絶対に手放したりはしない
エリートSPは一途な溺愛を我慢できない
著者:沙布らぶ
イラスト:八美☆わん
発売日:6月26日
定価:630円+税
絵本作家になる夢を追いながら図書館司書として働く花恵には、忘れられない人がいた。
絵本のコンテストの結果が芳しくなかった彼女は、友人からの誘いである夜、合コンに参加。
そこで会ったのは花恵が忘れられないでいた初恋の相手、匡樹だった。
再会した緊張からお酒を飲みすぎてしまった花恵は、彼への恋心が溢れ出し、大胆な行動に出ることに――!?
「十年分、ちゃんと愛させて」
その夜を境に、十年越しの二人の恋が再び動き出した。
【人物紹介】
満島花恵(みつしまはなえ)
絵本作家になる夢を追いながら図書館司書として働いている。
大人しく真面目な性格で、他人に強く出られない性格。そのせいで面倒ごとを押しつけられがち。
初恋相手で高校時代に付き合っていた匡樹のことを忘れられないため、新しい恋愛に踏み切れないでいる。
沢渡匡樹(さわたりこうき)
警視庁警備部所属のエリート警官。警備部警護課のSP。
真面目で実直な人間で、高校時代当時は夢のために一生懸命努力を続けていた。
警察官になるという夢を叶えたが、その過程で大切に思っていた恋人の花恵を切り捨てるような形で別れてしまったのをずっと悔やんでいた。
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【試し読み】
「ん……あの、さ。匡樹……」
――大好き、だったな。
ふと、花恵の中にそんな感情が思い起こされる。
二人とも根っからの文系で、苦手な科目が揃って数学だった。
試験前はお互いに頭を抱えたりもしたし、剣道部に入っていた彼の胴着姿を見るのが好きで、花恵はマネージャーでもないのに試合を見にいったりもした。
そんな思い出が蘇ってくるにつけ、やっぱりまだ彼のことが好きなのかもしれないという気持ちが頭をもたげてくる。
「花恵?」
気遣わしげに身を屈めた匡樹の姿に、学生時代の彼が重なって見えた。
スポーツマンで剣道部の主将も務めていた匡樹は、その顔立ちや落ち着いた雰囲気で当時から人気だった。
逆に物静かでごく平凡な学生生活を送っていた花恵は、休みの日や登下校時でないと彼と一緒にはいられなかった。
(剣道部の練習が遅くなったら、絶対に家まで送ってくれたっけ……)
陽が落ちる時間帯になると匡樹は必ず花恵を一人にはしなかった。今と同じように、家まで送ると言って――確か、はじめてのキスも学校の帰り道だったはずだ。
「ね、匡樹」
彼は、そのことを覚えているだろうか。
夜風に髪を揺らした花恵は、こてんと首を傾げて匡樹に尋ねてみた。
「どうした……?」
「はじめてキスしたときのこと、覚えてる?」
その言葉に、匡樹が目を剥いた。
せわしなく視線を動かして何度か口を開閉させた匡樹は、しばらくしてから深く息を吐いた。
「――お、お前の家の近くにある、公園。部活が終わった帰り道で……そんな、忘れるわけないだろ」
俺も初めてだったのに。
そう呟いた匡樹の頬が真っ赤になっていて、それが余計に過去の記憶を思い起こさせる。
(高校生くらいの時が、一番楽しかったな。今と違って、色々なことに悩むこともなくて……)
同じように彼とキスをしたら、あの時に戻れるだろうか。
そんな思いに駆られた花恵は、匡樹の肩にそっと手を置いた。
(そう――お酒の勢いだもん。これくらい、許されるよね)
自分にそう言い訳をして、花恵はぐっと背伸びをした。
自分より三十センチ近く背が高い彼に合わせようとすると、屈んでもらってもまだ身長差が埋まらない。それでも一所懸命に背伸びをして、彼との距離を縮めた。
「んっ……」
「ま――ッ、花恵!?」
ぎゅっと目を瞑って、匡樹の唇に自分のそれを押し当てる。
ふにっと柔らかい感覚がした次の瞬間には、慌てたような彼の声が耳に飛び込んできた。
「なん……は、お前な」
「キス、されるのは――嫌だった?」
花恵と匡樹は、もう恋人でもなんでもない。
まだ未成年で、学生だった二人はお互いの夢のために別れを選んだのだ。
彼は警察官に……それも、エリート中のエリートと呼ばれるSP職に就くために。
花恵は幼い頃から憧れていた、絵本作家になるために。
(嫌いで別れたわけじゃない……むしろ、ずっと……)
互いが互いを大切に思うからこそ、二人は夢のために別れを選んだのだ。
「嫌なわけないだろ。俺だって――くそ、せっかく我慢してたってのに……」
低くそう呟くと、匡樹はぐっと彼女の手を引いた。
痛みを感じる手前の力で腕を引かれて、花恵は客待ちをしていたタクシーの中に押し込まれる。少し遅れて、匡樹も車内に乗り込んできた。
少し遠くの方で里穂や内海たちの声が聞こえる。
だが、酔っ払った花恵の耳には、雑踏も彼女たちの声も一緒くたになってしまっていた。
「こーき? どこいくの」
「どこって……俺の家」
短くそう告げると、匡樹は運転手に自分の住所を伝えた。
車だと彼の家まではそう時間がかからずに到着する。素面なら歩きでも十分問題ないような距離だったが、さすがに泥酔した花恵を歩かせるわけにはいかないと判断したのだろう。
「歩きでも大丈夫だったのに」
「あのなぁ、酔っ払い歩かせて事故にでも遭ったらどうするんだよ」
「その時はほら、匡樹が助けてくれるでしょ? お巡りさんなんだし」
「警官は万能のスーパーマンじゃない」
匡樹が呆れたような溜息を吐いたのとほとんど同時に、タクシーは目的の場所で停車した。
車の中が温かかったのか、あるいは体が熱いのか――外に出たときに感じた風が心地好く、花恵はふっと目を細めた。
「……花恵」
料金を受け取ったタクシーがいってしまうと、匡樹はそっと彼女の手を握る。
「嫌じゃないか?」
そう尋ねてくる彼の目許は、アルコールのせいもあってかほんのりと朱に染まっていた。
「嫌だったら、キスなんてしないよ」
「――そう、か」
もう一度強く手を握りこまれて、今度は優しく腕を引かれた。六階建て独居用マンションの四階にある彼の部屋まで、二人の会話はどことなく続かない。
ようやく匡樹の口から言葉が発せられたのは、彼が自分の鞄のポケットから鍵を取りだしたときだった。
「花恵……お前は、その――俺のこと、恨んでないのか?」
「恨む?」
カチャン、と音を立てて、鍵が開く。
金属製のドアが開いた瞬間に、逃がさないとばかりに握りしめられていた手が解かれた。
「恨んだことなんて、一度もないよ。だって……匡樹が好きだったから、わたしのできる形であなたの夢を全力で応援したいと思ってたんだもの」
やや広めのワンルームは、テレビとベッド、簡易的なクローゼットが置かれた殺風景な部屋だった。無駄なものを置かないのは匡樹らしい。
花恵は彼の性格が滲み出た室内を見回してから、深く息を吐く。
外の香りがする上着を脱いで、彼の鍛えられた胸に手を当てた。
匡樹が、短く息を吸う。
「お前のことが、ずっと好きだった。別れてからも……でも、あれからもう十年も経ってる。花恵だって大切に想う人ができたかもしれない、結婚してるかもしれないって何度も自分に言い聞かせてきたんだ」
それは、数日前の自分が匡樹に対して考えていたことと同じだった。
十年も前の恋を蒸し返してしまうのは自分だけだと考えていたが、匡樹も同様のことを考えていてくれたらしい。
「けど――お前のこんな姿を見せられたら、家になんて帰してやれなくなる」
「そんなこと……わ、わたしだって」
少しだけ声が震えているのは、自分でもわかっていた。
これは、アルコールが見せる都合の良い夢なのだろうか。匡樹が同じように想っていてくれているというのは、花恵の願望なのかもしれない。
(もし、これが夢だったら……)
しかしこの十年、花恵は一度だって匡樹より素敵だと思える人には出会えなかった。
大人になって出会いがまったくなかったわけではないが、その度に実直で不器用な彼と比べてしまう。
「わたしも――ずっと、今でも匡樹が好き」
そうして、もう一度彼の唇を奪う。
頑張って背伸びをしてようやく届く位置にある唇を食むと、花恵の体はふわりと浮き上がった。
「ん、んっ!?」
急な浮遊感を感じて、花恵は彼に唇を押しつけたままで目を見開く。
慌てて顔を離すと、次に訪れたのはふわりとした布団の感触だった。
「は……やっぱり、今日のお前はちょっと――大胆すぎるだろう」
吐息混じりの掠れた声が、花恵の鼓膜を揺らす。その吐息が妙に熱っぽく感じて、唇から声が漏れてしまいそうになった。
「なんっ……ッふ、ぁ」
反論の間もなく、匡樹は花恵の体をベッドに押し倒した。
そして薄く口を開いたかと思うと、先ほどのキスとは角度を変えて何度も唇を押しつけてくる。
「んぅ、う……ッう、くぅ……」
熱い舌がねじこまれて、ねっとりと歯列を這う。
花恵の口の中は小さく、縦横無尽に動き回る彼の舌先ですぐにいっぱいになってしまった。
「ぅ――ンっ、ちゅ、ぅ……ふ、ぁ」
上顎をなぞられ、溢れ出してきた唾液をかき混ぜられる。
ちゅぷっと水っぽい音を立てながら、匡樹の舌はなおも花恵の咥内を蹂躙する。
(こんな、の――どうしたら)
こんなに獰猛なキスは、今までだって一度も味わったことがない。
学生時代に彼と交したのは、ままごとのように優しい、触れるだけのくちづけだった。
「ッくふ、ぅ……ン、んぅ」
熱い舌は歯列をなぞり、奥で縮こまろうとする花恵の舌先を強引に絡めてくる。
誘い出されるままに舌を絡めると。花恵は背筋からなにかが駆け上がってくる感覚を覚えて体を震わせた。
「ぁふ、うぅっ……ん、はぁっ……は、っ……」
なにをどうすれば正解なのかがわからず、花恵はそっと匡樹の背中に手を回した。すると、彼もまた強く花恵の体を掻き抱き、角度を変えながら何度も凶暴なくちづけを与えてくる。
「んんっ……ちゅ、ぅ――ぅ、く、ふぅ……ッは、はぁっ……!」
ちゅっと音をさせて唇が離されると、唾液の糸がつぅっと二人の唇を繋ぐ。
銀色の糸はやがて途切れてしまうが、その光景がどことなく淫靡で、花恵はつい目を背けてしまった。
「は、匡樹――」
「……今更無理だなんて、言わないでくれよ」
かさついた指先が、ブラウスの裾から中へと入り込んでくる。
大きな手のひらで腹部を撫でられると、花恵も足の間がジンと熱くなるのがわかった。
「ぁ、んっ……」
「このまま脱がせるぞ」
匡樹はそう言うと、右手でするすると花恵の腹部を撫でる。そして服をたくし上げると、器用にもう片方の手でブラウスのボタンを外しにかかった。
(手慣れてる、よね? わたし以外に、色んな人とこんなことしたのかな……)
ひとつ、ふたつと手際よく外されていくそれを眺めていると、なんとなく彼の女性遍歴がわかるような気がして胸が痛んだ。
花恵と別れた後の彼の女性遍歴など、知らなくてもいいことだ。そうわかっているのに、どこか悲しい気持ちになってしまう。
「……花恵? どうした、吐きそうなのか?」
「吐かない、けど……慣れてるなぁって」
「傷病者救助の訓練に、酔っ払ってトイレと仲良しの先輩の介抱……何度もやってればそのうち慣れる」
ぶっきらぼうにそう呟いた匡樹は、ブラウスの最後のボタンをぷつんと外してから花恵の額にそっと手を当てた。
「俺だって、お前と同じだよ」
「え、なに――ぅ、ぁあっ……!」
花恵には匡樹の声が、時々ぼやけて聞こえる。
なにを言いたかったのかと尋ねる前に、彼は自分の唇を花恵の鎖骨に押し当てた。
「ッあ」
かさついたそれが、しっとりとした肌に触れる。
それだけで声が出てしまうのに、あろう事か匡樹はその場所に軽く吸いついてきた。
「んゃ、ぁっ……」
ちくっとした軽い痛みが、火照った体を甘く刺激する。
彼は何度も唇を肌に押し当てながら、まるでなにかを確かめるように痕を残していった。
「ひ、ぁあっ……ン、ぅ」
「は――声、我慢しなくていいぞ。むしろできるだけ、花恵の声を聞かせてほしい」
「なんっ――ァ、あ……!」
ちゅうっ……ときつく吸われた場所に、唾液をまぶした舌が這う。
丹念にその場所を愛撫する舌先によって、痛みと似通ったような疼きが湧き上がってきた。
「待って、ぁ……こ、きぃ……」
「これ以上待てるか。俺はもうとっくに、我慢の限界……」
熱い息を吐き出した匡樹が、ブラジャーに包まれた双丘に手を伸ばしてくる。
花恵は昔から、胸が大きいのがコンプレックスだった。
服を着てしまえばうまく隠すことができるが、下着もEカップを越えたら可愛いものも見つけにくい。
(今日の下着、可愛くない……!)
そう絶叫したい気持ちを、花恵はすんでの所で押しとどめた。
合コンだとは聞いていたが、こうなることは予想していなかった。
背中とベッドの間に潜り込んだ彼の手が、飾り気の薄いブラジャーのホックを探す。
「ん、んっ……!」
ホックが外された途端、ふるんっと乳房がまろびでる。
意地悪な彼の指先は戒めとしての機能を果たさなくなったそれを簡単に取り外し、ベッドの下に投げ捨ててしまった。
「お前――胸、でかくなってないか?」
やや目を丸く見開いた匡樹が、そんなことを言う。
その言葉に対して一気に顔を赤くした花恵は、抵抗するように首を横に振った。
「な、って、ないっ……!」
重力に従って左右にこぼれる乳房を隠そうとして、両腕で胸を覆う。
見下ろされているだけで、体の中で燻っている熱が更に温度を増しそうだった。
「隠すな。見せて、それから触らせてくれ」
「やぁっ……ァ、あぁっ」
だが、匡樹はそれを許さない。
強引に腕を開かれたかと思うと、彼は先ほどと同じように、ツンと勃ち上がったその先端に舌先を押しつけた。
「ンぁあっ、ッひ、ぅうっ……」
コリコリと右胸の先端を舌で転がされ、時折戯れに吸いつかれる。
これまでとは違った刺激に体をよじっても、彼の逞しい腕は花恵の腰をしっかりと掴んで離してはくれなかった。
「ん、ふぁ……ッ、あ、あぁっ……」
ちゅぷちゅぷと、張り詰めた先端に唾液を絡ませる音だけが響いている。
頭の中で何度も反響するようなその音に浮かされて、薄桃の蕾はすっかりと色づいて快楽を伝えてくる。
「花恵――顔も、隠すな。俺の方を見てろ……」
低い声が、鼓膜を甘く揺さぶってくる。
何度も聞き慣れているはずの彼の声で、花恵の女の部分は切なく疼きだした。
「やっ、ぁ、あ――ンっ」
「いやじゃないだろ……こんなにわかりやすくねだっておいて、嘘をつくのはよくない」
「うそじゃ……ッは、ぁああっ!」
唾液でたっぷりと濡れ光る蕾を舌先で弄いながら、匡樹は空いたもう片方の膨らみにも手を伸ばした。
広く、男らしい彼の手のひらで押しつぶされた柔肉は、薄暗がりの中でぼんやりと白く煙るようだった。
「は……柔らか……」
感慨深げにそう呟いた匡樹は、戯れるような強さでむにむにと柔肉を揉みしだく。
力は強くないが、それでも花恵の双丘は匡樹の手によって簡単に形を変えられてしまう。
そこまで揉まれると痛いのではないかと思ったが、感じるのはただジリジリとしたもどかしさだけだ。
「ぁ、あっ……や、そんな――」
「やっぱりでかくなってるだろ。それに、柔らかくて気持ちいい……」
丸みを帯び、お椀型に膨らんでいたそれは、匡樹の大きな手のひらをもっても少し余るほどだった。
更に、匡樹の触れ方もやや荒々しいものへと変化していく。
彼の手のひらで自在に形を変えられる乳肉は、次第に快感を内部に燻らせていった。
「ンっ、ぁあ……はぅ、うっ……」
「やわらか……昔から、お前は胸が弱かったもんな?」
「そんなこと、言っちゃ――ン、ぁあっ」
意地悪く目を細めた匡樹が、ピンッとその頂を弾いた。
「ア、くぅぅっ!」
思っていたよりも強い刺激と振動に、押し出されるような声が止まらない。
その様子が面白いのか、彼は何度も先端を嬲り、甲高い声が上がる瞬間に乳房へと吸いついてくる。
「は、ぅ――ン、ぁあっ……」
断続的に繰り返される刺激に、全身の毛穴から汗が噴き出すようだった。
いつの間にかショーツはぐっしょりと濡れ、彼に弄ばれる両胸の感覚はどんどん鋭敏になっていく。
「な……もう、こっちもいいよな?」
「へ、ぁ……?」
髪の毛が汗でしっとりと体にまとわりついている。
張りつくそれを丁寧に払ってくれた匡樹は、そう言うとぐっと花恵の両足を開いてきた。
「そこ、は……」
「もう、下着もいらないだろ?」
艶っぽく舌舐めずりをした匡樹が、手の甲ですりすりと太腿を撫でてきた。
指先ではない、彼の節くれだって男らしい部分がよく感じられるところで柔らかい場所を撫でられ、ほっそりとした体は歓喜に震える。
「それ、は……」
かすかな怯えと、それを凌駕するほどの期待が胸の裡を満たしていく。
――もっと、彼に触れてほしい。
鼻にかかった甘ったるい声を漏らすと、彼は心得たように花恵の足からショーツを抜き取った。
「ふ、ぅ……ッ」
「もうトロトロになってるな。ここも――」
「ひ、ィぁあっ!」
彼の愛撫で蕩かされた彼女の体は、とっくに蕩けてしまっていた。
まるで待ち構えていたかのように愛蜜をこぼす入口へ、彼の指先が挿し込まれる。
「いやっ……そこ、はぁっ……」
触れられるだけで、思わず腰が浮いてしまう。
蜜口を指先で何度かなぞり、ほんの浅い場所を刺激し続ける匡樹は、わずかに目を細めると薄い唇をちろりと舐めた。
「ん――熱いな」
薄く笑うような声音に、花恵の背筋が震えた。
(それって、わたしのこと……?)
それとも彼の体が、同じように熱っぽい情欲を持てあましているということなのだろうか。
触れるか触れないかの位置で蜜口をなぞる意地悪な指先は、彼のそんな声と共にふっと離れていってしまう。
「ぁ……」
「そんなに、物欲しそうな顔するなって――我慢がきかなくなるだろ」
「も、物欲しそうなんかじゃ……」
低く、艶っぽい声でそう言った匡樹は、浅く息を吐くと自分が着ていたシャツの襟元を緩めた。
手際よくそれを脱ぎ捨てた彼は、力無くシーツの上に投げだされていた元恋人の手を取る。
「あ、つ……」
「わかるか? 俺も、今お前と同じくらい興奮してる」
匡樹の手に導かれ、花恵の指先は彼の鍛えられた胸元を這う。
逞しく骨太な肩のラインにくわえ、上腕はしっかりとした筋肉に覆われていた。鍛えすぎということもなく、張りのある美しい裸体は彫像のようでもあった。
(心臓の音、速くて強い……わたしで、ドキドキしてくれてるんだ……)
そう思うと、泣きたくなるほどに胸が締めつけられる。
久しぶりに会った匡樹は思った以上に魅力的で、自分なんか見向きもされないだろう――そんな不安を感じていた。
けれどそれは杞憂だったということを、匡樹自身が教えてくれる。
指先で確かめるように触れる彼の胸はしっとりと汗ばんでいて、重なった体温で溶けてしまいそうになった。
「匡樹も……興奮してる」
「そうだ。むしろ俺なんか、お前より……」
ごくっと唾液を飲み下した匡樹は、獰猛な視線で花恵の体を見下ろした。
その無遠慮ともいえるまなざしで一糸まとわぬ体を見つめられると、彼女の下腹部はきゅっと収縮した。
「花恵――感じてる、のか」
はしたなく淫蜜をこぼすその場所を凝視しながら、匡樹が彼女の足を持ち上げた。
そうされることで、恥ずかしい場所が彼の眼前で丸見えになってしまう。
「や、ぁっ! 見ないで……匡樹、お願いだからぁ……っ」
秘部を曝け出すような格好をとらされて、花恵は慌てて首を振った。
だが、匡樹はそんな彼女の様子を眺めながら、すっかり荒くなった息を吐き出す。
「いやだ」
短い拒絶と一緒に、彼はぐっと体を折り曲げた。
そうして次の瞬間、下腹に感じるのは熱い吐息の感覚と――ぬるりと蜜口に侵入した、彼の舌の感触だった。
「ン、ぁあっ!」
ちゅぶ……と果実を潰すような音を立てて長い匡樹の舌が淫裂をなぞってきた。
奥からこんこんと湧き出す蜜を舐めとり、唾液と絡めて入口のあたりをたっぷりと刺激される。
(や、は、恥ずかしい……こんなところ、舐められるなんて……!)
舌先でそんなところを舐められた経験などない花恵は、恥ずかしさと驚きで頭が真っ白になってしまいそうだった。
「あ、ぅんんっ……! ひァ、あっ、それ、やぁあっ!」
匡樹の動きは巧みで、浅い位置を刺激しているだけにもかかわらず腰が跳ねてしまう。
おかしくなりそうなほどに高められた体は、舌での愛撫だけでひどく歓喜していた。
「まって、だめっ……きたな、い、からっ……」
ふるふると何度も頭を振って懇願しても、彼はその行為を止めてはくれなかった。
それどころか、唾液で濡れた唇をつり上げ、さもなんでもないことのように笑っている。
「汚いなんて、思ったことがない」
「ゃっ――ァ、ああっ!」
蛇のようにうねる先端に肉襞を刺激されると、足がピンと引きつってしまう。力を抜こうと思っても、与えられる快楽が大きすぎて体がいうことをきいてくれない。
「んくぅっ……ンあぁっ、あ、やだぁっ……! そこ、ばっかりっ……」
ぴちゃぴちゃとわざとらしく音を立てながら、彼は一心に口唇での愛撫を繰り返してくる。
完全に腰が引けてしまった花恵は、言葉にならないような声を上げながらその刺激に耐えることしかできない。
「ッひ、あ――ッあ、やっ……」
もどかしく、決定打にはならない快楽は体の中で積み重なっていくばかりだ。
逃げ場のない愛撫を受け止める花恵の体は、もう限界だった。
「あぁっ、や……なん、ぁ、ァんっ、あ、あぁっ」
ヒクヒクッと腰が動いて、薄暗い部屋のはずなのに視界が明滅する。
そんな彼女の様子に気がついたのか、匡樹はゆっくりと蜜口から唇を離した。
淫らな責めが終わり、やっと息が吐ける――そう安堵した花恵が力を抜いた瞬間、彼の指先が唾液と愛蜜で濡れたそこを撫でた。
「あぁ――一回イッた方がいいな。その方が、花恵も楽になれる」
奥まった場所でひっそりとしていた、小さな蕾。
蕩けてしまいそうなほどにいたぶられて、すっかり鮮やかに色づいたその淫蕾を、彼の指先がぐりっと押し込める。
匡樹がその場所を押し込んだ瞬間に、花恵の体は大きく震え上がった。
下腹部がジンと痺れる感覚を覚えた花恵はシーツをきつく掴んで、くっと息を詰めた。
だめ押しといわんばかりに、匡樹がもう一度秘芽を弾く――ひくひくっと花恵の腰が跳ねたかと思うと、下腹部から駆け上がる電流のような刺激に体が震え上がる。
「ンぅぁっ、あ、あ……いッ……」
切なく疼く膣内が、きゅぅぅっと収縮した。それと同時に燻っていた快感が弾け、花恵の目の前が真っ白になる。
「イ、っあ……!? あっ、ああぁ――ンッ、くぁ、あっ!」
ビクビクッと体が跳ねたかと思えば、次の瞬間に押し寄せるのは世界がひっくり返ったかのような歓喜だった。
背中から頭の中までを一気に駆け巡るような、鮮烈な感覚がすべてを押し流していく。
「んぁ、あ――は、ぁっ……」
一瞬のうちに体を飲み込んだ愉悦は、大きな波が引いた後でも花恵を追い詰める。
なにが起きたのかわからないままベッドの上で体を弛緩させた花恵は、ぼんやりと天井を仰ぐしかできなかった。
「な、ぁ……っ、は、はぁっ……」
体が熱くて、重い。
先ほどまで冷たかったシーツは、二人分の体温ですっかり温くなってしまった。
最早シーツを掴む力もない彼女に、匡樹はにやりとサディスティックな笑みを向けてくる。
三年間交際していたが、花恵は彼のそんな顔は一度だって見たこともなかった。新たな一面を知れたというよりは、雄の本性を垣間見たような気がする。
「上手にイけたな。苦しかったか?」
「苦しくは……ないけど、あの――あんな風になったの、初めてで」
自分でそこを触ったとしても、あんな風に乱れることはまずあり得ない。
(これも――全部、お酒を飲んだから? いや、でも……)
絶頂の余韻とアルコールのせいでぼんやりしている頭を押さえると、目の奥がじんわりと痛んだ。
「変……かな」
「変じゃない。少なくとも、俺は嬉しかった」
一体なにが嬉しいのか、その答えはついに与えられることはなかった。
カチャカチャと金属音が聞こえてきたかと思うと、匡樹はサイドテーブルに置いてあった小さい箱からなにかを取りだす。
薄暗いこともあって花恵の目にはよく見えないが、絆創膏ということはないだろう。
「なにそれ――」
「ゴム」
恥ずかしげもなくそう答えた匡樹は、まだ封を切っていないそれを花恵の目の前でヒラヒラと振って見せた。
「見えるか?」
「……見え、ます」
正面切ってそう言われてしまうと、敬語にならざるを得ない。
その言葉に、また顔が熱くなる。花恵が必死で羞恥に耐えていると、彼は汗で少し濡れた髪を掻きあげた。
見せびらかすようにゴムの封を切った匡樹は、下着の中から滾った雄茎を取りだす。
(そ、そうだ……コレが挿入るんだ……)
長大な肉楔は匡樹の腹筋につきそうなほど反り立っており、ゴムをつけてもその逞しさに遜色はない。
とはいえ、花恵はもう随分とフリーの身だった。どれだけ頑張ってみても、彼の雄茎がすんなりと自分の中に入るとは思えない。
「こ、匡樹の……入らないかも」
「は?」
「だって……お、おおきいんだもの。そんなの……」
不安げな声を漏らす花恵に、匡樹がきょとんと目を丸くする。
すると、彼は手のひらを花恵の頭に置いて、グシャグシャとそこを撫でてくれた。
「うぁ、っ」
「まぁ、そう言ってもらえるのは嬉しいけど――今更お預け食らうのは無理だな」
でも、だからといってそんなに大きなものが入るだろうか……。
不安が拭えない様子の花恵の額にキスをして、匡樹は穏やかな声音で語りかけてきた。
「できるだけ、優しくする」
小さく笑う匡樹は、ゆっくりと花恵の淫裂に指を這わせてくる。
先ほど舌先での愛撫を受けたそこは、トロトロと蜜をこぼして彼を受け入れた。
「指だけなら、大丈夫そうだな」
「ンんっ、ぅ……ァ」
ちゅぷちゅぷと音を立てながら愛蜜を攪拌し、匡樹が蜜口を解してくる。
一度達して敏感になった体は次第に彼を欲して淫らに揺れ動く。指先が入口から少し奥を撫でつけ、肉襞を引っ掻く度に、花恵の口からは甘い声が漏れた。
「うく、ぅ――ンぁ……!」
「もう――いいな?」
なにが、とは聞かなかった。
先ほどから、痛いほどに切なく疼く場所が、彼を今か今かと待ち望んでいる。
たっぷりといじめられ、いやらしい蜜をこぼすその場所に、熱い切っ先があてがわれた。
「ぁ、あ――」
ぐ、と腰を押し進められると、自分の体が押し開かれているのがよく分かった。
「くそ、狭いな……」
低く呻いた匡樹は、ゆっくりと亀頭で入口をこじ開けていく。
最初はその場所も狭く、尖端を飲み込むだけでも精一杯であったが、匡樹が丹念にその場所を慣らすことでようやく蜜路が解れてきたらしい。
「あッ、んんっ――ふ、ぁあっ……はいって、きてる……!」
ぬかるんで温かい場所に、逞しい剛直が飲み込まれていく。より深い場所へ埋まっていく彼の熱塊は、目を閉じてしまえばとても克明に想像することができる。
「ッ……ァ、あぁっ……」
奥まって、狭い場所をこじ開けようとする彼の動きに合わせて、花恵の体も淫らにうねった。
少しだけ膣奥に痛みを感じたが、匡樹は緩慢な動作で腰を進めながらも蜜口をそろりとなぞってきた。
「ふ、ぁあっ」
痛みを紛らわせるような浅い快感で、ほんの少しだけ緊張が緩む。
そこを見計らっていたのか、中ほどまで自身を埋めた匡樹が低い唸り声を上げた。
「一気に、いくぞ」
「ぇあ、ま――ッふ、くぅンっ……! あっ、あぁ……」
深い場所を抉られる度に、彼への愛しさがこみあげてくる。強く抱きしめてほしいと願うごとに、花恵の媚肉が誘うような動きで水音を立てた。
「あ、あ……」
「は、ぁっ……花恵、締めすぎ……もっと力抜かないと、両方苦しい……」
お腹を押し上げる圧迫感に、暴力的な喜悦が重なってくる。
淫窟を押し開いて進む剛直はやがてある一点――最も奥まった場所でこつんと動きを止めた。
「はぁ、ぅ……」
「全部――入ったな」
少しだけ口角を上げた匡樹は、奥まった場所をぐりぐりと刺激してくる。
生み出された甘い痺れに体を震わせると、みっちりと胎内を満たす肉杭がずるりと引き抜かれた。