
なりゆき同居を始めたら、絶倫エリートドクターの溺愛欲で包囲されました
著者:華藤りえ
イラスト:カトーナオ
発売日:2025年 2月21日
定価:630円+税
長い黒髪を一つにくくり、厚い黒縁眼鏡をかけたTHE・真面目女子の高萩詩歌は、過去のトラウマから、26歳になった今も眼鏡が手放せないどころか、恋愛のひとつもできずにいる。
そんな詩歌は、人生最大のピンチに陥っていた……彼女の働く病院の医局長である澄白眞秀に見られたのだ――目薬と間違えて、コンドームを買っているところを!
誤解を解くためとはいえ、わざわざ掘り返すべきか考えあぐねていたある日、職場の飲み会に参加した詩歌は、男性医師に絡まれていたところを眞秀に助けられる。
眞秀は酔った詩歌を介抱するためホテルに運び、親身に話を聞いてくれて――?
彼の誠実な優しさに思わず涙を流してしまった詩歌はパニックになり、とりあえずバッグの中から手に当った箱を差し出したのだが……。
「これを、私に使え、と?」
詩歌が手に持っていたのは、例のコンドームで――!?
【人物紹介】
高萩詩歌(たかはぎ しいか)
心臓血管外科の医療事務員兼医療データマネージャー。26歳。
ぱっちりとした目の美人だが、コンタクトにしたことにより起きた過去の出来事がトラウマで、常に黒縁眼鏡をかけている。
そのトラウマのせいで男性恐怖症気味だったのだが――?
澄白眞秀(すみひろ まさひで)
34歳という若さで医局長になったエリート外科医。
怜悧な美人である一方、厳しい言動で病院内で恐れられている。
部屋に大きなピアノがあり、何故か詩歌にとって懐かしいメロディを知っていて……?
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【試し読み】
あれ? と、妙な沈黙に疑問を抱きつつ視線を自分の掌へ下ろせば、そこには金色に輝くコンドームの箱――。
(ぎゃー!)
口にして叫ばなかった自分を褒めてやりたい。
それほどに焦り混乱しながら、詩歌は自分に馬鹿とツッコミを入れる。
昼休みに同僚女性から貰ったチョコレートの箱かと取り出したものが、実はコンドームの箱だなんて最悪だ。
ついこの間、目薬と間違えたばかりなのに、本当にそそっかしい。
(もうやだ。どうすればいいのこれ)
今更手を引っ込めることもできず固まっていると、澄白がすっと視線を横に逸らしつつ唇を開いた。
「…………彼氏と、使うつもりで買われたのでは?」
「カッ、かかか、彼氏なんて!」
江戸時代のどこかのご隠居の笑いみたいな声を出しつつ、必死になって否定すると、澄白が疑わしげな目を向けてきた。
「彼氏なんて?」
「いませんって! いません! 本当に! これはその、目が疲れていて、それで、あの、目薬と間違えて……。で、ですので、よかったら澄白先生が使ってください!」
美形で優秀な心臓血管外科医な上に、大病院の跡継ぎと、女性が結婚相手に望むものすべてを持ち合わせ生まれてきたような澄白なら、きっと使う機会も多いだろう。
理性を働かす余裕もなく口に乗せ告げれば、澄白が、形のいい喉仏を隆起させ唾を呑む音がした。
そしてまた、沈黙。
(気まずい……どころじゃない。絶体絶命に近い、かも)
目薬とコンドームを間違えて買うという醜態をさらしただけでなく、それをこともあろうか職場の上役に、しかも介抱してくれた相手に〝よかったら使って〟など、無礼な上に頭がおかしい。
先ほどより長く、そしてより奇妙さを増した静寂の中、蛇に睨まれたカエルの気持ちで動きを止めていると、澄白がすっと人差し指を伸ばす。
そうして、その長く綺麗な指先で、詩歌の手の上に載っているコンドームの箱の表面をつうっとなぞる。
「これを、私に使え、と?」
確かめるよう、ひとこと一言を区切り尋ねられ、これはもう終わった。折橋が腑分けされる前に、自分が細胞レベルにまで解体されてしまうと覚悟した時だ。
「そのお願いにはやぶさかではないのですが、本当にいいんですか?」
「え?」
「ホテルの部屋に、男女で二人きりで、女性から使ってとおねだりされてはね」
綺麗に整った澄白の爪先が、つつつとコンドームの箱を意味深に撫でる。
そこで初めて自分がしていることと、言ったことが、違うように取られていることに気付き、詩歌は真っ赤になって全身をわななかす。
失言だ。この状況下では、どう考えても詩歌の主張が正しく伝わる訳もない。
動揺で顔を青くしたり赤くしたりしつつ、なんと切り返そうと考えるもまるで言葉が浮かばない。
どころか変な汗が手や背中に湧いてきて、心臓が盛んに収縮し、逃げたさのあまり足裏がむずむずしだす始末。
なにを言えばいいのか混乱する一方、そんな自分を腹立たしくも思う。
いい大人なのにどうして上手い受け流しかた一つ考えつかないのかとか、しゃんと背筋を伸ばして違うと伝えきれないのかとか。
色気もなにもない自分の女子力のなさに呆れ、いらだち、落ち込んで、どんどん意識が違う方向へと突っ走る。
それもこれも異性との交際経験がないせいだ。
普通に誰かを好きになり、恋をして――というのができない。できる気がしない。そんな風に諦めていながら、友人や姉に彼氏ができるとうらやましいと思う。
――普通に。
その言葉が詩歌の胸に突き刺さる。
(どうして、普通に恋愛できないんだろう。ううん、恋愛のきっかけさえ掴めないんだろう)
折橋の件だってそうだ。眼鏡を取るぐらいどうということもないではないか。誰だってしていることだ。
顔を見られることで相手が叔父やいじめっ子のように豹変し、性的な目を向けられるのが怖いといって、逃げてばかりいてはなんにもならない。
生物として成熟した大人となれば性を意識するのは当然で、いつまでも潔癖ぶってはいられない。
なにより詩歌は結婚に憧れているし、家庭を築くことへの夢もある。なのに自分が臆病なせいで台無しだ。
(このままでいいの?)
先ほどと同じ問いを繰り返す。
このまま誰とも恋できず、愛を確かめる機会もなしに老い、一人で死んでいくなんてぞっとしてしまう。
第一、 情けないししゃくに触るではないか。
詩歌が眼鏡をかけていた時はからかい、意地悪してくるような下種な奴らのせいで、自分が夢や憧れを失うなんて。
(コンドームとか処女とか、他の人が気にもしないようなことで、こんなに動揺するなんておかしい。もっと堂々と普通に生きるべき)
傍から見ればなぜそうなると首をひねるような思考の飛躍を見せつつ、詩歌は唇を噛んで己にいいきかす。
もし、変われるとしたら今夜がチャンスだ。
めんどくさい処女を捨てれば、なんてことのない行為だとわかれば、男性に対する苦手意識も克服できるかもしれない。
幸い、相手は女性どころか他人にも興味なさげな上、医師として守秘義務を守り、個としても余計な事をしゃべらない――言い換えれば、この上なく口が硬い澄白だ。
今夜、一晩のあやまちを犯したとして、酔ったせいにして逃げれば、それ以上、追求することはないだろう。
万が一、追求や執着されても、きっと処女に対する物珍しさにすぎない。
なぜなら澄白はだれもがうらやむ外見と地位と才能、すべてを兼ね備えており、日頃から女性の熱い視線にも告白にも慣れているのだから。
美人に才女にとよりどりみどりな中、あえて詩歌を特別とする理由がない。
鬱屈した思いを燃料として、反発の焔が燃え上がる。
――私だって、恋したい。できるようになりたい! と。
知らずうつむいていた頭を上げ、詩歌はまっすぐに澄白を見る。
彼は相変わらず落ち着いた、だけどわずかに普段とは違う――色気のようなものを纏い、詩歌の答を待っていた。
戦慄が走り、震えそうな自分を、背筋に力を込めることでやりすごす。
しっかりしろ。ともう一度自分をはげまし、詩歌は噛んでいた唇をわななかせつつ開き、揺れる声で澄白に告げた。
「お願いします」
「本当にいいのですね」
心なしか上擦った声で澄白から問い重ねられ、詩歌は無言でうなずく。
途端、二人の間にあった空気の密度が変化し、温度が上がったように感じた。
自分の意志とは関係なしに身体が火照りだすのを感じながら、詩歌が細かに震えていると、見た目より大きな手がそっと頬を包み込む。
――温かい。
素肌に自分以外の体温を感じたのはいつぶりだろう。
そんなことを考えていると、頬に添えられていた澄白の手がふと離れ、上にずれて詩歌がかけていた眼鏡のつるに触れる。
「外してしまいましょうね。……そのほうが、きっと怖くない」
聴覚の限界を試すように低く小さな囁きに、えっ、と口を開いたと同時に、まるで大切な宝石だとでもいいたげな繊細な手つきで黒縁の眼鏡が外される。
あまりにも丁寧かつ優しい仕草だったからだろうか。普段であれば触れられそうになるだけでも拒絶反応を示す身体は、けれど少しも強ばらず、すんなりと眼鏡を、詩歌の素顔を隠す仮面を取り払われた。
ことりと小さな音がして眼鏡がサイドボードに置かれる。それを横目で見ていると、返す早さで澄白が自分のシルバーフレームの眼鏡に指をかける。
と、次の瞬間、詩歌にした丁寧さとはまるでそぐわない雑な仕草で澄白は己の眼鏡を取り払い、違和感を拭うように頭を振った。
どこか肉食の獣じみた素早く荒っぽい仕草に心臓が大きく跳ねる。
こんな澄白は見たことがない。いつも冷静で動じず、まるで機械人形のように隙のない動きをする人なのに。
初めて、澄白の本質を垣間見た気がした。
だが怖くはない。どころか、胸の奥底でもっと違う姿を見たいという欲求が、ある種の興奮を伴う好奇心が頭をもたげる。
――男の人だ。
陶然とした眼差しで澄白を見つめていると、彼は額に落ち掛かった黒髪を指で掬いあげつつ、先ほど詩歌のものにしたように、自分の眼鏡をサイドボードへおき、そこでふと笑う。
どうしたのだろうかと彼の視線を目でたどれば、枕元を照らす三つ足のスタンドライトの横に、詩歌の小さな黒縁眼鏡と澄白のシルバーフレームの眼鏡が並んでいた。
まるで普段の二人のようだ。地味で堅苦しい格好をしている詩歌と理知的で冷たい容貌で人を惹きつける澄白と。
人としても眼鏡のタイプもまったく違うのに、こうして並んでいると妙にしっくりしているのが可笑しい。
澄白も同じことを考えたのだろうなと理解した途端、自然に緊張が緩み身体の震えがぴたりと止まる。
するとその瞬間を待っていたように澄白の手が詩歌の首裏に回され、思わぬ力強さで引き寄せられ、次の瞬間、唇に熱く引き締まったものが触れる。
澄白の唇だと、キスしているのだと気付いたのと、腰を抱かれ二人の身体が密着するのは同時だった。
温かくて柔らかいものが唇の表皮に触れる。
途端、詩歌の中で不思議な気持ちが広がった。
澄白に対して詩歌は憧れを抱いていた。
だが、それは〝かっこいい人だな〟だとか〝仕事ができる人だな〟とか、ああなれればなあという能力や外見に対し単純に言葉にしてしまえるような憧れで、異性として考えたことはなかった。
だけど今は、どう頭をひねりまわしても言い表せない憧れで澄白に接している。
それが不思議で先がわからなくてドキドキしてしまう。
一度触れた唇はすぐに離れ、もう少し感じていたかったなと思うとまた触れる。
緩く、甘やかな接触は、詩歌が怖がっていないかと探るような動きだとわかった瞬間、言い知れない嬉しさが胸に広がる。
気遣われている。大切にされている。――女として。
理解するとどうしてか、心より身体が訴える。もっとしてくれてもいいのに。
もっと触れて、確かめて。そんな触れるか触れないかの曖昧さでなく、ここに私がいると教えてとこいねがう。
たまらずもじつくと、ふ、と澄白が笑う気配がして詩歌は視線を上げる。
(う……わ)
大きく心臓が跳ね、息が止まる。
いつもはきちんと後ろに撫でつけている髪が、一筋、二筋と秀でた額に落ちかかっており、長いまつげに髪が触れそうなのを避けるためか、半分まぶたを下ろし、そこから詩歌を見つめる瞳が濡れているのがなんとも艶っぽい。
大人の男の色気に呑まれ、つい呼吸を忘れていると、それをからかうようにまた唇が触れる。
だけど先ほどとは違い、もう、すぐに離れることはなかった。
押しつけるようにして唇をぴったりと重ね、息苦しさに身震いしかけると同時に離れ、今度は唇の端にキスされる。
わざと中心を外された口づけがもどかしくてソファの表面をぎゅっと握ると、それに応えるようにまたぴったりと二つの唇が重なり、次いで親密さを確かめるように表面を擦り合わされる。
一つ、一つ、手順を踏むようにやり方を変えられて、先を知りたがる身体がうずうずしはじめる。
先ほどまで空気にさらされ乾きかけていた唇は、熱の籠もった吐息で徐々に湿りだし、体温が伝わるごとにふっくらと熟れて花開いていく。
ふと男の舌先が軽く開かれた詩歌の唇の輪郭を撫でた。
くすぐったさに身震いした瞬間、今まで与えていた、あるかなしかの愛撫を裏切るように項を大きな手で掴まれぐいと引き寄せられた。
思わぬ力強さに目を見開いた時には、すでにきつく唇を塞がれており、詩歌は動転するあまり知らず澄白に抱きついてしまう。
だが、それが彼の狙いだったのだろう。
遊んでいた片手を詩歌の背に当て一掃強く抱き寄せながら、伸ばした舌先で唇の合間をしたたかにこじ開け、ぬるりとした感触を与えながら歯列を舐める。
「ん……ん、ッ」
自分の中に自分以外の器官があることに頭が混乱し、身体がますます熱を持つ。
鼓動は早鐘のように鳴り響き、心臓が肋骨にぶつかって弾けるのではないかと思えるほど大きく収縮を繰り返しながら、興奮の粒子を含む血を全身へと行き渡らせる。
一秒ごとに身体も頭ものぼせていくのを自覚しながら、だが、まだ初めての身体は完全にほどけてはおらず、先にあるものを怖れるように歯と歯が硬くかみ合わされていた。
けれど澄白はそんな詩歌の反応に気を悪くしたでもなく、悠然とした動きで歯茎を舐め、くすぐり、時には舌をくねらせながら頬の内側を刺激する。
くちゅくちゅと濡れた音がかすかに聞こえだし、詩歌は気が遠くなりそうになる。
恥ずかしい。だけど嫌ではない。
いやらしいことをされるのが怖くて男性が苦手だった筈なのに、実際にこうして触れあっているのが不思議でたまらない。
どうしてか。なぜか。わからないまま詩歌は燃えだす肉体をそのまま澄白へと任せる。
上半身が密着するほど抱きしめられ、また自分も抱く力を強める中、互いのスーツが皺になることにも考えが及ばない。
やがて根気強い男の舌戯によって蕩かされた口から力が抜け、噛み合わされていた歯列がわずかに開く。
「ふ……ん、んんッ!」
一瞬の隙を過たず捉え澄白の舌が口腔へと侵入する。
「んく……ぅ、うぅ……ん」
澄白先生、と言った筈の声は口からではなく鼻へと抜け、自分でも信じられないほど甘えた呻きとなって辺りに響く。
ぞくんと背筋に熱が走る。
知らない感覚にはっとしたのも束の間、深く考える間もなく浮いた舌を吸われ、肉厚な男の舌によってしごかれ、くちゅくちゅとした濡れ音が口端からこぼれた。
深く淫らなキスの時間は想像より長く、やがて二人の間に漂う空気が熱を持ち、親密さがいやましに強まっていく。
(気持ち、いい)
変だ。自分じゃない人の、しかも男性の舌を挿れられているのに、不快感がまるでない。
どころか、もっと深いところまで受け入れたいとすら思える。
自分がいやらしいからそうなるのか、あるいは澄白がいやらしくさせているのか、わからないまま口から力が抜けていく。
そうすると我が意を得たりと言わんばかりに、男の舌の動きがより激しく大胆に変化しだす。
入口で遊んでいた舌は滑らかに口腔へ侵入し、かとおもうと口蓋にある緩やかな起伏を探るように舐る。
歯の付け根を執拗に探られるごとに背筋から脳髄へと不可解なしびれが走り抜け、靴の中にある足指がぎゅうっと丸まっていく。
すがりついた腕に力をこめてやり過ごそうとすると、おのずと爪が男の仕立てのよいスーツに食い込み指の腹に布の皺が触れる。
そんな細やかな動きにも感じてしまい、心臓の動きがせわしない。
絡む舌の動きは断固として強く、だが乱暴ではなく、ぬるぬると表皮が擦り合う感覚がとてつもなくいい。
恥じらいから喉を反らせばますますと男の舌を深く受け入れることとなり、詩歌はきつくまぶたを閉ざす。
いつしかソファを離れ、上からのし掛かるようにして詩歌を貪っていた男は、自分が味わう女の身体が息苦しさに震えだした途端舌を抜き、愉悦と酸欠で潤みこぼれた涙へと唇を寄せて優しく吸う。
「ぁ……は、はあっ、はあ……ッ」
突然空虚となった口腔の寂しさと胸苦しさから盛んに息をついでいると、澄白が優しく目の縁から頬を指で撫でて微笑んだ。
(う……わ)
蕩けるように甘く緩んだ表情に心をわしづかみにされる。
歓びといたわりに満ちた笑顔は純粋で、そのくせ息を呑むほど色っぽい。
呆けた表情で口を開きっぱなしにして、まだ収まらぬ吐息をこぼしていると、澄白がまるで恋人同士でするみたいなキスを額に落とし囁いた。
「ベッドへ移動しましょうか」
普段より低く、掠れた声が腰に響く。
声を出せず、けれど反応しないままやめられるのも嫌でうなずけば、彼はためらいもない仕草で詩歌を腕に抱き上げた。
「っ、きゃ」
突然高くなった視線にうろたえたのも一瞬で、詩歌がなにか言おうとするより早く澄白が唇を塞ぐ。
そうして小鳥がさえずるようなリップ音を響かせながら、何度も何度も口づけを与え、一方で手は逃さないとばかりにきつく詩歌を抱く。
くすぐったくて、恥ずかしくて、耐えきれず身悶えした時にはもうベッドの上で、詩歌の身体は音もなく寝台に沈み、ふんわりと反発して浮かび揺れる。
エグゼクティブの名を冠する部屋に相応しいマットレスとたっぷりとした羽毛のデュべの感触にうっとりしていると、猫科の肉食獣さながらのしなやかさで澄白がベッドへと上がり、詩歌の腰をまたぐ。
そうして膝立ちのまま乱雑な動きでスーツのジャケットを脱ぐと、頭を振って髪を乱しながら、ぐい、とネクタイを勢いよく緩めた。
冷静沈着で服装に一部も乱れがない澄白が、己の着衣を崩していく姿は妖艶なまでに色気まみれで、詩歌は瞬きも忘れ凝視する。
長い指が喉元から順番にボタンをはずす器用な動き、解いたネクタイを手の甲で背へ払いのける動き。そんな澄白の仕草の一つ一つが腰に響く。
(まるで心臓がお腹に移動しちゃったみたい……)
鼓動ごとにずくん、ずくんと腹の奥がうずきだすのを感じながら澄白を見つめていると、彼はひどく満足げな笑みをうかべて身を屈め、今度は額といわずまぶたといわず詩歌の顔中にキスの雨を降らせていく。