完璧王太子は無垢な愛妾を本能のまま抱き潰したい

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完璧王太子は無垢な愛妾を本能のまま抱き潰したい

著者:瀬月ゆな
イラスト:木ノ下きの
発売日:2024年 11月22日
定価:630円+税

実の母を亡くしたセレストア伯爵家令嬢・リズティーナには居場所がなかった。
社交デビューもさせてもらえず、義母にはメイドとして扱われる日々。
そんなある日、王太子の王宮に入り閨の相手をするよう父から命令されて――?
不安な中、王宮入りの日がやってきて、リズティーナは初めて王太子・クリストファーを見た。
見た目だけでなく、纏う雰囲気の凛とした気高さに息を呑むリズティーナ。
二週間が過ぎ、リズティーナは彼の閨の相手を務めるが、愛など感じられないまま夜は過ぎていった……。
ある夜、なぜかその日はクリストファーがリズティーナと一緒に眠ると言い出して――?
リズティーナは朝になっても自身がクリストファー抱きしめられていることに気づく。
温かく優しいものが与えられたと知った彼女はクリストファーの愛をもっと欲してしまうが……!?

【人物紹介】

リズティーナ・セレストア
セレストア伯爵家令嬢。
儚げな印象の容姿をしており、純粋で優しく気弱な性格。
ある日、父の命令でクリストファーの閨の相手をすることになるのだが――!?

クリストファー
王太子。
真っすぐで正義感が強い性格だが、多少融通が利かない一面も。
リズティーナと閨を共にするうちに彼女への心情に変化が訪れて……?

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【試し読み】

 何て綺麗な方なのかしら。
 それが二週間ほど前、大きな窓から差し込む眩い光の下で初めて彼を見た時の、リズティーナの第一印象だった。
 あの時とは一転して夜も更け、同じ部屋でありながら今は仄灯りに照らされているだけだ。そして灯りとはまた別に、夜空を煌々と照らす満月の光を限界まで細く依り合わせたような淡い純銀に輝く長い髪が、ふんわりと波打ちながらベッドの上に広がっている。
 自分には不相応なほどに豪奢なベッドに横たえられたリズティーナは無言のまま視線をあげた。覆い被さるような姿勢の彼を、クリストファーの顔をそっと見上げる。
(今もやっぱり、とても綺麗……)
 穏やかな春の日差しにも似た金色の短い髪、澄み渡る空を思わせる切れ長の青い瞳。その指先の動き一つでさえ優雅な、まさに絵に描いたような王子様の姿がそこにあった。
 きっと、令嬢の憧れや羨望に満ちた視線を一身に集めているに違いない。リズティーナだって夜会で見かけていたのなら、多数いる乙女の一人になっていたことだろう。
 こんな――想いなど一欠片もないままに共寝の夜を迎えたりしていなければ、おそらく。
(でも身の程も弁えず、叶わない恋に胸を焦がして苦しむよりも、この方が良かったのかもしれないわ)
 遅くとも十八歳で社交界へのデビューを果たすのが慣例でありながら、十九歳のリズティーナは未だそれを果たしてはいなかった。
 友人と呼べる存在はおらず、故にクリストファーのことも、王宮に身を置くようになって身の回りの世話をしてくれる侍女から聞いたり、本人と何度か顔を合わせた程度の表面的なことしか知らない。
 それでも彼はとても高潔な王太子であり、リズティーナの父、マクルド・セレストア伯爵とあまり友好的な関係にないことは分かっている。
『せいぜい閨で王太子に尽くして取り入るんだな』
 父の冷ややかな表情と言葉が脳裏に浮かび、リズティーナは菫色の瞳を静かに伏せた。思っていたよりも大きな吐息が口をつく。するとクリストファーのしなやかな指が肩口に触れ、薄い布地越しであるにも拘わらず息を呑んだ。
「怖がる気持ちも分かるが、君自身の為にも身体から力を抜いた方がいい」
「……っ、はい」
 震える声で返事をしたものの、どうしたらいいのか分からない。ただ身を固く強張らせて再び目を開ける。
 これでは父から命じられた役割など到底を果たせそうになかった。けれどもし適わなければ――そう考えて、クリストファーに気取られないよう小さく首を振る。
 父への恩義に報いる為にはやり遂げるしかないのだ。リズティーナの意思など関係ない。
(大丈夫。きっとすぐ終わるから)
 不安でいっぱいになっている自らを懸命に鼓舞し、なすがままに身を委ねる。
 肌を透かし、身体のラインに沿った純白のレース仕立てのナイトドレスの、胸から足元へといくつも留められた小さなボタンをクリストファーは一つずつ外して行く。
 下には何も身に着けていない。腕から手首までを覆う袖はそのままにレース生地を左右に割り開けば、薄闇にも真珠さながらに艶めかしく輝く白い肌が露わになった。華奢な身体とは裏腹に、淡い桃色を頂上に抱く形良い二つの豊満なふくらみが待ちかねたようにまろび出る。
 熱を帯びた視線に輪郭を一つ一つなぞられているように感じるのは、緊張で強張っているせいだろうか。勝手に肌が火照り、不慣れな感覚がお腹の奥に渦巻いた。
「悪くはない身体だ」
 冷静な表情で、けれどあからさまに値踏みされていることを知って屈辱と羞恥で頬が染まる。
 怒るべきか喜ぶべきか、それすら分からなくて身動ぎもできずにいると、クリストファーの手がふくらみを掬い上げた。
「っふ……!」
 素肌に自分のものとは違う、男の指が触れて思わず身体が竦む。
 大きな手でやわやわとふくらみを揉まれる度、リズティーナ自身も形を変えられてしまうのでないかと不安になった。
 得体の知れない恐ろしさにきつく目を閉じると、濡れた何かが胸の頂きに押しつけられる。ぬろりとした感触に驚いて反射的に視線を向ければ、クリストファーの熱く赤い舌先が小さな桃色の尖りをちろちろと舐っていた。
「ん、ぅ……」
 身体が甘やかに痺れはじめたかと思うと、刺激を受けて硬く勃ち上がった乳首をクリストファーが口に含んだ。口の中で飴玉のように転がされ、経験したことのない感覚が背筋を幾度も通り抜けて行く。
「あっ、ん……。ゃ……」
 自分自身でも聞いたことのない声は、甘えるように、助けを求めるようにか細いものだ。あがるのを堪えられない。こんなみっともない声を王太子に聞かせてはいけないと口を右手で覆おうとすると、クリストファーの手によって止められた。
「気持ちいいのなら声は抑えなくていい」
「気持ち、いい……」
 この感覚が快楽というものなのか。
 やっぱり何一つ分からないまま反芻する。クリストファーの手はすべらかな腹部をなぞりながら下肢へと伸ばされ、リズティーナの足の間に差し込まれた。
「ぃ、痛……っ」
 乾いた場所を撫でられ、わずかな痛みを覚える。思わず苦痛の声があがった。秘められた大切な場所だ。人に触れられるのが怖く、慈悲を訴えるように弱々しくかぶりを振った。
「気持ち良さそうに感じ入っていたくせに濡れていないのか」
「至らずに申し訳ありません……」
 リズティーナのそこは濡れていなければいけないらしい。理由は分からないけれど、クリストファーの興を削いだことはさすがに理解して許しを乞うた。
「君の謝罪が欲しかったわけではないが――」
 クリストファーも困惑しているように見える。
 どうしよう。
 どうしたら、いいのだろう。
 お互いに無言で見つめ合った。真っすぐな青い瞳が自分だけを映している。そこにほんの一瞬だけ、影がよぎった。
(今のは……何……?)
 踏み込んだらまた知らない感覚を呼び起こされそうで、あえかな呼吸を繰り返す。
「まさか、初めてなのか?」
「は、はい。肌を曝した経験もなくて……。申し訳ありません」
 尋ねられて素直に答えたものの、身を捧げて寵を得る為にリズティーナは差し向けられたのだ。それが閨事どころか恋さえもまだ知らないとなれば興を削いだかもしれない。クリストファーだって後腐れのない関係を望んでいるはずだ。
 でも偽ったところですぐにばれてしまう。
「父から、殿下をご満足させるべく尽くすように言われております。わたくしも承知のうえですし……」
 リズティーナは必死に言葉を重ねた。
 クリストファーに抱いて欲しいわけではないけれど、抱かれなければいけない。
 父に、命じられているから。
「――そうだな。僕も、今さら止めてはやれない」
 何事もなかったようにクリストファーが上半身を起こした。サイドチェストの引き出しから、百合を模した蓋で栓をされた淡い水色の瓶を取り出して傍らに置く。それから自らも衣服を脱ぎはじめた。
 初めて見る異性の身体にリズティーナは息を呑んだ。
 細身ながらも筋肉がついていて、見た目の印象よりも逞しい。わずかに膨らんだ喉元から鎖骨へと、視線をゆっくりと辿らせる。女性である自分のそれとはあきらかに違う引き締まった胸、うっすらと筋肉の浮かぶ腹部――その先に恐ろしい形状をした肉槍を捉え、慌てて顔を背けた。
「も、申し訳ありません」
 再び謝罪の言葉が口をつく。
 どくどくと心臓が高鳴りはじめた。
(あれが……男性の)
 王宮に入る前、閨事の知識を得る為に書物を読もうとしたことがある。けれど表紙を開いてすぐのページに男女の裸体が描かれていて、あまりの羞恥に耐えかねて本を閉じてしまった。そしてクリストファーのそれは本で見たものとはまるで形も大きさも違う。両手で口を覆い、凶悪な姿を脳裏から追い払うようにかぶりを振った。
「君も、こんなことはすぐ済ませたいだろう」
「ひぅ……っ!」
 冷たくぬるりとした液体をたっぷりと纏わせた指が足のつけ根に触れ、リズティーナは引き攣った悲鳴をあげた。
 乾いた場所にくちくちと塗り広げられて行く度に未知の恐怖で内ももが震える。重く濡れた感触が落ち着かなくて身を捩った。
「必要以上に痛い思いをしたくなければおとなしくしているんだ」
「っ……」
 彼としてはリズティーナの為の忠告を意図しているのもしれない。
 けれど脅しの言葉としか思えなくて却って萎縮してしまう。
 クリストファーはこれ以上の気遣いをするつもりはないらしく、中心部に指先を押し当てた。
「だ、め……。そんなところ、何も入らない……」
「楽に入るように潤滑油を塗ったから問題ない」
 熱を感じさせない声でクリストファーは答える。愛が存在しない行為だと念を押されているようで、分かっているはずなのにリズティーナの心が軋んだ。
 自分の身体の中に、他人の身体の一部が入り込んで来る。
 それはひどく奇妙な感覚をリズティーナにもたらした。身体の内側から撫でられ、ゆっくりとした動きにも拘わらず鋭い感覚が背筋を駆け抜ける。
「ふ、ぁ……。だめ、動いちゃ、ゃ……」
 隘路を押し広げるように抜き差しされるクリストファーの指に言っているのか、少しずつ綻びながらもうごめく自らの胎内に言っているのか、リズティーナは懇願した。
 自分の意思ではどうしようもできない生き物がいる。熱を伴って脈打ちながらクリストファーの指に絡みつき、じっくりと食んだ。
「ぅ、ん……っ。あ……!」
 奥から何かが込み上げて来る。
 未知の感覚は恐ろしいものでしかなく、抑えつけようとしてもどうしたらいいのか分からなくて心細さを煽った。
「いや、あ、ぁ……」
 腰が何度も小さく跳ねた。下腹部が熱い。なおも縋るように絡みつく胎内から指が引き抜かれると、さらに熱く大きな何かが蜜口に押し当てられた。
「あ……!」
 咄嗟に両手を突き出してクリストファーの肩を押しのける。けれど彼はびくともせず、硬い熱杭でリズティーナを容赦なく貫いた。
「ふ……っ、ぁ……」
 身体が真ん中から二つに裂かれていくような痛みに、大きな瞳から幾粒もの涙が溢れる。もはや手遅れだと分かっていても、より大きく深く侵入して来た男を追い出そうと胎内がうねった。
「ひっ……! い、ゃ……、ぁ……。放して……っ。離れて、下さ……」
 幸せな結婚ができると信じていたわけではない。
 幸せな花嫁姿を見てもらいたかった唯一の人だって、もういない。
 だけど、これで本当にどこにも嫁げなくなってしまった。
 傷みで熱を帯びた秘所に再び冷たい液体が垂らされた。聞いたことのない淫らな水音があがるほどに滑りがよくなって抽送運動がスムーズになりはしたものの、リズティーナの心は未だ引き攣れたままだ。
「ゆっくりするから……力を抜くんだ」
「ん……申し訳、ありませ……」
 でも分かっている。
 これがリズティーナに与えられた役割だ。何も考えず、クリストファーにされるがままとなっていたらそれでいい。優しい王子様は、たとえ愛はなくともむやみやたらに傷つけることはないという安心感も心のどこかにあった。
「あっ……」
 全身がどんどん熱くなって来る。
 知らない感覚が奥底でうごめいた。勝手に腰が揺れる。切っ先で媚肉を抉られると甘えた声があがった。
「あ、ぁ……っ」
「善くなって来たのか」
 穿つ楔は熱いのに未だクリストファーの声に熱は感じられないままだ。お互いにうっすらと汗ばみながらもなお、クリストファーの心は別の場所にあるような錯覚さえ覚えた。胎内を満たす存在がなければ、彼の表情だけを見て睦事の最中にあるとは誰も思わないに違いない。
 なのにリズティーナだけが、じんわりと快楽に囚われて行く。
 知らない。
 こんなのは、何も、知らない。
 リズティーナは否定の為に激しくかぶりを振った。
「ち、が……っ、ぁ……ん、んん……っ」
 口を開けば突き上げを受けて抑えられない声がこぼれる。
「違わないだろう。――だが、痛がって苦痛の表情を見せられ続けるよりはずっといい」
「あっ、ぁ……。あ……!」
 耳を塞ぎたくなるほどの水音を部屋中に響かせながら奥を穿たれ、目の前がちかちかと白く明滅した。
「だめ、何か、きちゃう……」
「く、ぅ……」
「あっ、ああぁ――!」
 得体の知れないものに激しく追い立てられるように高い場所へと駆け上がる。
 短い呻き声と共に奥底に切っ先を強く押しつけられた。脈打つものから熱い液体が飛び散る感覚がしてリズティーナの腰がひくんと跳ねる。
(終わった……の……?)
 身体は繋がっていたのに心は少しも寄り添うことがなかった。
 吐息と共にクリストファーは身を引いた。胎内に収められていた大きな熱杭が引き抜かれても、まだそこにあるような気がする。
 内側からごぷりと何かが溢れると青くさいにおいが鼻についた。ひどく生々しいにおいに目眩がする。
 同時に理解した。
 もう〝リズティーナ・セレストア〟の居場所など、完全になくなってしまったのだと。

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