わけあり御曹司の契約妻になったら、本気の渇愛が待っていました ~その結婚、お受けします!~

書籍情報

わけあり御曹司の契約妻になったら、本気の渇愛が待っていました ~その結婚、お受けします!~

著者:奏多
イラスト:北沢きょう
発売日:2025年 9月26日
定価:640円+税

 

潰れかけの割烹店「はんなり」の二代目女将・椛は、かわいい双子を保護したことをきっかけに、双子の父親・周から資金援助を提案される。
しかし、資金援助には条件があり、それは周と結婚し双子の母親になることで――!?
偶然出会った周は椛も名を知っていた有名巨大ホールディングスの社長で、母親のいない双子の世話をできる人間を探しているらしい。
育ての母・花との思い出がつまった「はんなり」を救うために条件を呑んだ椛は、いきなり双子の母に、そして周の妻になったのだが……?
「きみは俺のものだ。これからは好きに……愛させてもらう」
双子を通して徐々に本当の家族のようになっていく四人。いつしか周と椛も自然と惹かれあっていくが――……。



【人物紹介】

井川椛(いがわ もみじ)
割烹店「はんなり」の二代目女将。29歳。
はっきりとした顔立ちの美人で、性格も明るく面倒見が良い姉御肌。
幼い頃、実の母親から捨てられ彷徨っていたところを育ての親である花に拾われた。
ある日、かわいい双子の子供と出会い……!?

来栖周(くるす あまね)
来栖ホールディングスの社長で、椛が出会った双子の保護者。32歳。
男らしい端正な顔立ちの美丈夫で、性格もクールだったが、椛と出会い変わっていく。
双子のために家政婦を雇うも、周へのアピールのため暴走されて辟易していたらしくーー?

●電子書籍 購入サイト

*取り扱いサイトは、各書店に掲載され次第、更新されます。

【試し読み】
 

 東京の下町の一角にある割烹店「はんなり」。
 手頃な価格で本格和風料理を楽しめる、洒落た居酒屋風の店である。
 この店がオープンしたのは、二十年前。
 井川花という名の気風のいい女性が、自分の原点として開いた店で、「花なり」という自己主張をもじって、「はんなり」という店名にしたようだ。
 狭い建物のため集団客は入れない。専ら仕事帰りの個人客が多いが、彼らは料理だけではなく、美人女将である花を目当てに通う客も多かった。
 しかし花は独身だが小さな娘がおり、その子ども以上に愛せる相手はいないと豪語していたため、「これはまた失恋した」との客の声と、笑い声が絶えなかった。
 そんな花が半年前に病気で亡くなり、はんなりは花の娘である椛が、二代目女将として受け継いだ。
 椛は今年二十九歳。大学時に花の病気を知らずに独り暮らしを始め、亡くなる直前までOLをしていたが、花の生きがいだった店を受け継ぐために退職した。
 花の亡き後、料理が苦手な椛は、板前の修行中だった幼馴染みを引き込み、本格料理を味わえる店としてなんとか経営していた。だが周辺に競合店が増えたのと不況がのしかかり、経常利益は下降の一途。
 金策に走って色々と手を尽くしていたが、とうとう来月に店を畳まないといけないところまで、追い詰められていた。
 梅雨入りしたばかりの六月――。
 雨は降っていないものの、朝からじめじめと不快な天候の日だった。
 午後三時。
 緩やかなウェーブがかかったチョコレートブラウンの髪をまとめ上げ、涼しげな水色の着物を着た椛が買い物を終え、野菜の入ったレジ袋を手にして戻ってきた。
 意思の強さを感じさせる、はっきりとした目鼻立ちの顔。
 右も左もわからぬまま女将を引き継いだ時には、おろおろとどこか落ち着きがなかったものだが、二年間の苦労が彼女に、女将としての貫禄と成熟した色気を引き出した。
 花が遺した着物は椛の戦闘着。
 今では袖を通すだけで、気持ちが引き締まる。
 とはいえ、希望が断たれた資金繰りや、暗い今後を思うとげんなりしてしまう。
(将人と美奈ちゃんと、則子さんの給料……。なんとしても捻出しないと)
 将人というのは、同い年で幼馴染みの板長、植原将人のことだ。
 凜々しい顔立ちをした好青年で、洋食店を経営する両親に反発して、専門学校を出ると有名割烹店に修業に出た。
 その彼を口説き落とし、今では板長としてなくてはならない存在だった。
 戸村則子は、花が経理と仲居として雇っていた四十代の女性で、その娘で二十歳になったばかりの美奈とともに、店が忙しい時間帯には調理補助や仲居のパートをしてもらっている。
「大学でわたし……経営学を学んでいれば、立て直すことができたかもしれないのに」
 何度同じことをぼやいたことだろう。
 不景気の現在、料理やサービスの質が落ちても廉価な大衆居酒屋が流行っている。
 古参の馴染み客もついているはんなりは、いい店だと自信を持って言えるのに、不況の荒波に勝つことができない。
「テレビや雑誌ではんなりを宣伝してくれないかしら。美人女将がいる店とか」
 自分で言って虚しくなり、思わず肩を落としてしまった。
 それだったら、イケメン板長がいる店という看板の方がよほど現実的だ。
 店の前の貼り紙が目に入ると、椛はため息をついた。
 貼り紙には『閉店のお知らせ』と書かれ、見るたびに切なくなる。
(花さんのお店、なんとしても守りたかったのに……万策が尽きてしまった)
 椛がぐすりと鼻を啜った時である。
「どうして言うことを聞かないの!」
 ヒステリックな女の声が響いた。
 店を通り越した少し奥に、大人の女性とふたりの子どもの人影が見える。
 椛がゆっくりと歩きながらそちらを注視していると、また女の甲高い声が聞こえて、パシーンとなにかを叩く乾いた音が続いた。
 若い女が、連れているふたりの子どものうち、男の子の腕を叩いたのだ。
「顔を叩かれなかっただけでも感謝しなさい。この悪ガキ!」
 すると今度は女の子が、若い女の腕に噛みついた。
「イタタタタ。なにするのよ!」
 女が少女を突き飛ばす。少女が地面に叩きつけられそうになった瞬間、椛は手にしていたレジ袋を放り捨てて、滑り込むようにして両手で少女を受け止めた。
「間一髪……」
 とはいえ、着物は泥にまみれ、袖が捲り上がった腕は擦りむいてしまった。
 それを心配そうに見る少年と少女――その顔は瓜二つだ。
(可愛い~。双子ちゃんか)
 小学生になるかならないかの五、六歳ぐらいだろうか。
 しかし顔を緩めているどころではない。
「子ども相手に、こんな暴力を振るうなんて……虐待を通報されたいんですか!?」
 双子を背にして、椛は毅然と女性に言い放つ。
 女性は若そうだ。二十代くらいだろうか。
「誰が虐待ですって……?」
「あなたに決まっているでしょうが。母親なら愛を注いでください!」
 椛は花の養女だ。実の母親はシングルマザーで、酒と男に溺れて椛を厄介者扱いした挙げ句、遠出しようと東京に来た時に、椛をひとりにして消えた。
 実の母親に捨てられたのだった。
 雨に濡れてとぼとぼと歩いていたところ、独身の花に拾われた。
 彼女は当時なにも言わなかったが、裏では実の母親と連絡を取り、毒親であることを反省しないなら自分が娘に貰うと、啖呵を切って椛を育ててくれたのだ。
 東京の下町育ちらしく、真っ直ぐ一本気で、困った者は見捨てられない姉御肌。
 椛にとって花は、母でもあり人生の指針となる人でもあった。
 実親が子どもを虐待するのを見聞きするのは、葬り去ったはずの記憶を抉り出されて、胸の奥がキリキリ痛む。
 親には親の事情があるのかもしれないが、子どもにとっては一生消えぬ傷として残るのだ。骨に刻まれた烙印のように。
「なにも知らない部外者が、黙っていてくれます?」
 女性から冷たく言い返される。
「だったら、黙っていられるだけの愛情を注いでくださればいいじゃないですか」
「あなたねぇ!」
 そんな時である。
 女性がある一点を見るなり青ざめた顔をして、走り去ってしまったのだ。
「え、ちょ……」
 双子を残して。
(赤の他人のわたしに押しつけて、普通逃げて行く!?)
 椛の中で忌まわしい記憶が蘇る。
『お母さん、お母さん、どこ……?』
 身体から体温を奪う冷たい雨に打たれながら、母を探して彷徨ったあの頃。
 どんなに探してもいないとわかると、怒りや悲しみより、絶望にも似た虚無感に景色は黒く染まり、自分が暗闇に溶けていくようだった。
 花と偶然出会わなかったら、今頃自分はどうなっていたかわからない。
(そんな思い、この子たちにさせるものか……!)
 母親を追いかけようとした時、子どもたちが椛の背後を見つめて叫んだ。
「パパ」
「パパだ!」
 その声に振り返ると、ゆっくりと姿を現したのは、艶やかな黒髪をしたスーツ姿の長身の男性だった。
 冷ややかな鋭さを宿した切れ長の目。
 氷の彫刻のような精緻な顔立ち。
 覇者のような威圧感を放ち、近寄りがたい印象を受ける。
 爽やかな印象がある板長の幼馴染みとはまた違う、大人の男の美貌だ。
(すごいイケメン……。モデルか芸能人かしら?)
 思わず見惚れてしまったが、男の声ではっと我に返った。
「子どもをどうする気だ」
 その端正な顔に浮かぶものは、明らかに好意的ではない。
「おい、この腕はどうした」
 男は目を吊り上げて、少年の赤く腫れた腕を見る。
「……お前か?」
 威圧的なその目に、ギンと敵意が強く込められた。
(まさか、わたしが子どもたちに危害をなす側だと勘違いしているの?)
 それはあんまりではないか。
「わたしではありません。今までここでこの子たちに手を上げていた母親です」
「母親……?」
 自分の妻がここにいたことも知らなかったのだろうか。
 美形の凄みは迫力があるが、椛は怯まなかった。
(こっちは地上げしにきたヤクザにも引かなかったのよ。度胸なら負けるものですか)
「初対面のわたしを詰る前に、母親を再教育して子どもたちを守ったらどうです?」
 椛は言い放つ。虐待の現場を知らず、赤の他人に責任転嫁する父親に、現状を知ってもらいたかった。
「母親の行動が子どもに与える影響を、父親であるあなたがきちんと把握し、対処してください。母親が子どもたちを虐げるというのなら、父親であるあなたが身体を張ってでも子どもたちを守るべきです、目を離さずに!」
(わたしには父親がいない。父親のように身体を張ってくれたのは花さんだった)
 男は黒曜石のような瞳をじっと椛に向けている。
 神秘的な黒色に思わず吸い込まれそうになりながら、椛はぐっと踏ん張って続けた。
「親に甘えたい盛りの子どもたちから、愛情を飢えさせないでください!」
 愛が枯渇し、絶望していたあの頃。
 花がいなければ、生きていられなかっただろう。
 親から愛されなかった分、花から思いきり愛を注いでもらった。
 ――もーみじ、愛してるよ!
 ――花さん、暑苦しいからあっちいって!
 ――冷たいなーもう。お母さんって呼んでよ。
(照れてしまって、母と呼べぬうちに花さんは急逝してしまった。取り返しのつかないことになる前に……)
「人間、いつどうなるかわからないの。生きているうちに、この子たちがそばにいるうちに……この子たちがもういらないって逃げ出すほど、たくさん愛を注いであげて!」
 椛は自身のことを思い浮かべ、悲鳴のような声を上げた。
 椛は肩で息をしながら冷静になると、子どもたちも父親も、ぽかんとした顔で彼女を見ていることに気づく。
(やば……。初対面の親子相手に、なにひとりで熱くなっちゃったんだろう)
「ええと……」
 戸惑う椛に、双子はぎゅっと抱きついてくる。
(この子たちには、伝わったのかな……? しかし……可愛いなあ)
 椛は両手で双子の頭をわしゃわしゃとして微笑んで見せると、双子ははにかんだような愛らしい笑みを見せてくる。
(双子ちゃんは天使のようなのに、お父さんは魔王みたいで怖いね……とは言えないけれど)
 椛に魔王扱いされた男はじっと椛と子どもたちを見ていたが、やがて地面に散らばるレジ袋と野菜に気づいたようだ。
 てきぱきと拾い集めると椛に手渡し、店のビラを指さした。
「その着物と野菜……もしかして、そこの店の人?」
 〝店の人〟という言い方がなにかカチンとくる。
「はい、割烹『はんなり』の女将、井川椛です」
 自棄になりつつ、胸を張って名乗ると、男は貼り紙を一瞥して鼻で笑う。
「来月までの女将か……。まあ客が来なさそうだしな」
(いちいち引っかかる言い方するわね。もしかして意趣返し?)
「ええ、閑古鳥なんで来月閉店、女将も廃業です! それがなにか?」
 鼻息荒く尋ねると、男は少し考え込み、そして言った。
「資金難なら、俺が援助してやろうか?」
「え?」
 唐突に提案した男は、背広の内ポケットから名刺を取りだした。
 椛が手渡された名刺には『KURUSUグローバルリゾート』代表取締役社長、来栖周とある。椛はその肩書きに覚えがあった。
「『KURESUグローバルリゾート』って……来栖HDのKGリゾート!?」
 すると男は意外そうな顔をして答える。
「ほう、異業種なのによく知っているな」
「……女将をやる前に、小さなリゾート会社の事務をしていまして。お噂はかねがね。だとすれば来栖姓のあなたは年齢的に、HDの総帥で会長のお孫さん? ご病気のお父様から社長職を引き継がれたという……」
「その通り。長男だ」
 椛はくらりとする。
(まさかこんな下町の裏通りに、そんな大物が現れるなんて……)
 椛はOLをしていた頃に、同い年の同僚たちが言っていたことを思い出す。
 ――大企業のKGリゾートに就職して、御曹司をGETする予定だったのに、なにが嬉しくて、風が吹いたら飛んでいきそうなこんな小さな会社に……。
 ――御曹司って三歳年上の、魔王みたいな独特の威圧感があるイケメンよね。テレビで見たけど、ベテランレポーターが緊張で汗びっしょりだった。
 ――お祖父さんも厳格な支配者タイプだと聞いたわ。それに反してお父さんがにこにことした優男タイプだから、お祖父さんは次期総帥を息子ではなく、自分によく似た孫の彼にするとかしないとか。
 そんなことを思い出しながら、改めて目の前の男を見た。
(わたしと三歳しか違わないのに、覇者のオーラといい、感情を読み取れないところといい、一般人とは違うなにかを感じるわ……)
「俺の素性がわかっているのなら話は早い。KGリゾート社長として……いや、俺個人が資金援助をしてやる」
「な、なんでですか? それに個人がどうこうできる金額では……」
 すると男――周は超然と笑った。
「俺を誰だと思っている? この店の借金くらい返済できる。いくらだ? 一億か、十億か?」
 あまりの額に、椛はその場で飛び上がった。
「そ、そこまでの金額では……。五百万というところで……」
「いいだろう。即金で支払ってやる」
「そ、即金……いや……いやいやいや。縁もゆかりもないのに、個人的援助だなんてそんな危ない橋を渡るわけには……」
「だったら、予定通り店を閉めろ。金を貸してくれる当てもないんだろう?」
「……っ」
「せっかく無利子かつ十年払いくらいで貸してやろうと思っていたのにな」
(無利子で五百万を十年払い!? それならやっていける!)
「必要ないなら、帰るとするか」
 周が双子の背を押して立ち去ろうとするのを見て、椛は慌てて周の背広の裾を掴んで引き留める。
「ちょ、ちょっと待ってください! そのお話、もう少しお聞きしたいんですが」
「ほう。危ない橋を渡るのか?」
「ううっ、それは話をもっと聞いてからということで。だって初対面なのに、あまりに魅力的な提案をする理由がわからないので」
「子どもを助けてくれた礼とは思わないのか?」
「いや……そうした感謝と慈善に満ちた天使のご提案というよりは、どう見ても魂胆がありそうな悪魔寄りの方のご提案ですし……」
「……資金援助してやるという相手にすごい度胸だな」
 不機嫌そうなオーラに気づき、椛は慌てて謝った。
「ご、ごめんなさい。喧嘩を売っているわけではなくて……」
 そして椛は、周の目をしっかりと見据えた。
「ズバリお聞きします。援助を餌に、なにが目的なんでしょう」
 その問いかけがお気に召したらしい。
 くつくつと笑った周は、やがて笑みを消して言った。
「……きみだ」
 真っ直ぐとした眼差しで。
「きみが欲しい」
 途端に、椛は自分自身を抱きしめるようにしてじりじりと後退する。
「わ、わたしの身体に、五百万なんて価値は……」
「勘違いするな。そんなメリハリない貧弱な身体になど興味はない」
(な、なんて言われよう……)
 それでも間違っていないため、文句を口にできないことがつらい。
「俺が欲しいのは、この子たちの母親としてのきみだ」
「……はい?」
 双子の透き通るような茶色い瞳が、椛に向いている。
 子どものモデルでも通用する、天使のような可愛い外見だ。
(この子たちの母親が欲しい? なにを言っているのかしら)
「あのう、この子たちのお母様は、あちらからお帰りになられましたけれど。それともまさか、白昼堂々、脱法して重婚をしようとか……」
「俺は独身で、法を犯す気は全くない。きみが見たというのは、我が家の家政婦だ」
「……家政婦?」
「ああ。今月に入って何人目かの、金に目を眩んだ女だ。ミサキだろう?」
 周に聞かれた双子は、同時にこくりと頷いた。
「あのおばさんが、僕の腕をぺんぺんしたの」
「あたちをドンってしたの」
 双子は憤然と答える。
「あの人……お母さんじゃなかったの?」
 腰を屈めた椛が、子どもたちの目線の高さで尋ねると、ふたりはこくこくと頭を縦に振る。
「僕にはママはいないよ」
「あたちにもいないよ」
(なんと!)
「雇用関係にある赤の他人が、私情から子どもたちに暴力を振るっていたなんて! そんなの犯罪じゃない。警察に……」
 周は、憤る椛を見て面白そうに答える。
「こんな事例は初めてじゃない。警察に言う以上の報復は考えている。いつも通り」
 その返答に、椛の背筋に悪寒が走る。
(これは深く追及しない方がよさそう。多分、犯罪にならない程度のとんでもない報復をしたんだわ)
 引き攣った顔をする椛に、周は小さく笑った。
「俺は仕事が忙しい。その間の双子の面倒を家政婦に任せていたが、俺が面接をした時の顔と、双子を目の前にした顔は違うらしい。双子がやんちゃなのは認めるが、誰もが漏れなく手を上げ力で抑えつけ、双子を手懐けられる自分は母親に相応しいのだと俺にアピールする女が多くてね」
(まあ確かに、とんでもないイケメン御曹司と縁が出来たのなら、どんな手を使ってでも玉の輿に乗りたいという女性たちの気持ちはわからないでもないけれど)
 肩書きが優れていても、こんな不遜な男を夫にしたいと思わない自分は、女としてなにか欠陥しているのだろうか。
「あの、本当のお母さんは……」
「いないものと思ってくれ。俺だけがこの子たちの家族だ」
 なんともすっきりしない返答だが、母親としての役目を放棄しているのだろう。
「俺には妻はいない。だから――」
 周はじっと椛を見据えて言った。
「俺と結婚してくれ」

タイトルとURLをコピーしました