
余命100日の落ちこぼれ聖女は極悪辺境伯の愛され花嫁になりました ~暗殺するはずが、めちゃめちゃ寵愛されてます!?~
著者:冬島六花
イラスト:ぬるめのおゆ。
発売日:2026年 6月26日
定価:720円+税
ユリアは孤児院育ちの「北の聖女」。
だが、聖女としての癒やしの力は弱く、周囲からは落ちこぼれと言われていた……。
ある日、教会の女帝から、人喰い辺境伯・レオンハルトの暗殺を命じられ、花嫁として送り込まれることに。
その際、100日以内に暗殺を成功させなければユリア自身の命が尽きる、という呪いを受けてしまい――?
孤児院への永遠の支援を約束され、使命を全うするべく北へと旅立つユリア。
「極悪非道の暴君」と噂されるレオンハルトだったが、実際に出会った彼は不器用で純朴な一面を持つひとりの男性で――!?
暗殺者としての使命と、彼の優しさや孤独に触れてユリアの心は揺れ動く……。
「――俺のすべてを、受け入れてくれ」
そうして迎えた初夜はどこまでも熱く、またレオンハルトの傷に触れてしまったユリアはどうしても彼を殺すことができなくて――!!
【人物紹介】
ユリア
孤児院出身の「北の聖女」。
明るくポジティブな性格の持ち主。
東西南北それぞれを司る聖女の中で、聖女としての能力は最弱の落ちこぼれ。
教会の女帝からレオンハルトの暗殺を命じられた際、余命100日の呪いを受けてしまい――!?
レオンハルト・フォン・デマーヴァルト
デマーヴァルト辺境伯。
「人喰い」の悪名を轟かせているが、実は極度の人見知りで不器用な性格をしている。
暗殺しに来たはずのユリアを花嫁として迎え入れて……?
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【試し読み】
「見苦しくなんて、ありません」
ユリアの唇から、勝手に言葉がこぼれていた。
「え……?」
振り返ろうとしたレオンハルトの背中に、そっと指先を這わせる。
大きな古傷の盛り上がり。ケロイド状になった皮膚は硬く、熱い。彼の呼吸が、ふっ、と一瞬止まったのが分かった。触れられることに、慣れていないのだ。
「これは、あなたが誰かを守ってきた勲章でしょう? ……ちっとも醜くなんてない。すごく、立派な背中です」
「ユリア……」
レオンハルトの筋肉が、ビクリと硬直した。
その不器用すぎる反応が、ユリアの暗殺者としての仮面に、細いひびを入れていく。
(ああ、だめだ。こんなの、ずるいよ)
太ももの凶器はまだそこにある。任務も、アデーレの命令も、消えてはいない。――けれど今だけは、冷たい金属よりも、目の前の不器用な男の体温の方が、どうしても無視できなかった。
「……こっちを向いて、レオンハルト様」
ユリアは彼を振り返らせ、その胸に自分の手を重ねた。殺すためじゃない。目の前の傷だらけで寂しがり屋な大型犬を、抱きしめるために。
「私に……あなたの傷を、癒やさせてくれませんか?」
それは聖女としての演技ではない。一人の女としての、精一杯の誘い文句だった。
「ま、待ってくれ」
「はい?」
「準備が……心の準備が、追いつかない」
世界最強と謳われる男が、真っ赤な顔をして呼吸を乱している。
彼はユリアの顔を直視できず、視線を虚空にさまよわせた後、意を決したように口を開いた。
「……キスとは、具体的には、どうすればいいのだ」
「は?」
ユリアの思考が停止した。
(……は? 今、なんて言った?)
目をぱちくりさせても、彼の表情は変わらない。
「戦場での駆け引きなら心得ている。魔物の首を落とす角度も熟知している。だが……」
レオンハルトは、まるで世界の存亡に関わる難問に直面した哲学者のような顔で、真剣に続けた。
「女性への口づけは、どの角度で、どれほどの圧力で、どのくらいの時間をかければ正解なのか……文献にも載っていなかったのだ」
「えっ……?」
嘘でしょ、とユリアは心の中で絶叫した。
人喰い辺境伯。その恐ろしさはいうまでもなく、数多の女を毒牙にかけ、夜な夜な弄んでいるという噂まである。
(その正体が、これ?)
キスの仕方も分からず、初夜のベッドでテンパりまくっている、ただの巨大な純朴青年?
「……ぶっ」
ユリアは堪えきれず、吹き出してしまった。
緊張の糸がプツンと切れた。
「あはは! 何それ! 文献って! 勉強してどうにかなるものじゃないでしょ、そういうのは!」
「わ、笑うな。俺は真剣だ……。お前のような清らかな聖女を、俺の無知で傷つけたくないのだ」
拗ねたように唇を尖らせるレオンハルト。ユリアの笑いも止まった。
――傷つけたくない。
彼は、本気でそう思っている。教会にとって使い潰す道具でしかない聖女を、この男はこんなにも大切に扱おうとしている。
(……もう、どうしてこの人は)
心臓がぎゅっと締めつけられた。殺すつもりで近づいたのに、こんな目で見つめられたら――毒気が抜かれてしまう。
「……バカみたい。難しく考えすぎよ」
ユリアは苦笑して、硬直した彼の手を優しく握り直した。
剣ダコだらけの無骨な手。けれど、伝わってくる熱は嘘をついていない。
「角度とか圧力とか、どうでもいいの。……ただ、優しくしてくれれば、それでいいから」
計算ずくの誘い文句ではない。聖女の仮面を被った乙女の本音だ。
レオンハルトは息を呑み、そして、宝物に触れるような慎重さで、ユリアの頬に大きな手を添えた。
「……努力する。ユリア、俺は……不器用だが」
レオンハルトが、ゆっくりと瞼を閉じた。完全に無防備だ。
(……はっ! そうだ、今よ。目的を忘れてはダメ。暗殺するなら、今でしょ)
ユリアの手が、夜着のスリットから太ももへと滑り込む。ガーターベルトに固定された、革の鞘。その柄を指先が捉えた。
音もなく、数センチ。冷たい刃が鞘から走り、鈍い輝きを放つ。
あとは、このまま彼の太い首筋に突き立てれば――。
「……」
けれどそのとき、頬に添えられた彼の掌が震えていることに気づいてしまった。
あの大きく温かい手が、たかだか一人の少女への口づけに動揺しているのだ。
(……っ、くぅ……!)
ユリアは奥歯を噛み締めた。やれるわけがない。こんな、無垢な子どもみたいな男を。
とっさに引き抜きかけた短剣を、乱暴に鞘へと押し戻した。
カチリ。
小さな音が鳴ったが、高鳴る心臓の音にかき消されて、彼には聞こえない。
ユリアの手は行き場を失い、彼の腰に手を添え、ぎゅっとしがみついた。
(……今日だけ。今日だけは、見逃してあげる)
唇が触れ合う直前、ユリアはそっと目を閉じた。
暗殺者の顔ではなく、初めて恋を知る少女の顔で。
そのまま唇は近づき――静かに、重なった。
こうして、人喰い辺境伯と最弱聖女の初夜は、血の雨の代わりに、ぎこちなくも甘い、ひどく不格好なファーストキスで幕を開けたのだった。
彼の舌が、おそるおそるユリアの唇の奥へと侵入する。
(やだ、くすぐったい)
舌先に触れた唾液の感触に、身じろぎする。少しだけ口を開いて受け入れると、彼の肉厚の舌の先端が、遠慮がちにユリアの舌の表面を撫でる。
今度はユリアの方から、舌を伸ばして絡め取る。すると、お返しとばかりに彼の舌が絡んでくる。
(なに、これ……? 変な感じがする……けど、気持ちいい……かも?)
二人の呼吸音が重なり合う。たまらなく濃密な時間だ。
何度も息を継いで、夢中になって貪るようなキスをした。互いの身体が火照っていくのが分かる。
唇が離れた瞬間、ちゅ、と小さく艶めかしい音が夜の静寂に響いた。
ユリアは弾かれたように身を引いた。顔が沸騰しそうだ。
「……っ、はぁ、はぁ……っ!」
呼吸が、うまく整えられない。ファーストキス。それは童話に出てくるような、小鳥がついばむような可愛らしいものを想像していた。
だが現実は違った。不器用で、押し付けるようで……それでいて、凍えた旅人が火を求めるような、必死な熱を持ったキス。
ユリアは涙目で唇を手の甲で覆い、目の前の巨漢を睨みつけた。
「ば、馬鹿っ! 舌を入れてくるなんて……この変態っ!」
「……すまん」
レオンハルトは、叱られた子どものようにシュンと肩を落とした。その顔もまた、耳まで真っ赤に染まっている。
「文献には書いていなかったが……お前に触れたら、どうしようもなく、もっと深く……つながりたくなってしまったのだ」
「なっ……!?」
無自覚な愛の囁き。その破壊力は凄まじく、ユリアは言葉を失った。
計算ではない。彼は本気で、本能のままに求めてきたのだ。その事実が、ユリアの身体の奥底をじわりと熱くさせる。
隣に座る彼の圧倒的な存在感。岩のような肩幅。服の上からでも分かる分厚い胸板。武人特有の、血と鉄と、かすかな獣の匂い。男としての〝雄〟の匂いが、ユリアの鼻腔をくすぐり、本能を刺激する。
(……やばい。なんか、変な感じ。怖いのに、離れたくない)
共感だけではない。下腹のあたりが、きゅん、と疼くような感覚。聖女として純潔を守ってきたユリアにとって、それは初めて知る、女の反応だった。
「……嫌では、ないんだな?」
レオンハルトが、息を乱しながらも誠実に囁いた。その真剣な瞳に見つめられて、ユリアは鼻の奥がツンとした。
「……嫌じゃ、ない。……もっと、して」
自分の口からそんな言葉が出たことに驚いた。でも、嘘ではないのだ。
レオンハルトはそれを聞くと、首筋に熱い舌を這わせた。
「ひゃあっ!?」
肌が粟立つ。彼の吐息が首筋を撫でる。
ちゅ、と柔らかな肉を吸い上げるようなキスの後、少しだけ尖った犬歯が肌に立てられた。
「ひゃっ……!」
唇が離れると、白い肌にはくっきりと赤い痕が残っていた。
「なるほど。少し吸っただけで、こんなにも綺麗に色づくのだな」
彼は大真面目な顔で呟くと、自らがつけたそのキスマークを、まるで貴重な美術品を鑑定するようになぞる。そして、指は鎖骨へと向かった。
「……興味深い。ここの骨は、呼吸をするたびに動くのだな」
あまりに冷静な観察と対照的に、ユリアは息の根が止まりそうだ。
そして指先は鎖骨から滑り落ち、ふくよかな胸の膨らみへと移動した。
レオンハルトはユリアの薄い夜着の上から、胸の膨らみを優しく覆うように包み込んだ。
「っ……! ダメ……そんなにしたら……」
「ダメではないだろう? ほら、固くなってきたぞ」
布地越しに、ピンと立ち上がった先端が擦られる。甘い痺れが広がり、ユリアはもう何が何だか分からなくなる。
「ユリア……お前は本当に綺麗だ。……この、白い肌も、柔らかな身体も、すべて……俺のものにしたい」
耳元で熱っぽく囁かれ、ユリアの思考は完全に蕩けた。
(殺さなきゃいけない相手なのに……もっと触れてほしいなんて、私、どうかしてる……)
罪悪感が、快楽に溶かされていく。抗えない。もう、抗いたくなかった。
間近に迫ったレオンハルトの瞳。猛獣のように鋭いのに、純粋な好奇心をたたえている。
「……面白いな。柔らかい脂肪の中に……一つだけ、異様に硬い部分がある」
「ひゃっ……!?」
薄い夜着の上から、尖った先端を無造作に摘まれた。
「レオンハルト様、そこは……っ!」
「痛いのか? ……痛かったら、すぐに言え。俺は止まる」
言葉とは裏腹に、親指の爪先で、コリコリと硬くなった突起を弄び続ける。剣ダコのある硬い指先。無骨な感触が、デリケートな先端を擦り上げる。
「あ、あぁっ! だめ、そんなっ、カリカリしないでぇっ!」
背筋に電流が走る。
「ふむ。刺激を与えると、さらに固く、熱くなるようだ。……興味深い」
彼は感心したように呟き、今度は二本の指で挟み込み、少し強めに押した。
「いぎっ……! んあぁぁっ!」
ユリアはシーツを鷲掴みにした。
(嘘、私、こんな激しい触り方で……なんで、こんなに気持ちいいの……!?)
そもそもユリアは処女だ。予想外の快感には耐えられるわけがない。
隙を突くように、彼の手は下腹部へと滑り落ちていった。
「上だけではないな。……下も、ずいぶんと準備ができているようだ」
濡れた秘所に、彼の中指が――なんのためらいもなく、ずぷりと埋め込まれた。
「あぐっ……!」
「……きついな。指一本で、やっとか。……辛かったら止める。大丈夫か?」
真剣に顔を覗き込んでくるレオンハルト。その真面目さが、今は何よりも甘い拷問だ。
「だい、じょうぶ……っ。止めないで……っ」
彼は頷くと、中を確かめるように指を動かす。
内壁のひだを一つ一つ確認するような、ねっとりとした動き。
「ん、ぁ……動か、ないで……っ」
「動かさなければ、ほぐれないだろう?」
正論だった。真面目すぎる正論が、今は何よりの卑猥な言葉に聞こえる。
ぬちゅ、と指が引き抜かれ――すぐに、二本に増えて戻ってきた。
「あ、ひっ……ふえぇっ!?」
指が増えた分、広がりが強くなる。二本の指が、中を押し広げ、かき回す。
クチュ、クチュクチュ……。
いやらしい水音が寝室に響き渡った。
「音が変わった。……水気が増したからか」
「やだ、聞かないで……っ! そんな音、聞かないでぇっ!」
思わず顔を覆った。
(身体が、言うことを聞かない……っ。開発されていく……彼の手で、勝手に……っ!)
恥ずかしさで死んでしまいそうだ。
「ユリア。中はこんなに吸い付いてくるのに、まだ足りないのか?」
レオンハルトが、無邪気かつ残酷に問いかける。
指先が、一番感じるところを強く擦った。
「ああっ! んあぁぁーっ! ……ほしいっ、の……!」
もう無理だった。
指先のテクニックではない、この生真面目な蹂躙に、心も身体も完全に屈服させられてしまったのだ。
ユリアは涙に濡れた瞳で、彼を見上げた。
「お願い、レオンハルト様……! 指じゃ嫌だ……もっと大きいの、あなたのを、ください……っ!」
「望み通りに……と言いたいが」
レオンハルトは一旦身を起こすと、ユリアを焦らすように下履きを脱ぎ捨てた。
月光の下、露わになったその肢体に、ユリアは声を失った。
「あっ……」
それは、暴力的なまでに美しい雄の姿だった。
幾重もの戦傷が走る厚い胸板、岩盤のように硬く引き締まった腹筋、そして新たに晒された、丸太のような太もも。
(これが……人喰い辺境伯の肉体)
恐怖を感じるべきだ。この筋肉の塊になら、首をへし折られることなど造作もないのだから。ユリアはガーターベルトから短剣を引き抜き、布団の下に押し込んだ。
――けれど、ユリアの本能が訴えていたのは、恐怖ではなかった。
ときめきだ。
目の前の圧倒的な強さに、守られたい、犯されたいと疼く、雌としての歓喜。
(だめ、見惚れちゃだめ。この男はターゲットなのよ……!)
必死に理性をかき集めようとするが、視線は吸い寄せられるように下腹部へ落ちる。
そこには、黒々とした茂みの中、凶悪なほどに反り返り、脈打つ熱源が鎮座していた。
「……っ!」
大きい。あまりにも、大きすぎる。
「ユリア、顔が青いぞ。やはり、怖じ気づいたか? 無理はさせたくない。嫌なら……」
「こ、怖くなんてないっ。私、覚悟はできてる! ……中に欲しいの。あなたを」
絞り出すような声で、それでもはっきりと伝えた。
レオンハルトの瞳が揺れた。その奥に、渇望が灯る。
「そうか。ならば……」
彼はユリアの膝を掴み、自身の腰へと引き寄せた。亀頭が、濡れた入り口にこつんと当たる。熱い。焼けるような熱量が、そこから伝わってくる。
「――俺のすべてを、受け入れてくれ」

