バリキャリ系女子ですが、年下旦那さまとの契約結婚はなぜか溺愛で満たされています!?

書籍情報

バリキャリ系女子ですが、年下旦那さまとの契約結婚はなぜか溺愛で満たされています!?

著者:ぐるもり
イラスト:北沢きょう
発売日:2025年 1月24日
定価:620円+税

 

建築士の碧は講義先の大学で、養父の治療費を捻出するため大学をやめようとしている青年・碧斗に出会った。
彼のデザインを見て、碧斗には世界の宝となれる素晴らしい才能があると直感した碧は、彼を援助するために、思わず「結婚しよう」と申し出た。
「……碧さん、俺頑張ります。絶対有名になります」
そんな風に始まった結婚生活だったが……数年経った今、碧は助けるどころか家事を完璧にこなす彼に支えられている上に、身体の関係まで持ってしまったのだった……!
そして、この結婚にはもう一つ誤算が生じていた。それは、碧が碧斗に恋心を抱いてしまっているということ――!
碧斗の未来のためにもいつかは離婚し、彼を自由にしてあげるべきなのだが、ずるずると先延ばしにし続けてきた碧。
しかし、建築士として碧斗の成長を目の当たりにした碧は、自分はいよいよ必要ないと気づいて――?

【人物紹介】

梶原碧(かじはら みどり)
若くして活躍中の美人建築士。現在は33歳。
自己肯定感が高く、負けん気も強い。
後輩育成にも力を入れており、大学で講師もしている。
碧斗との結婚は、彼の才能を潰したくない一心だったのだが……。

梶原碧斗(かじはら あおと)
碧が講師する大学に通っていた才能溢れる美青年。
現在は27歳で、フリーの建築士として徐々に頭角を表してきている。
穏やかな性格に努力家で、さらに家事も完璧。
複雑な家庭で育っており、「碧斗」という名前にはある秘密がある。

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【試し読み】
 

「碧さん、おかえりなさい」
 玄関を開けると、待ってましたとばかりに碧斗くんが迎えてくれた。キラキラ輝く笑顔が眩しくて、私は思わず目を細めた。
「まるっと一日講義と監督で疲れたでしょ?」
「うん。試験が近いからか、質問も多くて」
 碧斗くんの笑顔を見たからか、張り詰めていた気持ちが緩んでいく。結婚してからどのくらい経っただろう。私は三十という大台をとっくに乗り越えて、碧斗くんは大学を卒業した。院へは進まず、卒後直ぐに二級建築士の資格を取り、間を置かず一級建築士にも合格した。やはり自分の目は間違っていなかったと誇らしく思う。
「碧斗くん、今日仕事は?」
「ん? 大丈夫。ある程度目処がついてますから」
「そっか。家事やってもらってばっかりでごめんね」
「そうしたくて今の仕事を選んだので」
 大手建設会社に就職するかと思いきや、碧斗くんは早いうちからフリーで仕事をしている。お金と親族の心配が無くなると、彼は頭角をあらわした。人付き合いも積極的になり、色々な人脈を築いていった。あまりの変わりっぷりに驚きを隠せなかったが、本来の碧斗くんに戻っただけなのかもしれないと一人納得した。
 フリーと言っても、あちこちの建築事務所と契約を結んでいて、その中には大きな会社があることも私は知っている。しかし、同じ仕事をしていて、互いにコンペに出場すれば私たちはライバルだ。仲のいい夫婦である一方、腹の内を隠して過ごしているところもある。
(仲のいい夫婦なんて言うけど、もう結婚している意味もないんだろうけど……)
 正直もう私の助けは必要ない。大学を卒業した時点で一度離婚を切り出したが、まるっと無視された。そのとき、ちょうど碧斗の養父が遠方の温泉付き施設に入ることになり、ゴタゴタしていたのもあるのかもしれない。
 家族が遠くに行って寂しいだろうし、もう少し一緒にいてもいいかとこれまた私は勝手に納得していた。
「今日は暑かったから先にお風呂に入ってきたらどうですか?」
「え? いいの? 嬉しい」
「汗かいてるから、お茶飲んでから入ってくださいね」
 用意してあったお茶を一気飲みすると、喉が渇いていたことに気づく。夏用スーツとはいえ、やはり暑いものは暑い。投げ捨てるようにジャケットを脱ぎ、私はバスルームに向かった。
「あ~! あつい!」
 脱衣場に着くと同時にバッサバッサと服を脱ぎ捨てていく。ブラジャーのホックを外すと、じっとりとした拘束感から解放された。それと同時に脱衣場のドアがガラガラと開いて、碧斗くんがひょっこり顔を出した。
「俺も入ります」
「え、えぇ~?」
 私の戸惑いなどおかまいなしに、碧斗くんも服を脱ぎ捨てていく。初めて出会ったときのようなもっさり感はなくなり、大人な雰囲気になった。多分ジムに行っている体は無駄な贅肉などなくしっかりと引き締まっている。仕事もうまくいっているため、顔つきも自信に満ちていた。
「碧さん、ブラジャーの跡が残ってる。かゆくない?」
「っ、ちょっと!」
 碧斗くんの指が私の背中を撫でた。私たちは結婚しただけでなくしっかり体の関係ももってしまった。
(いや、本当はそんなつもりはなかったんだけどね!)
 だけど、距離が近づくにつれ自然と体を重ねるようになっていった。
(たしか、碧斗くんが設計した家が初めて建ったときだった)
 大きな仕事が終わったことで、お互い気が緩んでいた。お酒も入って、唇を重ねたら……と、思い出していまい、顔に熱が集まる。
「碧さん、肌弱いんだから。汗をかくスーツを着るときはワイヤーなしのにしてって前も言ったと思うんですが」
「見つからなかったの!」
 初めて体を重ねた日を思い出して勝手に恥ずかしがっていたが、そんなことを知らない碧斗くんが母親のように私の世話を焼く。離して、と抵抗するが碧斗くんはしっかりと私を捉えてしまった。
「あとで薬塗りますから。掻いちゃだめですよ」
 会話だけなら完全に子供扱いされている。でも、碧斗くんの恐ろしいところはこれからだ。
「っ、ん」
「汗かいてる。お風呂入ってないのにしっとりしてますね」
 大きな手が私の腹を撫でる。流れるような動作で首筋にキスが落ちてくる。ちゅ、ちゅと軽いリップ音が耳に届いた。
「ぁ、う」
 がっちりと抱き込まれて、碧斗くんの手が私の乳房を包み込んだ。きゅ、と先端をつねられて私は甘い声を漏らした。
「碧さん、シたいです」
「ん、あお、とくん」
 やわやわと乳房を揉まれる。いやらしい指でときどき乳首を遊ばれて、力がくたりと抜けてしまう。
「ぁあっ……」
「俺があげたボディクリーム、汗で香りが強くなるな……美味しそうと思ってバニラにしたけどこれはもうダメだな」
 絶妙な加減で乳首を弄ばれ、言葉が出てこない。なのに碧斗くんは私の匂いを嗅ぎながら何やら勝手に分析している。碧斗くんの言う通り、緊張して汗がじわりと出ると、薄くバニラが香っていた。個人的にはそれで落ち着いたけど、碧斗くんのお眼鏡にはどうやらかなわないようだ。
「今日は製図の講師だったんだよね。ってことはあちこちウロウロした? 碧さんが通る度甘い香りがしたってことか」
「あ、ん……」
 強弱をつけた刺激のせいでバニラのように甘ったるい声しか出てこない。碧斗くんから敬語が消える。これは本当にへそをまげているときだ。
「やだなあ。嫉妬する」
 声に出せない代わりに、私は首を横に振る。だけど碧斗くんは全然許してくれなくて、少し乱暴に私の顎を持ち上げた。
「碧さん、キスしてよ」
「ん、」
 私はご機嫌伺いをするように唇をとがらせた。キスしてなんて言うけれども、人間の首の可動域は限られているため碧斗くんが屈んでくれないとできっこない。いじわるだけど、碧斗くんは私がおねだりするのをただ見たいだけだ。
「碧さん」
 とがらせた唇に、碧斗くんの唇が重なる。正面に回ってくれればいいのに、こんなふうに後ろから責められることが多い。征服感なのかな? と複雑な男心を理解するには経験値が足りない。そんなことを考えていると、舌で唇をノックされる。はいどうぞとばかりに唇を開くと遠慮なく舌が入り込んできた。
「ふ、う」
 もう何度交わしたかわからないキスだが、主導権はいつも碧斗くんだ。年上の威厳なんて全くなくて、されるがままだ。
「ぅ、く……ぅ」
 うごめく舌が私の口の中を満たしていく。溢れ出る唾液の処理ができず、逃げ道を探すように口のはしから流れ出ていく。
 肌を寄せ合い、隙間なく触れ合う。私のたるんだ体とは違い、ゴツゴツした碧斗の体はいつも私よりひんやりと冷たい。
 二人の体温が溶け合って同じになると、碧斗くんの指が私の中にゆっくり入ってくる。すっかり手懐けられたアソコは、長い指をすぐに受け入れる。一本、二本と増えた指が、私の1番いいところを撫でていく。
「――あっ!」
 キスをしている余裕なんてなくなって、仰け反りながら高い声を漏らす。強弱をつけた動きが刺激となって私の中を駆け巡る。
「む、りぃ……たって、られない」
 膝が悲鳴をあげる。ガクガクと揺れて、体を支えられない。
 快楽のために溢れ出た蜜が太ももをつたい始める。私はもう何もかもわからなくなって、蛇の生殺し状態だった。
「はやく、イか……せて」
 漏れ出る喘ぎ声の合間に何度もねだる。しかし、碧斗くんはいつも絶対にイかせてくれない。
「まだもう少し楽しんでいいでしょ?」
 私がひんひん鳴いているのを楽しんでいるように、声が弾んでいる。わざと濡れた音を聞かせるようにナカをかき混ぜてくる。
「ん、あぅっ!」
 その刺激で達しそうになるが、私の声を聞いて碧斗くんが指を止めた。
「イキたい?」
「っ、うん、もう、むり……」
 私の願いは幾度も無視されていた。しかし、やっと天の声が降ってきた。これ幸いとばかりに勢いよく頷くと、中で遊んでいた指がするりと抜けていく。
「碧さん、いつも言ってるでしょ? イクときは、俺のでって」
 避妊具のゴミが視界の端に映る。片手で私を散々弄びながらも準備を怠らないスマートさに、苛立ちを覚える。そんな私に気づいたのか、碧斗くんが指よりももっと大きくて太くて長いものをナカに押し込んできた。
「碧斗くんのでイかせてって言えばいいのに」
「っ、はぁ……ん」
 じゅぷ、と蜜の絡む音が脱衣場に響く。私のナカを埋め尽くす剛直から与えられる気持ちよさに、力の抜けた膝は耐えられなかったようだ。体が傾くと、逞しい腕に包まれる。
(ああ、もう完全に遊ばれてる)
 そんなことしか考えられないくらい、私はもう限界だった。
「あおく、んので……イかせてぇ」
 ほとんど叫ぶような声だった。涙がじわりと溢れ、比例するように鼻水も垂れてくる。最高に不細工な顔をしていると容易に予想できるが、今の私はなりふりなど構っていられない。支えられた腕に縋る。すると、私の中を埋めつくしていた塊が、さらに質量を増した。
「ぅっくぅ!」
「碧さん、上手。ホント、俺を誘うのがうまい」
 重たい塊が私の奥を刺激する。碧斗くんしか知らない最奥がヒクヒクと疼いて、もっともっとと刺激を求めている。私、いつからこんなにはしたなくなっちゃったんだろ。と反省してしまうくらい、欲しがりになってしまった。
 エッチのときだけ碧斗くんは敬語が抜ける。彼の理性を私が飛ばしているのだと勝手に納得して、勝手に優越感を得ていた。
「はや、く」
 力の入らない体だが、腰をゆらゆら揺らすくらいはできる。いつもみたいに、奥も入口もいっぱい刺激してほしかった。きっと全てが終わったとき、「またやっちゃった。いつか離れなきゃいけないのに!」と、後悔するくせに。
「我慢できなくてごめんね」
「ぁあーっ!」
 ぐちゅりと耳を塞ぎたくなるようないやらしい音とともに思い切り腰を打ち付けられた。両腕を引かれて、強制的に仰け反ってしまう。ふるふると乳房が揺れて、誰がどう見てもいやらしい体勢になってしまう。
(本当はもっとくっつきたい)
 互いに見つめあって、抱き合いながら感じたい。そんなふうに思ったことは一度や二度ではない。だけど、これは私が半分強制的に結んだ結婚で……
「碧さん、碧……っ」
 そうこうしているうちに、肉のぶつかる音が大きくなっていく。何度も名前を呼ばれる。その声に余裕の欠片は一つもなくて胸がきゅんと疼く。いつの間にかかっこよくて優しくてそれでもってこんなふうに私をときめかせるかわいさも備えていた。
 料理も上手。家事もできる。本人は私にはあまり言わないけど、フリーで働きながら仕事がどんどん舞い込んでいるのも知っている。そうでなくても同業ということで、「碧斗」の有能な仕事っぷりが耳に入ってくる。誇らしい! と、思うと同時に早く解放してあげなければと考える自分がいる。
「っ、あぁん!」
 集中していないのがバレたのかもしれない。碧斗くんの動きがより激しさを増した。
「碧さん、俺に集中してよ」
「っ、ん! はぁ……ん」
 十分していると主張するために、私は首を縦に振る。どうして私が集中してないってわかってるのに、その先を理解してくれないの! と見当違いな苛立ちを覚えることもある。だけど、最初に約束したんだ。碧斗くんを助けるって。
「……ん、ぁあっ!」
 聖人君子でもない私が、才能を認めて側においておきたいって思ったんだ。結婚はオマケみたいなもんで、あのとき夢を捨てようとした碧斗くんをどうしても助けたかった。
 奥を責められて、甘ったるい声が規則的に漏れる。
「だ、ダメ、また……」
 イク、と吐息とともに漏れる。どこかに縋りたい思いがありながらも、碧斗くんは私の背後にしかいない。自分のこぶしをぎゅっと握りしめて熱くなった塊から与えられる刺激に耐える。
「声聞きたいな」
「っ、あ!」
 達するときは我慢できたが、敏感になった体に新たな刺激が加わったことで大きな声が漏れ出てしまう。甘ったるい声は少し耳障りで許されるなら耳をふさいでしまいたかった。
「碧さん、腰動いてる」
「や、いじ……わる」
 理性とは裏腹に、体に覚えこまされてしまった快感は素直だ。知らず知らずのうちに次の気持ちいいことを求めて、私ははしたなく腰を振る。じゅぷ、と水音が響いて新たな蜜が太ももを伝った。碧斗くんのセックスはときどき意地悪だ。実況中継なんて聞きたくないのに、碧斗くんの低い声で自分が今何をしているか聞かされると、お腹の奥底がぎゅっと疼くのだ。
「お尻、揺れてる。丸くて、かわいい」
「うっ、ひ、んっ」
 大きな手が私の尻を撫でた。奥を突く乱暴な動きとは反対に、息を吹きかけるような優しい手つきだった。緩急をつけた刺激に、私は背中を仰け反らせる。
「碧さん」
 上がった私の顎を捕まえて、碧斗くんが唇を寄せてくる。深いキスには届かないが、舌先がつながって、小さく絡まる。
(こういう行動、一つ一つがとってもえっちだ)
 碧斗くんの全てが私を刺激する。されるがままなことが多いけど、彼の吐息が肌を撫でると、少なからず私と同じように興奮してくれていることがわかる。こんな年増を抱かせてごめんね、なんて申し訳なく思うこともあるが、つながって互いに昇るこの瞬間だけは劣等感を忘れることができる。ぶるりと体が震えて、口が開く。幾度となく高みに昇るが、すぐに次の快楽に呑まれていく。こんなにも溺れてしまうなんて想定外だった
「あお、とくん」
 腕を絡ませる相手はいない。せめて、名前だけでも呼んでほしかった。
「みどり、さん」
 私が望んだ通りの返事をくれる。欲を言えば彼の鼓動を感じたかった。けれども私は『保護者』だから、多くを望んではいけない。名前を呼ばれた瞬間、嬉しさからか、また蜜が溢れ出る。
「あぁっ!」
 溢れ出た蜜が行き場をなくして、弾ける。まるでおもらしでもしてしまったと言わんばかりに床に小さな水溜まりを作った。
 けれども、碧斗くんの責めは止まらない。そうこうしているうちに何も考えられなくなって、私はただ揺さぶられて快楽を貪るだけになってしまう。
「碧さん」
 脳天が痺れるような甘い声が鼓膜を揺らした。たったそれだけで、私はもう一度達してしまう。背中をさらに仰け反らせて、悲鳴のような声が漏れる。
「っ、ひぁぁっ!」
 自分でもわかるくらい、ナカがぎゅうっと締まった。隔たり越しでも感じるくらい碧斗くんを締め付けると、背後で呻くような声が聞こえた。長く私を責め続けていたが、達したのだろう。ナカをいじめ抜いていた硬い塊の質量が少しだけ減っている。長い腕が私の体に絡まって、肌が密着する。今、どんな顔をしている? どんな気持ちで私を抱いている? なんて邪念が頭の端にちらつく。
 愛してるとか、好きだとか私たちの間に甘い言葉は一度だってない。きっと、碧斗くんは私に助けられた恩を忘れずに、慰めているだけ。それはすごく虚しいことだけど、セックスは溜まったフラストレーションの解放にはもってこいだ。
「汗かいちゃいましたね。お風呂入りましょう」
「……」
 とっても激しい運動をしたはずだが、碧斗くんは息一つ乱れていない。私なんて全力ダッシュしたくらい、はふはふと息を荒くしている。
「一緒に入りましょう。キレイに洗わせてください」
「ま、って」
 私の静止を聞かずに、片手でひょい、と抱えられてしまう。もう片方の手で避妊具を引っ張ると、白く濁った液体が私の太ももに飛び散った。
「っ、」
 碧斗くんはときどきこうやって私を汚すことがある。使用済みコンドームをこんなふうに扱ったらどうなるかわかっているはずなのに。
「碧斗くん、飛んできたよ」
「すみません、手がすべりました」
 うそつき。私は無意識のうちに顔を逸らした。どんなつもりで私を精液で汚すのかわからない。だけど意味が無いなんてことは絶対にない。碧斗くんが大人になるにつれ、わからないことばかり増えていく。
(もしかしたら、もうめんどくさいとか嫌だとかいう現れなのかな)
 そんなことを思うと胸の奥がズキンと痛む。だけど、私は傷ついてはいけない。戸籍上、彼の妻とはいえ、保護者に近い存在だから。
「じゃ、洗ってきますから」
「っひあ!」
 一人聖人ぶっていると、いつの間にかバスチェアに座らされていたうえに、冷たいシャワーが頭から降ってくる。びっくりして叫んでしまうと、後ろからけらけらと笑う声が聞こえてくる。
「もう! やめてよー!」
「だって碧さん、ぼーっとしてるから」
 保護者だけど、体の関係はある。そして、結婚もしてる。不思議だけど、どこか心地よいこの関係を私はいまだに捨てきれずにいる。
「ぼーっとしてたって水をかけていい理由にはならないでしょ」
「すみません」
「全然心がこもってない!」
 こんなふうに軽口をいつまで言えるかな。何かある度、いつまで、いつまで。と考えずにはいられない。
(……決めた)
 期限が無いからいつまでもダラダラと続けてしまうのだ。仕事でも私は後半追い込み型だから、切羽詰まればきっとできる。
 離婚までの期限を決めたほうがいい。私が保護者として存在しなくても大丈夫になったとき、碧斗くんを私から解放する期限。
(離婚)
 それはつまり、碧斗くんと離れるということだ。想像するだけで胸の奥がぎゅっと締め付けられる。それもそうだ。生半可な気持ちで一緒にいたわけではない。彼の才能を世界に認めてもらうために私はこれまで過ごしていた。
(私にできること、これ以上あるのかな)
 今がきっと離れるタイミングなのかもしれない。私から離婚しようと言えばそれで終わりなのだから。
 碧斗くんの輝かしい未来のために、あとは勇気を出すだけと私はなんとか自分に言い聞かせた。

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