
別れたはずのハイスペ御曹司が、なぜか熱烈求愛で囲い込んできた件
著者:結祈みのり
イラスト:藤浪まり
発売日:2025年 8月29日
定価:620円+税
大手旅行会社のグループ企業に務める小柴杏は仕事一筋で真面目に生きている。
四年前、入社式をきっかけに一ノ瀬光生と出会い、恋に落ちた。
二人の交際は順調だったが、初めての夜を迎え、杏は緊張のせいかうまく感じることができずーー。
その夜以降、光生とはぎこちなくなってしまい、彼の海外行きが決まったことで自然消滅したと思っていた……。
海外から戻ってきた光生は本社の次期後継者として杏と再会を果たすのだがーー!?
光生との過去を忘れられない杏は、勢いで遊び相手を探そうとしてしまう。
「俺じゃダメな理由でも?」
しかし、そのことを知った光生は遊び相手に自分を立候補してきて……?
【人物紹介】
小柴杏(こしば あん)
大手旅行会社のグループ企業に務める27歳。
仕事大好き人間で恋愛に対してはあまり前向きではない。
初めての恋人である光生と再会してしまい……?
一ノ瀬光生(いちのせ こうき)
大手旅行会社の次期後継者。29歳。
優しく穏やかで真面目な性格。
別れた杏に対しては何か思うところがあるようでーー?
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*取り扱いサイトは、各書店に掲載され次第、更新されます。
【試し読み】
ひとりになった杏は、ふらふらとした足取りで部屋に戻る。そうして布団の上にうつ伏せになり、シーツをぎゅっと掴む。そして、枕に顔を埋めた。
瞼を閉じているのに先ほどの光生の姿が目に焼き付いて離れない。
今だけじゃない。
再会してから今日までずっと、杏の心は光生でいっぱいだ。
ふいに誘われた二時間のデート。手を繋ぐことも、もちろんキスもしなかった。
食事のときも散歩のときもほとんど会話はなくて。でも、会社ではない場所に……思い出の場所に光生とふたりでいることが信じられなくて、杏は終始夢見心地でいたような気がする。
(もう、だめ)
言葉は自然と溢れた。
「好き……」
再会してずっと認められずにいた心の声を今、初めて発する。一度唇に乗せると気持ちは一気に膨れ上がった。
(光生さんが、大好き)
――浴衣姿の彼を見たとき。
杏は、自分も光生に触りたいと思ってしまった。
――乱れた前髪を整えてくれたとき。
もっと触れてほしいと思った。
女としての体が、彼を欲しいと望んでいた――。
『杏』
『浴衣。すごく似合ってる』
『すごく色っぽくて、見惚れた』
低く掠れた艶のある声が頭の中でリフレインする。長く骨ばった指が耳に触れた感覚を思うと、体の奥がじわりと熱を持つのを感じた。
「んっ……」
甘い疼きに杏は唇を引き結んで耐える。それでも、一度自覚した熱は冷めるどころか上がっていった。耳の奥に残る光生の声を思い出しながら、ゆっくりと足を開く。頭がぼうっとしたまま、はだけた裾から覗く下着の中にそっと指を入れた。
そこはすでにしっとりと濡れている。
「あ……」
ためらいがちに割れ目に触れる。そのまま指で濡れる秘部を上下に擦る。
普段、この行為をすることはほとんどない。
でも、杏とて女。どうしても人肌が寂しくなったとき、いてもたってもいられず自分自身を慰めることはあった。しかし、光生と再会したこの一か月は一度もしていない。しようとしたが最後、彼への想いが溢れて溺れそうになってしまうとわかっていたから。それでも今は止められなかった。
「っ……んっ……」
隣の部屋には光生がいる。そこまで壁は薄くないと信じたいが、万にひとつでも気づかれたくなくて、杏は必死に声を殺して秘部に触れた。
――彼は、どんなふうに女性を抱くのだろう。
付き合っているとき、光生が杏の素肌に触れたのはあの夜だけ。その一度のことも緊張の極限にいた杏はほとんど覚えていない。覚えているのはまったく濡れなかった情けない自分と、夜中に聞いてしまった彼のため息だけだ。
「好き……」
瞼をぎゅっと結んで濡れた割れ目を上下する。
『杏』
光生の呼ぶ声を思い出して指を動かすと自然と濡れる。
四年前もこうであればよかったのに、と頭の片隅で思いながらも人差し指を中に挿入しようとした、そのとき。
「――杏?」
声が、聞こえた。
初めは自分の妄想が作り出したものかと思った。だが目を開けた杏は絶句する。
「な、んで……」
開いた引き戸の向こう側に立っていたのは、光生だった。
「話がしたいと思って、ノックしても出てこないから……そうしたら、中から苦しそうな声が聞こえて……」
だから心配になって入ったのだ、と上ずる声で光生は答えた。その目は信じられない光景を目の当たりにしたかのように大きく見開かれている。
一方の杏はこの答えに今すぐ消えてしまいたくなった。
鍵をかけ忘れたことも、自慰に耽ってまったく気づかなかったことも、今さら後悔してももう遅い。
最悪なところを見られてしまった。きっと光生は引いただろう。もしかしたら軽蔑したかもしれない。だから何も言わないのかもしれない――。
空気が痛くて、沈黙が怖い。先ほどまでの体の熱が一気に引いていくのを感じながら、動揺するまま杏は大きく開いていた足を閉じた。
「出ていって」
今すぐこの場から立ち去ってほしい。そして、今見たことを全て忘れてほしい。
「お願いだから……」
一秒でも早くひとりになりたくて懇願する。光生ならこう言えば引いてくれるはず。しかし杏の予想は外れた。彼は出ていくどころか襖を閉めて部屋の中に入ってきたのだ。
「なんでっ……」
杏は座り込んだまま後ずさろうとするが、すぐ後ろに壁があり逃げることは叶わなかった。その場に膝をついた光生は真正面から杏を見つめる。
「誰のことを考えていた」
「な、に……」
すぐには質問の意味がわからなかった。
「聞き方を変えようか。誰をおかずにオナニーしてた?」
おかず。オナニー。光生の口から発せられたことがとんでもなく卑猥に感じられた。ストレートすぎる言葉に杏の頬に朱が走る。それを見た光生は唇を引き結んだ。そして、グッと奥歯を噛み締めた後、低い声色で重ねて問う。
「昔の恋人? それとも、前に言ってた『忘れられない人』?」
光生の指摘は正しい。それでも杏が頷けなかったのは、その結果どうなるのかがわからなかったから。
『あなたのことを考えていた』
答えなければと思うのに、喉の奥に声が詰まって声が出ない。一方の光生は、頑なに口を割ろうとしない杏に苛立たしげに前髪を片手で乱す。
「……やっぱり、そうなのか」
光生の瞳に怒りが宿る。
彼は今、間違いなく嫉妬している。
杏の昔の恋人に……自分自身に対して苛立っている。
それを目の当たりにした杏は指一本動かせなかった。怖かったのもある。でもそれ以上に、彼が嫉妬しているという事実に気持ちが高揚するのを抑えられなかった。
「……こんなことを俺が言う資格がないのはわかってる。でも、この四年間で君に触れた男がいると思うと、嫉妬で頭がおかしくなりそうだ」
光生はぎりりと奥歯を噛み締める。薄茶色の瞳に情欲の炎が灯った。
――どうして、そんなことを言うの。
今の言葉はとても遊び相手に向けるものではないと、杏は思った。
「杏」
光生は手のひらを杏の頬に這わせる。その手は微かに震えていた。
「何をすればいい?」
「あ……」
「どうすれば、君はもう一度俺を見てくれる?」
切実な声だった。怒りと嫉妬で瞳を揺らしながらも、今の光生は何かにすがっているようにも見える。会社でふたりきりのときとはまるで違う。見慣れた余裕のある光生はどこにもいない。今、杏の目の前にいるのは己の感情をむき出しにするひとりの男だ。
「君に触れたい」
「っ……!」
「上書きしたいんだ。――俺を、君の最後の男にしてほしい」
望まれている。光生が自分を欲しいと言っている。
その事実にたまらなく胸が震えた。同時に杏の心が強く思う。
(私も、光生さんが欲しい)
昔も今もずっと、彼のことが欲しかった。だから――。
「……触って」
目の前で息を呑む光生に杏は震える声で伝えた。
「上書き、してくれる?」
他の男のではない。四年前の上書きをしてほしい。
直後、光生と唇が重なった。
光生に自慰を見られたことで一度は引いた熱は、濃密な口付けによって再び灯った。体の内側が熱くてたまらない。先ほどまで自分で触れていた場所がじんじんと疼くのを感じる。
どれほどそうしていただろう。嵐のような口付けが終わったとき、杏の呼吸はすっかり上がっていた。
「ぁ……」
体から力が抜けた杏を光生が抱きしめる。彼はそのまま杏の首筋に顔を埋め、耳元で囁いた。
「大丈夫?」
熱い吐息が耳朶を震わせる。
「体が強張ってる。怖い?」
瞳には隠しきれない熱を宿しながらも、問いかける声色はとても優しい。
――もしもここで頷いたら。
光生は「わかった」と言ってやめるのだろうか。
そう思うとたまらなく切なくて胸がきゅっとした。
欲しい。光生に、触れてほしい。
「大丈夫、だから……」
杏が無言で頷くと、光生は「わかった」とその体を抱き上げた。杏を布団の上にそっと下ろして自らはその上に覆い被さる。
「一ノ瀬君……」
掠れた声で呼ぶ。光生は親指の腹で杏の唇をつう……と撫ぜた。
「『光生』」
「え……?」
「名前で呼んでほしい。――昔みたいに」
その声は切実な色を孕んでいた。もしもこれが普段の仕事中であれば、杏は断っていたかもしれない。でも今はとても突っぱねることができなかった。
押し隠していた彼への好意をはっきりと自覚し、認めたからだろうか。杏自身、呼びたいと思った。昔のように……短いけれど、愛情に満たされていたときと同じように彼を、名前で。
「――光生さん」
四年ぶりに本人に向けて呼びかける。
名前を呼んだ。たったそれだけのことに光生は心の底から嬉しそうに頬を緩ませる。
それを可愛らしいと思ったのもつかの間だった。光生はゆっくりと顔を近づけ唇を重ねる。先ほどとは打って変わって唇の感触を確かめるように表面を食まれる。ちゅっとリップ音を立てながら、彼の手は杏の浴衣の帯を一気に引き抜いた。
「あっ……!」
素肌が空気に触れる感触に咄嗟に声を上げるが、すぐにキスで塞がれてしまう。
光生はキスをしながらブラジャーを上にずらすと、あらわになった乳房を揉み始めた。光生の手のひらが胸の感触を確かめるようにやわやわと動く。
乳首の先端をキュッと摘まれ、杏は思わず「んっ」と声をくぐもった声を漏らす。
「可愛い声」
キスをやめた光生に嬉しそうにつぶやかれて、杏は恥ずかしくてたまらなくなった。
「そんなこと……」
ない、というより早くちゅっとキスをされる。
「可愛いよ。俺にとっては杏が一番可愛い。それに……本当に綺麗だ」
うっとりと囁く光生の視線は、杏の顔ではなく体に注がれていた。首筋、乳房、くびれた腰、そして頼りない下着一枚で守られている太ももの付け根――。
見られているだけなのに肌が焼けそうだ。熱い視線に杏はびくん、と体を震わせる。その反応さえも楽しいとばかりに光生は唇をわずかに上げた。
「ほんと、可愛いな」
杏とのキスによって濡れた唇がなんともいやらしくて、魅入ってしまう。
光生は杏の胸元に顔を寄せ、屹立する乳首をぱくんと口の中に含む。
「っ、あ……!」
温かい舌は、まるで飴玉をしゃぶるようにぷっくりとした先端を舐めまわした。そうする間も、もう片方の乳房は緩急をつけて揉みしだかれている。
(これ、だめっ……!)
くすぐったいのに目眩がするほど気持ちよくて、杏は無意識にきゅっと内腿に力を入れる。体の中心が熱を持っているのがわかる。
それに気づいたのだろうか。
乳房を弄んでいた光生はおもむろに視線だけを上げる。ふっと笑った彼は、次いで胸の谷間にきつく吸い付いた。
「んっ……!」
キスマークをつけられたのだ、と自覚した杏ははっとする。胸を弄んでいた右手がゆっくりと自分の体の下の方へ動くのが見えたのだ。
「待っ――あっ……!」
制止する声は甘い吐息に変わる。
光生の手のひらが杏の体のラインを辿っていく。
胸元から滑らかなお腹、くびれた腰……それが下着に到達しようとしたとき、杏は咄嗟に両足に力を込めようとする――が、間に合わなかった。光生が自らの足を間に割り込ませたのだ。
長く骨ばった指先が下着の中にするりと入り込む。それが割れ目をつうっ……となぜた瞬間、甘い電流が背筋を駆け抜けた。
「濡れてる」
杏が見たもの。それは陶酔したように微笑む光生の顔だった。
「感じてくれてるんだ」
嬉しいよ、と言った光生は杏の目尻に浮かんだ涙を舌で舐め取る。そして、ゆっくりと愛液を纏わせた指を上下した。やがて隠れた陰核を探り当てたのか、親指がそこを撫で始める。
「あっ……待って……そこ、だめぇ……!」
「気持ちいい?」
わからない。だって、何もかもが初めてだったのだ。
自分で触れて濡れることはあるけれど、こんな風に頭が真っ白になりそうな快感に襲われたことはない。過去の恋人にいたっては、そういう関係になる前に別れてしまった。
「他の男にもこんなにエロい姿を見せたの?」
「ん、あっ……」
杏はいまだかつて感じたことのない快感にか細い声を漏らす。
そんなことない、と言いたくても羞恥心と気持ちよさで言葉が出ない。自分の唇から漏れる嬌声のいやらしさに杏は唇をきゅっと引き結ぶ。
「……言いたくないなら、それでもいい」
指の先端が濡れそぼる秘部につぷん、と埋め込まれる。
「あっ……!」
「この先、君の淫らな姿を見る男は、俺だけだ」
嫉妬混じりのその声はもはや杏の興奮を煽るだけだった。
「んっ……あぁ……」
光生の指がゆっくりと侵入してくる。自分のものとは違う感覚に、何よりも光生がそうしているという事実に腹の奥がきゅんとして、彼の指をきゅっと締め付ける。
「――狭い」
「あっ……!」
「こういうことをするのは久しぶり?」
久しぶりも何も初めてだ。
でも、言えない。
もしも処女だとわかったとき、光生がどんな反応をするかわからなかったのだ。
元彼に嫉妬しているのだから、喜ぶ可能性もある。
でも面倒だと思われたら?
四年前のようにため息をつかれたら……微かに残る可能性が怖くて、言い出せない。
だから杏は無言を貫いた。
唇を引き結んで、濡れた瞳で光生を見つめる。処女だと言いたくないけれど、嘘はつきたくない。しかしそうとは知らない光生は「それも答えたくないのか」と皮肉っぽく唇を歪める。
「それなら俺は、俺のやり方で触れるよ。――昔の男のことなんて考えられなくなるように」
直後、中の質量が増したのがわかった。いつの間にか二本に増えた指は、愛液で濡れる膣壁をコリコリと弄ぶ。痺れるような快感に目がちかちかして無意識に腰が揺れる。
「っ、やぁ……あっ……!」
「本当に?」
「っ、何……?」
「本当に、嫌だ? 俺には気持ちよさそうにしか見えないけど」
その通りだ。わけがわからないほどの気持ちよくてたまらない。彼の指が中を行き来するたびに声にならない嬌声が漏れる。
「今の杏、最高に可愛い」
「恥ずかしいから、見ないでっ……」
「無理。俺で感じてる君をずっと見たいと思ってた」
うっとりとした声で囁いた光生はおもむろに杏の耳元に唇を寄せる、そして――。
「奥、触るよ」
「え……なに……ああっ……!」
人差し指がぐっと根元まで突き立てられた。同時に親指で陰核を柔く押される。二点同時に攻められた杏は思わず「だめっ」と制止するが、光生は止まらない。
「我慢しないで、俺に任せて」
「だめっ……頭、おかしくなるからぁ……」
人差し指の動きはもどかしいほどに優しく、的確に杏の弱点に触れる。
自慰をするときは浅い部分に触れることしかなかったから、今この瞬間まで杏はそこが自分の感じるところだなんて知らなかった。
だからこそ初めて襲いかかる強烈なまでの快楽に思考がついていかない。
「両方なんて……あっ……!」
無識に腰が揺れる。
もっと、もっと欲しくて杏は咄嗟に両手を光生の首に回してしがみついた。このとき光生が目を見張り、嬉しそうに微笑んだことに快楽に喘ぐ杏は気づかなかった。
「光生さっ……やっ、くる……来ちゃう……!」
怖い。
切ない。
逃げたい。
気持ちいい。
腹の中心から熱いものが込み上げて思考が揺らいだ、次の瞬間。
「――杏」
光生のとろけるような声と共に杏の視界は真っ白に染まった。
「あっ……!」


