憧れの先輩は美しいケダモノ ~八年越しの蜜を捧ぐ~

書籍情報

憧れの先輩は美しいケダモノ ~八年越しの蜜を捧ぐ~


著者:田沢みん
イラスト:つきのおまめ
発売日:2023年 6月30日
定価:630円+税

都内にある総合病院の循環器内科病棟でナースとして働く明里は、
先輩からは医療機器メーカー社員との四対四の合コンに誘われ参加することに。
そこで、高校時代に密かに憧れていた紘人先輩に遭遇し、かなり緊張してしまう。
八年ぶりの再会にして呼び名がかわったり、感慨深い気持ちを胸に秘めつつ、
当たり障りのない近況報告や世間話で盛り上がる。それでもは明里ずっとあることが気になっていて……。
「――なあ、これから二人だけで飲みに行かないか?」
動揺した明里の返事を待たずに、肩を抱かれて歩きだす紘人に従うが――!?

【人物紹介】

星野明里(ほしの あかり)
総合病院の循環器科病棟看護師2年目で24歳。
明るく優しい。元気なのが取り柄。
二学年上で文芸部部長の紘人先輩に密かに憧れていたが、彼には幼馴染の百合子先輩という彼女がいるので諦めていた。

園田紘人(そのだ ひろと)
医療機器メーカー営業で26歳。
リーダーシップがありつつ包容力のある好青年。
高校時代は文芸部部長。明里の2つ上の先輩。

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【試し読み】

 ――うわっ、カッコいい!
 高校入学直後の春。部活見学で彼を見た瞬間、一目惚れした。私を含め、その場にいた女生徒ほとんどが……だ。
 そして全員、恋心を募らせる間もなく直後に諦める羽目になる。
 二年生の園田紘人先輩は、文芸部の次期部長で学校の王子様。そしてあの頃そんな彼の隣には、常に優しく微笑む女性がいた。
 同じく二年生の高部百合子先輩。高貴で華奢で色白で。まさしく百合の花のごとく美しいその人は、紘人先輩の幼馴染で長年付き合っている恋人だ。
 まるでモデルみたいな容姿の二人は、学校中で知らない人がいないほどの有名人で、公認カップルだった。
 二人は階が違うものの、同じアパートの住人らしい。母親同士が仲良しだったことから、家族ぐるみの付き合いをしてきたのだという。
 なんでも幼少期の百合子先輩は喘息持ちで病弱だったそうで、彼女が喘息の発作を起こして学校を休むたびに、紘人先輩が連絡帳や宿題を持って見舞い、ベッドサイドで甲斐甲斐しく世話を焼いていたそうだ。
『えっ、いつから付き合い始めたかって? そんなのもうわからないよ。 気づいたときには一緒にいたんだから』
 そう言う紘人先輩を、いつも百合子先輩は人形みたいな綺麗な顔で満足げに見つめていた。

 校舎二階の文芸部の部室からは、グラウンドの様子が見渡せる。
 紘人先輩が座るのは必ず窓際の席だ。
 文芸部とダンス部の両方に所属していた百合子先輩がグラウンドの隅でダンスをしていると、それを紘人先輩が頬杖をつきながらじっと見下ろしている。
 紘人先輩に気づいた百合子先輩が手を振って、それを見た紘人先輩が手を振り返して。
 そのときの幸福そうな横顔を眺めていると、なんだか私まで幸せな気持ちになれたのだ。胸の奥深くに、ほんの少しの切なさを感じながら。
 文芸部の活動は月曜日と木曜日の放課後。百合子先輩はダンス部が朝練のみになる月曜日しか顔を出せなかったけれど、来れば必ず紘人先輩の隣を陣取っていた。
 百合子先輩は本当に素敵な女性で、彼らがあまりにもお似合いで。私はそんな二人に憧れていて、二人の姿を見ているのが大好きで。
 だから私は紘人先輩へのほのかな恋心を自覚しながらも、変に期待することもなく、早々にあっさりと諦めることができたのだと思う。
 それなのに……。

「――百合子のルームシェアの相手が男だったんだ。びっくりだろ?」
 百合子先輩は高校卒業後すぐに、アメリカにダンス留学を果たしている。
 我が校のダンス部は強豪校で有名だ。百合子先輩の代ではとうとう大きなダンスコンクールで優勝し、いくつかのテレビ番組にも出演していた。
 センターで踊っていた百合子先輩には芸能界からスカウトが来たけれど、彼女はそれを蹴って、ニューヨークのダンススクールに入学したのだ。
 そのまま向こうでプロのダンサーとして活動を続けており、二年前にはアメリカのダンスオーディション番組でファイナリストにもなった。
 最近では日本のコマーシャルに出演を果たすなど、その活躍は目覚ましい。
 地元出身の有名人として、同窓生のあいだでもたびたび話題にあがるほどなのだが……その百合子先輩が、なんとアメリカで同居人と浮気をしていたというのだ。
「信じらんないだろ? 同居相手が男だったとかバイだとか。俺、もうわけがわからなくてさ」
 二ヶ月前の十月あたま、百合子先輩はコマーシャルの撮影で一週間だけ日本に帰国していた。
 紘人先輩はそのときに、彼女がアメリカのルームメイトと電話で話している内容を聞いてしまったのだという。
「俺がベッドで目を閉じていたから寝てると思ったのかもしれない。いや、英語で話せば聞き取れないだろうと見くびってたんだろうな。俺、英会話を習ってることをあいつには内緒にしていたから」
 電話での恋人然とした内容について、当然紘人先輩は問い詰めた。
 すると百合子先輩は怒ってアパートから宿泊先のホテルに戻り、そのままアメリカに帰国してしまったのだそうだ。
 そのうちに向こうから謝ってくるのでは? と薄っすら期待していたが、百合子先輩はそれどころか『今はツアーに向けての練習に集中したい。話は会ったときにしましょう』というメールを寄越してきた。
 それ以来連絡は途絶えているらしい。
 紘人先輩としては言いたいことが山ほどあるが、ダンスの練習に集中したいと言われればどうすることもできない。
 次に直接会えるのは来年の二月。彼女が有名アーティストのコンサートツアーでバックダンサーとして日本に来るときだ。
 悶々としつつも待つしかない。そんなときに飲み会の誘いを受けた。会社の同僚が、営業先の病院でオペ室のナースに合コンを持ちかけられたのだ。
 いつもであれば「恋人がいるから」と断るところだが、何かで気を紛らわせたい気持ちが勝った。それに一人アパートで鬱々としているよりも、病院の情報収集をしたほうがよほど有意義だろう。
 そう考えた先輩が誘いに応じて今に至る……ということだった。

「そんな……信じられない」
「なっ、信じられないよな。俺もビックリだよ」
 紘人先輩はわざとらしく大声で笑ったり泣きそうな顔でうつむいたりを繰り返しつつ、早いピッチでアルコールを煽っていく。
 夜中に店を出るときにはかなりの酩酊状態で、二人でタクシーに乗るとウトウトしながら私にもたれかかってきた。
 高校時代のひたすらカッコよくて爽やかだった先輩からは想像できない姿だ。
 ――精神的にかなり参ってるんだろうな。
 あの頃の仲睦まじい二人を知っているだけに、百合子先輩が浮気だなんて、にわかには信じがたい。けれど高校卒業後すでに八年も経っている。彼らのあいだには、私が知らない歴史があるのだろう。
 ――まあ、そのお陰で紘人先輩と再会できたわけで、こうして一緒にいられるわけで……。
 申し訳ないと思いつつも、ちょっぴり嬉しいと思っている自分がいる。
 べつにどうこうなれるだなんて思っていない。ただ、胸の奥に閉じ込めていたときめきの蓋が開いて、青春時代の感慨に耽っているだけだ。
「先輩、アパートに着きましたよ。住所は本当にここでいいんですか?」
「うん……だいじょ……ぶ」
 肩にズシリと重みを感じながら、どうにかコーポ型アパートの階段を二階まで上がる。
 彼がポケットから落とした鍵を私が拾い上げ、そのままドアを開けた。
「先輩、もう少しですからしっかり歩いてください。寝室はどこですか?」
 今にも寝てしまいそうな先輩を支えて廊下を進む。
「よいしょ!」と勢いをつけて、セミダブルのベッドに横たえさせた。
 彼のネクタイを襟から抜き、キツそうなワイシャツのボタンを三つまではずす。
 そしてもう帰ろうと腰を浮かせたところで……急に手首を掴まれ引き寄せられた。
 ――えっ!?
 ぽすっと鈍い音をさせて、私の額が落ちたのは、先輩の胸の上で。
「まだ帰るなよ。一緒にいてよ」
 そう言う先輩の声はひどく掠れていて。見上げれば、彼の揺れる瞳に私の驚いた顔が写り込んでいて。
『あいつ、浮気してたんだよ』
 百合子先輩がそんなことをしでかしたから。
『まだ帰るなよ。 一緒にいてよ』
 紘人先輩がそんなことを言うものだから。
 ――だって先輩、今にも泣きだしそうな顔をしているから……。
 私がとうの昔に諦めていた、小さな小さな恋の火種に、ぽっと火が灯ってしまったのだ。
 だから私はこう告げた。
「……先輩、抱いてくださいよ」
 口にした途端に心拍数が急上昇する。
 こんなセリフを言うのも、こんなシチュエーションも生まれてはじめてで。
 心臓がバクバクするものの、私はその言葉を引っ込めるつもりはなかった。
「チビ……明里……ちゃん……」
「明里でいいです」
 ゆっくり顔を近づけて、薄い唇に口づけた。これが私のファーストキスだ。
 ――上手くできたのかな。
 顔を離そうとした瞬間、後頭部をグイと抱え込まれた。
 一旦離れかけていた唇が押しつけられて、隙間から肉厚な舌が挿入ってくる。生温かいそれは私の歯列を順になぞり、上顎を執拗にくすぐった。
 なぜか子宮がキュンとして、身体の中心が疼きだす。
「あっ……」
 今まで聞いたことのない鼻にかかった高い声。それが自分のものだと気づいた瞬間、私の舌が彼の舌に捕らえられた。絡み合い、湿った水音を立てながら顔の角度を変えていく。
「んっ……は……っ」
 呼吸が苦しい。息継ぎはどうすればいいのだろう。朦朧としつつも彼の動きに合わせて必死で舌を動かす。
「明里……」
 今度は上から声が聞こえてきた。気づけばいつの間にか体勢が入れ替わっていたらしい。目を開けると、紘人先輩がじっとこちらを見下ろしている。私の顔の両側が彼の腕で囲われていた。
「明里……俺は……」
 掠れた声で呟きながら、先輩の瞳が大きく揺れる。
 ――ああ、先輩は迷っているんだ。
 大事な恋人に裏切られて、寂しくて悲しくて、行き場のない感情に苦しんでいて。好きでもない後輩の誘いに縋りたいほど弱っていて。
 それでも彼は必死に抗おうとしている。
「先輩、大丈夫です。大丈夫ですから……」
 何が大丈夫なのか、自分でもわからない。でも今はただ、先輩の苦しみを和らげてあげたいだけだ。
「最後の良心なんて、捨てちゃってくださいよ」
 私はそっと先輩を押しのけ身体を起こす。みずからコートを脱ぎ、続けてセーターとシャツ、そしてジーンズやソックスも脱いでベッドサイドに落としていく。
 下着姿で先輩に抱きつくと、彼の耳元で囁いた。
「先輩、どうか私を抱いてください」
「明里……っ!」
 身体がベッドに倒された。鎖骨を唇がなぞり、そのあいだにブラのホックが外される。まろび出た膨らみを痛いぐらいに揉みしだかれた。
 ピンクの先端を吸い上げられる。舌で器用に転がされ、ときおり軽く甘噛みされる。
「んっ……ああっ」
 彼の右手が腰を撫で、そのまま下へとおりていく。片膝を立てられ外に大きく開かれた。
「あっ!」
 ショーツの布がズラされて、中心線を撫でられる。先輩の人差し指が割れ目を往復すると、クチュと淫らな音がした。
 腰がゾワゾワして蜜口がキュッと窄む。なんだかじっとしていられない。
「やっ、あっ!」
 こんな場所を触られるのは恥ずかしい。けれど気持ちよさが羞恥を上回り、もっともっとと脳が叫ぶ。私は必死で股を開く。
「先輩、気持ちいい……です」
「くそっ!」
 紘人先輩が上体を起こし、私のショーツを引き下ろす。
 自分の服も脱ぎ捨て全裸になると、私の股のあいだに顔を沈めてきた。
 すぐにペチャ……と水音がして、割れ目を生温かい舌が往復する。
 ――えっ、嘘っ!
 ソコを舐められているのだと気づいた途端、恥ずかしさと驚きで顔が熱くなる。
 キスがはじめてならセックスもはじめてだ。知識はあったものの、実際に秘部に触れられた衝撃は想像以上で。
「やっ、駄目っ、先輩……っ!」
 思わず大きな声が出てしまった。
 途端に彼の動きが止まり、心配そうにこちらを見上げてくる。
「ごめん、嫌だったか」
 ――ああ、駄目だ。
 ここで私が嫌だと言えば、先輩は二度と私に触れないだろう。すぐさま私を追い出して、一人この部屋で、自分がしたことを悔やむのだ。
 ――違う、先輩は悪くない。誘ったのは私で、私はこのまま抱かれたいと思っていて……。
「嫌じゃ……ないです。だから、もっと……舐めてください」
 両手で顔を覆うとみずから膝を立てて脚を開く。
「こんなの、もう……」
 呟きが聞こえた直後に膝裏から脚を持ち上げられた。パカッと股を開かれて、中心に強く吸い付かれる。
 チューッと高い音が鳴り、小さな蕾が熱くなる。
「やぁっ、あっ、ああっ!」
 舌先で包皮を剥かれ、吸ったり舐めたりを繰り返される。身体の奥から疼きが起こり、物凄い勢いで迫り上がってきた。
「やっ……なんだか変っ!」
 ナカに何かが挿し入れられた。それが指だとわかったときには指の腹で内壁を探られていた。
「痛くない? 大丈夫?」
「大丈夫……です」
 先輩は安心したのか蕾への口淫を再開する。同時に指の抽送をしながら、浅いところをそろりと撫でる。
「あっ、あっ……ああーーっ!」
 ある一点を押された途端、強い刺激に身体が跳ねた。目の前で火花が散って嬌声をあげる。
 指を抜かれたあとも入口が勝手にヒクヒクと収縮を繰り返す。
 ――ああ、これがオーガズムなのか。
 頭の片隅でぼんやりと考えた。
 看護学の授業で学んだことのある単語なのに、読むのと体験するのでは全然違う。嵐のように、波のように、あっという間に全身をさらわれてしまう。一度そうなれば抗えない。ただただ溺れて呑み込まれるのみだ。
「挿れるよ」
 カサッという音で、避妊具を装着しているのだなと思った。しかしそちらを見る気力もその先のことを考える余裕もない。たった今与えられたエクスタシーに、私は放心状態だ。
 次の瞬間、硬い肉塊がぬるっと侵入してきた。けれど先端まで挿入ったところで先輩が腰を止める。
「……狭い。もしかして」
「だっ、大丈夫です。続けてください!」
 処女だとバレたらやめられてしまうかもしれない。私は必死で目の前の身体に抱きついた。
「明里、君は……」
「本当にっ! 大丈夫なんです! お願いだからやめないで!」
「……ゆっくり進むから、苦しかったら言って」
 言葉のとおり、先輩はゆっくり慎重に進めてくれた。私の中が徐々に拓かれていく。内壁が押し広げられるたびにミシッと音が聞こえるようだ。
 ――痛い!
 それでも唇を噛んで必死に耐える。痛くても苦しくても構わない。先輩のためだなんて綺麗事。私はただ、幼い初恋の終止符として、彼との思い出がほしいだけだ。
「明里、本当に大丈夫か?」
 ――先輩は本当に優しいな。
 私の身体を気遣って、何度もこうして声をかけてくれる。
 百合子先輩にもこうだったのかな。いや、きっと彼女にはもっと優しく……なんて考えて、なんだか胸が苦しくなった。
 抱きつく腕に力を込める。
「先輩、とてもいいです……気持ちいいから、最後まで……っ、お願い!」
「唇を噛むな、血が出る。代わりに俺の肩を噛め」
「先輩……っ!」
 複雑な想いをぶつけるように、先輩の肩に歯を立てた。
「うっ! ……そうだ、そうやって遠慮せずに噛めばいい」
 そう告げると先輩は最後の一押しとばかりにグッと恥骨を擦り付ける。
「……っは、奥まで挿入った……動いてもいいか?」
「動いて、ください。先輩が満足するまで」
「馬鹿なことを言うな。君も一緒だ」
 先輩がゆるりと腰を動かすと、グチュッと粘着質な音がした。
 血液なのかもしれないな……と思いつつ、痛みに耐えて必死に彼にしがみつく。
 そのうちナカの滑りがよくなって、ヌチョヌチョと水音が大きくなった。それに呼応するかのように、私のナカが快感を拾い始める。
 子宮のあたりからジワジワと痺れのようなものが湧いてきた。
「あっ、また……先輩、また何か来るっ!」
「もう保ちそうにない。ごめん、少し速くするよ」
 そう言いつつも先輩は乱暴にはせず、控えめにスピードを上げていく。
「苦しくないか? 大丈夫か?」
 そう聞かれるたびに、脳裏で百合子先輩の顔がチラついた。私は泣きそうになりながら、ひたすら首を横に振る。
「先輩、気持ちいいです。もっと、もっとシてください」
「明里……明里っ!」
「……っ、先輩……っ」
 ズンッ! と最奥を突き上げられて、私は背中を仰け反らせる。
「やぁっ! ああーーっ!」
「俺も……もう、イクっ!」
 ナカでドクンと大きく跳ねて、ゴム越しに熱いほとばしりを感じた。
 ――ああ、先輩は私でちゃんと気持ちよくなってくれたんだ……。
 安心感と疲労感と。いろんなものが一気に押し寄せたその直後、私はあっけなく意識を手放したのだった。

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