
追放された稀代の悪女は、殺しにきたはずの王子に一途に執着されています
著者:智江千佳子
イラスト:ぬるめのおゆ。
発売日:2026年 9月18日
定価:720円+税
公爵令嬢であったアリスは第一王子のルードヴィクと婚約を交わし、順風満帆な日々を過ごしていた。
だが突然訪れた母の死後、新しくやってきた占星術師の継母に「悪魔憑き」と呼ばれてしまい――。
自身の悪魔を恐れたアリスは婚約を破棄し、辺境に発つことに。
しかし、彼女の祈りも虚しく、イヴリンは国王毒殺の罪で「稀代の悪女」として瘴気の森に追放されてしまう!
最愛の父も亡くした彼女だったが、なぜか瘴気で死ぬことはなかった。
さらには彼女が流した涙によって、動物たちの石化の呪いも解くことができた。
そんなある日、ルードヴィクが森に現れ、瘴気の呪いで瀕死の状態となっていると知って――!?
アリスは彼を救うため、熱く身体を交わって命をつなぐことにするのだが……。
「アリス、夢の中なら抱きしめても……、いいだろうか」
その後、殺しに来たはずのルードヴィクはアリスにの側に留まることになって――?
【人物紹介】
アリス
「稀代の悪女」と呼ばれる罪人。元マルティネス公爵家の令嬢。
素直で騙されやすく、天真爛漫で明るい性格をしている。
追放された瘴気の森に、なぜかルートヴィクがやってきて――!?
ルードヴィク・ブランストーン
第一王子。アリスの元婚約者。
あまり多くを語らないが、一途で誠実な性格。
瘴気に呪われながらも、アリスの側を離れる意思はないようで……?
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【試し読み】
――これって、もう、その気になってくれている、ということ?
彼の長大なそれはすでに雄々しくいきり立って、天井を向いている。ただ、それが本当にその気になってくれているということなのかは判別がつかず、恐る恐る手を伸ばす。
「っ、アリス、何を、」
それに触れる前に、その手を彼に掴まれた。しかし彼はすでに息も絶え絶えで、辛うじて意識を保っているのだろうことが察せられる。そのせいでその手は簡単に振りほどくことができた。
罪深い悪魔憑きとまぐわうなど、彼にとっては生涯の汚点だろう。自分自身で理解していながら痛む胸を隠して、ポケットからハンカチを取り出しては彼の両目を覆うように結んだ。
「アリス、」
咎めるように呼びかけられているのを無視して、枕元に置かれている薄手のタオルを引っ張り出し、今度はそれで彼の両腕を一纏めに縛り上げた。これで私を邪魔することはできない。抵抗ができなくなった彼の腰に再び跨って、カナリアと打ち合わせた言葉を耳元に囁いた。
「これは悪い夢ですわ」
――けれど夢はすぐに醒める。だから心配しなくていい。
優しく囁いて頬を撫でると、彼の肩がぴくりと揺れた。
「ゆ、め……」
「ええ。ですから深い眠りが訪れるまでの辛抱ですの。あなたは暗い森に足を踏み入れたせいで悪い魔女に心臓を食べられてしまうのよ」
「心臓、を」
「そう。だけどね、怖くはないわ。……夢が終われば、恐ろしいことはすべて終わっているものなのだから」
――だから安心して眠ってください。その間に、私がこっそりとあなたをこの森の外に届けますから。ここで起こることは悪夢として忘れ去ってしまえばいい。
「やはり夢なのか。……いや、それもそうか。君の姿など、もう二度と見られないはずだ」
自嘲するような笑みを口元に浮かべた彼を見ると、胸が鋭い痛みを発する。これまでに、彼の夢の中に私が登場することがあったのだろうか。
「そうね。きっともう、金輪際現れないから安心していいわ」
しかしその夢の中でも私はきっと悪女だったはずだ。彼の自嘲が移ってしまったように私の口元にも自嘲が浮かぶ。それを隠すように顔を背け、彼の怒張へと手を伸ばした。
「っ、ぅ、っ、アリス……っ」
燃えてしまいそうなほど熱いそれは心なしかどくどくと脈打っているようにさえ感じられる。これをどうするべきなのか逡巡し、ゆっくりと上下に扱く。それだけでも手のひらが粘性の何かに濡れる。
「くっ、……っ、やめ……っ」
私がそれを丁寧に扱くたびに彼は腰を震わせて呻き、歯を食いしばっている。きつく縛り上げた両腕にはくっきりと血管の筋が浮かんでいた。耐えるような仕草を見るに、どうやらこのやり方で間違っていないらしい。心の底から安堵しながら固くそそり立つそれのもとへと口を寄せて、生唾を飲んだ。
――この後は、これを……、口に含むのよね? できるかしら……? あまりにも大きすぎるわ。
口に含むことで唾液を摂取させることもできるから絶対にやらなければならないとカナリアに言いつけられている。眼前では目元をハンカチで覆われ、頬を紅潮させた大柄な男性が苦しそうに呼吸を繰り返している。調子が思わしくないであろうことは一目瞭然だ。
「ルード様、どうかお許しください」
このようなはしたないことをする私を、きっと彼は許してくれないだろう。何度目かの後悔に胸を貫かれながら誰の耳にも届かないほどの声量で呟き、意を決して彼の怒張を口に含んだ。
「っ、待っ、……っ、アリスっ、何を」
圧倒的な質量に目が回る。それでもどうにかそれを舌先でちろりと舐め、口に含みきれない分を両手で扱く。その途端強い力で身体を起こされ、顔面に熱い何かがかかった。
「っ、きゃ、…‥っ!?」
「っ、クソ」
粘性の何かは顔から胸元までを汚し、両手もその白濁した液体に塗れていた。それが何であるのか考える間もなく、彼の目元を覆っていたはずのハンカチで顔面を拭われる。
「なぜ俺はこんな夢を……、クソ」
「あ、っ、あの、」
「その声でしゃべらないでくれ。これ以上俺に君を汚させないでくれ」
「汚す、なんて」
彼は酷く余裕がなさそうに呼吸を乱しているのに、私を見つめる瞳には僅かに理性が感じられた。切なげに眉を歪め、必死に何かに抗っている。
「せめてどこか遠くの国で、君を十分に守る力のある者と幸せに生きる君の夢が見たい」
随分と遠回しな表現だが、彼は私を遠ざけたいと思っている。それを理解して、息が止まりかけてしまった。
彼の手は、相変わらず優しく私の頬を拭いてくれている。意識が朦朧としているだろう中でこれほどまでに人に優しくできるのは、彼の心が清く澄んでいる証拠だろう。それゆえに稀代の悪女と呼ばれるような私の幸せを願ってくれている。けれど――。
「その相手が、あなたではだめですか」
私がそばにいたいのは、顔も知らぬようなどこかの国の紳士ではなく、今私の目の前で苦悶の表情を浮かべながら、必死に私の頬を拭ってくれているあなただ。冷酷な魔女のように振る舞うつもりが、思わず本音がこぼれてしまった。
震える声で呟いたその言葉は、あまりにも小さく、荒い呼吸を繰り返す彼には到底聞こえていなさそうだ。そのことにひっそりと安堵して、彼の体を再度押し倒そうとしたその瞬間、私の体はベッドに沈められていた。
「っ、」
「本当に、悪夢だな」
耳元に湿った声音で囁かれる。同時に搔き抱くように大きな体に抱きしめられ、身動きが取れなくなった。フードが落ちて顔が露わになっても、咎めることさえできずにされるがままになっている。
「なに、を」
「こんな夢を見せて――目覚めたらすべて空想上の出来事だなんて、酷い悪夢だ」
「っ、ルー、」
まるで、どこにも逃がすつもりがなさそうなほど強く抱きしめられ、息苦しさに名前を呼びかけたところで拘束が和らぐ。
「アリス」
心音がうるさい。世界中の誰よりも近くで私の名前を囁いた彼は、視線を逸らし続ける私の顔の両脇に手をついて、もう一度私の名前を呼んだ。
いったいいつから、彼は私が縛り上げたタオルの拘束を解いていたのだろう。今気にするべきではないところに思考を巡らせて、現実から逃げ出そうとしている。それなのに彼はそんな私の目論見を見抜いているかのように、ゆっくりと顔を寄せて言った。
「さっきの言葉……、本当に俺でいいのか?」
至近距離に見える彼は、相変わらず息を乱している。それなのに壮絶な色気を放って、私の髪を手に取って指通りを楽しみ、見せつけるように毛先に口付ける。その仕草は幼い頃に見たものと同じはずが、どうしてか全く違う意味を持つもののように感じられた。
「私、は」
自分でも何を答えようとしているのか、まったくわからない。
答えを失ったまま口を開き、その口が彼に食べられるのを見て、目を見張った。
「っ、んん、っ、ふ、ぅ」
少し前に、唇へのキスは拒絶されたはずだった。しかし彼は捕食者のように私の唇を食らい、呼吸のために薄く開いた唇の間を縫って口内を嬲り、混乱して逃げようとした私のうなじを掴み寄せる。
まったく逃がすつもりのない拘束に絡めとられてもがいているうちに、私の両腕は彼の右手に一纏めにしてシーツへ縫い付けられた。抵抗する間もなくローブを脱がされ、わけもわからずに深まる口付けを受け止めるしかできない。
「っ、ん、ん~~っ、」
やがて呼吸の苦しさに涙が浮かんでこぼれ落ちると、彼はようやくキスをやめて、息を荒げる私をまっすぐに見下ろしていた。
「っ、な、なぜ、……っ、」
「なぜ? 人生の伴侶に口付けをしない夫がいるだろうか」
「じんせいの、はんりょ……?」
私こそ夢を見ているのだろうか。
彼は状況を飲みこむことができずに呆然としている私を見下ろして、小さく笑みを浮かべる。そして熱を持った私の頬を撫でて優しく囁いた。
「アリスが俺を選ぶのなら、当然俺が君の伴侶になる。そうなれば、必然的に夫婦の契りも交わすだろう」
「夫婦の契り……?」
「君が少し前にしようとしていたことだ」
挑発するように弧を描いた唇が、予告することなくもう一度私の唇を喰む。まるでそうするのが当然のように私の下唇を舐めて、再度私の顔を覗き込んだ。
その行動に目を回しつつまったく意味がわからずに呆然としていると、彼は私の手を取って突然彼の怒張に触れさせようとした。
「きゃ、」
「思い出したか?」
誑かすように甘く囁かれ、ようやく私がしようとしていたことというのが何を指していたのかがわかり、顔が熱くなる。
「あれは……、あれはただの呪いです」
「呪い? それは面白い解釈だ。たしかにそうかもしれないな。俺の心臓を一生君に捧げる儀式のようなものだ」
おかしそうに笑う彼は、心なしか子どもの頃の彼の姿と重なる。城を抜け出して城下町を練り歩いた時――もしくは陛下の目を盗んで、茶会中に抜け出した時。彼はいつも年下の私を守りながらも、目を輝かせて笑っていた。
「アリス?」
だが、あの頃の二人には、もう二度と戻れない。息を荒らげていたはずの彼は、いつの間にか呼吸が整っている。――唾液が効いたのかしら。理由は不明だが、状態が良くなったのであれば、これ以上無理に彼の近くにいる必要もない。私は悪魔憑きで、愛する者には必ず不幸が与えられる。
「もう、終わりよ」
冷たく言い放ちながら彼の胸に手をついてその体を押し、上体を起こしてベッドから足を下ろす。悪夢を引き止める理由もないだろう。そう思い込んで、いつの間にか乱されていたシャツのボタンを留めて、床についた足に力を入れた。――そのはずが、私の体がベッド脇に立ち上がることはなかった。
「まだ終わってない」
耳もとにその言葉が囁かれるのが早いか、それとも私の体がベッドの上に戻されるのが早いか判別がつかなかった。
「どうせ悪夢なら、俺の欲望のまま君を汚してもいいんだな?」
まるで独り言のように呟かれた言葉の意味を考えている暇はなかった。状況が飲み込めず、目を見張っているうちに彼の熱い唇が私の首筋を吸って甘噛みする。
「っ、ぁ」
その甘やかな刺激に思わず悶えると、彼はますます熱心に私の首筋に口付け、少し前に留めたはずのボタンをするすると解いていった。
「町娘の服も、君が着ると上品に見えるな」
「っ、あっ」
私が咎めるよりも先にエプロンドレスのエプロンが取り払われ、さらにボタンが外されていく。あまりの勢いに胸元がはだけ、隠そうと両手に力を入れても、それが見破られていたかのように拘束されて胸の膨らみを甘噛みされる。
「っ、ぅ、ん……!」
今までに感じたことのない刺激に全身がぴくぴくと小刻みに動いてしまう。ルード様はそれを真上から見下ろして、少し前に甘噛みした左胸のあたりを指先でなぞった。
「噛むとすぐ痕がつくんだな。全身に印をつけてしまいたいところだが……」
私の耳もとに囁きながら、耳殻を舐め口付けてくる。猛攻に耐えられずに顔を背けると、彼はいかにも機嫌が良さそうに鼻を鳴らして笑い、私の頬に口付けた。
「アリス、俺を見てくれ」
「っ、」
唆すように囁かれ、反射的に首を横に振る。そうするとそれを咎めるように下着のリボンを解いてドロワーズを下げられた。
「っ、だめ」
「伴侶ならすべてを見せても問題ない」
とんでもない言葉に慌てて振り返ると、彼は私が顔を合わせるよりも前から私の顔を見つめていたらしく、真っ直ぐに目が合った。
瞳が熱い。新緑の瞳が、心なしか赤く光って見える。
『いい? アリス、瞳が赤く見えたら、本当に危険な証拠よ。すぐにでも体液を飲ませないとだめ!』
沸騰してしまいそうなほど恥ずかしくて目を逸らし続けていたのに、ふと彼の瞳が視界に入って急激に背筋が冷たくなった。
「アリス?」
「キス、キスがしたいです」
慌ててその言葉を口にしながら体を起こして両手を彼の首に巻き付ける。そのまま唇を重ねると、彼は一瞬ぴくりと肩を揺らしてから、余裕がなさそうに眉間に皺を寄せ、すぐに私の体を抱きしめた。至近距離で熱い瞳が私を射抜くように見つめ、言葉なく再び唇が重ねられる。
「っ、ん……ふ、っ」
彼の舌が私の歯列をなぞって舌を吸い、呼吸を奪うように角度を変えて唇を喰む。その間にできる限り唾液を流し込んでも、意識を飛ばしそうになりながら見上げた彼の瞳は赤いままだ。
――カナリア、どうしよう。やっぱりキスだけじゃだめなの?
「アリス?」
方法はまだあと二つある。だが、そのうち一つは絶対にだめだ。
「アリス」
考え込んでいると、息を乱したルード様に顎を掬い上げられて視線が絡んだ。
「考え事か?」
幼い頃とは違うきりりとした瞳は、心なしか眼光が鋭く見える。私の深淵を覗くような目線は、無性にここからどこかへ逃げ出したくて堪らない気持ちにさせる。しかしながら、彼を救うことができるのが私一人である以上、羞恥心など捨て去るしかない。
ぐずぐずしていたら、彼はなぜか私を人生の伴侶だと思い込んでいるせいで事が進み、彼の純潔を奪ってしまうことになる。確かにそれは彼を救う方法の一つではあるのだが、王位を継ぐべき彼と私の間にはそれだけは絶対にあってはならない。
――それならば私は、もう一つの方法を試すしかない。
意を決して彼の右手に触れ、その手を私の足の間へと誘う。
「っ、アリス」
そうして両脚を立てて足を開き、まじまじとそこを見つめる彼の耳元に囁いた。
「私のここを、どうか召し上がって」
囁き終わったその瞬間にはすでに顔が発火しているみたいに熱くて、顔を上げることもできない。あまりの恥ずかしさに火を吹いてしまいそうだった。そのせいで彼の反応を見ることはできなかったが――。
「っひぁ」
次の瞬間、両脚をがっしりと力強く掴まれ、息つく間もなく背中がベッドに押し付けられた。
熱く真剣なまなざしが突き刺さる。その熱でとろけてしまいそうだ。
「誰からそんな言葉を教えられたのか、問い詰めたいところだが」
彼は私の両脚を開かせたまま折り畳む形で固定して、上から私を見下ろしてくる。その瞳の鋭さに無意識に呼吸が止まった。
「君のリクエストに応える方が先だ」
真顔のまま彼が私の瞳を見据え、唇を私の陰部に寄せていく。その淫靡な光景に目眩がして、思わず強く目を瞑ったところで湿った何かがぬるりと陰核に触れた。
「っ、ひああっ!」
覚えのない強い刺激に無意識に甲高い声が上がって慌てて口元を押さえる。そうするとそれを咎めるように再び何かが私の恥部に触れる。恐ろしくて目を閉じ続けていたいのに、あまりの刺激の強さに閉じていられず目を開けると、彼は私の股の間に顔を埋め、挑むように私を見上げていた。
「っ、ああっ、あ、」
「アリス」
ルード様はまるで、この淫らな触れ合いをしている相手が己なのだということを刻み付けるように私の名を呼び、私の顔を見つめ続けている。その唇がてらてらと濡れているのを見て、瞬時にかっと顔が熱くなった。
「やっぱり、だめ…‥っ、ひああ!」
拒絶をしようとすると、陰核を甘噛みされる。強い快楽に身を取られて、藻掻きながらおとがいを反らせた。そうすると今度は彼の指先がぬめった陰核をかりかりと引っ掻く。
「あっ、あああっ!」
今まで意識したこともないようなところから、とぷりと粘性の何かが分泌されるのを感じる。しかしそのことを恥じる間もなく彼の唇が蜜口に触れ、はしたない音を立ててそれを啜った。
「っ、だめっ……っ、あ、っだめ……!」

