
処刑予定の聖女でしたが、黒龍騎士団長に攫われ執愛されているようです!?
著者:吉田行
イラスト:コトハ
発売日:2025年 5月30日
定価:630円+税
国でたった一人の聖女・エレンデュラ。
ある日、国王以外に使うと汚れ失われるとされている聖女の力を、彼女は森で死にかけていた兵士を助けるために使ってしまった。
それを知った王はエレンデュラに処刑を言い渡し、まさに処刑が執行されそうになったその瞬間……割って入ってきたのはあの時助けた兵士で!?
しかも、その兵士――リンハルトと名乗った彼は、国の騎士団の中でも最も強い黒龍騎士団の団長だった!
彼の妻となったことで処刑を免れたエレンデュラは、リンハルトは自分を助けるために妻にしただけだと思っていたのだが……。
「助けてもらったからだけでこんなことを言っているのではない。私はあの時、山中で目を覚まして――あなたに一目ぼれしてしまった。天国で天使に出会ったと思ったほどだ。あなたに恋してしまったのだ」
そうしてエレンデュラの人生は『ただの人間』として再び始まった。
だが、聖女として外の世界を知らずに生きてきた彼女は、キスも知らない無垢すぎる女性で――……!!
【人物紹介】
エレンデュラ・カザン
聖女を排出してきたカザン家の長女で国唯一の聖女。
心優しく大人しく、リンハルト曰く「天使が舞い降りたかと思った」。
これまであまり外に出ることがなかったため、世間知らずなところがある。
リンハルト・ダ・グレッツナー
国に四つある騎士団の中でも最も強いと言われている黒龍騎士団の団長。
秘密の任務で深手を負い森で倒れていたところを、エレンデュラに助けられた。
騎士団長らしいがっしりとした身体に、精悍な瞳を持つ美しい男性。
●電子書籍 購入サイト
*取り扱いサイトは、各書店に掲載され次第、更新されます。
【試し読み】
屋敷から少し離れたところに大きな欅が植わっていた。その下に彼がいる。
(あ)
白いシャツにズボンだけの軽装で、リンハルトは剣の稽古をしていた。大剣を何度も振り上げ、すばやく振り下ろす。
「お呼びしましょうか?」
侍女が裏庭に一歩踏み出そうとするのをエレンデュラは止めた。
「いいの、このままで」
自分が外へ一歩出た。屋敷の周りには外廊下が設置され、廂がある。エレンデュラはその陰から夫を見守った。
(綺麗)
何度も剣を振り下ろすリンハルトは、まるで舞いを踊っているよう。あるいは大きな白い鳥が羽ばたいているよう。
エレンデュラは日陰から一歩、日向に出る。明るい陽光が自分の上に降り注いだ。
自分が近づいて行ってもリンハルトは気づかなかった。剣が風を切る音が聞こえる。
(綺麗な人)
薄いシャツの下に、逞しい男性の肉体がある。汗をかいているので背中に布が張り付いていた。
(これが、男性)
今まで父とネボムクしか男性は知らなかった。彼らとリンハルトは全然違う。二人は長年の美食と動かぬ生活でゆるんだ体をしている。
自分の夫は自分の肉体で働くことの出来る、力強い男性だった。
(不思議)
自分のなかに、奇妙な衝動が生まれている。
(彼に、触れたい)
自分と違う肉体に、触ってみたい。
広い背中とは対照的に、腰は細く引き締まっていた。
(私が助けた)
あの時の傷は塞がったのだろうか、確かめたかった。
すぐ後ろに立ってもまだ彼は気づいていない。その背中に、そっと手を触れた。
「うわ!」
驚いたリンハルトは振り返り、それがエレンデュラと気づくとさらに驚愕した。
「あなたか! いったいどうしたんだ」
「……目が覚めたら私一人で、どうしたらいいのか分からなかったんです」
彼の背中は板のように固く、温かかった。
「そうか、我が屋敷は使用人が少ないのだ。急いであなた専属の侍女を雇わなければ」
「いいえ、それより……」
思い切って、彼の背中に寄り添った。逞しい肉体が緊張するのが分かる。
「リンハルト様に、会いたかった……」
この気持ちはなんだろう。
妻になってまだ一晩しか経っていないのに。
心まで妻になり切ってしまったのか。
彼は凍り付いたように動かなかった。
「……怪我は、もういいのですか」
エレンデュラはそっとわき腹に触れた。どうやらシャツの下にはまだ包帯が巻かれているようだ。
「……まだ、少し痛むかな」
「お可哀想、私にまだ力があれば治してさしあげられるのに」
包帯の上からそっと触れる。まだ熱を持っていた。
「あ……」
リンハルトが自分の手を包帯の上から外した。
「ごめんなさい! 痛かったですか」
彼の顔を覗き込む。頬が赤い。
「いや……あまりくっつかないでくれ、汗の匂いがするだろう」
確かに彼の背中からふんわりと匂いがする。だが不思議なことに嫌ではなかった。
(熱い)
大きな背中から湯気が立っている。その匂いはまるで香木のようだ。
(この匂い、好き)
背骨の窪みにそっと頬を寄せる。不思議な安心感があった。
「あ……」
不意にリンハルトは体を反転させ、自分を抱きしめた。彼の香りがさらに強くなる。
「あなたの優しさは分かるが、そんな風に触れられると我慢が出来なくなってしまうよ」
リンハルトの腰は自分の腹の位置にある。そこになにか、棒のようなものが触れた。
「剣が、前に回っていますわ」
短剣の柄と思い、ずらそうとそこに手を伸ばす。
「駄目だ!」
彼は慌てて腰を後ろに引いた。
「あなたは本当になにも知らないのだね……これは、私の体だ」
「ええ?」
まるでなにかを隠しているかのように腰の前が膨らんでいる。
「男が女を欲するとこうなる。今私はあなたが欲しくて仕方がない」
エレンデュラは目を丸くした。欲しい、とはどういう意味なのだろう。
「……でも、私はもうリンハルト様の妻なのでしょう? あとなにを差し上げればいいのかしら」
きょとんとした自分の頬を、彼は指でつんとつつく。
「まったく、ここまでなにも知らないとは」
「ごめんなさい……」
世間知らずの自分が恥ずかしい。本当に自分はなにも知らないのだ。
「教えてください、男女のことを……早く覚えなければならないわ」
リンハルトは優しく微笑む。
「いいや、急ぐ必要はない。あなたは綺麗なまま、一歩ずつ進めばいいんだ」
彼はエレンデュラの手を取って木陰に行き、二人で座る。
「まず、私の体を見せよう」
リンハルトは欅の幹を背にして足を伸ばし、シャツの前を開いてズボンの紐をほどいた。
「覗き込んでご覧」
シャツの下には引き締まった腹がある。その奥に――。
「ああ!」
エレンデュラは思わず口を手で押さえる。不思議なものがズボンの中に存在していた。
先端は丸く、肌色なので肉体であることは分かるのだがあまりに奇妙な形をしていた。知らなければ別の動物がくっついていると思ったかもしれない。
「これが男性の体だよ。普段はこんなに大きくない、萎んで体にくっついている」
「今は……?」
「欲望を覚えているのだ。女性の体を求め、入りたいと思っている」
「入るって」
まったく想像が出来なかった。彼の手が寝間着の上から腿をさする。
「あなたの体の中に、これを入れるところがあるのだ。私の精を入れると子供が出来るかもしれない」
「……子供って、そうやって出来るのですね」
うかつなことに、エレンデュラは子供の作り方すら知らなかった。自分には一生縁がないと思っていたから。
「まず、私のものに触ってみてはくれないか」
「……いいのですか?」
剥き出しの肉体は傷つきそうで、触るのが怖い。
「私はあなたの夫だ。この体はあなたのものだよ」
手を取られ、ズボンの中に誘われる。とうとう先端に自分の指が触れた。
(あ)
少し湿っていて、弾力があった。熱も高い。
「そっと、包むようにしてくれ。あまり強く握らないで」
「はい……」
手を筒状にして、そうっと握る。そのまま奥に差し込むと、それは確かに彼の下腹から突き出ていた。
「気持ちいいよ……」
リンハルトはため息のような声を出した。自分が触れるだけで、これほど心地いいのだろうか。
「どんな風に気持ちいいのですか? 足を揉まれているような感じ?」
エレンデュラが尋ねると彼は困ったように笑った。
「なんと言ったらいいのか……切なくて、たまらないというか……」
「ええ?」
自分の知っている心地よさではなかった。思わず手を引いてしまいそうになる。
「ああ、やめないで……」
リンハルトはエレンデュラの手の上から自身の手を重ね、ゆっくり前後に動かす。
「こんな風に、擦って欲しい。そうすると快楽が溜まってくるんだ」
「溜まる……」
「気持ち良さが強くなっていくんだよ」
「そんなことが起こるのですか?」
快感が溜まる。想像すら出来ない感覚だった。
「そうして擦っていると、先端から液体が出てくる――それが子供の元になるのだ」
「ええ?」
「驚くのも無理はない、私も初めて知った時は驚いた」
「液体が、子供になるのですか?」
今すぐ子供が出てくると思ったエレンデュラは慌てた。リンハルトはくすくす笑う。
「男の液体だけで子供が出来るのではないよ……女性の体内に入って初めて赤ん坊になるんだ。私の子は、あなたの中に出来るだろう」
そうだ、お腹の大きい女性は王宮で遠くから見たことがある。あれは男性の液体が中に入ったせいだったのか。
「私、なにも知らないんですね……」
あまりに無知で悲しくなる。こんな人間が親になっていいのだろうか。
うつむくエレンデュラの背中をリンハルトの手が何度も撫でた。
「知らないのはあなたのせいではない。知識を遠ざけていた周囲の人間のせいだよ。私は教師からきちんと教えてもらったのだ、だから知っているんだ。あなたには私が教えてあげる。それは私の喜びにもなる」
「本当に……?」
こんな頼りない人間が妻でいいのだろうか、まだ自信はなかった。
だが、不思議と手の中の力強いものが勇気を与えてくれる。
「こう、すればいいの?」
優しく撫で摩ると、ぴくぴくと蠢きだした。
「そうだ、そのまま……」
彼を気持ち良く出来る。それが嬉しかった。
(まだ私にも出来ることがある)
リンハルトの反応に勇気づけられる。
(大丈夫)
自分が触れていてもいい、彼が気持ち良くなる――その事実が嬉しい。
「あ、あ……」
彼の先端から透明な液が出てきた。これが子供になるのだろうか。
「これは、まだ終わりじゃない……そのまま、続けて」
「はい……」
だんだん感覚が分かってきた。教わっていないのに、どの程度の力で刺激すればいいのか分かる。
「いいよ……こんなに気持ちいいのは、初めてだ」
リンハルトの黒い目が潤んでいる。それを美しいと思う。
(好き)
きっとこれが、男女の愛なのだろう。
彼の喜びが自分の喜び。
もっと、心地よくなって欲しい。
「あ、なんだか、大きくなったわ……」
手の中の器官が少し膨らんだ。なにかが溜まっている――。
「もうすぐ、出るよ、見ていてくれ……」
リンハルトは腰に下げていた麻布を取り出して自身に当てた。やがて手の中のものが痙攣を始める。
「ああっ」
先端の穴からなにかが勢いよく吹き出した。白い、粘り気のある液体だった。何度かに分けて放出される。
「これが、男性の精だよ……」
麻布の上に白い液体が溜まっている。エレンデュラは不思議そうに見つめた。
「それが出ると、小さくなるのね」
さっきまで手に余るほど大きかったものが、今は小さくズボンの中に収まっている。なんて不思議なのだろう。
「あなたを欲しくなるとまた大きくなるだろう。やがて、あなたの中に入れられればいい」
「入る……どこへ?」
素直に尋ねたエレンデュラをリンハルトは強く抱きしめる。
「ああ、私がどれほどあなたを愛らしく思っていることか……もし私が夫ではなく父親だったら、誰にも汚させたくないと思うだろう」
リンハルトの言葉の意味がなんとなく分かった。聖女は結婚したら力を失うと言われていた。それは男性の液体が体内に入るからだったのか。
(でも)
「リンハルト様のものなら、汚れません」
彼の肉体を美しいと思っている。
だから、彼から出る液体も綺麗に違いない。
「だから、早く本当の妻にしてください」
そう言って見上げると、リンハルトは苦しそうな表情になって自分を抱きしめる。
ズボンの中のものは、再び膨らんできたようだった。
リンハルトは名残惜しそうに王宮へ出かけ、夕刻には戻ってきた。
「今日はなにをしていたのかな」
夕食の席で彼は優しく尋ねる。
「なにをしていいか分からず……自分の服を縫っていました」
実家からはなにも持ってこられなかったので自分の服がなかった。寝間着と使用人用の簡素なワンピースしかないので、屋敷に残っていた綿の布で簡単なドレスだけ作ることにした。
「そうだ、あなたの服を用意しなければな。明日すぐ仕立て屋を呼ぼう」
夕食は騎士団長の家とは思えぬほど簡素だった。肉のスープは何日も煮込んだもののようですっかり煮崩れている。パンも乾いていてかなり固かった。
「粗末な食事で驚いただろう。私はいつ戦場へいっても耐えられるよう粗食にしているのだ。グレッツナー家の方針なので、我慢してくれ」
「いいえ、美味しいです」
カザン家では確かにしょっちゅう御馳走が並んでいた。だがそれは自分が王を癒した褒美で買ったものだった。だから他の家族がにぎやかに宴会をしているのを寝床で聞いていることも多かった。
それに比べたら、煮崩れたスープと固いパンでも一緒にリンハルトと食卓を囲めることが嬉しい。
「今夜は、一緒に湯あみをしよう」
「……はい」
それが夫婦への準備だということはなんとなく分かった。
(私も、脱ぐのね)
彼の美しい体の前に自分の体を晒すことが恥ずかしい。女として、きちんとしているだろうか。
(どこかおかしかったらどうしよう)
聖女として産まれ、その生き方しかしてこなかった。普通の女なら知っていることすら知らないのに――急に怖くなった。
「奥方様、湯あみの準備が出来ました」
侍女に促され、恐る恐る浴室に向かった。広い部屋に大きな桶があり、湯が満たされている。
「こちらでお着替えください」
衝立の陰でワンピースを脱ぎ、湯あみ用の麻布を肩から被せられた。そのままゆっくり桶の中に入る。
(熱い)
湯は入るのに苦労するほど熱かった。自分が腰まで浸かった頃、リンハルトがやってくる。
「私も一緒に入るよ」
彼は衝立の向こうで手早く服を脱ぐと、布を一枚腰に当てただけで現れた。駿馬のような美しい肉体だった。
「あ、傷が」
すでに腰の包帯は取れていた。あの深い傷はすっかり塞がり、赤いみみずばれのような跡だけが残っている。
「あなたのおかげでこんなに回復したんだよ、触ってごらん」
彼が桶の中で向かい合う形に入ってきた。思わず麻布で体を隠す。
「どうしたの?」
「……恥ずかしいです」
逞しい彼に比べて、自分はなんと痩せていることだろう。足などまるで小枝のようだ。
「そうだな、では私が後ろに回ろう」
彼はいったん立ち上がると自分の背後に回り、抱きしめる形になった。まるで大きな椅子に座っているよう。
「……綺麗だよ」
耳元で囁かれる。それだけで体が融けそうだ。
「本当ですか……」
リンハルトは後ろからそっと肩を噛む。
「細くて、触れたら折れてしまいそうだ……肌も薄くて、真っ白だ」
外の世界に触れることを禁じられていたエレンデュラの体はほとんど筋肉を感じさせない柔らかさだった。服の下の肌は一度も日に当たったことはない。
「それに、ちゃんと女性の体だよ」
エレンデュラは毎月きちんと女性の徴が訪れている。胸の膨らみはゆらりと胴の上に乗り、腰から腿にかけて柔らかな肉に覆われていた。細身だがすでに成熟している肉体だった。
「きちんと扱えばすぐ私を受け入れられるだろう。頑張ってくれるかい?」
「はい……私は、なにをすればいいの?」
彼の唇の感触を頭の上に感じる。
「なにも……ただ、私がなにをしても驚かないで。恥ずかしいかもしれないが、傷つけることはしないから」
「……分かりました」
リンハルトを信じ、身を任せる――エレンデュラは深呼吸をしながら体の力を抜いた。