俺を好きだと言ってくれるならキスさせて ~偽装夫婦から始める本気の求愛~

書籍情報

俺を好きだと言ってくれるならキスさせて ~偽装夫婦から始める本気の求愛~

著者:皆原彼方
イラスト:千影透子
発売日:9月25日
定価:620円+税

病気の母の治療費を稼ぐため、高校を中退し仕事一筋で生きてきた奏絵は、上司の不祥事を押し付けられ、会社をクビにされてしまった。
やけくそになった奏絵は、『一案件で報酬は五百万円』という怪しすぎる求人を受けてしまう。
後日、採用担当者に呼び出された奏絵を待っていたのは、高校時代、傷つけたまま会えなくなってしまった後輩の巽だった!?
さらに、そこで告げられた業務内容は「巽の偽装婚約者になること」で……。
「……今だけは、お前が俺の『妻』だ」
周囲を騙すためと、夫婦の営みすることを求められた奏絵は――……。

【人物紹介】

牧田奏絵(まきたかなえ)
病気を患う母の治療費を稼ぐために、高校を中退してから十年間、仕事一筋で働いてきた。
喧嘩別れしたまま会えなくなった後輩の巽のことをずっと忘れられないでいる。
読書が趣味で、叶わなかったが将来は司書になりたかった。


京極巽(きょうごくたつみ)
奏絵の高校時代の後輩。同じ図書委員だった。
寡黙でクールだが、礼儀正しく優しい性格。
元は陣内という名字だったが、母の死をきっかけに京極家に引き取られた。

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*取り扱いサイトは、各書店に掲載され次第、更新されます。

【試し読み】

指先に探し当てられた蜜口は、ぐしゃぐしゃに濡れてこそいるものの、まだふやけきってはいなかった。火照って充血した花唇や会陰まで垂れた蜜には、媚肉をほぐす効果はない。男の人の指で丁寧に拓かれ、快楽でぐずぐずになるまで掻き回されないと、大きなものは呑み込めないだろう。巽君もそれを見て取ったのか、溢れた蜜を掬い取ると、それを蜜口のすぐ上で震える、小さな芽に擦り付けた。

「ひ、ぁあ……っ!」

 自分でも何度か触ったことのある花芽は、私にとっては敏感すぎる神経の塊だ。少し何かが掠めただけで腰が引け、爪先がきつく丸まってしまうほどの劇薬。自分では、ふっくらとした恥丘越しにぐりぐりと潰すのが精一杯だった。それを、温かな粘液でぬるついた硬い指で撫で上げられてしまえば、ひとたまりもない。
 今までの控えめな喘ぎ声から、一つ音階を上げた甘ったるい嬌声が迸り、ぴゅく、と新しい蜜が溢れて内腿を汚した。それをゆるく眇められた目で見届けた巽君は、「なるほど」とざらついた声で言う。

「ここは敏感すぎるのか……難儀で、厭らしい身体だな」

 微かな揶揄が混じっているのは台詞ばかりで、視線はどろりと甘さを孕んでいた。は、と零れた彼の吐息は熱く、鳩尾や膨らみの下に浮かぶ玉のような汗を蒸発させてしまう。
 巽君はもう一度指先を下へと向けると、今度は泥濘の中まで潜り込んで、指全体にたっぷりと蜜を纏わせる。人差し指を抜いて、続いて中指も。にゅる、と分け入ってくる硬く節ばった指の輪郭に、襞が柔らかく削られた。狭い隘路が引き攣れる感覚に、侵入者を追い出そうと秘所全体が、きゅ、うう……っと収縮する。

「っあ、ん……中、」
「まだしない。こっちで一度イッて……身体を慣らしてから、な」
「えっ、ぁ……ッは、ああっ……!」

 彼の言う『こっち』という言葉に嫌な予感を覚えるよりも早く、余すところなく愛液に塗れた二本の指が、淫芯を優しく包み込んだ。
 軽く指圧しているだけの、おままごとのような愛撫なのに、膨れ始めていた芯は咽び泣くように震える。ぐっと押して、離す。ぐりぐりと捏ねて、また離す。徐々に強くなっていく刺激に、ぞくぞくとした悦楽が背骨を這い上がり、顎が上がった。性急に高めるのではなく、じっくり、じっくりと追い立てる手つきは、きっと私への配慮なのに、いっそ一息にとどめを刺してほしいと思ってしまう。

「はぁ、やっ、あ……んんっ!」
「耐えるな……そのまま、集中して」

 私を優しく絶頂へ導く、声音と愛撫。言われた通りに目を瞑って感覚に集中すれば、ぞく、ぞくっと断続的な震えが全身を波打たせた。自由なほうの手が、こちらを労わるように頭を撫でてくれるのが、余計に快楽を私に浸透させていく。鼻にかかったような吐息だけを漏らしながら、彼に与えられる快楽を甘受する私は、さぞはしたない女に見えるだろうと思った。
 蜜をまぶされてどろどろの芽は、既にほとんど輪郭を蕩けさせていた。それを二本の指で挟まれて摘まみ上げられると、それに追従するように、くん、と腰が浮く。そのままゆるゆると扱かれ、露わになった裏筋や根本にまで蜜が滴り落ちると、掻きむしりたいほどに疼いて。

「ふっ、あ、ぁん……や、巽く、そこ……」
「どうした……?」

 私が呼べば、彼は鼻先にキスを落としながらこちらを覗き込む。軽く食むようにされると、かわいがられているような気がしてしまって、心の間にある壁がまた一枚取り払われた。

 だから、――――こんなことが言えたのだろう。

「っ、かゆ、い……」

 じん、じん、と熱を放つ小さな突起を、彼に優しく引っ掻いてほしい。
 そんな浅ましい台詞と共に、欲望に支配された身体が仰け反り、自然と秘所を彼に捧げるような格好になる。頑是ない子供のようにシーツへ後頭部を擦り付けて、逃げられもしないのに爪先でマットレスを蹴る。溜め込まれた疼きは、既に私の許容量を超えていた。だっていつもは、軽く捏ねるだけで甘くイッてしまうのだ。こんな甘やかすように弄ばれてしまえば、気持ちよくなりすぎておかしくなる。煮崩れてふやけた脳味噌が、もったりと重い蜜を垂れ流し続ける子宮が、――――私の理性を塗りつぶしてしまう。

「は……ッ、じゃあ、どうしてほしい?」

 雄くさく笑んだ巽君が、一度手を止めて私の顔を覗き込む。私は彼に言われた言葉を何とか反芻して、その意味をぼんやりと理解した。彼は素知らぬ顔で、私にひどく浅ましい姿を晒させようとしている。ただ、私の身体には、もうそれを押し留められる器官が残っていなかった。
 ぱつりと充溢した艶やかな真珠は、既に包皮から飛び出している。その頂点と巽君の中指が軽く擦れ合って、私を唆すように、くちくちと淫猥な音を立てた。

「……っ、ぁ」

 一瞬、理性の残滓のようなものが私の舌を縺れさせる。溢れた唾液を一度飲み込んで、私は熱っぽく巽君を見つめた。獲物を見る目をした巽君が、昔の巽君と重なって見えてしまえば、もう駄目だった。一つ年下の、初恋の後輩。そんな人に、こんな卑猥なことをおねだりするなんて、――――だめ、なのに。

「いっぱい、掻いて……っ」
「ッ、……!」

 ぐう、と獣のように唸った巽君が、勢いよく私の淫芯を掻きむしった。

「あ、ぅんんッ……~~~!」

 突然の暴虐に身体が跳ね上がり、ぎりぎりのところまで溜め込まれていた最奥の熱が一気に弾ける。呼吸が詰まるほどの衝撃。稲妻にも似たそれが意識を灼いて、記憶や思考が一瞬白く飛んだのが分かった。熱は甘い蜜となって発露し、ぼたぼたと垂れ落ちる。自分一人では味わったことのない、強烈な絶頂。その間も、巽君は私を果てへと至らせた粒を、ぐーっと何度も押し潰していた。
 法悦を長引かせ、果てからゆっくり下りてこれるように。

「は、っ、は……ぁ、んんっ……」

 頭は重苦しく、ひどい倦怠感が身体を揺蕩わせる。太腿の裏や背中にじっとりと汗をかいているのが不快なのに、後戯めいた手つきで芽の裏側を爪でくすぐられると、そんなことすぐにどうでもよくなってしまう。
 私の絶頂をじっくりと眺めていた巽君は、やがて深く息を吐くと、秘芯に添えていた指をそっと離した。そしてその指を、先ほどよりずっと柔くなった蜜口へと沈めていく。

「やっ、ぅ、なに……」
「ッ、……気にするな。もう少し浸っていていい」
「ぁ、あ……ったつみ、く……」
「ここにいる。不安なら、こっちを見ろ」

 台詞だけ抽出すればひどく淡々としているのに、声音が微かに甘いから、私は従順に彼の言葉を受け入れてしまうのだ。
 どこか遠くを見ていた目を、巽君へと向ける。ピントを合わせていけば、彼はいつの間にか上のシャツを脱ぎ捨てていた。濃い色合いの肌。きれいに割れた腹筋と、厚みのある胸板。『男の人』に成長した巽君の身体に、じく、と心臓が浅ましく疼く。先ほどまで貞淑ぶっていた私の身体は、どうやら心臓まで淫らになってしまったようだった。
 惚けたように自分を見つめる私に気付いたのだろう。巽君がふっとこちらを見て、微かに目元を緩めてくれる。

「……素直すぎて、こっちが不安になるな」
「え、っんん、ぁ、あっ……」

 ずりずりと、私のものよりもずっと太い指が蜜路をこじ開ける。硬かった襞は先ほどよりも緩んでいるようで、指は思ったよりもすんなりと根本まで埋まった。湛えられていた蜜が、指の質量分だけ溢れる。その生々しい感覚に、私は思わず隘路をきゅう、と締めてしまった。自分を侵すものの形を知った粘膜は、その逞しさにより一層蕩けていく。
 指は私の泣き所を探すというよりは、自分のものを受け入れる場所の下拵えをしているといった態だった。丁寧に壁を押し広げ、襞の粒一つ一つに愛液を擦り込んで、温かな泥濘を優しく掻き回す。与えられる鈍い快感が再びお腹の奥に集まっていくのに、私は彼の下で身悶えることしかできなくて。

「ひ……っ、ん、二本目……?」
「ああ。……力を抜いていろ」

 私の目尻を宥めるように舐めると、巽君は一度浅瀬まで抜いた指を、二本にして押し戻してくる。
 ぐちゅ、くちゅ、と響く淫猥な水音。入り口の淵を引き攣れさせ、潜り込んできたもう一本の指は、一本目と同じところまで沈んでみせた。揃えられた二本の杭に、健気な媚肉が早速縋り付いて歓待する。
 そして二本になった指は、先ほどまでと違ってゆるやかに抽挿を始めた。一番太い節の部分が、蜜塗れの壁を擦り上げる。蕩けて柔くなった蜜壺は、擦られる端からどろりと煮崩れ、ほぐれていく。きゅう、と食い締めるたび、褒めるようにお腹側の浅瀬を撫でられるのが堪らなかった。
 淫芽で感じたきつい快感とは違う、ゆったりとお湯の中で愛されているかのような甘やかな悦楽。絶頂のためではない、時間をかけてじっくりと施される愛撫は、とめどなく滲み出る蜜を白く泡立たせ、糸を引くほどに濃密な淫液に仕立て上げてしまう。確かに気持ちいいのに、果てへと至るには全然足りない刺激。そんな淫虐が五分か、十分か、それとも十五分か、――――はたまたもっと長い時間、私に与えられ続けた。

「あっ、ン……~~~っ、あぁっ、は……」
「ッ、ふ……もう、力が入ってないな。こんなに溶けて……」

 熱い囁きがなじるように響き、その熱に浮かされた私の背筋がきつくしなる。散々蜜壺をかわいがり尽くした二本の指が、お腹側の壁を持ち上げれば、蕩けて癒着していた襞が勿体ぶるように、くぱ、と開いた。ほろりと口を開けた、淫靡な秘所。そこから塊のような蜜が流れ、つつ、と後穴まで垂れ落ちていく。そんな温い快感にすら、臍の下から恥丘に至るまでのまろいラインが細かく痙攣し、くったりと弛緩した下半身がもうどうにもならないことを巽君に伝えた。獣の瞳孔がきゅう、と縮まり、劣情で掠れた声音が私の肌を叩く。

「……もう、良さそうだ」

 喉だけで笑った巽君はゆっくりと指を抜き去ると、こちらを見つめながら、纏わりついていた蜜を丁寧に舐め取り始める。昏くぎらつく獰猛な瞳と、厭らしく蠢く赤い舌。その光景は壮絶なほどに扇情的で、精神的な興奮が、ぞくぞくっと背骨を這い上がった。頭を殴られたような衝撃に、私は思わず息を呑んで、咄嗟に視線をシーツのほうへと逃がしてしまう。
 自分の胸の奥で、心臓が激しく脈打つ。その音に何とか集中しようとしても、ベルトのバックルを外す金属音と、布地が肌を滑る音がいやに耳についた。次いで耳朶を叩いたのは、ぺり、ぺり、ぱちん、と薄い膜が下ろされていく音、で。
 はっと顔を戻したときには、巽君は私の膝を折り畳み、その間に腰を割り込ませているところだった。悠々と私を組み敷いた彼は、伏せていた目を持ち上げて、惚ける私に微かに笑んだ。

「ッ、……挿れるぞ」
「あ、ぁ、っや、ほ、ほんとに待って、今は……」
「待たない。……早く終わらないと、辛いのはお前だ」

 充血し、とろりと開いた幼気な淵に触れる、猛々しい質量。詰めていた息を荒々しく吐き、巽君の身体がこちらへと覆いかぶさってくる。そのせいで自分の下半身がどうなっているのかが、よく分からない。ただ、ひどく大きくて熱いものが、私を貫こうとしている感触だけが伝わってきて。
 どうしよう、――――はいっちゃう。

「たつみ、く、」

 巽君と一つになってしまう、という言いようのない感慨が身体中を満たしていく。限界まで広がった淵が、柔く押し付けられていた先端をついに咥え込む。火傷しそうな熱が内側を侵食した瞬間、全身にばちんと電流が走った。

「ひっ、ぁ、っんん……~~~ッ!」
「ぐ、ッ……ぁ、は、……っきつ、い、な……」

 もしかして、イッたのか。
 奥に分け入ってこようとする昂りを、きゅうきゅうと小刻みに食い締める媚肉。その反応でとっくに分かっているくせに、耳朶を甘噛みしながら尋ねてくる巽君は、いじわるだ。
 甘く未熟な絶頂に浸りながら、今まで誰にも明け渡してこなかった場所を、巽君に汚されていく。散々ぐずぐずにされたせいか、思ったような痛みはほとんどなかった。どれほど彼のために躾けられてしまったのかと思うと、心臓を掻きむしりたいほどの羞恥に見舞われる。
 緩慢に泥濘へ沈む切っ先は、やがて指も届かなかった最深部を優しく穿つ。ぐうっと押し込まれ、身体の中身がせり上がるような錯覚。侵攻が止まったことに安堵した私の身体は、自然と詰めていた息を細く吐き出す。ぴったりと奥まで嵌った剛直は、中で感じるだけでもひどく猛々しく、逞しかった。狭い内壁を圧迫するほどの質量と、襞に揉み込まれても少しも揺らがない硬度。燃えるような熱も、張り詰めた雄々しいラインも、全て私の痴態が唆した結果だと思うと、ぞくりと甘い痺れがうなじを覆う。

「はー……っん、ぁ、はいった……?」
「ッ、ああ……全部入った。ここまで……ちゃんと、呑み込めてる」

 労わるような手つきで、巽君が私の下腹をやわやわと撫でた。軽く押し込まれたのは臍のすぐ下で、『ここ』と言われた場所がどこなのか理解した私は、ただでさえ火照っていた頬を、さらに赤く染めてしまう。煽られた最奥がきゅんと疼いて、彼のものの幹を舐め啜るように、襞を卑猥に波打たせた。それは奇しくも、奥へ奥へと怒張を誘うような動きで。

「ッ、……随分と、欲しがりだな」
「ちが、……これは、」
「馴染むまで待っていようかと思ったが、その必要はなさそう、だ……っ」
「っひ、ぁあっ……!」

 笑う気配と共に、がり、と膨らみと鎖骨の間に噛み付かれる。痛いのと気持ちいいのとの合間に放り出された感覚が、急に始まった律動に混ざって、『気持ちいい』に傾いた。ほぐす段階ですっかり発情しきっていた子宮が、ようやく刺激を貰えるのに悦んで、熟れた粘膜からまた蜜を染み出させる。
 とん、とん、と一定のリズムで打ち付けられる腰は、逞しさに比例して重い。同様にみっしりとした怒張は、充溢した幹や張り出した笠で内壁を余すところなく掻きむしり、襞を磨り潰していく。先ほどの愛撫のせいで、鈍かった隘路の性感もいくらか目覚めさせられているらしく、私はその抜き差しに合わせて、熱と快感が弾けるような感覚に苛まれた。

「ン、ん~~……っ、はっ、あっ、ぅ、たつみ、くん……っ」
「ッは、ァ……っなん、だ、痛いか……?」

 蜂蜜が溶けたような声で縋れば、甘噛みを繰り返していた口が、劣情と労わりがないまぜになった言葉をくれる。欲に塗れていたはずの瞳が、僅かに理性の色を取り戻すのが見えた。
 きっと私が痛いと言えば一度止まってくれるのだろう、――――そんな光景が容易に想像できて、きゅう、と心臓が締め付けられるような心地になる。
 巽君の腰遣いは、荒々しくないのに執拗だった。丁寧で優しい、こちらの身体を労わるようなピストン。腰骨まで響くように叩きつけては、まだ下りてきていない奥の壁を求めるように、ぐ、ぐっと深くまで切っ先を潜り込ませる。痛くない程度の力でしか掴まれていないはずなのに、腰は少しも捩ることができず、ほぐすように何度も何度も奥を貫かれるばかりで。
 そして同時に、先ほどまでなぶられていた小さな芽をくりくりと捏ね回されてしまえば、私は喉を恭しく差し出して、身も世もなく喘ぐことしかできなくなって、――――甘えるように、彼の名前を何度も口にした。

「巽く、っあ、ぁ、ひぅ……ン、う、」
「っく、……ん、」
「ぁ、たつみ、く、っん……ぁ」
「ッ……! そんなに甘ったるい声で、っ俺を呼ぶ、な……!」

 呻くように、吐き捨てるように囁かれた台詞は、苛立ちにも似た興奮をたっぷりと孕んでいた。彼の身体がさらに重くこちらへ圧し掛かり、獰猛な息遣いが耳朶を掠める。喉仏のない、なだらかな弧を描く私の急所。獣が獲物を仕留めるが如く、八つ当たりめいた噛み痕がそこへと残された。

「ぁ、ああっ、……ふ、くぅ、ん……ッ!」

 律動が速度を上げていく。中を蹂躙する屹立は、はち切れそうなほどに膨れ上がって、私の大事な場所を、根こそぎ淫悦の虜にしていく。もう彼の名前すら呼ぶこともできず、ただ揺さぶられるだけになった私の視界に、ぼやけるほどの至近距離でこちらを見つめる巽君が映り込んだ。ふやけた脳味噌が、彼の眼差しが甘さを含んでいるように錯覚して、つられた胎奥がどろっと蕩け落ちる、感覚。ひときわきつく熱杭を食んだ私に、巽君が小さく胴震いをして。

 ――――奏絵先輩。

「え、っあ、ぁ、やっ……」

 音にならない、唇だけの動き、――――でも、それで充分だった。
 巽君の唇で、密やかに紡がれた自分の名前。嬉しくて、気持ちよくて、お腹の奥から快楽の塊がせり上がり、ぱちぱちと目の前に星が散った。瞬きの間に体温が上がる。喉が塞がって呼吸が止まる。きつく痙攣する身体が、果てまで一気に押し上げられて、――――

「うそ、だめ、……ッだめ、イッちゃ、ぁあ……~~~っ!」

 重い切っ先に奥を小突かれ、剥き出しの花芯を勢いよく弾かれるという『駄目押し』に、ぞっとするほどの悦楽が押し寄せる。陥落した身体が果ての向こう側へと放り出されて、目が回るような絶頂感に全身をもみくちゃにされてしまう。

「ッぐ、ぅ……っ」

 絞るような内壁の動きに耐え兼ねたのか、熱っぽく呻いた巽君が腰を震わせた。奥の奥に居座っていた怒張が脈打ち、膜越しの温かな奔流を微かに感じる。びく、びく、と不随意に腹筋が蠢くのが厭らしくて、『出されている』のだと思い知らされているかのようだった。溜め込んだものを全て出し切るように、ぐうっと奥に押し付けられるのも、冷めていくはずの私の身体を余韻の中に縫い留める一因で。

「ぁ、んっ、ん……」
「ふ、……っ、は、ぁ……」

 火照りきって、じっとりと汗をかいた身体が密着する。不思議と、先ほど一人で汗をかいていたときよりも不快ではなくて、むしろ強く感じられる巽君の香りに微かな安堵を覚えてしまう。全力疾走した後のようなざらつく呼吸が、身体がゆったり冷めていくのと同じペースで、ゆるやかに落ち着いていく。

「っ、はあ……大丈夫か」
「ん、ぅ……」

 巽君の手のひらが私の頬を包み込み、やわやわと撫でる。暴悦に打ちのめされた私を労わるような、宥めるような手つき。上がっていた顎が優しく引き戻され、黒々とした瞳が私を窺うように見つめた。焦点が上手く合わず、彼がどんな顔をしているかはよく分からない。何とか頷いてみせながらも、猛烈な眠気と疲労に、意識がどんどんと深く沈んでいく。
 そういえば、ここのところちゃんとした睡眠を取っていなかったかもしれない。今日だって、疲れすぎていて逆にゆっくり眠れず、早々に起きてしまったような、――――そんなことを取り留めなく考えつつも、私は彼にしがみ付いたまま、緩慢に瞼を下ろす。

「……奏絵先輩、」

 震えた声が、何かを呟いたような気がした。

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