
恋人契約を交わしたら、エリート同僚の抑えきれない一途愛に陥落させられました
著者:結祈みのり
イラスト:千影透子
発売日:2023年 1月12日
定価:650円+税
神崎製菓のマーケティング部で働く津久井笑子には、唯一苦手とする同僚・橘怜司がいた。
人当たりもよく社内随一のエリート社員である怜司は、仕事一筋に頑張る笑子のライバルであるだけでなく、なぜか事ある毎に彼女を口説いてくるのだ。
怜司の言動に心が乱されるのは、それだけ彼のことを意識しているから。
そうと分かっていても、笑子は過去の恋愛のトラウマからどうしても怜司の言葉を信じることができないでいた――。
そんなある日、合コンでトラウマの元凶となった元彼と再会する笑子。
元彼からの言葉に再び傷つけられた彼女のもとに、怜司がやってきて――?
彼の胸に抱き寄せられながら、笑子は10年ぶりに涙を流すのだった……。
怜司の前でこれまで溜まっていた元彼への思いを零した笑子に、彼はあることを提案する。
それは、三ヶ月間怜司の恋人になり男性不信を改善する、というもので――!?
「忘れたいなら、俺を利用すればいい」
どこまでも優しく淫らで、それでいて彼の一途な愛情に笑子は身も心もほだされていく……。
次第に恋愛に対する笑子の気持ちも変化していくのだが――?
【人物紹介】
津久井笑子(つくい えみこ)
神崎製菓のマーケティング部所属。28歳。
はっきりとした性格の持ち主で、努力家で責任感がある。
気の強そうな顔立ちから社内でのあだ名は「女王様」。
一方で、過去のトラウマから恋愛に対しては臆病な一面も持ち合わせていて……?
橘怜司(たちばな れいじ)
海外事業部を経て、現在はマーケティング部に所属している30歳。
明るくて人当たりがよく、周囲に対しても穏やかな態度を崩さない。
笑子に恋人契約を持ちかけるのだが――?
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【試し読み】
橘は笑子の首筋に顔を埋めて小さくと呟く。はあ、とため息まじりの声は少しだけ震えていた。
「断られたらどうしようって、実はすごく緊張してたんだ」
「そんな風には見えませんでしたけど……」
「平気なふりをしていただけだ。女の子の前では余裕のある姿でいたいものだからね」
橘は笑子の背中に両手を回してそっと抱きしめる。すると自然と襟ぐりから覗く素肌に彼の息を感じて、くすぐったさから笑子はわずかに身を捩った。
「んっ……」
反射的に口から漏れた声は思いのほか甘くて。
抱きしめられただけなのに、これではまるで感じているようだ。
「あの……」
気まずさと恥ずかしさからそっと橘の胸を押すと、抱擁は簡単に解かれる。橘はゆっくり体を離して笑子の顔を覗き込む。その顔を見た笑子はひゅっと息を呑んだ。
ぎらぎらと熱を宿した瞳は、先ほどまでの穏やかな雰囲気とは一変していた。
今の橘が何を考えているのか、言葉を交わさずともわかる。なぜなら笑子もまた同じ気持ちなのだから。
(キス、したい)
彼に触れたい……触れてほしい。
自然と湧き上がったその願いに身を任せるように、笑子はゆっくりと瞼を閉じる。するとふわり、と柔らかな感触が唇に触れた。
「ん……」
久しぶりのキスを笑子はとても自然に受け入れることができた。
橘は右手で笑子の後頭部を支え、左手を頬に添える。そうして触れるだけのキスを幾度となく繰り返した。ちゅっちゅっと啄むようなキスはとても優しくて、温かい。
(……不思議)
キスとは笑子にとって覚悟が必要な行為だった。
三木と別れて以降交際した二人の男性に対しても、恋人ならばするべき義務とさえ思いながら唇を重ねていた。
それなのに、橘とは違う。
(気持ちいい)
その思いに突き動かされるように、笑子はそっと両手の橘の背中に回した。すると橘は不意にキスを止める。不思議に思って瞼を開けるのと、わずかに開いた唇の隙間に舌が割って入ったのは同時だった。
口の中に舌を滑り込ませた橘は、反射的に奥へと逃げようとする笑子の舌をたやすく絡め取る。
「んっ……!」
驚いた笑子は目を見張る。
橘はその反応を楽しむように目を細めて、後頭部を支えていた手をグッと自らの方に引き寄せる。すると当然キスはいっそう深くなり、笑子はあまりの激しさにきゅっと瞼を閉じた。
「ん、んん」
笑子の舌裏をぺろりと舐めて、つうっと歯列をなぞる。
酸素を求めて口を開いても、すぐに熱い口付けが降り注ぐ。
そうするうちにも橘はソファに乗り上げ、笑子をそっと押し倒す。そして片手は依然笑子の後頭部を支えたまま、今度は正面からではなく覆い被さる形でキスをした。
「っは、くるし……んんっ!」
呼吸を求めて口を開いても、橘はそれを許してくれない。
彼はまるで言葉さえも飲み込む勢いでキスをした。
――こんなキス、知らない。
まるで口の中を犯されているようだ。
かと思えばやんわりと唇を喰み、ぺろりと舐める。
「んっ、はぁ……」
食べ尽くすほどの勢いでキスをしていた橘の唇がゆっくりと離れていく。瞼を開けると、橘と笑子の唇をつうっと透明な糸が繋いで、ぷつりと切れた。
はあはあと呼吸を乱す笑子を見下ろし、橘は笑う。
「――甘いな」
すっと目を細めた橘と視線が重なった瞬間、笑子は心臓を掴まれたような感覚に陥った。かあっと頬が赤くなるのがわかる。顔だけじゃない、体全体が熱くてたまらない。
「それに、すごくいやらしい顔をしてる」
橘はわかっているのだろうか。
笑子を「いやらしい」という自分が今、どんな顔をしているのか。
形のよい唇をしっとりと濡らして、一目でわかるほどの熱を瞳に宿した彼は今、凄まじいほどの男の色気を放っている。
抜群に整った顔立ちをしているとは思っていた。けれど普段の社内での朗らかな姿とは違う、漏れ出る色気を隠そうともしないその姿はあまりに衝撃的で――かっこよくて目が離せない。
「笑子」
「っ……!」
「これからはそう呼んでもいい?」
「……プライベートの時だけなら」
会社ではこれまで通りでお願いします、とか細い声で続けると、橘は「了解」と小さく笑う。
(どうかしてる)
名前を呼ばれただけで、こんなにも胸がドキドキするなんて。
「笑子」
「はい」
「君に触れたい」
はっきり、彼は言った。
「もちろん嫌ならそう言ってくれていい。今日もこの先も、俺から無理強いをすることは絶対にしないと約束する。――正直、今ここでやめるのはすごく辛いけど」
「あ……」
太ももに押し当てられた感触に視線を下げて、はっとする。そこは布越しでもはっきりとわかるほどに盛り上がっている。その生々しさにさっと頬に朱が走る。
「どうする?」
笑子に気を遣ってか、橘は瞳をぎらつかせながらもわざと明るい調子で問う。
恋人だから、キスをしたからといって強引に進もうとはしない。あくまで笑子の意思を尊重してくれる。その姿に笑子は改めて思った。
橘と三木は別人だ。
今となっては重なる部分が一つも見つからないほどに、何もかもが違う。
「……ごめんなさい」
だからこそ謝罪の言葉は口をついて出た。それに橘はほんの一瞬残念そうな顔をするが、すかさず笑子は「違うんです」と続ける。
「昔、橘さんとあの人が似てると言ったことを謝りたくて……似ているところなんて一つもないのに」
声が震える。それでも言わなければいけないと思った。
「私は、嫌じゃありません」
橘の首の後ろにそっと手を回して上半身を起こした笑子は、彼の唇にちゅっと甘えるようにキスをした。
「触れてください」
目を見張る彼をじっと見つめて願う。
「……忘れさせてくれるんでしょう?」
橘は息を呑む。
「怖い女だな、君は」
さすがは女王様、と橘は苦笑する。だがその直後、彼の纏う雰囲気は一変した。
「忘れさせるよ。俺を煽ったのを後悔させるくらいにね」
「あっ!」
橘は笑子を抱き上げると迷いのない足取りで歩き出す。
向かった先はもちろん寝室で、彼は笑子をベッドに下ろすなり着ていたシャツを脱ぎ去った。そうして露わになった上半身は「綺麗」の一言に尽きた。
逞しい両腕や胸板、割れた腹筋。彫像のような姿は悩ましいほどに色っぽい。
抱きしめられた時、引き締まった体をしているなとは思った。でもまさか、スーツの下にこんなにも鍛えられた体が隠れているなんて――。
笑子の視線は自然と釘付けになる。橘はそれを見下ろしてふっと唇の端を上げた。
「そんなに熱心に見られると照れるな」
「ごめんな――ひゃっ!」
最後まで言うより早く、橘は笑子の耳にふっと息を吹きかける。くすぐったさで身を捩ると、彼はくすりと小さく笑った。
「それに……物欲しそうな顔をされると、止まらなくなりそうだ」
「っ――!」
そんな顔はしていない、なんてとても言えなかった。
なぜなら今の自分は彼の言葉通り欲しがっている。
これから先橘に与えられるであろう熱を心の底から渇望している。
触れたい。触れてほしい。
浅ましいほどに、自分の心も体もそれを望んでいるのだから。
「優しくするよ」
「んっ……」
聞くだけで腰が砕けるような艶のある声が耳朶を震わせる。
橘は笑子の耳にちゅっとキスをすると、次いで唇を重ねた。
笑子に覆い被さった彼は、やんわりと食むようなキスを角度を変えて繰り返す。
ぬるりと生温かなそれに笑子も自らの舌を絡めた。
しんと静かな室内に聞こえるのは、くちゅくちゅと唾液の混じり合う音と互いの吐息、そしてシーツが乱れる音。聞こえてくるそれらは情事特有の音で、笑子は夢中でキスをしながら視覚でも攻められているような気分になってしまう。
そうする間にも、笑子のスウェットの裾から侵入した橘の手は焦らすように腹部を撫で、何も身につけていない胸に触れた。
ふに、と乳房を揉まれた笑子は声を上げる。
「あっ、ん……」
その反応に気をよくしたのだろうか。橘は「可愛い」と小さく囁くと、力の抜けた笑子の体からスウェットを引き抜いた。
「んっ……!」
素肌が一気に外気に触れたくすぐったさと、何より裸を見られているという事実に咄嗟に両手で胸を隠そうとしてしまう。だが橘はそれをたやすく阻んで笑子の両手をベッドに縫い付けた。
「隠すな」
「っ……!」
初めての命令にずぐん、と腹の底が疼く。
「俺に見られるのは、嫌?」
「嫌じゃない、けど……恥ずかしくて」
まっすぐ注がれる視線に耐えられなくて横を向く。だが橘はそれを許さないとばかりに笑子の首筋にきつく吸い付いた。
「あっ!」
不意の甘い痛みに声を上げる。一方の橘は、首筋に刻まれた痕をペロリと舐めた。
「恥ずかしいなんて言ってられるのは今だけだ。それにこんなに綺麗な体をしてるのに隠すなんてもったいない。――もっと、見せて」
「まっ……んっ、あっ……!」
橘の手にも収まらないほど豊な乳房を、彼は感触を楽しむようにやんわりと揉みしだく。
拘束していた手はいつの間にか自由になっていたけれど、胸への刺激に喘ぐ笑子はもはやもう一度隠そうとすることもできない。
親指と人差し指で乳首をやんわりと摘まれて、親指のヘリでコリコリと揺さぶられる。かと思えばツンと屹立する桃色の乳首の乳輪を焦らすように手を這わせる。
くすぐったくて、でもそれ以上に気持ちよくて。
絶えず続く甘やかな攻めに、笑子は瞼を閉じて唇をぎゅっと引き結ぶ。
「あん、っ……」
それでも声は漏れてしまう。熱くて、もどかしくてたまらない。
「はっ、やらしー顔。――たまらないな」
「ああっ!」
乳首をぱくんと口に含まれた瞬間、笑子の腰が大きく跳ねた。
手の感触とは違う。生温かな舌が乳首をペロリと舐めて、やんわりと食む。そのたびに笑子の体は小刻みに震えた。気持ちよさの波に飲まれるように体から力が抜けていく。
「脱がすよ」
橘は笑子が着ていたズボンに手をかけた。
その瞬間、快楽に身を委ねていた笑子ははっと我に返る。
今の自分が下着を履いていないことを思い出したのだ。
「待っ――」
急いで止めるが、遅かった。ズボンは既に橘の手の中にある。そしてそんな彼は、笑子の下半身を見て目を丸くしている。
「は……?」
「〜〜〜っ!」
がばっと慌てて太ももを閉じるがもちろん遅い。
唖然とした様子の橘を見て、笑子は今すぐ消えてしまいたい衝動に駆られた。
同僚のズボンを下着もつけずに履くなんて、引かれても仕方ない。
でも、借りた時はこうなるとは想像もしてなかったのだ。
最悪だ。こんなことなら事前に言っておけばよかった。でも「実はノーパンです」なんて申告するのは今と同じくらい恥ずかしい。
「その……借りた時は後で新品を返すつもりで、こんなことになるとは思ってなくて……待ってって言ったのに……そんな、引かなくても――」
羞恥心といたたまれなさで頭の中がぐちゃぐちゃだ。すると、謝罪と八つ当たりをする笑子に、橘は「ごめん」と優しくキスをした。
「驚いただけで引いてないよ。むしろ、嬉しい」
「嬉しい……?」
笑みを瞬かせる笑子に橘は「ああ」と柔らかく笑む。そして右手でそっと笑子の太ももに触れると、つうっと上へと這わせた。笑子は反射的に足を閉じようとするが、彼の体が割って入って叶わない。
「橘さ――あんっ!」
名前を呼ぶより早く、橘の指先は太ももの付け根へと到達する。そして彼は淡い茂みの中でしっとりと濡れる秘部に指先を滑らせた。くちゅっといやらしい音が二人の耳に届く。
「こんなに濡れてるのは感じてる証拠だろ? 嬉しくないわけがない」
「あっ、んっ……」
形のよい指先が割れ目を上下する。そのたびに体の奥がじんじんと疼いて、いっそう蜜が溢れ出るのがわかった。
「ふっぁ……」
口から漏れ出る声は自分でも恥ずかしくなるくらいいやらしくて、笑子は口元を隠そうとする。だが橘はそれを阻むように、隠れていた陰核を親指で軽く押した。
その刺激にびくんと腰を揺らす笑子を彼は「だめだよ」と甘やかに嗜める。
「可愛い声、聞かせて」
「っ……!」
命じられて感じるなんて、本当に自分はいやらしいのだとつくづく思いしる。
「すごいな。次から次へと溢れ出てくる」
その声が喜んでいるように聞こえたのは多分、気のせいではないだろう。その証拠に橘は今、恍惚とした表情で笑子を見下ろしている。その眼差しはギラギラと欲を宿していて、これ以上なく男を感じさせた。
「ほんと、エロくて可愛いよ」
言わないで、と言いたくても断続的に続く快楽に声が出ない。そうする間にも割れ目をなぞっていた指先はゆっくりと中へと入り込んでいく。
「ん……」
「痛い?」
「大丈夫、です」
「よかった。ゆっくりするから」
「……はい」
最後にセックスをしたのは十年前。
それなのに自分でも驚くくらい、笑子の体は橘の指を受け入れた。違和感を覚えたのは初めだけで、橘の指は固く閉ざした膣内をゆっくりと入ってくる。
無理やりではない。笑子が痛がらないよう、怖がらないようなその手つきはもどかしいほどに優しくて、温かい。
「んっ、あ……」
彼の指を咥え込んだ場所がじんじんと熱い。無意識に腰が揺れて、指を離したくないと締め付ける。
「きついな……それにすごく熱い」
笑子の反応を確認しながら、膣内の指がゆっくりと動き始める。
「あっ、あんっ……」
喘ぐ声を抑えることはもうできなかった。
緩やかに上下していた指先は、やがて少しずつ激しさを増していく。
止めどなく溢れる愛液を纏ったそれはぐちゅぐちゅと淫靡な音を奏で始め、それと呼応するように笑子の呼吸も乱れていく。
辛い。気持ちよすぎて、辛い。
(こんなの、知らないっ……!)
押し寄せる波のような快楽に飲まれそうになりながら、笑子はぎゅっと瞼を閉じる。
笑子にとってのセックスは、痛くて辛いだけのものだった。
あの男は自分が気持ちよくなることだけを考えていた。こんな風に丁寧な愛撫をされたことは一度もなかった。最低限の前戯をして、たいして濡れてもいない場所に無理やり突っ込んで、出したら終わり。
でも橘は違う。それは指だけでも十分すぎるくらいに伝わってきた。
彼はただひたすら笑子に心を配ってくれている。笑子が痛くないように、気持ちいいように、もどかしいほど優しく愛撫してくれている。
その優しさが嬉しい。同じくらい、彼に感じていることが嬉しくてたまらない。
過去のトラウマに縛られてセックスができない自分は、女性としてだめな存在なのだと心のどこかで思っていた。けれどそうではないのだとわかった瞬間嬉しくて、安心して、涙がつうっと笑子の頬を伝う。するとぴたりと膣内を行き来する手が止まった。
瞼を開けると、橘が驚いたように自分を見下ろしている。
「痛かった?」
違う、と笑子は首を横に振る。
「気持ちよくて……私は、女として欠陥品だと思ってたから、そうじゃないと思って、安心して……」
橘はひゅっと息を呑む。そして真剣な眼差しで笑子を見下ろした。そうして目尻に浮かぶ涙をそっと舐めて、唇にキスをした。
「欠陥品なんてありえない。少なくとも俺は、君ほど綺麗で素敵な女性を知らないよ」
橘は言った。
「今は――今だけは、俺を見ていればいい」
「あなただけを?」
「そうだ。ここにいるのは、君に惹かれてやまない男だ。今の俺は君が欲しくてたまらない。笑子は誰よりも魅力的な女性だよ」
どうしてこの人はこんなにも優しいのだろう。
笑子が欲しい言葉をくれるのだろう。
「言っただろ? 『忘れさせる』って」
見惚れるくらい綺麗な笑みと共に彼は言った。