不器用な二人には社内恋愛は難しい 〜強面くんと真面目ちゃんは勘違いからラブコメが始まる!?〜

書籍情報

不器用な二人には社内恋愛は難しい
〜強面くんと真面目ちゃんは勘違いからラブコメが始まる!?〜


著者:山野辺りり
イラスト:千影透子
発売日:2021年 6月25日
定価:620円+税

OLの優衣は、痴漢から助けてもらったお礼として、強面な同僚の大河とデートをすることになった。
緊張しっぱなしのままなんとかデートを乗り切った優衣だが、次の日から大河は会社でもよく話しかけてくるようになって……。
さらに、彼は何かと優衣と一緒にいたがりコミュニケーションを図ろうとしてくる。思わず優衣は理由を聞いてしまうが、返ってきた答えは彼女の思いもよらぬ答えだった!?
「悪い。ちょっと浮かれた。広田さんと恋人になれたのが、嬉しくて」
私達、いつの間にか付き合っていたようです……!?
クールで冷たいと有名だった彼が、自分にだけ見せる甘い一面を知ってしまった優衣は、どんどん惹かれていき、いつしか本当に彼に恋をしていることを自覚して――。

【人物紹介】

広田優衣(ひろた ゆい)
困った人をみるとすぐに手を差し出してしまう、心優しい性格。
痴漢から助けられたことをきっかけに、いつの間にか宇津木と付き合うことになっていた。

宇津木大河(うつぎ たいが)
優衣の同僚。
強面で口数が少ないが、整った容姿をしており仕事もできる会社の人気者。
遊び人との噂だが、実は一途。



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*取り扱いサイトは、各書店に掲載され次第、更新されます。

 

【試し読み】

 優衣が潤んだ双眸を瞬けば、真剣な面持ちで彼から見つめ返された。
「家まで送る……って言うべきなのは分かっているけど、本音を言うとこのまま帰したくない……」
 そっと取られた指先が熱い。
 火傷するかと思うような熱が、大河と触れあう末端から伝わった。
 ドッドッと心音が暴れる。口から心臓が飛び出さないのが不思議なくらい激しく高鳴った。
 意識の全てが彼に奪われ、惹きつけられる。
 握られた手の指先に口づけられ、窺うようにこちらを見る眼差しに搦め取られて、瞬きもできなかった。
「……お持ち帰りしても、いいか?」
「……っ」
 嫌だと言えなかったのは、気圧されたからじゃない。断りたくなかったせいだ。
 滲む熱と官能的な誘惑に惑わされて、操られるように優衣は首を縦に振っていた。
 普段の自分なら、絶対にこんな誘いには乗れない。
 そんな度胸も勇気もなく、逃げ腰になっているだろう。
 けれど今夜は、優衣自身が大河と一緒にいたいと切に願った。
 眩暈がするほどの幸福感が、臆病な優衣の背中を押す。
 本能に従って、離れたくない気持ちにあえて全力で流された。
「いいですよ……っ」
 掠れた返事は、声に成りきらない。それでも彼にはちゃんと伝わったらしい。
 改めて指を絡めた恋人繋ぎで手を握られ、歩き出した大河に引っ張られる。
 どこか性急な足どりが、彼の余裕のなさを表しているようでクラクラした。
 縺れそうになる足を懸命に動かし、優衣は大河と共に先を急ぐ。
 急いているのは自分も一緒。今夜はもう離れたくない。
 成人した男女が深まりゆく夜を共有することの意味を、いくら優衣でも知っている。まして自分たちは恋人同士だ。
 想いを確かめ合った直後の高揚感がどこに行きつくのかも、勿論理解していた。
 それでもこの手を振り払う気にはならない。
 夜の空気が濃密になる。しっとりと肌に貼りついて、息苦しささえ艶を帯びた。
 この時間、流石にオフィス街は人が少ない。
 駅前の飲食店はまだ賑やかな光が溢れていたが、そちらへ一切視線をやることなく二人は改札を抜けた。
 会話はなく、電車内でも沈黙に支配される。
 だが居心地の悪さは感じないまま電車に揺られ、移動すること数駅。
 通勤電車で一緒になっていたから当たり前だけど、宇津木さん本当に私と同じ沿線上で暮らしていたんだ⋮⋮
 辿り着いた瀟洒なマンションは、静まり返っていた。何も喋らないまま、大河が鍵を取り出し、もどかし気に解錠する。
 押し込まれるように優衣が扉の中に入った瞬間、彼に強く抱きしめられた。
「……っ」
「……ずっと、こんな日を夢見ていた……っ」
 鼓膜を震わせる男の低音に、腰が砕けるかと思った。
 脳が直接揺らされて、膝が笑う。
 息を吸うために開いた唇は、乱暴なキスで塞がれた。
「ん、んん……っ」
 肉厚な舌が、縦横無尽に優衣の口内を弄った。ぬるりとした感触が舌に絡みつき、内頬を擽る。上顎を舌先で刺激されると、鼻から淫靡な吐息が漏れた。
「ふ、ぁ……っ」
 脇腹を撫であげられては、もう立っていられない。
 よろめいた優衣は玄関扉に押しつけられたまま、彼の腕の中に囚われた。
 その時、扉一枚隔てた向こうで、廊下を歩く人の足音が響く。おそらく同じマンションの住人。夜遅い時間だからか、靴音が静まり返った空気を震わせる。
 反射的に声を抑えるため唇を引き結ぶも、止まれない。優衣は淫らに瞳を濡らし、大河と強く抱き合った。
 己にこんな大胆な真似ができるなんて今でも信じられない。
 しかもまだ大河と付き合ってたったひと月。本当に想いを自覚したのは、ついさっきだ。
 あまりにも展開が速すぎて、普段の自分ではあり得ない。
 それでもやめようとは微塵も思えず、夢中で彼のキスに応えた。
 頭の芯がジンと痺れて、体内が潤む。
 滾った呼気が交じり合い、至近距離で見つめ合ったせいで体温がより上がった。
 心音は際限なく高まってゆく。
 着ていたトレーナーとキャミソールを捲りあげられ、素肌に触れられた瞬間、淫らな声が優衣の唇からこぼれた。
「ぁ……、待って、こんなところで……っ」
「悪い……っ、余裕ない」
 熱烈に求められているのが伝わってきて、嬉しい。それでもこういった行為を初めてする側としては、戸惑いが大きかった。
 優衣が懇願を眼差しにのせ彼を見つめると、大河の喉仏が淫猥に上下する。
 暗闇でも光る切れ長の双眸には迫力があったけれど̶̶もう、委縮はしなかった。
 逆に、もっと私を見てほしい。
 獲物を狙う鋭さで。絶対に逃がすまいという真剣な色で。
 搦め取るように、苛烈に。
 もどかしく脱ぎ捨てた靴が、無造作に転がった。それを揃える間もなく、彼に抱きあげられて優衣は部屋の奥に運ばれる。
 向かった先は寝室。
 室内の様相を見回す猶予もなく、二人シングルベッドに倒れ込んだ。
 刹那、優衣の鼻腔を大河の香りが掠めた。
 この匂いが傍らにあることに、慣れ始めたのはいつからだろう。初めは気配を察するだけで身が竦んだものの、最近は隣にいられることに違和感を抱かなくなっていた。
 ミント系の爽やかな芳香に包まれて、思わず深く呼吸する。
 仄かに香るこの匂いが、気づけば優衣の大好きなものの一つになった。
「……夢みたいだ」
「もしも夢なら、覚めなくていいです……」
 優衣はずっと﹁悪夢よ、一刻も早く覚めてくれ﹂と願っていたが、今は一生この夢に囚われていても構わないと思う。
 幸福感が奥底から際限なく湧いて、じっとしていられないほどだから。
 大切な人と密着するのは、とても気持ちがいい。全身がポカポカする。
 愛おしさが溢れ、暗がりの中で互いの輪郭を探った。手探りで弄り合えば、もどかしさすら興奮の糧になる。
 闇に慣れた瞳は、乏しい光源のもとでも、相手の切実さを孕んだ視線を捉えた。
「ずっと……広田さんが̶̶優衣が好きだった」
「……っ」
 こんな時に突然名前で呼ばれ、激しく胸が脈打った。
 特別と認識した人に想いを込め己の名前を声にされると、それだけで媚薬に変わる。
 耳から忍び込んだ劇薬は、たちまち優衣の指先まで広がり、全身を支配した。
 心も引き摺られて熱く潤う。思考は蕩け、「触れ合いたい」欲求に従うことしか考えられなくなった。
 会社の倉庫で、宇津木さんが私に触った時もそう感じてくれていたのなら̶̶嬉しい。
 同じだけ焦がれ求められている証だ。
 だが優衣の方が鈍かった分、ここに辿り着くまでに随分時間がかかってしまった。
 それを申し訳なく思いつつ、優衣は大河を見上げる。
 男性がワイシャツの袖口のボタンを外す仕草は、非常にセクシーだと気づいた。優衣も、無意識に見惚れてしまう。
 こちらを見下ろす眼差しが熱い。
 その間に彼はやや乱暴に全てのボタンを外し、アンダーシャツも纏めてぞんざいに脱ぎ捨てた。
 優衣はそっと両手を大河の背中に這わせ、女性のものとは違う、張りがあって滑らかな男性の肌に驚く。
 硬くごつごつとした造形をしていながら、とても綺麗で体温が高い。
 無意識にうっとりと指先を滑らせれば、彼がひくりと身を震わせた。
「……っ、擽ったい」
「ぁ、ご、ごめんなさい……っ」

「別に、構わない。触りたければいくらでも触ればいい。俺も自由にする」
「え」
 言葉の意味を確かめようとする前に、優衣の胸を支えていた下着は素早く奪い取られた。
 上半身に外気の流れを感じ、肌が粟立つ。
 眼鏡はそっと外されて、サイドテーブルの上に置かれた。
「あ……っ、それがないと、はっきり見えないです……っ」
「へぇ? 広田さん、そんなに俺の裸が見たいのか?」
「えっ、ち、ち、違……っ」
 にやりと笑った大河に揶揄われているのは分かっている。
 だが今更眼鏡を取り戻しては、肯定しているようなもの。それに、この先のことを考えると、邪魔だと思った。
「大丈夫。これだけ近くにいれば、ちゃんと見えるだろう?」
「ゃん……っ」
 彼の淫靡な囁きに優衣が戸惑っている間に、下もワイドパンツとショーツを纏めて下ろされてしまった。
「ひゃ……っ、み、見ないでください……っ」
「それは無理。本当なら、電気をつけてじっくり見たいくらいだ」
「な……っ」
 とんでもないことを言われ、唖然とした。冗談ではない。真っ新な初心者には、ハードルが高過ぎる。
 固まったこちらの表情を見下ろしてきた大河は、意地悪く口角を吊りあげた。
「でも、嫌がられたり逃げられたりしたくないから、今回は我慢する」
「今回は……っ?」
 ならば次回からはどうなるのだ。
 そう思った刹那、優衣は﹁彼との今後﹂が当たり前にあると考えている自分にハッとした。
 私……宇津木さんとの未来が続くものだと思っているんだ……そして、彼も同じように私とのことを考えてくれている……
 これから先もずっと一緒に。そう言われた気がして、多幸感に胸が締め付けられる。
 けれどそれは、おそらく勘違いではない。
 言葉が足りない大河の本心は、鋭い眼差しや態度、朱に染まった目尻に現れている。
 それらは全て̶̶溢れんばかりの愛情を優衣に伝えてくれた。
 だったら、怖くない。この人になら̶̶私の全部を貰ってほしい……。
 裸を見られる戸惑いはまだある。それでも、直に触れあう肌の心地よさの前には、無意味だった。
 蕩けそうな熱が全身から生まれ、痺れを伴って大きくなってゆく。
 キスをされても、胸を優しく包むように揉まれても。
 普段なら服に隠されて、決して露出しない場所を擽られて、愉悦が高まった。
 しっとりと汗ばんだ乳房の裾野を彼の舌がなぞり、ゾクゾクと喜悦が膨らむ。
 淫靡な声を漏らしそうになった優衣が唇を引き結ぶと、咎める口づけが下りてきた。
「声、聞きたい」
「え……っ」
「聞かせてほしい」
 誘惑の声に絆されて、吐息が濡れた。
 至近距離で見つめ合い、焦点が少しぼやける。それでも、真っ赤に熟れた優衣の頬は、大河から視認できているだろう。
 こちらからも彼の燃え盛る双眸が、はっきりと捉えられたのだから。
「……っ」
 これほど切実に、異性から求められたことがない。
 絡みつく視線の熱さも、触れる指先の焦燥も、乱れる吐息の音も全て、優衣が欲しいと叫ばれている気がした。
 言葉にして伝えられなくても、何故か分かる。
 繰り返されるキスがどんどん深くいやらしさを増してゆくせいか。それとも掠れた声で呼ばれる名前が、脳を揺さ振るためなのか。
 だが今はそんなことより、疼く衝動を分かち合いたい欲求に抗えなかった。
 体内に燻ぶる熱源を鎮められるのは、大河だけ。
 これまでよりもっと密着し抱き合わねば、きっと満たされることはない。
 初めて抱く渇望に煽られて、優衣は膝の間に滑り込む大きな掌を受け入れた。
「……ぁっ……」
 夢中でしがみ付いた優衣の手が、大河の背中を滑る。
 躍動する筋肉とがっしりとした骨格に陶然とした。
 体温が上がり続けて、発火しないのが不思議なほど。真夏でもないのに、汗が胸の谷間を伝い落ちた。
 その滴を、彼が舌先で舐めとる。
 しかも、視線はしっかりと合わせたまま。
 淫蕩な眼差しに炙られて、思考と理性が崩れ去る。優衣が、は、と浅く息を継ぐと、大河が艶めかしく笑った。
「……いい顔」
 だらしなく蕩けていると自分でも分かる表情をつぶさに観察され、羞恥が募る。
 しかしお互い様だと優衣は思い直した。
 普段、そら恐ろしいほど険しい顰めっ面の彼が、今は飢えた獣めいて息を乱している。
 その瞳に映るのは、優衣だけ。
 他には何もない。そして自分の視界に映るのも、大河だけだった。
「んん……っ」
 胸の頂を捏ねられ、ゾワゾワとした愉悦が腰に溜まる。
 自分で触っても何も感じないそこは、彼の指が這い回るだけで、声を堪えるのが困難なほど敏感になった。
 赤く色づいた飾りが、芯を持つ。
 白い膨らみの先端が、誘うように揺れた。
「……ぁ、ん……っ」
 同時に内腿を撫でられて、際どい場所で彼の手が止まる。
 そのまま数秒。
 やわやわと皮膚を揉み込まれるだけで、上にも下にも動かない。
「ゃ……っ」
 脚の付け根がジンジンと疼き、はしたなく期待していたのだと知らしめられて、優衣の全身が真っ赤に茹った。
 肝心な場所には触れられていないのに、先ほどからそこが熱くて堪らない。
 うねる嵐の逃し方が分からない分、心許ない気分になった。
「宇津木、さん……っ」
「痛かったら、言って」
 そんなたった一言で、焦らされたのではなく、大事にされているのだと悟る。
 この上なく大切に扱われているからこそ、こういう行為が初めての優衣を大河は慮ってくれているのだ。
 既に彼の楔はスラックスを押しあげて、窮屈そうに欲望を訴えているのに、それでも優衣のことだけを考えてくれている。
 その事実が、どうしようもなく胸をいっぱいにした。
「……っ、は」
 敏感な花芯を転がされ、肌が粟立つ。そこは神経が集中した場所だ。ほんの少し触れられただけで、絶大な快楽を生んだ。
「ゃ、あ……っ、何……っ」
「安心しろ。優衣の嫌がることはしないから」
「んぁ……っ」
 大河は言葉通り、ひたすら甘やかすかの如く、肉芽を撫で摩った。
 目の前にチカチカと光が瞬く。悦楽が膨れ、下腹に溜まるのを感じられた。
 戸惑う優衣は何度も口づけられ、髪を梳かれ、濡れた舌先に宥められる。それらどの行為にも彼の優しさが込められているのが伝わってきて、クラクラした。
 膨れた淫芽を突かれると声が抑えられなくなり、喉奥が震える。体内からはトロリと生温かい雫が溢れる感覚があった。
「ひ、ぁ……」
「力抜いて」
 何物も受け入れたことがない蜜口は、男の指一本でも違和感を覚えた。
 粘膜を摺られると、ほんの少しピリピリと痛い。
 もう存分に潤っていても、武骨な指に内側を探られると、身を強張らせずにはいられなかった。
 体内を弄られる初めての感覚に、四肢が強張る。
 けれど奥歯を噛み締めようとする度、額に、瞼に、こめかみに口づけられるので、優衣の怯えはいつしか霧散した。
 降りかかる男の呼気がこちらの肌を湿らせる。
 大きな身体に包み込まれる気持ちよさにうっとりしている間に、互いが生まれたままの姿になっていた。
「あ……っ」
 大人になってから、男性の裸を直視したことなど一度もない。
 上半身を見ることも恥ずかしく、優衣は視線をさまよわせた。
 それでも、ほんの刹那の間で網膜へ焼き付いた残像がある。
 大河の見惚れるほど均整の取れた身体つきは、とても素晴らしく美しかった。
 どうやったらお腹が割れたり逆三角形の肩幅になったりするのだろう。
 優衣は自分のぷにぷにとしたお腹を思い出し、一瞬泣きたくなる。
 だが彼が愛おし気に優衣の身体を慈しんでくれたから、微かなコンプレックスは即座に忘れられた。
 明確な言葉にはしてくれなくても、上下する温かな手や狂おしく見つめてくる瞳。壊れ物を扱うかの如く、物慣れない優衣を慎重に暴いてゆく我慢強さ。
 それらを前にして、いくら鈍い自分でも悟らずにはいられない。
 この人が、好き……そして宇津木さんも私に好意を抱いてくれているなんて、幸せ過ぎて、泣いちゃいそう……。
 ゆったりと下腹を摩られ、臍を通過した手が淡い下生えを探る。
 再び花芯を探り出された優衣は、か細い悲鳴を漏らした。先ほどよりもっと、感覚が鋭敏になっている。
「……っひ……」
「大丈夫。力、抜いて」
 思わず閉じかけた膝がしらを撫でられ、沁み込む熱に緩々と両腿の強張りを解く。
 陰唇を上下に摩られ、あわいに添ってなぞられて、腰が戦慄いた。
 浅く忙しくなった呼気が、室内に満ちる。

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