい?」
まだまだ酔ってなんかいない。心配そうに尋ねるおじさんの顔がほんの少しぼやけて見えるのは、きっと疲れているせいだ。
「大丈夫よぅ、こう見えて私けっこう強いんだから」
自分で言っておきながら、一体どう見えるんだと思っていると、誰かが暖簾をくぐって私の隣に座った。少し首をかしげて隣を見ると、若くて背の高い男性だった。どうやら既に酔っているらしい。
その男性はうなだれながら注文した熱燗を受け取ると、コップの半分くらいの量を一気に飲んで大きなため息をついた。
「あんちゃん、どうかしたのかい?」
おじさんはおそらく私と同じ『お人好し』という人種なのだろう。誰がどう見てもめんどくさそうな酔っ払いの男性に、心配そうな面持ちで尋ねる。
「聞いてよ……俺ね、今日ホントは彼女にプロポーズするつもりだったんだ」
有名ホテルのレストランでシェフをしていたというその男性は、一年前に彼女と付き合ってまだ半年も経たないうちに北海道に転勤が決まり、独立して店を持つために退職して戻ってきたことを機に彼女にプロポーズしようとしたら、「他の人と結婚することになった」と言われ、ふられたとぼやく。
「あなたと付き合ってたのにいきなり他の人と結婚するって……それだと彼女は二股してたってこと?」
「いや、相手は幼馴染みらしい……俺が北海道に行ってから連絡もマメにできないくらい忙しかったから、遠距離恋愛は寂しいとかつらいって愚痴を聞いてもらってたらしいんだけど、相手はずっと前から彼女のことが好きだったみたいで……〝おまえにそんなつらい思いをさせるやつなんかとは別れて俺と結婚してくれ〟って、三か月くらい前から言われ続けて、だんだん向こうに気持ちが傾いていったから結婚することに決めたんだってさ」
なるほど、それは気の毒な話だ。仕事でしかたなく遠距離恋愛になったというのに、離れて忙殺されている間に恋人を略奪されてしまったなんて、酒でも飲まなくてはやっていられないだろう。
状況はまったく違うとはいえ私もふられたばかりだから、親近感が湧いたというと失礼かもしれないけれど他人事とは思えず、少しでも励ましたい気持ちになった。
「そっかー……。じつは私もね、この間ふられたばかりなんだ。私よりもっと好みのタイプの子と付き合うからって、付き合い始めてからたったの一週間でだよ? ホントなら今日が初デートのはずだったんたけど、ご覧の通りのクリぼっちよ。その前は既婚者に騙されて、奥さんに踏み込まれたの」
ちょっと自虐的かとは思ったけれど、酔った勢いも手伝って自分でも驚くほど饒舌になった私は、時折笑いをまじえながらこれまでのろくでもない恋愛遍歴を語って聞かせていた。
「それはまた壮絶な……。君も恋愛でいろいろ苦労してきたんだな」
「ホントにね……。誰もがみんな苦労なんかせずに好きな人と幸せになれたらいいのにねぇ」
私たちがもう何杯目だかわからないお酒を飲みながら、呂律の回りきらない口調でしみじみとそんなことを呟いていると、椅子に座ってスマホを眺めていたおじさんが突然立ち上がった。
「こりゃ大変だ、すまんが今日はもう店じまいにするよ」
「えっ、なんで?」
「ここ最近記録的な大寒波が来てるって天気予報で言ってるだろ? 今夜はやけに冷え込むと思ったら、これからこの辺りにも大雪が降るってさ」
「大雪!?」
「ほら、言ってるうちに降り始めた!」
おじさんの言う通り、上空から白いものがちらちらと舞い降りてきた。大雪で電車が止まってしまう前に帰らなくては。
慌ててお勘定を済ませた後、私と男性は一緒に屋台を出て歩き出した。二人ともかなりの量のお酒を飲んでいるので足元がふらついている。おぼつかない足取りで駅に向かう間にも雪はだんだん強くなり、駅に着いた頃には地面がうっすらと白い雪化粧を施していた。
「これやばくない? 本格的に積もるやつでしょ」
「そうか? 北海道ならなんてことない雪だけどな」
北海道の冬を経験した彼はそう言うけれど、ここは本島のあまり雪が降らない土地なので突然の大雪には対処できない。早々に電車が止まってしまうことは容易に考えられる。
「ここは北海道じゃないから。電車止まっちゃうかもよ」
「そうだっけ? なんか俺、ちょっと麻痺してんのかな……。たったの一年離れてただけなのになぁ……」
転勤になる前はこの辺りに住んでいたのに、たったの一年で北海道の気候に慣れてしまった彼が自身の順応性の高さをそんな風に言ったのだと私は思ったけれど、そのすぐ後に、たったの一年離れただけで寂しさから心変わりをして別の人を選んでしまった彼女のことをシンクロさせているようにも感じて、また気の毒になった。
「離れてみて初めて気付くこともあるんじゃない?」
「うん……そうかもしれないな」
なんだか妙な雰囲気になってしまった。だけど今はそれどころじゃない。
混雑した駅の構内に入ると、張り紙をして去って行く駅員の後ろ姿が見えた。予感は的中、この後運行する予定だった数本の電車は悪天候のため運行不可能になってしまったという内容の文面が記されている。
おまけにタクシー乗り場には既に長蛇の列ができていた。これでは家に帰り着くのは何時になるかわからない。
「あんなに並んでるけど、待てる?」
「無理……寒くて死にそう……」
「俺も無理だ」
この寒空の下で立ち止まっていると足元からも指先からもどんどん体中が冷えていく。こうしているうちにもどんどん雪は激しくなるし、このままずっとここに突っ立っているわけにもいかない。
こんな悪天候の中でも目の前を通り過ぎるカップルは「寒―い!」「すごい雪だな!」と声をあげて身を寄せ合い、はしゃいでいるように見えた。意気揚々とした足取りと会話の内容から察するに、どうやらどこかへ向かっているようだ。おそらくこの後はホテルにでも行って朝まで抱き合って過ごすのだろう。
私だって本当ならば今頃……なんて感傷に浸っている場合ではない。今はこの状況をどうやって脱するかが重要だ。
電車もタクシーも無理ならどうやって帰ろうか。歩くか、走るか、いっそのこと空を飛んで……いや、そもそも飛べないし。
酔いの回った頭でそんなことを考えていると、特に予定や理由もないのになぜ帰らなきゃいけないんだと思い始めた。
「ねぇ、無理して帰る必要なくない?」
「……たしかに」
寒さをしのげる場所を求めて駅の周辺を歩いているとネオンサインの色めく建物が目の前に現れ、私たちは回りきった酔いと寒さで朦朧としながら、吸い込まれるようにしてそこに足を踏み入れた。
無人のフロントのパネルで適当に部屋を選び点滅する案内板を頼りにたどり着くと、二人とも急いで靴を脱いで室内に駆け込み、雪でびしょ濡れになったコートやスーツをかじかむ手で脱ぎ捨てた。
手っ取り早く体を温めるには熱いお湯に浸かるのが一番だけれど、浴槽にお湯が貯まるまで待っていられない。迷うことなくベッドにダイブして掛布団にくるまると布団の中でお互いの足が触れ合い、二人ともその冷たさに悶絶して声を上げた後、顔を見合わせて笑ってしまった。
「なんかこれ、雪山で遭難したシーンみたいじゃね?」
「お互いの肌で温め合うってやつ?」
「ホントに温まるのか試してみようか」
お互いの冷えきった肌を密着させて抱き合い、どちらからともなく吸い寄せられるように唇を重ねた。触れ合った唇から熱が伝わり、更なる温もりを求めて舌を絡める。温かく湿った舌が歯列をなぞり、口内で唾液の混ざり合う音が耳の奥に響いた。私の頬を撫でていた冷たい彼の指が、頬から首、胸元へとゆっくり滑り降りてゆく。
「もっと温め合ってみる?」
「……うん」
彼はキスをしながら私の下着を脱がせ、露になった胸の曲線を唇でなぞり、熟れた果実のように赤みを帯びた頂をそっと咥えたかと思うと、舌先で転がしたり強く吸ったりして弄んだ。
胸の先端の片方をざらりとした熱い舌で何度も舐めあげられ、もう片方も指で摘ままれて弄られると、電気のような感覚が背中に走り堪えきれず甘い声が漏れた。
「んっ……あぁっ……」
彼は私の声を聞くと、既に硬くなった乳首を更に激しく吸ったり摘まんだりした。いつもなら胸を弄られてもここまで感じることはないのに、酔っているせいなのか、それとも彼が相当の手練れなのか、私はのけぞりながら甲高い声を上げ続けた。今日初めて会った人の前でこんなあられもない声を出して恥ずかしいと思うのに、あまりの気持ち良さで声を抑えることができない。
執拗に乳首を弄んでいた手がするすると下の方に下りて行き、長い指が私の太ももの間に忍び込むと、いやらしく湿った音がした。ほんの少しそこに触れられただけで、私はまた更に背をのけぞらせ甘い声を上げる。
私の花芯は早く彼に愛でられたくて、花弁をひくつかせ蜜を滴らせて待ちわびている。それなのに彼はあえてそこには触れず、ぎりぎりのところを指で撫でたり、もう片方の手で乳首を軽くつついたりする。わざと焦らして私の反応を楽しんでいるみたいだ。
じれったくてもどかしくて、激しい衝動が体の内側から溢れ出して、もう我慢できない。
「お願い……ちゃんと触って……」
目を見つめて懇願すると、彼は貪るようなキスをしながら、指の腹で私の秘部の小さな突起やくぼみを撫でまわした。リビドーと共に体内から放出された蜜がクチュクチュと淫猥な音を立てている。
彼の指の小刻みな動きに腰をくねらせ息を荒くして喘ぐと、彼は濡れそぼったくぼみの中に指を滑り込ませて擦り上げた。強い刺激で引けそうになった腰をガッチリとホールドされ、更に奥の深いところをぐちゃぐちゃにかきまわされて、痺れるような疼くような、どこかへ飛ばされてしまいそうな、今までに経験したことのない浮遊感にも似た不思議な感覚が全身に走る。
その余韻も冷めやらず息を荒げているうちに、彼は大量の蜜でとろとろに潤んだ花芯に自身の硬くて熱いものを押し当て、熱を帯びた粘膜を掻き分け私の体内へと入り込んだ。
彼の熱い昂りは一瞬で最奥まで到達して、私の体を何度も何度も激しく突き上げる。先ほどの余韻も相まって、またしても私は自分の体がどこかへ飛ばされてしまいそうな感覚に陥り、はしたなく甲高い声を上げながら彼の背中にしがみついた。
何これ、セックスってこんな風になっちゃうものなの? しかもめちゃくちゃ長くない? ダメだ、もう何にも考えられない……!
朦朧としながら何度もその境地に昇り詰めた私は、ようやく彼が果てるのをなんとか見届けたところで意識を手放した。
どこからか聞こえるくぐもった電子音で目を覚ました私は、見覚えのない部屋の大きなベッドの上に裸で横たわっていた。床に脱ぎ捨てられたコートのポケットの中でスマホのアラームが鳴っているらしく、しばらくすると勝手に止まり再び静寂が訪れた。
ここはどこだ……? っていうか、どうして裸でこんな場所にいるんだっけ?
起き上がろうとすると頭がガンガン痛み、グラグラと不安定に揺れる。
「うおあふっ……!」
あまりの不快感に奇妙な声を漏らしながら再びベッドに横たわり天井を見上げると、そこがどうやらいかがわしいホテルの一室であるということがわかった。目だけを動かして部屋の様子を窺いつつ、働きの鈍くなった頭でゆうべの出来事を振り返る。
えーっと……ゆうべは会社帰りにガード下の屋台で美味しいおでんを食べながら、しこたまお酒を飲んで……そうそう、たしか背の高い男の人と失恋談義を繰り広げて……その後は?
目を閉じると、うっすらと雪化粧をした白い道路や駅前の喧騒、激しく吹き付ける雪に凍えた記憶が蘇り、それと同時に冷え切っていた体を熱く火照らせた激しい情事が断片的に脳裏をよぎった。
……えっ……? ということは……私はゆうべ、初めて会った見ず知らずの男性と一夜のあやまちを犯してしまったと……?
二十七年間生きてきて、行きずりの男性といたしてしまうなんて経験は初めてだ。結婚を焦っているとはいえ、いくらなんでもこれはまずいだろう。