
悪女と噂される私が、元婚約者のはずの王太子に溺愛されるなんて聞いてません!
著者:太田まりえ
イラスト:逆月酒乱
発売日:2026年 7月31日
定価:710円+税
グロリア侯爵令嬢は幼い頃から王太子イーリスと交流を重ね、やがて彼の婚約者となった。
しかし、社交界で「悪女」の噂を流され、孤立してしまうグロリア。
彼女は、イーリスのために自ら婚約解消を申し出て、隣国への留学を決意することに。
三年後、帰国したグロリアが再び社交界に現れると、イーリスと偶然にも再会を果たすのだが!?
なぜかイーリスは婚約破棄を認めておらず、グロリアへの想いを伝えてきて――。
「ずいぶんと初い、愛らしい仕草を見せるのだな……」
自身の気持ちもあり、三年前とは様子の違うイーリスからの情熱的な愛撫を受け入れるグロリアだったが……!?
【人物紹介】
グロリア・フォーセット
フォーセット侯爵家の令嬢。
派手で目を引く目鼻立ちと体型をしているが、本人は目立つのが好きではない。
責任感が強く、影で「悪女」と噂されていたことをきっかけに隣国へ留学していた。
帰国後、イーリスと再会するも、彼から「婚約破棄など認めていない」と言われてしまい――!?
イーリス・トマス・ブランクール
ブランクール王国の王太子。グロリアの婚約者。
幼い頃から王族としての教育を施されており、感情表現が乏しい一面も。
グロリアと再会後、彼女を逃がしたくないとばかりに、溺愛してくるようで……?
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【試し読み】
唇を重ねたことで彼から酒気を移されてしまったかのようで、グロリアの理性が大きく揺らぐ。
「久方ぶりに酒を飲んだ。――いや、飲まされた、というべきか」
「断れば良かったでしょう?」
イーリスが酒に弱いことは公にされていないはずだが、王族に無理強いができる者など、少なくともこの国には存在しない。彼が酒杯を断れば、それで話は済んだはずだ。
自分を抱きしめたまま話そうとしない目の前の男が、体質的に酒を受けつけないことを思い出し、グロリアは、努めて冷静にそう切り返す。
しかし、キスで息が上がったままでは上手くいくはずもなく、イーリスはひとつ失笑を落とすと、彼女の肩に落ちる赤毛を指先で摘んだ。
「勧められた果実水のどれかに強烈な酒が混入されていたんだろう。よくあることだ」
「よくある、って……」
「無理矢理にでも既成事実を作ろうとする貴族令嬢は腐るほどいる。本人だけじゃなく親や兄弟も含めれば、その数は、二倍や三倍以上だ」
彼が酒に弱い体質であることを知っているのかどうかは定かではないが、つまり、イーリスを酔わせ、何かしらの口実を設けて彼と褥をともにし、その既成事実に基づいて王太子妃にのし上がろう、あるいは、娘や妹を王太子妃に据えよう、という魂胆だろう。
呆れて言葉もないグロリアに、イーリスは、ふっ、と小さく鼻先で笑った。
「いつもなら怪しい飲み物はすべてマーカスが引き受けてくれるが、今宵は、あいつも夜会に出席していなかった。俺の落ち度だ。仕方ない。何を勘違いしているのやら、特に、俺たちの婚約破棄の噂が広まってからその数が増えている気もするがな……」
「そん、な……」
グロリアと同じ年齢のイーリスは、今年で二十六歳。
もしかしたら自分が国を離れているあいだにイーリスは次の婚約者を見定め、結婚して、早ければもう子どもを授かっているかもしれない――。
そう考えたこともないわけではないが、彼女の知る限り、彼は未だ独身のようだ。次期国王のイーリスが配偶者を娶らぬままでいられるはずもなく、そこには想像以上の軋轢や策略や駆け引きがあるのだろう。
驚きと同情の混じったグロリアの声に、イーリスはまた小さく笑った。
腰を抱く彼の腕に力が籠もり、グロリアの髪を弄んでいた手が、自然な動作で彼女の頬へと舞い戻る。
「悪いな、グロリア。再会したらどうしようか幾度も考えていたのだが、今宵、酒のせいで理性が効きそうにない」
「ん、ふっ――」
青みがかった灰色の瞳に妖しい翳が燻った。
直後、ちゅ、と啄むような口づけがひとつ与えられ、落ち着きかけていた呼吸がまたもやペースを乱す。
「婚約破棄など認めていない」
「え――……?」
「俺は同意していない。だから手続きも完了していない。あくまでも書類上であり形式上だが、俺の婚約者はあの頃も今も、グロリア、おまえだ」
婚約が解消されていない――?
驚愕で目を見開いた彼女のその後のささやかな反抗を見越してか、イーリスがしなやかな上半身を彼女に沿わせ、身動きを封ずる。そのまま、まるで優美なダンスを踊るような仕草でふたりの身体を反転させると、次の瞬間、グロリアの肉体はふたりがけのベンチに押しつけられていた。
満天の星を背景にして、イーリスの少し伸びた髪が、微かに蜂蜜色を帯びる。
影に隠れた表情からも男の色香は隠しようがなく、彼女を射抜く双眸には明らかな情欲の気配を感じた。
「三年間ずっと出し続けた手紙もすべて無視された。これが他の女であれば早々に諦めるところだが、――」
そこで不意に言葉を切ったイーリスは、思わせぶりにベンチに――ちょうどグロリアの耳横に手をつき、そのまま器用に上体を倒した。口づけ寸前まで近づいた美貌に小さく息を呑めば、まるで彼女の期待に応えるかのように、酒精の気配の残る唇が一瞬だけ触れる。
「なぜ俺から逃げた……?」
悲しげな声だった。
傷ついた、そして、ずっと闇雲に答えを求めているかのような問いだった。
「ですから、迷惑だと何度も――」
「下手な嘘で俺を誤魔化せると思うな」
「……っ!」
初めて聞くイーリスの感情的な荒ぶった声が、噴水の音も風の音もかき消し、グロリアの耳に突き刺さる。それでも恐れる気持ちにならなかったのは、彼女を見下ろす男の青灰色の眼差しが不安げに揺れているのを感じ取ったせいかもしれない。
(こんなイーリス、知らない――……)
出会ったばかりの幼少期を除けば、婚姻の約束前はおろか、婚約者となってからも、彼は一貫して感情の起伏を表に出さないタイプだった。心を伴わない〝契約〟と〝妥協〟のようなものだから、そんなものだろうと思っていたし、グロリアの方でも、そこに不満があったわけではないけれども。
「グロリア……」
過去と現実の狭間を彷徨っている彼女を最初に呼び戻したのはイーリスの囁きで、次いで、大きく体温の高い乾いた手が彼女の頬から首筋へ、首筋から鎖骨へと滑り落ちる感触がした。
ほとんど初めてと言っていい過激なスキンシップはとどまることを知らず、男の手は、そのままデコルテラインをなぞり、ふたつの大きな膨らみの谷間へと沈んでいく。
「ああ、本物だ」
「……ぁ、待っ……イーリス……」
「待たない」
そう言い切った少し強めの低音には似つかわしくない、ふにゅ、と音でもしそうな繊細でやさしい愛撫に、グロリアの吐息が漏れる。
「……ん、……ふ、っ……」
男の手にもあまる左の膨らみは、やわく揉まれてかたちを変える。そのたびに、じわじわと触れ合う場所から淫靡な熱が全身へと広がっていくようで、羞恥に顔が火照る。
「想像していたよりずっとやわらかい……」
「え……?」
想像していた、と、イーリスは、そう言っただろうか。
動きが鈍った思考力でも、かろうじて、それが彼女の胸を指しているのだということは理解できた。解せないのは、それを言ったのが婚約期間でさえ自分にほとんど興味のなさそうだった元婚約者だという事実で、思わず目の前のイーリスをまじまじと見つめてしまう。
(私、を……? 想像していた……?)
彼女の戸惑いを察したらしく、イーリスは、自嘲ぎみに口角を上げた。
どうやら、酔うと笑い上戸になるというグロリアの仮説は、あながち見当違いでもないらしい。
「何がおかしい。俺も男だ。グロリアを抱くことを夢想していた。――ずいぶん前から、毎夜毎晩、な」
男。
抱く。
毎夜毎晩……。
極めて生々しい言い回しが続き、ただでさえ限界寸前の頭が思考を止める。
だが、いずれにしてもイーリスは彼女に考える暇を与えるつもりなどなかったようで、気づいたときにはドレスの胸元が大きく割り開かれていた。浅い切り込みのあるシンプルなデザインは逆にイーリスには都合が良かったようで、はだけた場所からふたつの白いふくらみがまろび出る。
「……だ、め……誰か、来ちゃ――……」
「大丈夫。ここには誰も来ないように言ってある」
では、なぜ自分は中庭にすんなり来ることができたというのか。
その疑問を口にする前にイーリスの唇が、胸骨をかすめ、グロリアのやわらかな右のふくらみを捕らえた。
「ぁ、ああっ……!」
夜風よりもはるかに高い熱を彼の粘膜に感じるのと同時に、ちゅく、と小さく吸いつかれるのを感じる。歯を立てられているわけでもないのに一瞬だけちくりと痛んだそこは、イーリスが唇を離せば、うっすらと鬱血痕が見て取れる。
所有欲とも独占欲とも錯覚しそうになる薔薇色の印に、驚いて元婚約者を見上げれば、彼はまるで悪戯に成功したかのように目元を緩ませていた。
「肌が白く、やわらかいから、俺の痕が驚くほど映えるな……」
「何、を……ん、っ!」
自分でもいったい何を問おうとしたのかわからなかったが、どちらにせよ、グロリアの言葉は半端なところで途切れた。愛おしげに赤い所有痕をひと撫でしたイーリスの指が、そのままそっと胸の先端に触れたせいだ。
いつの間にかすっかりドレスの布地から露出してしまった乳嘴は、くにゅくにゅ、と、音でもしそうなほどに執拗に捏ねられ、その刺激で甘い熱が全身へと広がるのを感じる。
「イー、……リス……」
要領を掴んだのか、イーリスは美貌の顔を幾度もグロリアの胸元や首筋へと近づけ、そのたびに真紅の痕を残していく。
「やはり、抵抗しないのだな……」
「……っ――!」
それだけの言葉でグロリアを追い込んだのもイーリスだったが、返事に窮した彼女にふわっとほころぶような笑みを見せたのもまたイーリスだった。
(こんな、知らない……)
自分の知る彼は、少なくともこんなに表情豊かでも態度が甘くもなかった。大人になるにつれグロリアには彼の感情を読むのが難しくなり、形式的なやりとりばかりとなっていたのに――。
肉体的な刺激ももちろんだが、それよりも精神的な刺激の方がずっと強くて、グロリアは、こぼれてしまいそうになる喘ぎ声をなんとか呑み込む。
けれど、それが気に入らないとでも言いたいのか、イーリスは、ぴんと張りつめた左胸の先端をそっと口に含んだ。
夜風に晒されて冷えていた乳嘴が熱い舌に絡みつかれ、それだけできゅっと背骨に痺れが走る。それは、決して不快なものではなく、むしろ原始的で甘美でひたすらに甘い震えだった。
「ぁあ、っ……ん、ふ……」
ちゅくちゅくと舌で舐め扱かれ、そうかと思えば、次いでちゅっと甘く吸い上げられ、喘ぐ合間に酸素を求めれば、そのタイミングで今度は反対側の敏感な突起を指で捏ねられる。びくびくとしなる身体は完全に熱を帯び、男の視線に射抜かれるだけでたちまち理性を失い、本音を吐露してしまいそうだ。
(大好き――。本当は、離れたくなどなかったの……)
グロリアの胸の谷間に名残惜しげに口づけを落としたイーリスは、けれど、ここでやめるつもりなどないようで、器用に右手でドレスの裾をたくし上げる。
「……ゃ、駄目、そこは――……」
弱々しい拒絶の言葉が口をついて出たのは、婚前交渉を拒むための道徳的な貞操観念というより、単純な羞恥だった。
(だって、すごく濡れて――……。淫乱だと思われてしまう……)
社交界の影でこそ〝悪女〟という芳しくない呼び名で囁かれているが、グロリアは処女だ。
イーリスと婚約していた頃も、当時の彼は肉体的な接触は最低限で、夜会でエスコートされたり散歩中に手を貸してくれたりした程度。
性に関する知識は一応、ひと通りは家庭教師に教わっているし、隣国で学んでいたのが看護学だったこともあり、経験がなくとも自身の秘処が今しっとりと濡れていることは自覚している。それに、それが、性的興奮――より正確に言えば、イーリスの愛撫と視線によるものだということも、理解していた。
グロリアの拒絶の真意を探ろうとしているのか、手を止めたイーリスだったが、まじまじと彼女を見つめた後、ふっとまた小さく微笑んだ。
「ずいぶんと初い、愛らしい仕草を見せるのだな……」
「え……?」
愛らしい、という、褒め言葉と取れる言い方に戸惑ってイーリスを見つめ返せば、心なしか彼の頬も赤く染まっていた。
酒に酔っているせいだろう、と思いつつも、鈍く色香を放つ青灰色の瞳には、今まで見たことのない感情が見え隠れしているようにも思える。
見惚れているうちに、彼の方は早々にグロリアの拒絶が本意ではないと察したようで、熱を帯びた手が躊躇なく太腿を撫でる。薄いストッキング越しに感じる体温は、ガーターベルトに沿って内へと回り、やがて秘処に辿り着いた。
「……ぁ、はっ……」
貴族の女性が身につける下着は、華奢なレースをあしらった、布面積の極めて小さなものだ。その頼りない布地も、今はおそらく淫靡な蜜で濡れ、ほとんど役目を果たしていないだろう。
今更ながらに遠くの夜会の楽団の音が聞こえ、その軽やかな音色に混ざるように、グロリアの恥ずべきあわいがイーリスの指の動きに合わせて、ちゅく、と、いやらしい音を響かせた。
「ゃ、ちが……!」
下着ごと割れ目を撫で上げられ、指先で軽く秘裂を掻かれて、羞恥と恐怖で小さな悲鳴が漏れる。
だが、全身を強張らせた彼女にイーリスが与えたのは、予想していた嘲笑や軽蔑ではなく、歓喜と恍惚の表情だった。
「まだかたいな……」
そう独りごちた元婚約者は、伸び上がるようにして上体をグロリアのそれに重ねると、器用に左腕で彼女を抱きしめた。より密着したことでレモングラスの香りが鼻腔をくすぐり、少しだけ落ち着きを取り戻す。
「安心しろ。ここで最後まではしないから――」
それは、最後までしないけれど、まだ続けるという意味だろうか。
グロリアがそう理解した瞬間、イーリスの右手は、するりと彼女の下着の隙間から中に滑り込んだ。
「……ぁ、……んんっ!」
隔たりがなくなり、男の少し節張った皮膚が直接彼女の蜜口を愛でる。
そこがたらたらと淫液を垂らしていることは明白で、ぬめりを帯びて滑りの良くなった二本の指が、優しく上下に往復する。
「ん、ふっ……」
甘ったるい声を抑えられず、かといって、イーリスの鍛え上げられた肉体に抱かれていては、逃げることはおろか、快楽を受け流すこともできない。
「イー……リス、おねが……声、出ちゃ……」
幼子が甘えるときに出すような、何かを強請る声を出している自覚はあった。けれど、そうしているあいだにも、くちゅりちゅぷり、と水音を立てて規則的な動きを繰り返す指に翻弄されては、頭も回らない。
無意識に伸ばした両手が彼の上質なジャケットを掴み、それを合図にしたのか、イーリスが無言のままグロリアの唇を自身のそれで塞ぐ。
「ん、……んんっ、……ふ、っ……」
直後、頭が焼けつきそうな官能的な刺激は、その趣向を変えた。
「んんんっ――……!」
薔薇の葉を思わせる濃い緑色のドレスの裾は大きくはだけ、夜風に吹かれた秘処が小さく震えた気がした。それも一瞬のことで明確な意思を持って蜜壺を滑り上がった指が、そっと二枚の襞を割り開き、その上部に秘された真珠に触れる。
触れる、というより、包む、という方が正しいだろうか。
たっぷりと蜜をまとったその指が、くにゅ、と淫核を撫で転がし、そのたびにびくびくとグロリアの身体がしなる。強烈な快感がお腹の奥に溜まっていく不思議な感覚に、いつの間にか靴の脱げた片足を含め、足指がきゅっと丸まった。
慎ましく隠れる淫芽の存在は知っていたが、その敏感さを生まれて初めて教えられて、口づけのあいだに甘ったるい嬌声が溢れる。
「ん、ぁ……ふ、んぅ……!」
ぐにぐにと転がされ、上下に擦られ、時に男の指の腹でやさしく押し潰される。容赦のない官能の波がこれでもかと続き、もともと判断力の落ちていたグロリアの頭は、一切の思考を手放した。
(気持ち、いい……)
ディナージャケットを掴んでいた両腕をイーリスの背に回してぎゅっとしがみつけば、いつからか彼女の口内に入り込んでいた彼の舌が嬉しげにうち頬を舐める。
深まるキスのせいで、どちらのものかもわからない唾液が顎を伝うが、構っている余裕などなかった。
(も、だめ……なにか、来ちゃう……)
本能的にそう悟ったのと、イーリスの舌に自身の舌を絡めたのは、おそらく同時だった。
「ん、んんっ――……」
少し遅れて、むき出しの胸が厚い胸板に押しつぶされ、過敏なふたつの蕾がまた快楽を拾う。
舌。
乳嘴。
そして、淫核。
すべての愛撫が同じリズムを刻んだ、その瞬間――。
「――っ、んんんっ――……!」

