
真田夫妻の甘く淫らな溺愛婚 ~毎夜、極上旦那様を愛し尽くします!~
著者:花澤凛
イラスト:小島きいち
発売日:2025年 4月18日
定価:630円+税
マッチングアプリで出会った真田夫妻の陽菜子と拓海。
誠実で優しくて料理上手でおまけに顔がどストライクな拓海に、陽菜子はぞっこんである。
だが、陽菜子と出会う前の恋愛の影響で、拓海は男性機能障害を患っていて――?
それでも、夜もできるだけ応えてくれる夫だったが……ある日、拓海が電話で「別れると思う」と話しているのを聞いてしまい……!?
思えば拓海に尽くしてもらってばかりだったと反省した陽菜子は、改めて夫婦の仲を深めるため早速行動にでるのだった――!!
「……ここ最近、陽菜子さんに触れられていなかったので、実は、とても寂しかったんです」
マッサージを勉強したり一緒にお風呂に入ったり、前向きにコミュニケーションを図ってきた陽菜子。
そのかいあって夫婦仲はますます深まることになり、拓海の体にも奇跡が起きる――……!?
【人物紹介】
真田陽菜子(さなだ ひなこ)
拓海の妻で、前向きで真っ直ぐな性格をしている。
夫である拓海のことが大大大好き。
拓海にばかり奉仕させてしまっていると反省し、親友からマッサージを習い始めるが――?
真田拓海(さなだ たくみ)
陽菜子の3つ年下の旦那。フリーのデザイナーをしている。
優しく誠実な性格をしており、整った容姿でスタイルもモデル顔負け。
過去の恋愛で負ったトラウマから男性機能障害を患っている。
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*取り扱いサイトは、各書店に掲載され次第、更新されます。
【試し読み】
「え、今も一緒にお風呂に入ってるの?」
「入らないの?」
「もう、結婚して五年経つのよ? ないない」
翌日の昼休み。陽菜子が食堂で夫特製のお弁当を広げていると、隣からとても興味深い会話が聞こえた。お箸をもち、知らん顔で聞き耳を立てながら食事を始める。
「そうなの? 寂しくない?」
「全然。むしろ楽」
「そっか。うちは、旦那が一緒に入りたがるし、一緒に入り始めて仲が深まったというか」
(お風呂に一緒に入ると仲が深まるの?!)
陽菜子は検索サイトを開き『夫婦 お風呂』とキーワードを入力した。
すると、夫婦でお風呂に入るメリットや効果、世間一般的な調査内容が表示される。
それを上から順番に見ていけば、たしかに仲が深まるらしいことが分かった。
(やっぱり裸の付き合いって大切なのかな)
交際期間中、お泊まりはおろかキス止まりだった。結婚を機に一緒に住み始めたが、お風呂は別々で一緒に入ったことはない。明るい場所で裸を見られることも恥ずかしいが、裸の拓海を見てどうしてもソコを見ないふりはできない。できる自信がない。
(でもこれは、いいチャンスかもしれない……!)
あからさまかもしれないけど、俯いておけば大丈夫だろう。服を脱いで、裸も心も曝け出して、お風呂でおしゃべりをする。バックハグとかされちゃうかもしれない――最高だ。
大好きな卵焼きを頬張りながら妄想していると声をかけられた。
「お疲れ様。悪いけど、相席させてもらってもいいかな? 河野(こう の)さんと矢野(や の)さんもいるんだけど」
申し訳なさそうに声をかけてきたのは立花だった。陽菜子は四人がけのテーブル席にひとりで座っている。ちょうど昼時の一番混み合う時間帯なので席が空いていないようだ。
「いいですよ」
「ありがとう」
立花がホッと胸を撫で下ろす。そのまま席を離れようとしたので、陽菜子は忠告した。
「念のため、ハンカチでも置いておいてください。もうすぐ食べ終わりますので」
「慌てなくていいよ」
「いえ、立花さんが戻ってくるまでに多分食べ終わります」
このオフィスビルには三十社以上の企業がテナントとして入っており、食堂はこのビルで働く従業員なら誰でも利用できるシステムだ。陽菜子のお弁当の中身はまだ半分ほど残っているが、立花たちはこの長蛇の列にこれから並んで食券を買わないといけない。
陽菜子の助言を聞いた立花は素直にポケットからハンカチを取り出した。
「席、空いていました? あ、真田さん」
そこに河野と矢野が合流した。二人とも立花と同じチームで働いているメンバーだ。
「真田さん、お疲れ様です」
「お疲れ様です」
「真田さんに、相席させてもらうことになった」
立花が伝えると河野と矢野から「ありがとうございます」と言葉が返ってくる。
「わたしはもうすぐ食べ終わりますので、みなさん早く食券を買ってきた方がいいかと」
三人が話をしている間も陽菜子の手と口は動いたままだ。本当はもっとゆっくり味わって食べたかったが、こうなれば仕方ない。
(せっかく拓海くんが作ってくれたお弁当なのに)
立花にはまったく未練はないが、進んで仲良くしたい相手でもない。
誤解を招くようなこともしたくないので、さっさと離れる方がいい。
(食べてコーヒー買いに行こう)
陽菜子はお弁当の中身を口の中に詰め込むと、食堂を後にした。
頭の中は「どうやって拓海とお風呂に入るか」でいっぱいで顔がにやけてしまう。
その様子を遠くから立花に見られていたなんて陽菜子は気づきもしなかった。
「んー、今夜も美味しかった。ご馳走さまでした」
その日の夕食は、陽菜子の大好きなとんかつだった。これから「一緒にお風呂に入ろう」と拓海を誘わなければいけないのに、お腹がぽっこりでていて恥ずかしい。
(食べすぎちゃった。でも、美味しかったし、仕方ない。でもお腹が……)
陽菜子が食器を洗いながら若干後悔していると、拓海がキッチンに顔を出した。
「陽菜子さん、先にお風呂入る?」
「あ、ううん。拓海くん先入って」
(あ、ちがう)
咄嗟にいつものように返事をしてしまい、後悔する。
拓海は「わかった」と言うと、さっさとお風呂場に行ってしまった。
(これは後を追いかけるべき? それとも明日にする方がいい?)
拓海の入浴時間は十五分前後。なにも初めから最後まで一緒に入らなくてもいい。
それに食器を洗い、お風呂の支度をして突撃すればちょうどいい時間だ。
世間の入浴時間に関するアンケート結果は十分未満という回答も多かった。
(拓海くんが出てくる前に入ろう。少しだけ湯船に浸かって)
一緒にお風呂に入る夫婦は入浴中おしゃべりをするらしい。
陽菜子は拓海と向き合って浴槽に浸かっている様子を想像した。おしゃべりをしながら、いいムードになり、拓海に後ろからぎゅっと抱きしめられて……。
(ムフフフ。お風呂の中でいちゃいちゃしちゃったりして)
それでもって、あんなことやこんなこと……と妄想が止まらなくなる。ハッとして「ちがう、ちがう」と頭の片隅にそれらを追いやりながらスーハーと深呼吸をした。
(そういえば今日の入浴剤、どれにしたのかな)
湯船に浸かれば肌が見えない色がいい。もっと恥ずかしいことをしているけれど、それとこれとは別物だ。しかも今夜は食べすぎたので、絶対お腹は隠したい。
陽菜子はぽこんと出たお腹を撫でながら苦笑した。
(もう仕方ないよね、行こう!)
拓海に許可を取っていないが、きっと大丈夫なはず。
彼とは心の深い部分ではまだ繋がれてはいないが、少なくとも嫌われてはないはずだ。
(よし、出陣!)
陽菜子はパジャマセットを持って、脱衣所に忍び込む。
曇りガラスに映るシルエットから、夫は髪の毛を洗っているようだ。
シャワーの音が陽菜子の物音を隠してくれる。その間に慌てて服を脱いだ。
(大丈夫。大丈夫。一緒にお風呂に入る理由は、えっと、経費削減! じゃなくて、光熱費削減!)
「拓海くん、一緒に入っていい?」
シャワーの音で聞こえなかったのだろう、返事がなかった。
陽菜子は二度声をかけることをせず、扉を開ける。
「え? ひ、陽菜子さん?」
「あ、お気になさらず」
突然扉が開いたことに驚いている拓海にへらりと笑い返すと、陽菜子は洗面器で掛け湯をして浴槽に飛び込んだ。入浴剤は陽菜子の気持ちが通じたように森林色。緑だ。
これなら身体は見えない。
「どうしたんですか、急に」
「い、一緒にお風呂に入ると、えーっと、光熱費削減になるって」
白々しく言い訳をすると、拓海の目が鋭くなった。
嘘をつくのがへたっぴな陽菜子は早々に諦めて素直に白状する。
「……嘘です。本当は、一緒にお風呂に入ってみたかったの」
「一緒に風呂? 急にどうしたんですか」
拓海が鬱陶しそうに濡れた髪を掻き上げる。
その色気のある仕草に思わず見惚れていると「陽菜子さん?」と促されて慌ててこの経緯を説明した。
「今日、会社で『パートナーとお風呂に一緒に入るか入らないか』話題になって」
正確に言えば、食堂でそういう話を聞いただけであるが、敢えてそこは伏せた。
理由を知った拓海は「なるほど」と頷きながら、浴槽の縁を跨ぐ。
当然夫は裸でなにも身につけていない。不可抗力とはいえ、彼の股間が視界の端に入って、陽菜子は視線を泳がせた。
「それで、一緒に入ってみたかったんですか?」
「う、うん」
陽菜子は浴槽の端に身体を寄せながら素直に頷いた。拓海がゆっくりと湯船に腰を下ろす。
水位が上がってお湯が溢れ出した。
「それで、どうですか? 入ってみた感想は」
「い、イメージ通りかな。拓海くんがいい男すぎて直視できないけど」
なんだろう、この色気。心臓に悪い。
「ふっ。いい男、ですか?」
「うん! 仕事ができてハンサムで家事もできて……パーフェクト!」
なにか喋らないと間がもたない。声がうわずって勝手にペラペラと言葉が出てしまう。
「緊張していますか?」
「し、してないよ!」
「初めて会った時と同じような顔になっていますよ」
拓海に指摘されて陽菜子は困った。おまけに突然手を引かれて身体のバランスが崩れる。
あっさりと拓海の腕の中に収まってしまい、後ろから抱きしめられた。
妄想していたことがその通りになってしまい、少々慌てる。
「え?! えぇえ?! っ、ど、どうしたの?!」
「鏡、見てください。陽菜子さん、すごく挙動不審。変質者みたい」
くくく、と笑いながら拓海は鏡に向かって指さした。鏡を見れば、彼の言う通りおどおどしている変な女性が映っている。それは紛れもなく自分だが、妻に向かって「変質者」とは少し傷つく。
「ひ、ひどい!」
「嘘ですよ。かわいい」
濡れた声が耳元で囁いた。これは拓海がそういうモードに入っている時に発動する声色と同じである。必然的にドキリと胸が跳ねてしまい、逃げるように俯いた。
「俺と一緒にいたかったんですか?」
「そ、そうだよ。さ、最近忙しかったし」
マッサージのレッスンや、自主学習のため陽菜子は残業と称していつもよりも帰宅時間を遅らせていた。拓海には内緒で受けていたので、知られたくなかったのだ。
「そうですね。俺も寂しかったです」
「ほ、本当?!」
「陽菜子さんがいると部屋の中が明るくなりますから」
「……それって、わたしがおしゃべりって言いたいの?」
「違いますよ。陽菜子さんが寝ていても黙っていても部屋の中は明るくなります」
むぅ、と唇を尖らせると、顎を掬われて覗き込んできた拓海に唇を啄まれた。
ちゅう、と軽く引っ張られて音を立てて離れていく。
「ソースの味がしました」
「とんかつ食べたからね」
「もっとたくさん育ちなさい」
「やだ、やめてよ」
よしよしとお腹を撫でられる。意識的に引っ込めたが、それでもあまり変わらなかった。
「陽菜子さんは、そのままでいてください」
「えー、拓海くんのご飯が美味しいからブクブクになっちゃう」
「それぐらいの方がかわいいですよ。触り心地もいいですし」
お腹を撫でていた手が、次第に怪しくなってきた。お腹から上にずれて、胸を持ち上げられる。ぽよぽよと弾ませて遊び始めると、長い指が先端をつまんだ。
「……ン」
こういう展開を予想していなかったといえば嘘になるが、まさか拓海から仕掛けてくるとは思わなかった。いつもは陽菜子がおねだりして叶うコミュニケーションなのに。
(……まって。苦手じゃないの?)
拓海がナチュラルに触れてきたので陽菜子は大いに戸惑った。
決して嫌なわけではない。だけど、それを自分がさせてしまっているなら悲しい。
「だ、だめ」
「どうしてですか?」
「ど、どうしてって」
会話中も拓海の手は止まらない。
陽菜子は身体を捩らせて逃げ出そうとすると、拓海が不思議そうに手を止めた。
「ただ……お風呂に、入りたかったの。こういうのじゃなくて!」
「期待してなかったんですか?」
「そう」
「一ミリも?」
そう問われると素直に「はい」とは言えない。
「だったらいいじゃないですか」
「え、えええ?!」
「ここ最近シてなかったでしょう?」
細められた目が妖しい光を放つ。陽菜子は拓海の指摘に口篭った。
詩織に「我慢する」宣言をしたので、夫の意言う通り少々ご無沙汰だった。
どう答えようか考えあぐねていると、指先で捏ね回される。
「あ……っ、ンン」
浴室は声が響きやすいうえ、マンションの通路に面していた。こんなことすれば、外に丸聞こえだ。声を出さないように唇を丸めると、影が落ちてきた。
「俺が塞いであげます」
熱い息が唇にかかる。おずおずと唇を開けば、分厚い舌が捩じ込まれた。
「ふぁ、っ……ん」
口蓋を撫で回し、歯茎を無遠慮に舐める動きがいつもより荒々しさを感じる。
その荒々しい様子が陽菜子の胸を揺さぶり、キュンキュンした。
(もしかして、拓海くんもこのシチュエーションに興奮してくれている……?)
薄目を開ければ、不敵に微笑まれた。濡れた髪のせいかいつもより野生味を感じる。
「ぁふ、……ぁ、むぅ」
舌先をじゅるじゅると啜られて、下腹部が甘く疼く。
溢れてくる唾液が、唇の端から溢れて、湯船に落ちた。
片方の手で乳房を揉みしだかれて、もう片方の手が下肢に伸ばされる。
閉じた脚の間に捩じ込まれた手がやがてぬかるみを擦り始めた。
「た、……くみくん」
「ぬるぬるしてるね」
自然と開いた脚が拓海の指先を受け入れる。柔い花びらを撫で回され、蜜口の浅い場所で指が踊った。きもちいい。きもちいいが、ここで果てたくない――
涙を滲ませたまま抗議をすれば、色気をダダ漏れにした夫に嫣然と微笑まれた。
「ち、ちがう、の……」
「なにが違うの? きもちいいんでしょ?」
「き、もちいいけど……んふぁ……っ」
「陽菜子さんがかわいいから、ついつい意地悪したくなるんだよ」
耳元で囁く声が意地悪なのに甘い。彼の視線は熱くてどこか切羽詰まっていた。
「……っ、ぁん――ッ」
膨らんだ花芯を押しつぶされて、瞼の裏に火花が散る。
「陽菜子さん――」
拓海の腕に縋りつき快感に酔いしれる。頭上に影ができて唇を奪われた。噛み付くように口付けられて口内を貪られる。息も絶え絶えになっていると、愛液を纏った指先が蜜口から押し込まれた。
「ふ、ンンンンンン――ッ」
指先が腹側の窪みに圧をかける。優しく押し擦られて腰が震えた。
くちゅくちゅと水音が立つ。膣内がキュウ、と収縮してやがて歓喜に打ち震えた。
荒々しい呼吸音が浴室に響き渡る。拓海にくったりと身体を預けているとこめかみに口付けが落ちてきた。
「湯船、汚しちゃいましたね」
「……拓海くんのいじわる」
こんなはずじゃなかった。ただ、楽しくおしゃべりするだけだった。
裸の付き合いで親睦を深められればよかったのに。
「目の前に裸の陽菜子さんがいたら触りたくなりますよ」
苦い笑みを浮かべながら拓海がつぶやいた。てっきり負担をかけていると思っていたので、純粋に驚く。目を丸くしている陽菜子を見て、拓海はそっと目を逸らした。
「さ、触りたいと思ってくれていたの?」
「はい」
「じゃあ、いっぱい触っていいよ。旦那さんだから!」
敢えて、名前を呼ばなかったのは、関係を主張したかったから。
この先もずっとこんな身体でよければ、堪能してほしい。
そして、他の男の方がいいなんて言わないでほしかった。
「……そうですね。陽菜子さんは、奥さんだから、触りまくります」
「そうだよ。いっぱい触っていいんだよ。でもお風呂は熱いから、ちょっともう出たいかも……」
湯船に浸かり肌が密着しているのに、酸欠になりそうなぐらいキスをした。
興奮を高められて、のぼせてしまったかもしれない。拓海の頬も若干赤かった。
「……たしかに、お風呂は狭いし熱いですね。でもたまにはいいかも」
「ほ、本当? また一緒に入っていい? あ、ただ向き合っておしゃべりするだけで」
「……でも、俺は触りまくりますよ?」
「……え?」
「触っていいんでしょ? 俺の奥さんだから」
「も、もちろん!」
拓海の質問に陽菜子は全力で頷いた。首がもげるぐらいぶんぶん縦に振る。
すると拓海からぽろりと本音が溢れてきた。
「……ここ最近、陽菜子さんに触れられていなかったので、実は、とても寂しかったんです」
「え、そ、そうなの?」
「でも、俺は、こんな(、 、 、)だから〝触らせて〟って言うのも違うと思って」
視線を落とし、寂しげに微笑む姿に胸を打つ。
そんなこと拓海に言わせてしまい申し訳なくなった。一方で、この話題に拓海自ら触れてくれたことは嬉しい。嬉しいけれど悲しい。心が忙しかった。
「た、拓海くんはそのままでいいの。こんなだからって言わないで。わ、わたしの好きな人を侮辱しないで……」
喜びと寂しさに同時に襲われてぼろぼろと涙が溢れた。
勃たないと価値がないみたいな言い方をされてすごく悲しかったのだ。
「ご、ごめん。拓海くんがそんなこと思っていたなんて知らなくて。……気づかなくてごめんね。本当にそんなこと思わなくていいの。拓海くんがそばにいてくれるだけで幸せなんだよ、わたし」
喉の奥が引き攣る。陽菜子は涙を拭って困惑している夫を見つめた。
「もっとわがまま言って、頼っていいの。思っていることなんでも言って。わたしは、拓海くんがいるだけで嬉しくて、あんまり……気付けないところもあるから」
拓海に会えただけで勝手に笑顔になってしまう。
今日もわたしの旦那さん、かっこいいなぁ、と思っていると時間が過ぎてしまうのだ。
「……自覚あるんだ」
拓海がなにか言った気がするがずるずると鼻を啜る音で聞こえなかった。
尋ね返すと「なんでもない」と首を振られてしまう。
「……これからはちゃんと伝えるよ」
「本当?! 約束だよ? なんでも言ってね?」
若干食い気味に確認すると、拓海は苦笑しながら頷いてくれた。
「約束します」
「言質取ったからね? 遠慮はなしだよ」
陽菜子が念を押す。
「……じゃあ、抱きしめていいですか」
「いいよ。はい」
両手を広げて待っていると、おずおずと躊躇いがちに抱きしめられた。
「……陽菜子さん、ありがとう」
「こちらこそありがとう、だよ。大好きだよ、拓海くん」
大好きだから怖い。だけど伝えてみると案外すぐに解決することもある。
陽菜子は丸くなった大きな背中をぎゅっと抱きしめ返して満面の笑みを浮かべた。