お嬢と若頭の蜜月契約 ~俺に抱かれて幸せになれ~

書籍情報

愛おしくて可愛い。まるでバラの花びらのようだ。

お嬢と若頭の蜜月契約 ~俺に抱かれて幸せになれ~

著者:皆原彼方
イラスト:えまる・じょん
発売日:6月26日
定価:630円+税

極道一家の一人娘である榛名は、幼馴染で許嫁の蘇芳と同棲を始めて一ヶ月が経っていた。
榛名にとって蘇芳は初恋の相手。彼が自分を大切にしてくれているのを感じつつも、本当の気持ちを確かめたい榛名は、夫婦円満な従妹の協力を得て蘇芳の気を引く作戦に出るのだった。
作戦の成果もあり徐々に距離を縮めていく二人。だけど、とある出来事をきっかけに蘇芳の嫉妬心に火がついて……。
「観念して、俺に汚されてくれ」
嫉妬心のままに激しく蹂躙されながらも、彼の本当の気持ちを知った榛名は――!?

【人物紹介】

三条榛名(さんじょうはるな)
極道の一門である『三条組』の一人娘。
蘇芳が初恋の相手であり、そのまま現在に至るためどうしようもなく煮詰まった愛情を抱えている。
進展しない二人の関係に終止符を打つため、『強硬手段』に踏み切ろうとする。

秋野蘇芳(あきのすおう)
榛名の許嫁であり、三条組の若頭。
二つ年上の幼馴染で、元護衛役兼お世話係。
真面目で忠義に厚く、榛名の平穏や安全のために終始心を尽くしてくれる、誠実な男性。

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*取り扱いサイトは、各書店に掲載され次第、更新されます。

【試し読み】

「蘇芳、眠れないの?」
「は、え……お、起きてらしたんですか」
「さっきからね」
「……俺のせいでしょう。申し訳ねえ」

 振り向いた蘇芳が、心底申し訳なさそうに頭を下げる。しょぼくれた犬のような彼にまた笑ってしまいそうになりながら、布地を掴んでいた手を放し、その背中に半分微睡みに浸ったままの身体をすり寄せた。
 逞しく、仄かに血の香りがする背中が、びくりと大きく揺れる。

「っ、……お嬢、何してるんです」
「抱きしめたら落ち着くかなって……」
「いや……落ち着くわけねえでしょう」

 私に後ろから抱きしめられる格好になった蘇芳は、目元に赤を滲ませたまま、うろうろと落ち着きなく視線を彷徨わせている。それが何だかかわいらしく思えて、私は硬い背骨に頬をすり、と押し付けた。しかし背骨を伝う心拍は彼の言葉通り、大人しくなるどころか徐々に速く、激しいものへと移り変わっていく。

「……あれ?」
「あれ、じゃねえよ……! あんたに引っ付かれて俺が落ち着けるわけねえだろ……!」

 赤いかんばせで苦々しい表情を作った蘇芳が、目を眇めて私を見遣った。そのどことなく余裕のない、焦れたような表情は、微かに雄としての衝動を秘めていて、――――ぞく、と心臓から腰へと痺れが落ちていく。
 『あんたに引っ付かれて落ち着けるわけがない』という彼の言葉は、私に向かう感情がただの親愛であれば出てこないものだろう。焦ったような表情も、声も、全てが『蘇芳が私に男としての欲を抱いている』ことを裏付けていた。キスだけではまだどこか曖昧だったその感覚が、胸の奥をじりじりと焼き焦がす。眠気はとっくにどこかに行ってしまっていた。頬が熱い。胸が痛い。きっと今の私は、蘇芳と同じかそれ以上に真っ赤な顔をしているはずだ。

「ッ、お嬢……本当に、まずいんだって。放してくれ」
「やだ……」
「やだじゃねえって、このお転婆が……なあ、頼むから」

 彼の懇願は本気の声音で、ほとほと困り果てているような、何かに焦っているような響きだった。その必死な様子に胸がちくりと痛むけれど、彼を困らせるのは本意ではない。じっとりと汗をかき始めた蘇芳の背中から、そっと身体を離そうとして、――――胡坐をかく彼の中心、私の手が交差するすぐ下の部分が、緩やかに兆しているのが見えてしまった。

「えっ」
「……見たな?」

 低い糾弾が私を突き刺す。こめかみに汗を浮かべた蘇芳が、ぎらつく瞳でこちらを見下ろしていた。その視線の強さが、私が今視界に捉えたものが幻覚でも錯覚でも何でもないことを知らしめる。触れそうな距離に置かれた私の手まで熱が伝わってくるような気がして、思わず唾を飲み込んでしまう。
 二度のキスのとき、蘇芳がどんなふうになっているかは確認していなかった。見るのが何となく気恥ずかしかったし、余裕たっぷりといった風情の彼が兆しているとはちらとも考えなかったから。
 しかし、今こうして目の当たりにしてしまうと、恥ずかしさと共に妙な高揚感が湧き上がってくる。興奮にも似たその感覚に唆されるまま、私はちらりと蘇芳を窺った。

「あの……見たのはごめん。でも、なんでこんなに……」
「……抗争で興奮してたのもありますけど、一番の原因はあんたですよ、お嬢」
「私?」
「布団の中、あんたの甘ったるい匂いで一杯で……ちょっと嗅いだだけで、結構限界だったってのに」

 は、と熱い息を零した唇が、明け透けな言葉をなじるように囁いた。

「……しまいには抱きついて、柔っちい身体押し当ててきやがって……」
「あ……」

 自分の罪状を並べ立てられ、私はじくりと疼いたお腹をそっと彼から離す。燃えるような肌の温度が染み入って、ぐずぐずに蕩けてしまいそうだったのもあるけれど、彼をこれ以上刺激するのは悪いと思ったのも確かだった。こうして聞けば、私の行動は悪手も悪手だ。ちょっと寝ぼけ気味だったことを差し引いたとしても。
 そんな小さな罪悪感を育む一方で、素直な私の心臓は喜びに沸いていた。蘇芳は、私でちゃんと興奮してる。これなら今日、もしかしたら、――――

「とにかく一回放してください。外でどうにかしてくるんで……お嬢は先に……」

 外で、どうにか。
 その言葉で、浮ついていた思考に冷や水が被せられる。情欲の灯った瞳でそんなことを言う蘇芳が信じられなくて、私は反射的に腕の力を強めてしまう。息を呑んだこちらを不思議に思ったのだろう、器用に首だけを回して蘇芳が振り返る。その視線から逃げるように額を彼の肩口に押し当て、私は自分の心臓が奏でる嫌な音に耳を傾けた。
 その外って、どこなの。私じゃない女の人に慰めてもらうつもりなの。
 蘇芳はこっちが願う暇もないぐらいに誠実だから、私という許婚がいる以上は天と地が引っくり返ったってそんなことはしない、はずだ。きっと一人で処理をするとか、身体を動かして発散するとか、そんな方法でどうにかするつもりだろう。そう思う一方で、今まで再三キスから先をお預けされてきた身体が、やっぱり私じゃ駄目なのではないかと意地悪く囁く。

「……」
「お嬢? 聞いてます?」
「……蘇芳の馬鹿」
「ああ?」

 架空の相手への嫉妬が半分、目の前の蘇芳への八つ当たりが半分。呟いた言葉は随分と拗ねたように響いた。
 私が一番気に食わないのは、蘇芳が私を頼ろうとしていないことだった。抗争の興奮自体は衝動のようなもので、直接に性的興奮に結び付いているわけではないのだろう。それを煽ったのは私だ。私のせいでこうなっているのなら、――――それは。

「……私が、どうにかするから。蘇芳は動かないで」
「はあ……!? っちょ、……っと待て、お嬢、」

 慌てたように声を上げた蘇芳を無視して、私は彼の前側に回り込むと、意を決してその膨らみへと手を伸ばした。私の指先が掠めるなりびくりと揺れたそこは、布越しでも分かるほどに熱を孕んでいる。は、と詰めていた息を吐き出せば、反対に蘇芳がひくりと喉を震わせた。

「っ……おい、やめとけ。キスで真っ赤になるぐらいの初心のくせに」
「それは……そう、だけど! 蘇芳が苦しいなら、私が何とかしたいから……」

 力になりたい。慰めてあげたい。純然たる好意から湧き上がるその衝動は、私の性根にまで染みついてしまっている。蘇芳も二十年の間の私で覚えがあるらしく「またあんたはそうやって……」と唇の端を戦慄かせた。
 蘇芳は意見を曲げない男だ。今ここで彼の退出を許してしまえば、今後抗争の後に身を任せてくれることはなくなるだろう。想いや身体が通じ合ったとしても変わらず、もっともらしいことを言って一人きりで苦しい夜を過ごすに違いない。それを思えば今の私のささやかで初心な羞恥なぞ、捨て置いたって構わなかった。

 『二、たまには自分からスキンシップ』、――――女は度胸、だ。
「……本当に嫌だったら、言ってね」
「嫌、というか……お嬢にこんなこと、させるわけには……、ッン、」

 着流しの合わせ目を乱し、下から現れた愛想のないボクサーパンツの端に触れる。すす、と指を滑らせれば、まだどこか柔らかく、芯の通っていない屹立がさらに頭をもたげた。色の濃い布地をしっかりと押し上げて育つそれは、私の視線に晒されるだけでもじわじわと昂っているようで。

「ッ、……」

 落ちてきた熱い吐息が手の甲を撫でる。私の手は自分が意図するよりも厭らしく動き、じんと痺れるほどの熱を放つ肉茎を恭しく撫で擦っていた。きゅ、と力を込めて扱き上げるようにすると、ひどく窮屈そうにいきり立つのが生々しい。拙い愛撫だというのに、蘇芳のものは彼自身と同じく私に甘いらしかった。
 しばらく愛撫を続ければ先端が硬く腫れあがり、繊維の隙間からじわりと芳しい淫液が滲む。目を覆いたくなるほど厭らしく、女の部分を刺激される光景だった。まだ指の一本すらも受け入れたことのない私の隘路が、これが自分の雄だと早合点してじくじくと疼き始めてしまう。

「お嬢、ッそこ、……」
「っ、気持ちいい……?」
「ッん……見れば、分かんだろ……」

 常は清廉で鋭いはずの眼差しに悦が混じり、薄く開いた唇の隙間から漏れる吐息が荒く掠れる。眉が男らしくしかめられ、その下で輝く瞳が快感にけぶっている様が、私の心臓を痛いぐらいにときめかせた。初めて見る蘇芳の痴態の鮮烈さに、逞しい幹に絡めた指が甲斐甲斐しさを増していく。
 ちゅく、という密やかな蜜音まで立て始めたそれに、これ以上下着を汚さないようにという大義名分で、私はもう片方の手を伸ばす。熱に浮かされるような心地で布地を押し下げると、弾けるようにして猛々しい怒張が姿を現した。
 その瞬間に私を支配する、色濃く充満する男の人の香りと、いけないものを目にしてしまったような背徳感。

「……ッ」
「う、……ッン、お嬢?」

 清潔に保たれた、肌より少し浅黒いそれに嫌悪感はなかった。ただ、蘇芳の獣性をあられもなく伝えるかのような滾り方と大きさに、――――堪え性のない胎が、それを収めるときのことを想像してしまったのだ。
 私の指三本分。これでもまだ限界でないのだと思うと顔が熱くなり、口の中が急速に乾いていく。私は勢いに任せて、とんでもないことをしてしまったんじゃないか。そんな思いが胸を占めていく最中、蘇芳のかんばせからゆっくりと、戸惑いの色が消えていく。私の今更な照れと困惑を見た彼の心理に、どんな作用があったかは定かではないけれど、――――蘇芳が再びこちらを見つめたとき、そこには痛いぐらいの劣情が溶けた、獣じみた瞳だけがあった。

「ぁ、……っ」
「……お嬢、終わりですか」

 ぞろり、と彼が嗤う。目元の形は優しい笑みの形を保っているのに、私の背筋をぞくぞくと震わせるだけの魔力が、確かにそこにはあった。男振りのいい顔を欲望に歪めた、見たことのない蘇芳が私をひたと見据えている。
 どうしよう、何か言わなきゃ、――――でも、何を?
 固まる私に向かって、彼の大きな手のひらが伸びてくる。こめかみから後頭部までの髪をくしゃりと掻き混ぜて、うなじの辺りを意味深に擦って。そこにゆったりと力が込められてしまえば、私は誘われるようにして頭を垂れていくしかない。心臓が跳ね上がり、鼓動も俄かに速くなる。香りがぐっと強くなり、零れた吐息が屹立の裏筋をくすぐるぐらいの距離に、ひどく眩暈がした。

「俺は、基本的に我慢強いほうですが……根が悪人なもんで、あんたのことになると、てんで駄目なんです」
「駄目、って……」
「止めなきゃいけねえって分かってるのに……こんな、」

 彼の手がひときわ強く、私の頭を押さえつける。数センチの隙間を容易く飛び越えて、私の唇にまで熱杭の温度が伝わってきた。

「あんたを誘うようなことばっかりしたくなる。……ほら、お嬢。あんたが選んでください。続けるか、やめるか」

 忍ぶような笑い声と共に、ぱっと何の未練もなく手が離れていく、――――それでも私は、顔を上げられない。
 大した経験のない自意識が、こんなのはしたないと私を揶揄する。破裂しそうなほどに心臓が暴れる。それでも、どうしてもこの唇を遠ざけようとは思えなかった。
 緊張から汗ばむ手のひらを逞しい太腿へ預け、そっと目を伏せる。いっそ恭しいまでの所作で、私は目の前の昂りにキスを落とした。

「ッあ、ぐ……ッ」
「は、……ちゅ、んん……」

 火傷しそうなほどの熱が、私の唇を一瞬で火照らせる。脳味噌がぐらりと揺れる感覚。触れてしまった、という後悔にすらならない感慨が浮かんだのは一瞬で、あとはもう酩酊感に唆されるままに振る舞うだけだ。
 つるりとした先端に柔く吸い付いて、濡れた鈴口の周りを舌で優しく舐めてあげる。硬くした舌先でその小さな穴をくすぐってやれば、ぷくりと溢れる淫液と共に、頭上から呻きを噛み殺したような呼気が降ってきた。

「ぁ、お嬢……っ、ン」

 ――――蘇芳、かわいい。
 常日頃は大層格好よく、私の最初で最後の恋を欲しいままにしている蘇芳が、私に弄ばれている。そう思うと、どうにも心臓がうずうずしていけない。自分がしていることのふしだらさすら忘れてしまいそうになってしまう。
 もっと蘇芳の痴態が見たいという欲に従い、ちゅ、ちゅう、と吸い付くような愛撫を止めないまま、舌を段差に沿って這わせる。雄々しい輪郭を丁寧に辿るうち、びくびくと震えるそれに妙な愛おしさがこみ上げて、私の口淫には徐々に熱が入り始めた。邪魔な横髪を耳にかけ、上目遣いで蘇芳を窺えば、彼はひどくじっとりと熱く湿った視線で私の奉仕を眺めていて、――――

「ッ、は、くそ……」

 破壊力が、とうわごとのように呟いた蘇芳の腰が小さく震えた。荒くざらついた呼吸が重く沈み、私の前髪を優しくくすぐる。その感触に背中を押されるようにして、私の舌は先端から硬い幹のほうへと移動した。
 片手では握り込めないほどの質量に、また恥知らずな最奥がじゅわりと湿る。はっきりと浮き出た裏筋も、充溢した血管の一本一本も、舐め啜るたびにどくどくと脈動して、彼の身に溜め込まれていく快感を教えてくれた。

「……ッやっぱり、止めておきゃよかったか……」
「ん、ぁむ……っ止めて、私が聞くと思う?」
「そりゃあ、思いませんよ……あんた、変なところで肝が据わって、ぁ、っ馬鹿、咥え、……!」

 肝が据わっている、――――私を形容する言葉として、周囲が使う単語ナンバーワンだ。それをこんなところで発揮しているのは、当然、蘇芳しか知らないことだけど。
 彼の焦ったように上擦る声音も、止めようと伸ばされた手も、私の肝の据わり具合に対して一拍遅かった。太腿に委ねていた手を怒張へと添え、その刀身をゆっくりと咥内へと受け入れていく。散々舐めた後では咥えるのも然程恥ずかしくなく、ほとんど抵抗なく私は熱の塊を飲み込んだ。
 ただ蘇芳に何度も小さいとからかわれた口は狭く、顎を限界まで開いたってはち切れそうな幹は手に余り、丸々と肥えた先端は喉を塞いでしまう。とろりと零れた先走りが喉に注がれ、そのまま食道を伝い落ちていくのが淫猥に思えて、反射的に喉が締まった。そのままゆっくりと、苦しくない程度の緩さで全体を扱き上げていけば、やがて小さな呻き声が耳朶を打ち始める。

「んっ、ぁ、はァ……な、こっち向いてくれ、」

 緩く肩に乗っていた手が、再び優しくこめかみをくすぐる。劣情が色濃い誘いに乗って、昂りを頬張ったままそちらを見上げれば、蘇芳の瞳に私が映り込む。卑猥な被写体はすぐにぼやけ、色情が彼の目元を一層濃く染め上げた。微かな自嘲こそあれど、愉悦が多く溶けた声音で、蘇芳は小さく吐き捨てる。

「ハッ……大事にしたい女に、こんなもん甲斐甲斐しくしゃぶらせて……興奮してる辺り、俺も大概だな」

 神聖だとすら思うからこそ、汚すことに背徳感を覚える、――――ぎらぎらと脳髄にまで突き刺さるような肉欲の視線と言葉に、精神的な悦楽が尾骶骨まで迸る。蘇芳が品行方正で誠実で、忠実なだけの男ではないのだと教え込まれるような心地だった。
 そうだ、蘇芳は基本『わるい男』だ、――――極道三条組の若頭、なのだから。

「……俺みたいな悪い男に唆されて、汚されていいような人じゃないでしょう。あんたは」

 微かに切なく響いた囁きは、まっさらな水面へ落ちた墨のように染みを作る。ただ、私が何か考えるよりも早く、舌の上に横たわるそれがびくんと震えたせいで、すぐに思考が曖昧に解けてしまった。蘇芳もひときわ険しく眉をしかめ、熱っぽい溜息ごと私の髪をぐしゃりと掻き混ぜる。華のある整ったかんばせに、汗で髪が一筋張り付いているのが、堪らなく厭らしく思えた。反射的に膝をシーツに擦りつけ、じわじわと高まっていく女の悦には気付かない振りをする。

「っん……は、すお、」

 ゆるゆると頭を揺らし、唇と喉奥で丁寧に屹立を扱く。甘やかすような、その滾りを宥めるような舌戯をいたくお気に召してくれたのか、裏筋を優しくくすぐると反応がよかった。甘めの愛撫の合間に、頬も使ってきつく啜るようにすれば、限界が近いらしい彼の腰が小刻みに痙攣し始める。口に入りきらない根本は、指で作った輪できゅ、きゅ、と締めるように刺激すると、咥内の質量がさらに膨れ上がっていった。

「はー……っ、ぁ、く、お嬢……もう、」

 華やかな面差しが、快楽でぐしゃりと歪む。甘ったるい刺激だけでは果てに至れないのだろう、吐き出された吐息はどこか苦しげだった。婦女子の心を惑わせる魅惑の囁き。すっかり誑かされたような気分になった私は、唇の淵ぎりぎりまで熱杭を引き抜くと、苦みを迸らせる鈴口を舌できつく責め立ててあげる。手のひらも追従するように動きを激しくして、彼を果てへと押し上げようとした。
 そうして、ついに破裂寸前になったところで、喉奥まで一気に呑み込んで、――――ぎゅう、と絞る。

「あ、ッん……ぐ、……ッ!」

 彼が大きく胴震いしたのを認めた瞬間、喉の行き止まりに、びゅる、と熱が叩きつけられた。むせかえるほどの香りと勢い。もう飲み込むしかない位置だった。私が散々舐めしゃぶって育てた分の欲が昂りの先から放出され、咥内をひどく汚したのだと思い知らされるような味が、胃の腑を灼いていく。
 耳障りといっても差し支えない、重く引き攣れた呼吸が頭の上で蟠る。舌の上に居座っていた怒張は、どくり、と彼の腰と同じように震えながらも、ずるずると咥内を後にした。酷使された顎は上手く閉まり切らなくなっていて、私の唇からはだらしなく銀糸が垂れてしまう。

「ッはー……、は、ぁ……ん、全部飲めましたか」
「ん……っんん、」

 夢を見ているかのような、惚けた表情の蘇芳が私の唇を丁寧に拭う。優しい手つきだった。擦れて腫れぼったくなった唇は、ほんの少し擦られるだけで微かな快感を生み出してしまう。「飲めましたか」という台詞も相まって、腰の奥がきゅんとひくついた。散々甚振られた咥内と欲望に晒された肌が、快感を馬鹿正直に下腹部へと伝えてしまえば、ひくつくそこがどろっと蕩ける。
 蘇芳はきっと、あのタイミングで腰を引いて外に出すことだって可能だった。それをわざわざ、あの白濁を飲み下さなければならない位置で果てたことの意味を考えてしまう、――――やっぱり蘇芳は、『わるい男』なのだ。

「はぁ……、喉とか、口とか。痛かったりは」
「ん……大丈夫、だと思うけど」
「本当に? ……くち、開けてください」
「え? あ、あっ……ふぁ」

 優しい彼の親指が、器用に動いて私の口をかぱりと開く。ほどなくして彼の唇が覆いかぶさり、献身に報いるかのように私を甘やかし始めた。ついばむような柔さが滲んだ、甘やかなそれ。ちゅ、ぅ、という水音はひどくゆったりなのに、ただでさえ奉仕で茹っていた私の身体はすぐに再燃してしまう。蘇芳もそれに気付いたのだろう、まだ整っていない息をそのままにキスをどんどん深くしていく。
 前まではどことなく蘇芳側に余裕があって、私ばかりが振り回されるようなキスだったはずなのに、今の口付けは荒々しさが滲み、彼の唇の熱さが際立っていた。咥内を蹂躙される感覚はひどく生々しく、激しい舌遣いにすぐ息が上がる。うっすらと彼の表情を盗み見れば、そこにあったのは頬まで赤く染めた、――――絶頂の余韻が残る、必死そうな顔で。

「ふ、ぁ……っん、ン……ッ」
「お嬢、ッ、……」

 唇同士の隙間から漏れる声も、呼吸も、もはや興奮と劣情を隠そうともしていなかった。私の気持ちいいところを弄ぶだとか、ゆったり気持ちを高め合うだとか、そういった建前を全部取り払った獣じみたキス。普段はきつく戒められている蘇芳の箍が、確かに緩んでいるのだと思い知らされる。
 当初の予定より大胆なスキンシップになったような気もするけれど、またも『蜜月五カ条』がいい働きをしてくれた、――――ということなのだろうか。

「ッ……口も、首筋も……熱くなってる」

 ちゅ、ちゅ。太い血管を辿るように、彼の唇が戯れめいた動きで吸い付いて、ゆっくりと胸元へ差し掛かる。合わせ目の緩んだ浴衣は容易く乱され、蘇芳の鼻がしっとりと汗ばむ肌へと擦りつけられた。

「あ……っ、ん、すおう……」
「……は、やらかくて、甘くて……雄を煽る、いい香りだ」

 キスは甘噛みに変わり、獣じみた呻きがそこから漏れ聞こえる。感触と味を確かめるかのように、れる、と舌を押し当てられるのが堪らなく、私は頑是ない子供のようにかぶりを振ってしまう。駄々を捏ねるようなその仕草に、蘇芳の喉から乾いた笑いが零れた。劣情をとろとろに煮込んだような、そんな音だった。

「こんな身体、俺に差し出しちまって……馬鹿だよな、あんたは」

 焦点がぼやけるほど近くにある彼の顔は、微かに憐憫にも似た苦味を滲ませている。先ほどの、『汚されていい人じゃない』という台詞とよく似た響き。それが何となく切なくて、私はその頭を再び胸元へと抱え込んだ。

「っ、いい、の……蘇芳だから」

 落とした囁きは心からの言葉だった。蘇芳だから、キスを許す。蘇芳だから、苦しんでるなら助けてあげる。蘇芳だから、この先もしてほしい。
 様々な思いを一緒くたに混ぜた言葉が、蘇芳にどこまで正しく伝わったかは分からない。ただ分かるのは蘇芳が小さく息を呑んで、ほんの少し表情を緩めて、――――私の肌を再び汚し始めたという事実だけだ。

「蘇芳……?」
「……お返しです、お返し。俺ばっかり満足したんじゃ、男が廃ります」

 だから、大人しくしていてください。
 瞬きの間に鷹のような鋭さを取り戻した瞳が、私をシーツの上に縫い留める。自分は適当に身形を整えながら、一方では鼻先で私の服を乱していく蘇芳の手腕は確かで、浴衣の帯はあっという間に視界から放り出された。

「ひぅ……っあ、ゃ、くすぐったい……」
「くすぐったいんじゃなくて、気持ちいいって言うんです。……ほら、」

 何かが吹っ切れたような、甘く蕩けた声音が私を唆す。その声音の持ち主は、カップ付きのキャミソールから零れた膨らみの裾野を舌先で弄びつつ、灼けそうなほどに熱い指先で、へその淵をかりかりと引っ掻いてみせた。快感までは遠いのに、受け流すには厭らしすぎる愛撫。気持ちいい、と素直に零せば、蘇芳の視線までがどろっとした甘さを孕んでしまう。普段は彼のほうが私に従順なくせ、こちらが屈服するのに興奮するなんて蘇芳も大概厭らしい男だ。
 へそと戯れていた蘇芳の指先が、キャミソールをゆっくりと捲り上げる。私の両手はそれを止めることもなく、彼の後頭部をくしゃくしゃと掻き混ぜていて、膨らみの何もかもは、生まれて初めて彼の眼前に晒された。
 蘇芳の目が、ふるりと揺れる双丘に釘付けになる。

「ハ、……ああ、すげ……」

 情欲に掠れた囁きは、ひどく熱っぽい。見慣れたまろいシルエットがこんなにも淫靡に見えたのは初めてで、私はかあっと染め上がる目元を隠すように顔を逸らした。それでも、蘇芳の視線がどこに向かっているのかは如実に感じてしまって、思わず太腿を擦り合わせてしまう。くち、と鳴った水音は、きっとまだ彼には届いていない。

「キスしかしてねえはずなのに……ここ、勃ち始めてますね……?」
「っふ、ぅん……っ」
「キスだけじゃあ、こんなにならないでしょう。舐めてるときから興奮してましたか」

 ふっくらとした乳輪の中心。既に兆し始めていた蕾の側面を、彼の硬い指の腹がじっくりと擦り上げる。甘やかすような手つきだった。根本から先端へと繰り返しかわいがられてしまえば、蕾はさらにぽってりと膨らんでいき、ふしだらな形へと育っていく。男の人が摘まみやすいような、そんな形へと。
 当然、そこを甚振っている蘇芳がそれに気付かないはずもない。滑らかで柔いまろみを揉みしだいていた指が、また一本、蕾へと伸びる。蕾を苛む指は二本に増え、私の身体のはしたない望み通りにくりくりと捏ね回し始めた。新しい刺激に腰が浮き、蜜を作り出す最奥がじゅわりと卑猥な音を立てる。胸なんて、自分で触ったって少しも気持ちよくないのに。どうして彼に触られてしまうと、こんなにも堪らない気持ちにさせられるのだろう、――――

「ゃ、知らな……っ、ん、すおうの、せい……」

 そう、彼のせいだ。
 なじるようでいて甘えを含んだ声音に、蘇芳がすう、と厭らしく目を眇める。その瞬間、私は自分の台詞選びが失敗したことを思い知った。

「……へえ、そりゃあ悪いことしましたね……じゃあ責任取って、慰めてやらなきゃ、な」
「えっ、ァ、ひ、あぁ……ッ!」

 じんじんとした疼きを溜め込んだ蕾が、どろりと熱い咥内に招かれる。たっぷりと濡れた舌が訪いを歓迎するかのように巻き付き、なぶるように舐めしゃぶった。乳輪ごと唇で激しく吸ってみたり、かぷりと柔く歯を立ててみたりという淫戯は、腰の奥にひどく響く。加えて指が責め立てられていた反対側の蕾も、膨らみの中へと押し戻すように潰され、私は喉を晒して嬌声を迸らせた。

「あッ……! あ、っは、ゃ、んんっ!」
「……っとに、気持ちよさそうに啼きやがって……」

 そう言うなり蘇芳は再び膨らみに吸い付き、分厚い舌で弾くように蕾の根本を掻いた。私がその性感に気を取られているうちに、彼の武骨な手のひらはするすると脇腹を這い、ショーツの中へと滑り込んでみせる。
 私の下腹部は奉仕による精神的悦楽と胸への淫虐で、既にぐずぐずにほぐれていた。太腿の内側に籠った空気は、きっとひどく女の温度をしているだろう。そこへ忍び込んだ男の指先が花弁を掻き分け、溢れてしまった蜜をくちゅりと掻き回した。ぞろりとした笑みが彼の口の端へと浮かび、壮絶なまでの獣の気配が私の肺を押し潰す。

「どろっどろ……」
「ッや、ばか蘇芳、言わないで……!」
「ッハ……正直に言っただけでしょうが。こんなにぐしゃぐしゃに濡らしてるお嬢が悪いんです」

 膨らみに浮かぶほくろを悪戯っぽく甘噛みして、蘇芳はゆるりと目を眇めた。蜜を掬った彼の中指は、そのまま緩慢な動作で秘裂のすぐ上、――――まだ柔らかな淫芯にそのとろりとした蜜をまぶしてしまう。ひ、と声を上げた私の唇へと宥めるようなキスが降って、指は幼気なその芽を我が物顔で弄び始めた。
 包皮を無理に剥くようなことはせず、あくまで甘やかに腹の部分でタップ。ほんのり膨れてきたところで、側面や裏筋を丁寧に掻きむしる。どんどん溢れ出るとろみを何度も擦り付けられ、ほとんど溺れているような花芽は、それでも健気に震えて快感を吸収し、私の脳味噌を煮蕩かしていく。痙攣を繰り返す太腿がぎゅう、と締まり、間に陣取る蘇芳の手を奥へと引き込もうとするのが、ひどくはしたなく思えた。

「ぁ、っあ、や、そこ……っだめ、すお、」
「かわいい声で呼んでも駄目だ。あんたが、俺に許したんですよ……俺だから、って」
「ん、んんぅ……っ」
「……あんたは、それがどれだけ俺を狂わすか……分かってねえんだろうな」

 は、と吐き出された息が鎖骨を撫でた。指戯は苛烈さを増し、ひくつく淫芯を摘まみ上げては扱くようになぶっていく。ちゅくちゅくという淫猥な音の合間に挟まる、密やかな私の啼き声。それが余計に厭らしくて、耳からも脳味噌が侵されていって、――――

「……お嬢、腰上げてください」
「っふ、はー……っ、は、え……?」
「失礼します」

 上げて、なんて言ったくせ、私が動くよりも早く彼が腰を抱え上げる。双臀を掴んだ手にショーツを取り去られ、太腿は蘇芳の肩の上へ。肩甲骨の辺りだけで身体を支える格好になると、沸騰した血がなだらかに頭のほうへと逆流し出した。でも、私の顔がじわりと色づいていくのは、その重力だけのせいじゃない。
 だって、――――一番恥ずかしい場所を、好きな人に見られている。

「ぁ、やっ……うそ、見ないで……!」
「……はァ、すっげえ眺め、」

 ――――全部、見える。
 うっそりと笑う蘇芳と自分の秘所越しに視線が交わって、眩暈が私を襲う。声にならない悲鳴を上げ、彼の額を両手で押し返そうとするものの、私とまるで違う骨格を持つその人に勝てるはずもなかった。無駄な努力をしている間に、太腿には骨ばった指が沈み込むように巻き付いていて、足を下ろすという選択肢すら奪われてしまう。
 自分がいかに柔く、無力かを思い知らされるような心地に、胸が疼く。私の手は蘇芳の前髪をくしゃくしゃにするばかりで役に立たず、足は少しも満足に動かせない。いつも私に忠実な彼は、いざとなれば私をどうとでもできるのだ、――――そう思うと怖気よりも先に、期待が最奥を緩めていった。

「あんただって、俺の散々見たでしょう。お返しです」
「だ、だからって、こんな格好……あんまりでしょ……」
「そりゃあすいません」

 だからと言って改める気はないらしい。蘇芳の手が腰を抱え直し、悪戯な吐息が曝け出された秘所を撫でていく。

「ッだめ、蘇芳、……あっ、ぁ、ふーって、しちゃ……」
「ん? ふー……って、されるの、気に入りましたか」
「や、だめって……っあ、ひ、んんッ!」

 濡れそぼった花唇へ吐息が柔らかく吹き付けられる感覚は、ぞっとするほどの悦楽を運んでくる。
 爪先をぴんと伸ばして感じ入る私に、蘇芳は意地悪く舌なめずりをすると、既に綻び始めていた蜜口にそっと口付けた。卑猥すぎるキスで奥からさらに愛液が溢れ、隘路をとろとろと伝い始めてしまうのが分かって、いっそ泣きたいような気持ちになる。

「は……ッ、ちゅ、ん、ん……く、」
「ぁ、ぁあっ……すお、だめだってば、ぁ……」

 男らしい鼻筋が恥骨の上に覆いかぶさり、さっきまで膨らみを苛めていた唇が蜜口に吸い付く。巧みに動く舌がその泥濘を掻き分け、蜜路の浅瀬に溜まった淫液を残らず啜り上げようとする。秘所に埋められた顔の中で、ぎらついた瞳だけが爛々と私を見つめている、――――どれを取ってもこの上なく淫猥で、ふしだらで、扇情的な光景だった。

「溢れそ……、ッん、は、」

 ぢゅう、というあんまりな音がして、ぞくっと甘ったるい悦びが全身を貫いた。薄くまろいお腹が痙攣し、足先が宙でみっともなく藻掻く様は、私の限界を明け透けに伝えてしまう。触覚と視覚によって、果てへと押し上げられていく身体。蘇芳はそれを伏せた目で見遣ると、雄くさく、愛おしげに口角を上げる。

「ハァ、……ん、身体中びくびくしてんの、かわいいですよ。お嬢」
「ひ、ぁ」

 ぺろ、と淫芽をついでのように舐められて、彼の喉仏がごくりと動く。その内側で飲み込まれていったものを思うと、思考がぐしゃりと絡まった。
 身体中で一番はしたない場所を『蘇芳』に舐められているのだと、思い知らされる。

「もうイきそうなんでしょう。ここ、ひくひくして……奥まで蕩けてきてる」

 蘇芳の指が蜜口の淵を引っ掛け、くぱりと開く。奥を覗き込むようにされて、もうとっくに振り切れてしまった羞恥のメーターがさらに大きく振れた。視線に晒された奥が、じゅわ、と溶ける気配。差し込まれた太い指を伝って蜜が滴り落ち、シーツに卑猥な染みを作る。
 彼の言葉通り、私の果てはもうすぐそこだった。浅瀬をたっぷりと甘やかされたせいで、快楽を内包する子宮がふつふつと煮立っている。あとほんの少しのきつい刺激で昇りつめてしまいそう、――――そんな予感に息を呑んだ私へ、蘇芳は擦り切れた余裕を湛えた唇で、ぞろりと笑ってみせた。

「目ぇ逸らすなよ。俺があんたのこれ、舐めるとこ……ちゃあんと見てろ」
「ッ、あ……!」

 待って、と懇願する暇すらなかった。もう一度花唇へとむしゃぶりついた彼の舌が、蜜裂の上で震えていた芽までじれったく滑っていき、器用に包皮を捲り上げてしまう。剥き出しになった敏感な真珠を、からかうような吐息が掠めて、――――ざり、と鋭い刺激が走った。

「ぁ、~~~ッ、は、ぅん……っ!」

 びくんと腰が跳ね上がり、舌がそれに追い縋る。逃がしてもらえなかった哀れな花芽は、包皮の内側に隠されていた実の側面も、裏筋も、何もかもを蹂躙されていく。
 たっぷりと濡れた舌の献身は凄まじかった。腰から下の感覚がなくなってしまいそうで、このまま身体が自分のものではなくなってしまいそうで、――――私は思わず指先で蘇芳の服を手繰り寄せる。

「ッは、ぁあっ、すお、蘇芳……」
「ッ、ン……どうしたお嬢、怖いか?」

 優しく、私への慈愛が満ちた声音に子供のように頷いてみせれば、蘇芳が小さく笑った気配がした。仕方ないなとでもいうような笑み。私の腰を抱え上げていた手が、膝の裏を柔くくすぐる。

「ん、っも、それ以上は溶けちゃうから……」
「……へえ、溶けちまうのか」
「うん、ッうん、だから、ね? 一回止め……ッあ、ぁあっ!」

 二度目の懇願も叶わず、再び蠢き出した蘇芳の舌が私の思考をふやけさせた。赤く充血した実も、その周囲の薄い粘膜も、丁寧に丁寧に愛されて。尾骶骨の辺りがじんわりと痺れて、ぐずぐずに蕩けていく感覚に飲み込まれていく。
 その蕩ける感覚はやがて骨盤の奥まで染み入って、大事に守られている胎さえも陥落させようと手を伸ばす。

「ッそのまま、溶けちまえ……っは、ほら……っ」
「っ蘇芳、ほんとに、ッ……」

 温かな舌が、震える花芯をぐっと持ち上げる。その先で待ち受けているのは、男の人の、少し硬い唇。
 その唇が、いっそ優しく淫芽を吸った。

「ぁ、あっ……!」

 身体の下半分が、どろっと融解する錯覚。
 どこにも力が入らなくなって、ただ大きな快楽だけが全身を満たしていく。緩やかで甘いのに、深い深い絶頂だった。取り返しがつかないところまで堕とされたような、そんな気がして、私の目尻からは勝手に雫が零れてしまう。
 彼の命令通り、そのかんばせを見つめたまま、私は身体をどろどろに溶かされる法悦を享受した。

「ン……ああ、イッたな……」
「は、ぁ……っ」
「こんな、ぐずぐずで……本当に溶けてなくなっちまいそうだな、お嬢は」

 まあ、それもいいか。
 ぞっとするほど甘い低音が、果てたばかりで敏感すぎる粘膜の表面を撫でてみせる。忘我の彼方からまだ戻り切れていない私を置いて、彼は再びそこに舌を這わせた。
 あやすように舐めて、じんじんと疼くそれを慰めるだけ。決してきつくはないはずの愛撫は、今の私の身体にとって淫虐にも等しかった。許容をとっくに超える暴悦に視界が霞む。それでも、覚束ない思考はまだ蘇芳の命令をきちんと覚えていて、憎らしいぐらいに雄の顔をした想い人が、こちらを見つめながら小さな粒をあやす様を甘受してしまう。
 ごくりと上下する喉仏。ぽたりと落ちる汗。壮絶な色気を放ちながらも、蘇芳の瞳はどこか褒めそやすような光を湛えている。私の悶絶を堪能するかのように、瞳孔がきゅう、と縮んで。

「ハ、ちゅ、んッ……なあ、おじょう、お返し。どうですか……」

 気持ちいい、と言えと強請られているのだと思った。乱れた前髪の束、その隙間から獣を飼った瞳がちらちらと見え隠れしている。私が見えているなら、こちらだって見られている、――――急にそのことが下腹部に溜め込まれた快感を波打たせて、脳味噌までを丸ごと、呑み込んで。

「っは、ぁ、きもち、きもちい、からぁ……っ」
「ん、……ああ、いい子だ、お嬢……ほら、――――イけ……!」

 蕩けるような命令と共に、甘く、きつく、歯が立てられた。

「ッあ、ぁ、んん……っ~~~!」

 がくん、と全身が揺れた。
 秘所全体がぐっと胎側に沈み込むような感覚。脳の奥で何かが焼き切れるような音が響き、瞼の裏で星が明滅する。ぶわりと芳香な蜜が溢れ出る気配に、喉が酸素を求めて微かに震えた。足さえ浸けたことのなかった法悦の海に、今や全身が溺れている。思考を何もかも駄目にしてしまうような圧倒的な快感。
 蘇芳が望んだ通りに絶頂したのだと、否が応でも彼に伝えてしまう痴態だった。

「はぁー……っ、ん……ぁ、」
「大丈夫……だいじょうぶ、かわいかったですよ、お嬢」

 果てから下りてこれず、どくどくと震える淫芯を、蘇芳が慰めるようにゆったりと舐めてみせる。悦を呼び起こさないよう調整された舌遣いは的確で、しばらくそうされているうちに、じんと痺れるような熱が緩やかに引いていく。ようやく足も解放され、蘇芳の手によって恭しく布団の元に下ろされた。こちらを見下ろす彼が、ぐい、と手の甲で口元を拭う。

「は、……っは、ぁ、すお……」

 この後は、――――そう言おうとした唇が、ぬるいキスに塞がれる。二度目のときと同じような、穏やかで幼気な、甘ったるいキス。まるで私の意識ごと吸い取るかのようなそれに、初めての絶頂でくたくたになった身体が丸め込まれていく。寝かしつけられているのだと気付いても、もう遅い。ただ、あまり焦燥や後悔はなかった。
 今日こそは『婚前交渉』に漕ぎつけられたかもしれないのに、と思う心がないわけじゃない。でも、私が目指すゴールは『蘇芳に私のことをより好きになってもらうこと』『本当の恋人らしくなること』で、行為自体が目的ではないのだ。
 蘇芳の色んな顔が見られて、本心のようなものも垣間見れた。きっと、今日はそれで充分。

「後始末は、全部俺がしますんで。お嬢は寝てください」
「ん……、っでも……」
「俺の問題に付き合わせたんだから、俺が整えるのが筋でしょう。それに、お嬢は遅くまで起きてると胃を壊すから」
「……心配性」

 ちゅ、とキスをほどいた唇でくすくすと笑ってやると、蘇芳がほんの少し眉根を寄せて「いけませんか」と囁く。彼の指が、大切なものに触れるかのような速度で私の髪を梳いた。そこには余剰な欲も熱もなく、『いつもの蘇芳』の手つきだった。それがさらに、お湯に身を沈めるような安心感を連れてくる。意識がじわじわと、そのお湯へと溶け出して、ほどけていく。

「ううん。ありがとう……おやすみ」
「ん……おやすみなさい、お嬢」

 駄目押しの、額へのキス。それを合図に眠気への抵抗を止めれば、するりと私の意識は落ちていった。

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