乙女ゲーム世界に転生したら、最推しヤンデレ王子の執着愛から逃げられません!? ~無彩色の花嫁は、黒の王子を溶かしたい~
著者:日辻鳴子
イラスト:フミマロ
発売日:2023年 9月15日
定価:620円+税
『無彩色の花嫁』、通称『アンカラ』は色をテーマにした乙女ゲームで、攻略キャラはイケメン揃い、ストーリーも高評価という神ゲーだった。
そんなゲームの世界になぜか転生したシルヴィアは自身の【白】の魔力を活かして最推しキャラ、もとい最高難易度キャラである【黒】の魔力の持ち主である第一王子のノアールの攻略を目指す。
前世の記憶を駆使して好感度を上げようとするシルヴィアだったが、ノアールにはどれも通じず冷たく突き放されてしまって……!?
ゲームのシナリオ通りのはずなのに、脳内の攻略本が役に立たない!と焦るシルヴィア。
だが一緒に過ごしていくなかで、彼の冷たい行動の裏に隠れた優しさへ触れたシルヴィアは、一人の男性としてのノアールに惹かれていった。
シルヴィアは少しでも苦しみを和らげたいと、彼女自身の言葉でノアールの凍った心を優しく包む。
そんな彼女のひたむきさにノアールの心は少しずつ溶かされていくが――!?
【人物紹介】
シルヴィア・ノグレー
前世でハマっていた乙女ゲームの世界になぜか転生してしまった、現公爵令嬢。
大切な人には一生懸命尽くす健気な性格。
積極的で前向きだが、臆病になってしまうところも。
折角転生したのだから、前世からの推しであるノアールルートを攻略しようと意気込むが――!?
ノアール・フォン・シュバルツ
この乙女ゲーム世界の隠しキャラかつ、最高攻略難易度の第一王子。
自己犠牲精神が強く、自身の魔力で人を傷つけないよう雪山の奥深くにある館で一人過ごしている。
最初はシルヴィアのことも突き放すような態度を取るが、心を開いたあとは彼女に異常な執愛を見せるようになって……⁉
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【試し読み】
元々ノアールは他人との触れ合いに慣れていなかったのだ。
だから共に暮らし、魔力の受け渡しとはいえ何度もスキンシップを取っていれば必然的にその相手に好意を抱き、依存してしまう。
この世界が乙女ゲームだとはいえ、きっとヒロインじゃなくても誰とでも距離は縮まった筈だ。
そう思いながらも、ノアールが私をシルヴィアと呼ぶたびに、自ら魔力を受け渡す練習をしようと言い出すたびに、彼が私に向ける熱の篭った眼差しに嬉しくなる。
好かれているのではないかと勘違いしてしまう。
ゲーム画面でなら視認できた彼の好感度は今じゃ半分は越しているだろう。
それほどまでに私とノアールの距離は風邪のイベントを終えて縮まっていた。
この雪山の館に来て半年近く。ここまで長かったものだと感動を噛み締める私に、ノアールは心配そうに首を傾げる。
「シルヴィア、大丈夫か? 気分はどうだ?」
「大丈夫ですよ、ノアール様」
「様と、敬語」
「うっ……大丈夫だよ、ノアール」
「よし」
言い直せば満足そうに頬を緩めるノアールに近さも相まって目がチカチカする。
風邪のイベントが功を成したのか、その後様付けと敬語を取るように言ってきたノアールは一週間も経てばハグは余裕でできるようになった。
それどころか、魔力の受け渡しの練習で具合が悪くなってもすぐにもたれかかれるように、ソファに座るノアールの膝の上で後ろから抱き締められるようになったのだから成長が早い。
やはり攻略対象キャラとしてヒロインを可愛がる素質があるのか、私だけがまるで恋人のような距離感に慣れないでいる。
あれほどハグでカチコチに固まっていたノアールもすっかり慣れた様子で寛いでいるのがまた複雑だ。
画面越しだとこっちが掌の上で転がしていたのに、現実だとこうも翻弄されるなんて。
恋愛初心者なんて嘘だと思いたくもなるが、ノアールはそもそもが対人初心者なので距離感がバグっていても仕方ない。
意識するだけ無駄だとわかっていても緊張してしまうのは惚れた弱みだろう。
少しでも彼から意識を逸らしたくてテーブルに置かれたティーカップに手を伸ばせば、ぐらりと一瞬バランスが崩れた。
「ひゃっ」
「おっと、危ないだろ。俺が取るから、ちゃんと掴まってろ」
「あ、ありがとう……」
スパダリだ。スパダリがここにいる。
ひょいと私を抱え直し、しっかりと胸に抱き寄せてからティーカップを手渡してくれるノアールに見惚れてしまう。
様も敬語もいらないと言われたことからして、友人以上にはなれたとは思うが、好きだの付き合いたいだのハッキリとした恋愛を持ち出されたわけじゃない。
懐かれた、と言っても過言ではない状況に私の心は無駄にドキドキしっぱなしである。
もはやこの動悸が彼の魔力によるものなのかも定かではない。
「こっ、この紅茶の茶葉は今朝王城から送られてきたのよ。今年の厳選茶葉らしくて、両陛下がノアールに飲んでほしいって」
「ああ、美味しい。両陛下にはお礼の手紙を送らなければな」
近くにこそいれないが、両陛下とノアールの間に親子の絆は確かにある。
未練を残したくないからと封が閉じたままだった手紙の束をノアールが開けて読むようになったのは最近のことだ。
白の器として私が来たことで彼の精神状況はとても安定したように思う。それが誇らしくもあり、複雑でもある。
だって彼が王城に戻れる日も近いということだから。
紅茶を飲むノアールはマナー教育を受けていないのに気品に溢れている。
こくりと上下に動いた彼の喉仏と濡れた唇からやけに目が離せなかった。
「昔は何を飲んでも味なんてどれも同じにしか思えなかったが、最近わかるようになってきた。料理も同じだ。死なない程度に口に入れていればいいと思っていたが、作る者が代わるとこんなにも美味しく思えるのかと感動した。俺は今まで、無理をして生きてきたんだな」
「ノアール……」
こうして、素直に気持ちを吐き出してくれるようになったノアールに胸がじんとする。
悲しければ悲しいと、苦しければ苦しいと言っていいのだと、少しずつノアールは自らの痛みに目を向けてくれている。
そしてそれを受け止め、支えるのが私の役目だ。
不安に揺れる彼の瞳をじっと覗き込んだ。
「シルヴィア、こんな俺でも城に戻れるだろうか。何も知らず、何もわからずに生きてきた俺が、この国のために何ができる? まともに教育も受けずに十何年間も生きてきた俺が、今更何の役に立つというんだ。俺は両陛下の顔すら覚えていないというのに……」
「……だったら、城に戻らなくてもいいんじゃないかしら」
「え……?」
「城に戻らなくても、私がいるわ。私とこの国の何処かで暮らしてもいいし、他の国に旅をするのもいいわね。あなたは自由になるの。賑やかで、鮮やかで、華やかな世界へと羽ばたくの。どう? 私と一緒に逃げましょうよ」
貴族のしがらみを捨てて、身分なんて気にせず、静かで穏やかな日々を二人きりで過ごせるならどんなに幸せだろうか。
ノアールを誰も知らない土地まで逃げられたなら、彼は私だけのものになる。
そんな私の思惑なんてきっとノアールは気付かない。
だってほら、彼は嬉しそうに笑っている。この言葉が私の優しさだと信じている。
「ああ……そうだな。そういう選択だって、俺はもうできるのか。そうか……」
結局は王太子として王族の務めを果たすのだろう。
彼は私のものと一緒にティーカップをテーブルに置く。
その一連の動作をぼんやり見守っていた私の顎を引いて、彼の紅い瞳と視線が重なる。
不思議に思うより彼の唇が乾いているのに意識を向けていた私は、一瞬反応が遅れた。
チュ、と。可愛らしい音が鳴る。
どこから? 重なった二人の唇の間から。
「……え、」
「好きだ、シルヴィア」
「え……っ、ん」
「どうしようもなく、君が愛しい」
穏やかな彼の瞳が、柔らかな彼の声が、まるで雪を溶かすように私の心に染み渡る。
なんだ、何が、起きている?
ちゅ、ちゅ、と絶え間なくリップ音が耳に届く。
それと同時に柔らかなものが唇に触れて、それは吐息で濡れる彼のもので。
私たちは今、キスをしている?
「っま、待って、ノアール、んっ、ふ、なんで……っ」
「君を好きになったからキスをしている。好きな者同士はそうしていいと本で読んだ」
「だって、まだ、私は……!」
「君は俺が好きだろう? 違うのか?」
まるでそれが当たり前とでもいうようにそう告げられて顔に熱が集まる。
確かにそうだけど、それを口に出してはいなかったはずだ。
むしろ気付かれないようにと振舞っていたのに、どうして。
「いつだって俺を見るシルヴィアの眼差しは心地よかったし、こうして触れていれば君の心臓の音の騒がしさも感じていた。いくら俺が経験不足でも気付かれないとでも思っていたのか?」
「なっ……、ん……っ」
ちゅう、と今度は吸い付くようにキスをされて言葉が出ない。
何も知らない無邪気な子供のようにも思えていたノアールが経験豊富な男性にしか見えずに狼狽える。
本だけの知識にしては巧みすぎる。
はぁっ、と呼吸のために開いた口すら塞がれて舌が触れ合う。
咄嗟に噛まなかった自分を褒めてやりたい。
「んっ、ぅーっ、ん、ぁ……っ」
「シルヴィア、こういう時は鼻で息をするんだそうだ。できるか?」
「はぁ、そんな、できっ、んんぅ……!」
だからなんでそんなにノアールは余裕なのか。
触れ合う舌の感覚にゾワゾワして自分の口に縮こまって逃げても何度も追いかけて絡め取られる。
くちゅくちゅといやらしい音にまで追い詰められて、唾液はもうとっくにさっきまで飲んでいた紅茶の味はしない。
首が痛くなるほどに深く口付けられて、ようやく解放された時にはぐったりと彼の肩にもたれかかっていた。
荒い呼吸を整えている私と違って、余韻に浸っている様子のノアールが私の髪色を見てハッと息を呑む。
それからすぐに私の状態を慌てて確認した。
「っすまない、やりすぎた……! 具合は!? どこか苦しい所はないか!?」
「まぁ……酸欠で、死ぬかとは、思ったけど……」
「それは君が鼻での呼吸が下手なだけで……他にはないのか? 熱も吐き気もないな?」
「一体なんでそんなに……わぁ」
視界に入った真っ黒な長い髪。それは紛れもなく私の髪で、ノアールが言うには髪の根本まで黒く染まっているらしい。
手を繋いだりハグ以上の粘膜での触れ合いなのだから魔力の受け取りが多く行われたのは間違いない。
けれど具合が悪くなっていないのは、快感に昇華されたからだろうか。
乙女ゲームとしてはぴったりな設定だが、口で説明するのは少し憚られる。
目を逸らす私をまだノアールは心配そうに様子を窺っている。
「えっと……これなら、大丈夫みたい……?」
「だが綺麗な君の髪が……」
「……なんだかしょっちゅう私の髪のことを心配してくれるけど、ノアールが好きなのは私の髪だけなの? 黒髪になった私は嫌?」
「そんなわけない! 君が俺の色に染まっていると……その、ただ心配してるだけで、別に……」
「興奮する?」
「君なぁ……」
潔癖に見えてちゃんと性欲はあるらしい。
くすぐったいような気持ちになってクスクスと笑みを溢す。
けれどすぐに笑っていられなくなったのはノアールによってソファに優しく押し倒されたからだ。
私を見下ろす彼の眼差しはまるで熱が燻るようで、閉ざされた雪山の館に私たちを止める者は誰もいない。
息を呑んだ私の頬に手を滑らせてから、ノアールは黒く染まった私の髪を掬い上げて口付ける。
慈しむように、愛しむように、紅い瞳がとろりと蕩けた。
***
「あまり、煽らないでくれ。ただでさえめちゃくちゃにしてしまいそうなのに、歯止めが利かなくなったらどうする」
「そうしてほしいから、言ってるのに」
「シルヴィアは俺がどんなに君を好きかわかってない。生存本能がどれほど君を孕ませてやりたいか、わかってないだけだ」
「ノアールだってわかってないわ」
どれほど私がノアールを愛しているかわかっているなら躊躇なんてしていられないはずだ。
壊れるほど、私を愛してくれたって構わないのに。こんな時に理性も我慢も必要ない。
「何もかも忘れて、私だけを愛して、ノアール」
「っ、シルヴィア……」
「もう、寂しいのは嫌なの」
彼の体を引き寄せて、私の一番柔い所を擦り寄せる。
喉を鳴らし、熱い吐息を溢したノアールの眼差しに燃えるような火がついた。
「っくそ……! 優しくしたかったのに、もう止められないぞ……っ」
「止めなくていいっ、だから、お願い、ノアール……私をあなたのものにして……?」
「ああっ、シルヴィア……っ!」
まるで飢えた獣が餌にかぶりつくように彼の手が服を脱がし、無防備な胸へと舌を這わせる。
冷たいのに痺れるように熱くて腰が震える。お腹の奥がじくじくと疼いて仕方ない。
舐めてもいない股の間からとめどなく蜜が溢れているのを、足を擦り合わせた音で悟られる。
誘われるように彼の頭が下へと下りていくのを、期待に満ちた視線で眺めることしかできない。
「どこもかしこも、甘くて綺麗だ……ここも、すっかり熟れてるな」
「ん、あぁ……っ、触って、ぁっ、ふぅ……っ」
「俺の指に、吸い付いてくる……きゅうきゅうして、健気に魔力を貰ってくれているのか?」
「ああっ、ん、息が、かかって、くすぐったぁ……っひ、ぅ」
ノアールが話すたびに吐息が蜜壺に降り注いでゾクゾクする。
濡れそぼった膣に彼の指が触れて、中を覗くように開かれるとあまりの恥ずかしさにかぶりを振った。
それに合わせてはらはらと零れ落ちる涙は彼の興奮を煽るようだ。
私の反応を見ながら突き入れられた指が中を擦る。
ぷくりと突起した場所も一緒に彼の長くて骨張った指の腹で押し潰されて、か細い悲鳴のような喘ぎ声が溢れた。
「可愛い……もっとぐちゃぐちゃにしたい……俺の跡を刻んで、俺だけしか受け入れられないように、誰の色にも染まらないようにしたい……っ!」
「ぁ、ノ、ア……っん、ああっ、は、ぁ……ッ」
バラバラに中で指を動かされ、滴り落ちる愛液は彼の舌で受け止められる。
まるで甘美な果実でも食べているように堪能し、味わい尽くす舌の動きにビクビクと腰が跳ねて絶頂が止まない。
こんなの、気持ちよすぎる。気が遠くなるほどの快感に責め立てられる。
まるで骨の髄まで食べられそうな気がして、彼の腹が膨れるならそれでもいいと思ってしまった。
気を抜けばすぐにでも飛んでいきそうな感覚に必死で彼の肩や頭に縋り付く。
どこにも行きたくない。死ぬまでずっと一緒がいい。
それだけしかもうろくに考えられない。
いつの間にか雪が降る外の景色も曇って見えないほどに熱が籠った部屋で、二人きりの快楽に溺れる。
彼の体が冷たいのか、それとも私の体が熱すぎるのか、もうどちらかもわからない。
「シルヴィア」
「ぁ……っ」
ようやく私の恥部から顔を上げたノアールが愛液で濡れた口元を指で拭う。
気持ちいいのと恥ずかしいのが混ざり合った心地でそれを見上げながら、指よりも太く、舌よりも硬いものがそこに押し当てられた感覚に心臓が大きく跳ねた。
「挿れる、からな」
いいんだな、と彼の目が物語る。
それにこくりと頷けば、ぐうっと腰が引き寄せられ、強く掴まれた肌に彼の指が沈む。
その痛さよりも強く、引き裂かれるほどの痛みが脳天へと走り抜けた。
「っ、っ……ぁ、あ…… 」
「シルヴィア……っ、逃げるな、ぁ、ぐ……っ」
「ひ、ぅ、あーーっ……!」
あまりの刺激にシーツを蹴ってよがる私をベッドに強く押し付けるようにノアールは逃さない。
ゆっくりと、けれど杭を打つほど深く突き刺して私の自由を奪う彼の呼吸は獰猛な獣のように荒い。
このままぺろりと食べられてしまいそうだ。
「ぐ、ぅ……っ狭くて、熱い……っ、すま、ない……俺だけが、こんなにも、気持ちいいなんて……っ」
「っ、ぁ、きも、ちい……?」
彼の下にいる私を気遣うようにベッドに腕をついて押し潰さないでくれているノアールを薄く目を開けて見上げる。
額に滲んだ汗が雫となって彼の顎へと伝っていく。
ぽたりと私の頬に落ちて、それがまるで涙のように見えた。
「ああ、もう、果ててしまいそうだ……」
感極まったようなノアールの甘く艶のある声にじわりと嬉しさが込み上げる。
彼が私のナカにいる。気持ちよくなってくれている。
その事実が脳を痺れさせ、痛みが快感へと書き換わる。
愛おしいと、胎の中にいる彼を抱き締めるように、きゅうと締め付けた。
「っん……はぁ、シルヴィア……っ?」
「可愛い、ノアール」
「ぅ……っ、ぁ」
「もっと、気持ちよくなって」
「〜〜っ、はぁ……っ」
ぶるっと彼の腰が震える。ナカで太く猛っている。
その度にバチバチと思考は快感の波に攫われて戻らない。
どちゅっ、と。押し潰されるように奥を抉る律動が始まった。