強面御曹司の溺愛は蕩けるように甘い ~蜜月身ごもり政略結婚~
著者:涼川凛
イラスト:園見亜季
発売日:2022年 10月28日
定価:620円+税
松原染料の社長令嬢である一華は経営難の会社を救うために、ミヤサカの御曹司である斗真と政略結婚をすることとなった。
だが、結婚相手の斗真には冷徹な人だという噂があって……。
夢見る「しあわせな結婚生活」のため、一華はどうにか斗真と距離を縮めようと奮闘するも仕事で忙しい彼とはすれ違ってばかり。
そんな二人の関係は、南の島でのバカンスをきっかけに少しずつ変わり始める。
「きみがほかに気を取られて、はぐれたら大変だから」
繋がれた手はあたたかく、一華の心をときめかせた。
そして心と身体が満たされた夜は、蕩けるように甘く激しく――。
【人物紹介】
松原一華(まつばら いちか)
老舗の染料メーカー・松原染料の社長令嬢。
三人姉妹の真ん中で大人しく控えめな性格。
〝大好きな人としあわせな結婚をする〟という夢がある。
宮坂斗真(みやさか とうま)
ファッションメーカー・ミヤサカの御曹司。
会社を継ぐために、子どもを授からなければならない。
冷徹な性格の人物だと噂されているが……?
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【試し読み】
「仕事の調整ができなくて新婚旅行に行けなくて悪い。だからせめてよい部屋をと思って、ここにしたんだ」
斗真が言うように、ここセントタワーホテルは五つ星を誇るラグジュアリーなホテルだ。
予約が難しくキャンセル待ちも多数あるという人気ホテルのスイートルームは、インテリアは豪華でバーカウンターなどの設備も素晴らしい。
一華は社長令嬢と言えども小さな会社なので、このような高級ホテルのスイートに宿泊するのは初めてである。
普段ならば、はしゃいでしまうような高価な部屋だが、今の一華にはインテリアも窓からの眺望も楽しむ余裕がない。
「とても素敵な部屋で、うれしいです」
それだけを言うのが精いっぱいだ。
斗真はネクタイを緩めて外し、上着と一緒にソファの背もたれにかけると、スタスタと部屋を横切っていく。
「まずは適当に飲もうか。きみは、なにがいい? 酒は飲めるのか?」
「あ、はい。あのなんでも……というか、私が準備しますから」
バーカウンター内を物色する彼の元に慌てて駆け寄ろうとする一華に、斗真は手のひらを向けて制した。
「いいよ。きみは座って、くつろいでいてくれ」
そう言われても、落ち着いて座っていられない。
とりあえずソファにかけてある彼の衣類を、丁寧にクローゼットのハンガーにかけた。
その間に斗真はテーブルに置いたグラスにワインを注いでいた。もともと準備してあったのだろう、チーズなどのオードブルもテーブルに並べられている。
──どうしよう。私はどの位置に座ったらいいのかしら。
所在なく立っている一華に、斗真はソファの座面を示した。
「きみもここに座って。グラスを取ってくれ」
「……はい」
一華はおずおずと彼の右隣に腰かけて、震える手でワイングラスを取った。
「今日はお疲れさま」
グラスを目線まで上げる彼に、一華も倣う。
静かな空気が居心地悪く、パーティ会場で会った人たちのことをぽつぽつと口にしてみるけれど、ちっとも会話が弾まない。
部屋の中に男性とふたりきり。
しかも今夜は〝初夜〟である。緊張しないでいる方が無理だ。彼が少し身じろぎするだけで、心臓が跳ね、肩がビクッと揺れてしまう。
──彼も、少しは緊張してるのかな……。
斗真は結婚式のときよりも柔らかい雰囲気を纏っているものの、少しぎこちない感じがする。
『冷徹な人だっていうの』
葉菜の言葉が一華の頭の中にガンガン響くが、今のところ斗真の言動には冷たさを感じない。
──もしかしたら、無理して優しくしようとしてるのかも。ぎこちなく感じるのは、そのせい?
真紀子に『花嫁は大事にしなさい』と言われているからか。
落ち着いていそうな斗真とは違い、一華の心臓が壊れそうなほどにドキドキしている。
少しでも気を紛らわそうとしてチーズを口にし、ワインをちびちびと飲むけれど、一向に収まらない。時が経つにつれて緊張が増すばかりだ。
斗真もオードブルをつまみ、ワイングラスを傾けている。
──今、なにを考えてるのかな……。やっぱりこのあとのこと?
初夜だから夫婦の行為をするのは当然で、彼が段取りを考えるのはごく自然のことだ。
一華は初めてだけれど、おそらく彼は経験者だろう。容姿も家柄もよいのだ。数多の女性たちが放っておくはずがない。
それなのに結婚相手は政略的に選んでいるということは……噂通りに冷酷だから?
──ど、どうしよ。
こうなったら、いっそ酔っ払ってしまおうか。
覚悟をしていたつもりだけれど、やっぱり怖気づいてしまう。酔ってしまえば、緊張も恥ずかしさも薄れるかもしれない。
グラスの中身をぐいっと飲み干して、テーブルにトンと置いた。
「ふぅ……」
「きみ、意外によく飲めるんだな。もう一杯つごう。グラスを」
斗真にグラスを出すように促され、「お願いします」とおずおずと差し出す。瓶からとくとくと流れる液体が満たされると、またぐいっと飲み干した。
しかし、ちっとも酔えない。
「少しはお腹が満たされた?」
「えっ、はい。なんとか」
「そうか」
そう言って彼は安堵したように微笑む。
手にしていたグラスを置いた斗真の腕が伸びてきて一華の右肩に触れ、そのまま抱き寄せられる。
不意の行為に体がビクッとするのは堪えられたものの、胸が激しく高鳴ってしまう。初めてのことに震えながらも、彼の肩に身を預けた。
思っていたよりもやさしい抱き寄せ方で、今のところ冷酷さは感じられない。
──やだ、こんなドキドキしてたら、彼に聞こえちゃう……。
これから先はどう展開していくのか。一応知識だけはあるものの斗真が実際にどう進めてくるのかわからず、一華の胸の鼓動はますます加速していく。
──今から、キスされるの?
一華が夢見ていた〝初めて〟とは違う。お互いに愛情のないまま抱かれるのは、正直に怖い。葉菜の言う通り冷徹な人ならば、ぞんざいに扱われる可能性もある。
けれども、今更逃げ出すわけにはいかないのだ。覚悟を決めるしかない。
斗真の指先が一華の頬をつるりと撫で、顎を支えて上向くよう促してくる。
──二度目だもの。誓いのキスよりも、ちょっと長いだけよね……?
僅かな抵抗感を覚えるけれど導かれるままにして、目を閉じた。
視界が遮られると五感が研ぎ澄まされる。斗真の吐息が肌にかかるのを感じた瞬間、唇が柔らかいものに触れた。
押し付けられていると感じたのも束の間、ついばむようにやさしく唇を吸われ。まるで食べられているような心地になる。
体に力を入れているつもりはないものの、緊張してつい硬くなってしまう。ぎゅっと目を閉じたままの一華の耳に、斗真の声が届いた。
「好かれていないのは承知してる。でも、今夜から夫婦になるんだ。せめて嫌わないでくれないか」
「え?」
意外な呟きに一華は驚いて、斗真を見つめた。一華としては、嫌っているつもりはないのだ。
「どうして、そんなふうに……?」
「体が硬い」
拒絶されているように感じると言い、困惑しているような表情をした。
「違うんです……あの、ただ……その……緊張してしまって。誤解させてごめんなさい」
俯いてぼそぼそと口にした。大人なのに初心すぎるのが恥ずかしくて、穴があったら入りたいくらいだ。
一華だって、結婚する〝大好きな人〟のために取っておいたわけではない。
姉の葉菜はもちろん、妹の花純でさえ恋人がいる。でもなぜか、一華だけは男性と縁がなかった。
おとなしいからなのか、美人じゃないからなのか。ずっと恋人がいなかったことは、少なからずのコンプレックスになっている。
「まさか、初めてなのか?」
俯いたままの一華に、斗真は驚いたように問うてくる。思った通りの反応だ。
「……はい。今まで誰ともお付き合いしたことがないので……二十七歳なのに、引きますよね……」
「いや、そんなことで引きはしない。……そうか、嫌われてないと知って安心したよ」
一華が目をあげると、斗真は安心したような表情をして、しばし思案するような素振りをしていた。
「それなら、先にシャワーを浴びたほうがいいな。初めての緊張感もマシになるかもしれない」
斗真は強く勧めてくる。
──私のことを気遣ってくれてる……それに「安心した」なんて。
一華にどう思われているか気にする斗真は、これまで微かに感じていたように、冷徹な性格ではないと思えた。
体の隅々まで丁寧に洗った一華は髪を乾かし終え、備えられていた白いバスローブを身に着けてベッドに座っていた。斗真はシャワー中である。
リビングでなく寝室にしたのは、一華の覚悟の表れであるのだが……。
──やだ、ますますドキドキしてきちゃった……。
寝室にベッドは一つしかなく、キングサイズの端にちょこんと腰かけている。
明かりはベッドヘッドにある間接照明だけ点している。ベッドをほんわりと照らすさまはとても高級でムーディだけれど、一華の心理状態はそれを味わう気分にはほど遠い。
そわそわしていると、リビングのほうから微かな物音がしてきた。斗真が入浴を終えたのだ。
「い……いよいよ、なのね」
思わずつぶやくと、同時に斗真が寝室に入ってきた。
同じバスローブ姿の彼は静かに歩み寄り、一華の隣に腰かけて細い肩を抱いた。
「さっきも言ったように、俺たちは今夜から夫婦で、子どもを作ることは大切なことなんだ。怖いかもしれないけど、なるべくやさしくするし、気持よくなるように努力する。それに、きみの様子を気にしながらするから、我慢してくれないか」
「は、はい……」
さあ、来い。とばかりに意を決して斗真のほうに体を向けると、彼の目はすでに男性としての熱を帯びていた。
恥ずかしくなって咄嗟に目を閉じると、すぐに唇が重ねられた。唇を吸われながら、指先で耳朶をくすぐるようにされて、首の辺りがゾクゾクして思わず肩をすくめる。
「ふ、んっ……」
知らずに開いた唇の隙間から斗真の舌が差し込まれると、戸惑う隙も与えられずに舌が絡め捕られた。
──こ、これが、ほんとのキス……!
誓いのキスやリビングでのキスとまるで違う。
ぬるっとした感触のものが一華の口中を蹂躙する。ときに舌裏や頬裏をくすぐるそれは、一華に少なからずの気持ちよさを提供してくる。
初体験なのでキスに溺れるまではいかないものの、リラックスさせるには十分すぎるほどで、一華は自然にベッドに押し倒されていたのだった。
しかも彼の体が脚の間にすっぽり入っていて、一華は足を閉じることができなくなっていた。
唇から離れた彼の舌が一華の耳輪を舐め上げ、バスローブの襟元から忍び込んできた手が、こんもりと育った胸にそっと触れる。
手のひらはふくらみの大きさを確認するかのように素肌を擦り、やんわり掴んだ。
むにむにと揉みながら一華の耳元でささやいてくる。
「意外に大きいんだな……俺の手じゃ覆いきれないくらいだ。見てもいいか?」
「……え?」
問いかけるも答えを待つことなく、斗真は一華のバスローブの紐をほどいてあっという間に前を開けてしまう。綺麗なふたつの丘陵が仄かなあかりに照らされ、斗真の情欲を昂らせていく。
一華の肌を覆うのは薄いレースのショーツのみ。このショーツは『初夜のために』と、葉菜がプレゼントしてくれたものだ。
体のラインをじっと見つめられると、面はゆくてたまらない。
「や……」
自然に隠そうとする一華の手を斗真は遮り、つつましく色づいた先端を指の腹でそっと擦る。
「……んっ」
今まで感じたこともない刺激で体がピクッと揺れると、斗真の口角が僅かにあがった。指の腹は先端を優しく弾くように擦っている。
「こうされると、痛い?」
「そんなことない……です」
痛くない。けれどこの感覚が気持ちいいと言えるのか、一華にはまだわからない。
「じゃあ、少し刺激を強くするよ」
斗真は胸のふくらみに数度キスを落とし、色づいた先端を口に含んだ。
チュッと吸われたあとに舌先でちろちろと擦られると、くすぐったいような感覚に襲われて、一華は身をよじらせる。
指の腹よりも確実に甘美な刺激を与えられている。気持ちいいと感じた一華は思わずシーツを掴んでいた。
「あん、ん……ん」
先端を舌で転がされ、堪らずに声を漏らすと斗真の舌の動きが早まってしまい、ますます快感を与えてくる。
──初めてなのに、胸がこんなに感じるなんて……。
自分の体ながら官能的過ぎやしないか。誰もがこうなのか。一華にはわからない。
〝努力する〟と言った通りのやさしくて気持ちがいい愛撫に身を任せていると、もう片方の胸の先端が指の腹で強く弾かれた。
「や、んっ」
急に与えられた疼痛と舌が生み出し続ける快感に、一華は混乱しながらも身をくねらせる。
「わりと感じやすいね。下はどうかな……自分で触ったことある?」
そう問いかける彼の指が、つーっと肌を撫でて下腹部に向かっていく。
「な、ないです……あの、体を洗うときに触るくらいで……」
「それなら、ここの快感を知るのも今日が初めてってわけだ」
ショーツのクロッチ部分で止まった指が、隠されている花芽をコリッとひっかいた。
「ああっ」
電流が走ったような疼痛を伴う刺激に、一華は背をしならせた。その拍子に脚の間に沈み込んでしまった斗真に驚いて、一華は思わず手を伸ばした。
だって彼の顔が秘部の真ん前にあるのだ。ショーツがあるとはいえ、そんなところに頭があるなんて恥ずかしくてたまらない。
──やだ、なんでそんなとこに? これがセックスのスタンダードなの?
斗真の行為に混乱しながらも、初夜だから〝止めて〟など言ってはいけない気がする。でも恥ずかしさは消えない。
なんとか頭を退かせようとするけれど、太ももをがっしりと肩に担がれてしまっていては、一華が動くことも彼を動かすこともできない。
「指で触るよりも、こっちのほうがいいんだ」
そう言って斗真はショーツの上から割れ目を舌でなぞった。
「やっ、あっ」
薄いレースのショーツは、彼の舌の温度と感触を簡単に伝えてくる。硬くした舌で花芽をぐりぐりといじられれば、快感で腰が疼いた。
体中の熱が下腹部に集まったように熱くなってきて、一華は別のところにも触ってほしくなった。
愛蜜を生み出す部分……そこが疼いて仕方がないのだ。
──でも、初めてなのに、そんなお願い言えないっ。
口にすることができずに花芽への愛撫に悶え続けていると、ふと顔を上げた彼の手が、ショーツを一息に脱がせてしまった。
「ここもよく濡れてきたよ」
蜜で濡れた穴の入口に斗真の指がピトピトとあたるたび、ピチャピチャと粘着質な水音がする。
一華は思わず手のひらで顔を覆った。
自分の体から、音が出るほどにたくさんの愛液が出るなんて、思ってもいなかったのだ。
「そんな……恥ずかしい」
「当然の反応だから、恥ずかしがらなくていい」
──でもやっぱり、私の体って、淫らなの?
羞恥に染まる気持ちとは裏腹に、ピトピトと触れてくる指が気持いいと感じてしまう。穴の奥に熱を感じていて、この先も痛みがないまま快感を得られるんじゃないか。そう思えてくる。
「今から入れるよ」
斗真が中指を立ててぺろりと舐めて見せる。
眉目秀麗な彼の蠱惑的な仕草にぞくぞくしてしまう。
頷きを返すと、彼の手がゆっくりと下腹部に下りていくから否が応でも期待が高まっていく。
花芽を少し掠めていった指が蜜穴の入口でピタリと止まって、少しずつ一華の中に入ってきた。
痛みは感じないけれども異物が侵入してくる違和感は拭えないし、期待したほどの気持ちよさもない。
──なんだか、生理用品と変わらないような? こんなものなのかしら?
内心で呟いているとぐりっと柔ひだを擦られ、突如もたらされた気持ちよさに、一華は腰を浮かせて甘い声を漏らした。
「あ、はぁぁ」
「ここが、きみの〝気持ちいいところ〟か」
斗真の指が上下に激しく動き、〝気持ちいいところ〟を攻めてくる。溢れる蜜が出す粘着音が一華の羞恥と興奮を煽った。
「や、あ、あっ」
イヤイヤをするように首を横に振っても、ぐりぐりと奥を攻めてくるから、快感で生理的な涙が目に滲む。
バブルのように膨らみ続ける熱を逃す術も分からなくて、枕の端を掴んでひたすらに悶えるしかない。
「あ、んんっ、あっ」
「苦しいなら、一度イってみるといい」
斗真の声がするけれど、快感に翻弄される一華の耳には言葉となって届かない。
──今、なんて?
疑問に思ったのも束の間、脚の間に身を沈めた彼が濡れそぼった花芽に吸い付き、舌先でちろちろところがしてきた。
「ああ、あ、ああ……それ、いやっ、いや」
思わず声に出してみるけれど、斗真の愛撫は止まらない。舌と指に与えられる快感で、なにも考えられなくなっていく。
「そろそろイこうか」
花芽をキュウっと吸われた刹那、一華の中で膨らみ切っていた熱のバブルがぱちんとはじけた。花芽の疼痛と柔ひだの快感が恍惚に変わって一華を襲う。
「あぁぁっ!」
──これが、イクってことなの?
初めてのセックスで気持ちいいと感じて達することができるなんて……誰でもそうなのだろうか。
涙でかすむ視界に斗真がバスローブを脱ぎ捨てる姿が映った。
ぼやけていてもわかる、程よく引き締まった男らしい体つきに一華の頬が赤く染まる。
三姉妹の一華には、若い男性の裸体を間近で見ることなど滅多にない。ましてや下着の中身など、論外である。
「次は、俺のが入るから……触ってみて」